It's a Wonderful Life.-Family Plan.-

第19話 Wish upon a star.
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 この国にやって来た時と同じように晴れ渡る青空の下、旅行の間世話になったホテルのチェックアウトを済ませるために管理人がやってくるのを待っていたリアムは、纏めた荷物を車に乗せて来たことを教えながらスツールに座るリアムの背中にぺたりと張り付く慶一朗の腕を撫でて礼を言う。 「クライストチャーチまでの運転をしてもらうからな」  荷物をまとめて乗せるぐらいはやらないとと笑う慶一朗の頬にキスをし、もう一度礼を言ったリアムだったが、慶一朗の首筋にうっすらと残る情交の跡を見つけて思わず顔を笑み崩れさせてしまう。 「どうした?」  突然笑いだす伴侶に胡乱な目を向けた慶一朗だったが、一昨日のケイさんが本当に可愛かったと囁くリアムに眼鏡の下で目を見張った後、じろりと睨んでしまう。  一昨日の夜、テッドとノアの家からこちらに帰ってきた後にリビングで満足するまで踊ったのだが、その後高揚した気分のまま洗面所やベッドで呆れるほど抱き合い、限界を迎えた慶一朗が失神し、大雑把に後始末だけをしたリアムもそのまま眠ったのだが、目を覚ました時には太陽が西の空に沈みかける頃だった。  実質的な最終日を寝て過ごすという、ある意味正しい休暇の過ごし方をしてしまった二人だったが、その後、素っ裸のまま大きく伸びをした慶一朗がここで過ごす最後の夜だから庭でバーベキューをしたいと告げたため、二人で慌ててスーパーに買い出しに行き、星空の下でバーベキューを楽しんだのだ。  羞恥というよりは自分たちに対する呆れを覚えていた慶一朗だったが、リアムの顔が珍しく脂下がっている事と、可愛いと主に子供や女性に対する表現をされたことが悔しくて、髭に覆われている顎をくいと指で持ち上げて瞼を平らにする。 「誰かさんのおかげで昨日はぐっすり眠れたからなぁ」  だから今日は元気いっぱいだがお前もそうだろう、クライストチャーチまで運転を頑張ってくれ、そして空港近くのホテルにチェックインしたら身体をマッサージしろと言い放つと、すべて仰せのままにと肩の高さに両手を上げたリアムが仰々しく頷く。  本当に誰かさんのおかげで腰と尻が死にかけていると、リアムの胸倉を掴みながら睨みつける慶一朗だったが、その腕に手を重ねたリアムが悪いと謝るものの、小さくすることも短くすることも出来ないからなぁと嘯く。  同じ男としてその言葉は聞き捨てならない、この野郎と叫ぼうとした慶一朗だったが、何かに気付いた顔で片手で口を押えながらリアムを睨み、よく我慢できましたと褒めるように頬にキスをされて鼻息で返事をする。 「な、ケイさん」 「何だ?」  そんな慶一朗を微笑ましい顔で見ていたリアムだったが、ふ、と表情を変えた後に目の前の端正な顔を手の甲で撫でて目を細め、今回の旅行は本当に楽しかったなと笑いかける。  リアムのその言葉に慶一朗も一度視線を左右に流した後、穏やかな顔で小さく頷き、己の頬に宛がわれている手に手を重ねて目を閉じる。 「いつも見てたはずなのに、ミルキーウェイもサザンクロスも見れた」 「うん、流れ星もオーロラも見れたし、人工衛星も見れたなぁ」  それもこれもハワイにいる慶一朗の双子の兄が写真集を送ってきてくれたからだ。  そう笑いながらスツールを回転させて慶一朗と真正面から向き合うと、細い腰に腕を回して機嫌が直ったらしい事に安堵する笑みを浮かべて鼻の頭にキスをする。 「ノアとも知り合えたし、リオンとウーヴェにも礼を言えた」 「今回の旅行は本当にパーフェクトだったな」  やりたいこと、できれば良いと思っていたこと、想定外の嬉しいことが叶い、これ以上願うと神様から叱られそうだと笑うリアムに同じ顔で慶一朗も笑うと、額に額を重ねてくる。 「ああ、そうだ、あいつがシドニーに来てるらしい」 「あいつ?」  慶一朗が大切なものを思い出したと言いたげに軽く目を見張り、あいつとリアムが問い返すと、視線が左右に泳いだ後に意を決した顔で口を開く。 「ケネス」 「……彼が?」 「ああ」  リアムの言葉に間があったことに慶一朗が気付いてさっきとは逆にリアムの鼻の頭にキスをすると、イースターは来ることができなかったから月が替わるまでシドニーで遊んでいるそうだと続けると、不労収入がある人は羨ましいと笑うが、ああ、彼はシドニーで事業をしているんだったなと思い出し、羨ましさを溜息とともに吐き出して小さく頷く。 「アポフィスに来いって?」 「いや? アポフィスでルカ達と遊んでいるって」  こんな風に誘ってくるのは初めてだと感心した顔で慶一朗がリアムの額に再度額を重ね、あいつに対するマイナスの感情を持つのは分かるが、いつものお前らしくない気がすると控えめに己の思いを口にすると、リアムが短く息を飲んだ後にごめんという小さな謝罪の声が流れだす。 「いつまでも引きずって嫌な男だな」 「お前が嫌な男なら世界中の人間の大半が嫌な奴になるな」  もちろんその筆頭は俺だと苦く笑った慶一朗だが、お前にそんな顔は似合わない、お前には突き抜けた青空のような笑顔が似合うと至近距離で告白すると一瞬リアムが呆けたような顔になる。  そして、愛する男の望みを叶えたい一心で笑みを浮かべ、細い腰を抱き寄せてキスをする。 「……ん」 「じゃあ彼の土産も買って帰らないといけないな」  せっかく遊ぼうと誘ってくれているのだ、何か土産を買って帰ろうと笑うリアムに頷いた慶一朗は、己の一言で気分を切り替えてくれる夫に心の内で礼を言うが、ジャックへの土産もあるから何を買おうか、クライストチャーチで土産物屋を探しても良いなと笑うと、何故か沈黙が生まれてしまう。 「リアム?」 「……うん、あまり部長を困らせるような土産は止めた方が良いんじゃないかな」 「困らせるような土産など買わないぞ?」  リアムの忠告に慶一朗が意味が分からないと言いたげに首を傾げるが、その様子から心底彼の為になる土産を買っていくつもりだと安堵するものの、直後に見た笑みが引っかかり、まさかと思いつつ眼鏡の下の目を見つめると、不気味な形に細められる。  ジーザス、ああ、部長、あなたの犠牲には感謝の言葉しか出てきません。  冷静に考えれば何を言っていると言いたくなることを呟くリアムの額にキスをし、土産を探すのが楽しみだと笑う慶一朗にそれ以上何も言えなくなるが、そんなリアムに救いの手のようにドアベルの音が鳴り響く。 「管理人が来たかな」 「そうだな」  チェックアウトの手続きを済ませなければと、スツールから立ち上がるリアムに慶一朗も伸びをし、ここでの数日間は楽しかったと笑みを浮かべ、リアムの声に応じて入ってくる人物を見てそのまま動きを止めてしまう。 「ハイ、二人とも。もう準備はできたか?」 「ノア!?」  やあと笑顔で入ってきたのは一昨日別れを告げたノアで、その後ろにはテッドが今日もまた無口ながらも顔に小さな笑みを浮かべて立っていた。  突然の来訪に驚いた二人だったが、帰国前にこうして再会できて嬉しいと素直な感情を口に出し、ノアをハグした後にテッドと握手をすると、管理人の代理でやって来たと教えられてリアムと慶一朗が顔を見合わせる。  ノアとの初めての出会いを再現するような光景に二人が笑った後、ひとまずチェックアウトの手続きを済ませる。  知り合ったばかりだが、かけがえのない経験を共にしたノアだが、ここを離れる手続きをするのを見守っているだけでも予想外に寂寥感が胸を占め、手続きが進むにつれどちらも口数が少なくなってしまう。 「はい、完了。忘れ物はないかな?」  管理人としての業務をテキパキと済ませたノアの言葉に二人が頷くが、別れへの感情からリアムがテッドのように無口になってしまうと、テッドと顔を見合わせたノアが肩を竦める。 「明日のフライトだったよね?」 「ああ」 「……まだ少し先になると思うけど、そっちでの仕事を引き受けるつもりなんだ」  だから今度は俺がそちらに行く。その時にまた会おう。  ノアの心根を余すことなく伝えてくれる笑みを顔に湛え、早ければ来月かなと笑うと今度は二人が顔を見合わせ、リアムの顔に潮が満ちたように笑顔が戻り、何度も頷く。 「シドニーに来たら教えてくれ」  今のこの別れが永遠のものにならないという安堵に顔を綻ばせるリアムの横で慶一朗も頷き、その時はこちらとは違うシドニー流のナイトライフを案内すると笑う。 「楽しみが出来た」  そちらに行くときは必ず連絡をすると固く握手を交わすが、そんな楽しみな未来予想図を描いても抑えられない寂寥感を互いに堪えている顔で手を離す。  そんなリアムの手から寂寥感を吸い取るつもりか、慶一朗がそっと手を重ねるとリアムの顔に穏やかな笑みが浮かび、一瞬で空気が和やかなものになる。 「じゃあ、そろそろ行くことにする」  今回の旅行を完璧なものにしてくれてありがとう、本当に嬉しかったと笑うリアムにテッドとノアも同じ顔で頷くと、後片付けをするから自分達はここに残ると頷き、先日のように二人に見送られる中でリアムが運転席に、慶一朗が助手席に乗り込む。 「世話になった」 「うん、俺たちも楽しかった」  次はシドニーで会おうと笑って窓から手を振り、静かにアクセルを踏む。  走り出したSUVのバックミラーの中で次第に小さくなるテッドとノアがいつまでも手を振ってくれている姿を焼き付け、次はシドニーで会えるのかと感慨深い声をリアムが上げると、そんな頬を慶一朗の手の甲が愛おしげに撫で、楽しみだなと目を細める。 「クライストチャーチまで頼む」 「うん」  安全運転で向かおう、そして明日の午前のフライトの為にホテルでゆっくりしようと笑い合った二人は、今回の旅行をパーフェクトなものにしてくれた二人に改めて感謝の言葉を胸の内で呟くと、さあ、自分達の帰国を心待ちにしてくれている友人達への土産を探そうと笑う。  何を買っていけば喜んでくれるだろうなぁと、後に巻き起こる小さな喧噪のことなど予測も出来ない顔でリアムが呟き、その喧噪を巻き起こす慶一朗が何が良いだろうなと嘯くのだった。  ただいまと、疲労よりも一週間ぶりに帰宅した安堵が強く滲んだ声を慶一朗が家に響かせ、それに唱和するようにデュークが遠吠えをする。  そんな二人に苦笑しつつ愛車のトランクから荷物を下ろしたリアムは、一週間ぶりの自宅に無意識に安堵の息を吐き、留守の間空気の入れ替えや郵便物の管理を頼んでいたラシードの仕事の成果を感じ取り、明日店に行けば彼に一杯奢ろうかと慶一朗に己のアイデアを伝えようとする。  だがそんなリアムの耳に飛び込んできたのは、止めろデュークという、本当に制止したいのかと疑いたくなるような笑い声と、キャウンと鳴きながらも楽しそうに走り回っていることが分かる足音だった。  デュークにとっては一週間も二人がいなかった寂しさを発散できる機会で、慶一朗にとっても久しぶりのデュークとの再会は旅行の満足感も疲労感も吹き飛ばすものなのだろう。  だが、一人掛けのソファが定位置から本棚の前にスライドし、コーヒーテーブルが大理石の床の上のラグごとテレビボードにぶつかりそうになる程走り回る光景を目の当たりにすると、出したくはないが出さざるを得ない大声がリビングに響き渡る。 「ストップ!!」  どたばたと足音を響かせて走り回る二人に向けリアムが腹の底からの声を張り上げると、驚いた慶一朗とデュークが抱き合い、床に座り込みながら恐る恐るリアムの顔を同時に見つめる。 「リ、リアム……?」  太い腕を組んで見下ろしてくるリアムから己の失態に気付いた慶一朗だったが、腕の中で小刻みに震え始めたデュークを抱きしめ、な、なんだと腕の中の震えが伝わったように声を震わせる。 「……まだ片付けも終わってないどころか荷解きもしていない」  一体何を遊びまわっているんだと睨まれ、さすがにその言葉には反論できなかった慶一朗だったが、見上げるリアムの顔に滅多に浮かばない悪戯小僧を髣髴とさせる笑みが浮かび、口の端が持ち上がった事に目を見張る。 「どうして二人だけで楽しんでるんだ?」  俺も混ぜろと笑ったリアムの言葉に驚き絶句する慶一朗と、その腕の中で意味は分からないがリアムの機嫌の良し悪しを素早く察知したらしいデュークがぶんぶんとしっぽを振り、倒れこんでくる巨体を見上げて嬉しそうに吠える。 「あ、こら、止めろ、リアムっ!」  ぎゃー、止めろと叫ぶ慶一朗をフロアに押し倒し、リアムの巨体と慶一朗の痩躯に挟まれたデュークが圧し潰される苦痛の声を上げるが、二人の間からはみ出ている尻尾は楽し気に揺れ、覆い被さったリアムの背中も嬉しそうに揺れていた。 「キャウウウン!」 「ぐぇ!!」  己の体の下からの悲鳴に肩を揺らしたリアムは、圧死させるつもりかと吠えられ、悪いと謝りつつ二人が楽に呼吸ができるように腕立て伏せの要領で上体を起こす。 「苦しいだろうが!」 「俺を除け者にしてデュークと遊びだしたケイさんが悪い」  ゴホゴホとせき込みながら不満を訴える慶一朗にそれはそれは爽やかな笑みを見せつけたリアムだったが、不満に尖る唇に小さな音を立ててキスをし、デュークと遊ぶのも楽しいけれど先に荷解きを済ませないかと提案をすると、一瞬端正な顔が思案顔になるが、リアムの言葉に納得したようにそろそろと起き上がる。 「先に荷解きする」 「うん」  手伝ってくれと笑って慶一朗の手を取って立ち上がったリアムは、自分は何をすればいいと言いたげに足元をくるくると回り始めるデュークの頭を撫で、ケイさんを手伝ってやってくれと笑うと、仕事を与えられたデュークの顔がきらきらと輝く。  荷解きもせずにデュークと遊んでしまって悪いとリアムの頬にキスをした慶一朗が言葉で謝罪をし、それを受け入れたリアムがお返しのキスを端正な頬にすると、デュークの頭にもキスをする。 「用事が終わったら庭で遊ぶぞ、デューク」 「ワンっ!」  お前を兄弟犬のもとに残して旅行に行ってしまったが、当分の間は旅行に行くこともないだろう、だから先に用事を済ませてから遊ぼうと笑うと、デュークが歓喜の踊りのようにくるくると回り始め、慶一朗がリアムの腰に腕を回して抱きしめ、そんな二人の背中をそれぞれの手でリアムが撫でるのだった。  つい半日前まで滞在していた国とはまた違う風が吹き、頭上の洗濯物を緩やかにはためかせる。  それを、パラソル型の物干しの斜め下から見上げ、すぐ傍から聞こえてくる穏やかと気持ち良さそうな二種類の寝息を聞きながら思わず笑みを浮かべたリアムは、己の腕の中で寝息を立てる慶一朗と、その上で腹這いになって同じく眠っているデュークを見つめ、再度青空へと顔を向ける。  ハネムーンから今朝帰国し、迎えに来てくれたルカとラシードと一緒にアポフィスに向かい、そこで二人を待っていたデュークを迎えて預けていた愛車に乗り込み帰宅したのだ。  再会した感激から飛び跳ねる慶一朗とデュークを上手く乗せた結果、あっという間に荷解きが終わり、洗濯物を雲が増えてきたがまだまだ青い空の下にはためかせることが出来たのだ。  それに対する感謝と自身もデュークと離れていた寂しさを埋めるため、ニュージーランドで買ってきたデュークのおもちゃを庭に放り投げ、真新しいそれに好奇心一杯に飛びつく様を満足げに見ていたリアムだったが、同じように庭に出てデュークにおもちゃを投げ始める慶一朗にそこを任せ、ラシードが仕分けてくれていた郵便物のチェックのためにリビングに戻った。  それぞれ宛ての郵便物を分けてくれている袋を開けた時、定期便と呼んでいる慶一朗宛ての郵便物が届いていることに気付く。  この定期便は、宛名の主である慶一朗が決して開封することのないもので、許可を得たリアムが内容の確認をし、不測の事態が起きない限りは慶一朗の目の届かない場所に保管しているものだった。  ハネムーンの行き先を決める切っ掛けにもなった事を思い出すが、それにしては毎月届くものに比べて封筒の厚さと大きさが気になり、ナイフで開封して中を確かめると、一見するだけでは分からないが重要なものだろうと思われる書類が束ねられていることに気付く。  カウンターの上に開封したそれを見下ろしたリアムは、そのまま庭へと顔を向け、本当に限られた人しか見る事の出来ない穏やかな顔でデュークと遊んでいる慶一朗を見つめた後、静かに書類を封筒に戻し、今までの手紙を保管している場所にそっとそれをしまう。  慶一朗自身が目にすることを拒絶している手紙を、あんなにも楽しそうにしている今見せる必要はない、自分の中にだけしまっておこうと気分を変えるように顔を一つ叩くと、手紙の仕分けは後回しで、楽しそうに遊んでいる二人と一緒に遊ぼうと庭に再度出たのだ。  その後はリアム自身も目にしたものを忘れるように慶一朗と一緒になってデュークの息が上がるまで庭を走り回らせ、その結果、己の身体に半ば乗り上げた慶一朗と、その上に腹這いになったデュークの寝息を聞いているのだった。  楽しかったハネムーンは終わり、休暇の日数もあと僅かになってきたが、友人になってまだ日も浅いケネスがアポフィスに来ていることを迎えに来てくれたルカからも教わり、今夜店に顔を出すがここで昼寝をすればきっと夜遊びしても大丈夫だろうと溜息を風に乗せる。  頬を撫でる風は心地良く、ニュージーランドで感じたものとは違う当たり前さをリアムの胸に植え付けるが、初めて訪れた国で友人と呼べる関係になれたノアとテッドの顔を自然と思い出し、早ければ来月こちらに来ると教えられた事も思い出すと口の端が持ち上がる。  気持ちの良い二人だったと満足げに息を吐くと、寝息を立てている慶一朗にじっと見下ろされている事に気付き、その頬に手を宛てて起こしてしまったかと小さく詫びる。 「大丈夫だ……何を考えてた?」 「うん? うん、ノアとテッドの事だな」 「ああ」  あの二人も一緒にいて居心地の良い人達だったとリアムと同じ思いを口にする慶一朗の頬にキスをし、また会えるのが楽しみだと笑うと、アポフィスに行く前に市内の本屋でノアの写真集を探さないかと提案される。 「良いな、それ」 「ああ。……ソウにも送りたい」  ノアという気持ちが良い青年と出会う切っ掛けをくれた双子の兄にお礼がてら写真集があれば送りたいと笑う慶一朗の頬をそっと撫で、うん、あなたの良いようにしようと目を細めると、鼻の頭に優しいキスが降ってくる。 「洗濯物も干したし、土産の仕分けもした」  後はアポフィスに出掛けるだけだと笑ってリアムの肩に頬を宛てる慶一朗の髪を撫で、久し振りに皆と会えるのは嬉しいと本音を伝えると、うんという寝息混じりの声が風に乗って流されていく。  そして再度穏やかな寝息が聞こえ、それに釣られるように欠伸をしたリアムは、数時間後に訪れる店で人生で始めてかもしれない衝撃に曝されることになるのだが、そんなことも分からずに暢気な顔でもう一度欠伸をし、慶一朗とデュークの寝息に誘われるように目を閉じるのだった。    二人のハネムーンが終わり、休暇の終わりを迎えれば日常生活へと戻らざるを得ないのだが、その休暇はまだ数日残っていて、その数日は家でゆっくりしようと笑い合う。  だが、そんな二人の笑いをある意味で凍り付かせるような未来を予感させようとしたのか、洗濯物をはためかせる風が急に強くなり、肌寒さを覚えた二人が同時にくしゃみをして目を覚ました結果、せっかく干した洗濯物を降りだした雨から守るために慌てて取り込み、濡れずに済んで良かったと苦笑した二人だったが、少し濡れてしまったデュークが足下で身体を振って水分を弾き飛ばしたため、笑いながら制止の声を上げるのだった。  
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  ただいま、デューク。
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