It's a Wonderful Life.-Family Plan.-

第19話 Wish upon a star.
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 初めての店で買ったフィッシュアンドチップスは思いのほか二人の口に合ったが、さすがに全てを食べきるのは量が多く、残りは明日のブランチーこの国に来て以来、一日たりともまともにモーニングと呼ばれる時間に食事をした事が無かったーで食べようと笑い合い、リアムが片付けを始め、慶一朗もリアムの指示に従ってそれを手伝い始める。  二人で片付けも出来るようになった事実にリアムが密かに感慨を覚えていると、それを見抜いたらしい慶一朗が腰に拳をぶつけてそれぐらい出来ると薄い胸を張る。  うんうん、出来るようになったと子どもを褒める顔になってしまうリアムだったが、子ども扱いするなと呟かれた後、誰がどう見ても子どもとは思えない視線で見つめられ、息を呑んでしまう。 「ケイさん?」 「……さっきも言ったけど、踊るぞ、リアム」  その言葉を囁きながら慶一朗がリアムの逞しい肩に両腕を引っ掛けるように載せ、目を細めて愛嬌のある顔を見つめると、一度視線が左右に泳いだ後に惚れ惚れするような笑みがリアムの顔を彩る。 「踊るだけ?」 「それ以上先に進みたい場合はどうするんだった?」  優秀なお前のことだから分かっているだろうと誘うように笑みを浮かべられ、そうだなぁと暢気を装って端正な顔を見つめるリアムに慶一朗がにやりと笑い、フロアの準備をしておいてくれ、こちらも準備をしてくると続けると、ハニーブロンドを撫でて口笛を吹きながらバスルームに姿を消す。  楽しそうなその背中にリアムも自然と浮かれてしまい、口笛を吹きながらダンスフロアに指定されたリビングのソファなど可能な限りスペースを広く取るように移動させる。  今夜のダンスタイムの曲は何が良いだろうかと思案しつつスマホを操作したとき、慶一朗にプロポーズをした夜の事を思い出す。  あの時、慶一朗がルカに頼んでホテルのスイートを予約してくれていたのだが、その時も踊るぞと手を差し出され、その手を取って満足するまで踊ったのだ。  その時に流していた曲は何だったと思い出そうとしたリアムだったが、準備を終えた慶一朗に聞けば分かると気付き、毎週末遊びに行っているアポフィスを思い浮かべながら冷蔵庫を開け、ビールにワイン、そしてフィッシュアンドチップスと一緒に貰ったキャンディとチョコをカウンターに並べる。  シャルルがいれば踊った後に喉を潤す飲み物を作ってくれるが、自分に出来るのはこれが精一杯だと肩を竦めたとき、バスルームのドアが開いて鼻歌交じりに慶一朗が戻ってくる。 「ご機嫌だな、ダーリン」  その機嫌の良さを一晩中持続させられるように努力しようかと笑うリアムに小首を傾げた後、今でも見惚れてしまう綺麗な指がリアムの髭に覆われている顎に宛がわれて軽く持ち上げられる。 「Tanz mit mir, mein Prinz?」 「Mit Vergnügen.」  踊りませんか王子様と慶一朗がリアムに掌を向けると、喜んでと言葉と感情が一致した顔でリアムがその手を取り、大仰な素振りでその手に口付ける。 「ケイさん、ホテルで踊った時のプレイリストは残っているか?」 「ん? ああ、まだ残ってる」  お前がプロポーズをしてくれたあの夜はここにもあそこにも残っていると己のこめかみを指先で突き、次いでカウンターにあるスマホを指さす。  慶一朗の脳味噌に記憶された夜はリアムの同じ場所に当然残っているが、プレイリストという記憶を補完するものを利用し、あの夜の再現を図ろうと笑う慶一朗に自然と笑みを浮かべ、程なくしてスマホから流れ出す曲にリアムの頭が上下する。  毎週末のアポフィスでは汗を浮かべるほど激しく踊る慶一朗だったが、スマホから流れ出す曲は程良いリズムながら二人で一緒に踊る楽しさを感じさせてくれるものばかりで、一曲、また一曲と流れ続ける曲に合わせ、さほど広くないリビングでいつもとは違って二人で踊る。  曲に合わせて踊りながら時々キスをし、リアムの体内の熱を大きくさせる慶一朗だったが、アポフィスで踊るときとは違い、その顔には踊る楽しさよりもリアムと一緒に好きな事をする満足感が溢れていた。  アポフィスではリアムはカウンターで慶一朗が踊っているのを見守る事が殆どで、二人の関係をある程度知る人達からは踊るよりも大自然を相手にしている方が好きだから慶一朗に好きな事をさせていると思われていた。  だが、ルカやラシードといった二人の関係を深く知る友人達には、それが慶一朗の嫉妬から来るものだと見抜かれていて、ルカには嫉妬深い男だと呆れたように笑われていたのだ。  人畜無害のマッチョマンと揶揄い、見知らぬ誰かの為でもヒーローになれる勇敢な男だとも褒めているが、ダンスフロアで踊る顔は、慶一朗が何度惚れ直せば気が済むとリアムにとって理不尽な怒りをぶつけたくなるほどだった。  慶一朗が折に触れ惚れ直してしまうのなら、周囲で音に合わせて盛り上がっている男女など、気分の高揚に合わせてリアムに惚れてしまうのではとの危惧から、お前は踊らずにルカの相手をして酒を飲んでいろと命じていたのだ。  それがどれ程理不尽なものであっても、慶一朗が心底願っているのなら叶えるまでと腹を括っているリアムがその言葉に従い、ナイトクラブに来ているのに踊ることもせずにカウンターでスタッフ相手に飲んで話している背中を見ながら安堵していた。  だが今は二人きりのため、そんな理不尽な命令をする必要も聞く必要も無いため、リアムの気が済むまで曲を流し、さすがの慶一朗も疲れたから少し休憩しようとリアムをソファに連れて行くまで踊っていた。  さすがに疲れたとそれでも満足げに息を吐く慶一朗にソファへと座らされ、カウンターの上のビールのボトルを手渡されて口を付けようとしたリアムだったが、己の足の上に慶一朗が座ったかと思うと、ボトルを取り上げられ目の前で美味そうに喉を鳴らしながら飲まれてしまう。 「ケイさん」  俺も飲みたいとさすがに苦笑しつつ伝えると、意味有り気に見下ろされ、その視線から求められているものを鋭く察したリアムが慶一朗の手からボトルと、口からはビールを受け取るようにキスをすると、満足そうに慶一朗がリアムの頭を抱きしめる。 「……汗を掻いたからシャワーをしないか?」  さすがに汗臭いだろうと笑うリアムを無言で見下ろした慶一朗は、別にお前の汗の臭いは気にならないと小首を傾げるが、鼻の頭に小さな音を立ててキスをし、お前が望むならそうしようとさっきと同じようにリアムの手を引いて立ち上がる。 「一緒に行くか?」 「……俺をひとりにさせるつもりか?」  リアムの言葉に目を眇めた慶一朗だったが、ぽつりと零した言葉の後に抱きしめられ、許しを乞うようなキスが顔中に降ってきて、その擽ったさから肩を竦めリアムの腰にしがみつくように腕を回す。 「せっかくのハネムーンでひとりにするのか?」  さっきのものとは全く違う色が滲んだ声にリアムが気付き、頬の高い場所にキスをした後、最終目的地だと教えるようにイタズラっぽく開く唇に口付ける。 「二人で入っても狭くなかったな」 「誰かさんが人の1.5倍あるからなぁ」  手狭に感じるかも知れないと笑いながら互いの腰を抱きバスルームのドアを開けて中に入ると、慶一朗が何かを思い出したようにリアムに笑いかける。 「今なら良いぞ」  ただそれだけの言葉でも真意が伝わったのか、嬉しそうに口の端を持ち上げた後、慶一朗の痩躯を抱き上げてくるりと回転する。 「こら」 「シャワーをしてからのお楽しみだな」  抱き上げたために高い位置にある端正な顔に笑いかけ、眼鏡を外して背後の洗面台に投げる様子を見守っていると、慶一朗がリアムと同じ笑みを浮かべて顔を寄せる。 「……確かに、鏡を使えばお前の気持ち良さそうな顔も見えるな」  さっきそれに気付いたと笑う慶一朗のイタズラな笑みを浮かべる唇を封じるようにキスをすると、髭に覆われている頬を両手で挟まれ、今度は意志を持った舌が踊るように入ってくる。  さっき散々踊ったがまだ足りないというように口内で好きに動く舌を捕まえるように舌を絡め、悪戯ばかりするなと教えるように抱き上げていた痩躯を洗面台に下ろすと、不満を表すように鼻から息が抜ける。  せっかく居心地の良い腕の中にいて気持ちイイキスをしていたのにと言いたげな顔の慶一朗がリアムを睨むが、逃げ場を奪うように身体の左右に手を付かれて欲を隠さない瞳に睨まれてしまい、不満が一瞬で背徳的な快感へと変化をする。 「シャワーをしてからのお楽しみじゃないのか?」 「シャワーの前のお楽しみも捨てがたい」  今腹の底に生まれた熱を全身に広げるのはシャワーの後だろうと笑う慶一朗にリアムがその前に楽しむのもアリだと笑い、確かにそうだと納得したように頷く代わりに、リアムのシャツの裾に手を差し入れて脇腹から胸板、そして腕へと移動させると、それに合わせながらも主導権は手渡さないと言いたげにリアムが自ら腕を上げてシャツを脱ぐ。  男同士の主導権の奪い合いを楽しむように互いのシャツを脱がし、カーゴパンツのボタンを外すとリアムが足でそれを脱ぎ去り、慶一朗のジーンズのボタンを外して下着ごと脱がす。  一緒に脱がそうとするなと裸のリアムの肩に両手を乗せた慶一朗が楽しそうに肩を揺らすが、その両足はリアムと同じようにもぞもぞと動いており、手助けをされながらどちらも裸になる。  互いに裸になった今、自宅でも友人の店の私室でもない旅先での二人きりという事実がいつもと違う感覚を産み落とし、生まれたそれを育てるように互いを抱き寄せて再度キスをするのだった。  腰を両手で掴まれ、引き寄せられて顎を上げてしまう。  膝がくずおれそうになるのを止める為に洗面台に両手を突いて身体を支えるが、それを阻止するように引き寄せられて縋るように洗面台の上に手を滑らせる。  鏡に反射する自分の声に羞恥を覚えてしまい、咄嗟に口を塞ごうと手を挙げると、その手をそっと掴まれてしまい、声を聞かせたくないことを教えるように鏡越しに背後の顔を睨むと、腕を掴んでいた手で顎を掴まれてキスされてしまう。  自分の手で塞ぐのではなくキスで嬌声を封じられ、快感と苦痛にくぐもった声を上げる。  先日は拒否した洗面所での行為だったが、満足するまで踊った心が許可を与えた己に罵詈雑言を投げつけたかったが、その気持ちを遙かに上回る快感に腰を震わせてしまい、大きな手に手を重ねて自由にしてくれと伝えると、離れていった後にうなじにキスをされる。  自由になった口から堪えることが出来ない嬌声が零れ、突き上げられて背中が撓む。  腰を支えられているとはいえ膝に力が入らなくなり、このままでは洗面台に突っ伏してしまいそうになるからベッドに行きたい、それが無理ならせめて床が良いと嬌声混じり懇願すると、うん、わかったと返されて更に奥を蹂躙されて目を白黒させてしまう。 「どこが分かったんだ!」  分かったのならさっさと抜くかイッてしまえと叫ぶと、口が悪いなぁと暢気な声が背中に届き、ついでにキスも届けられる。 「リアム……っ!」  立っているのが辛いと頭を振ると仕方がないと言いたげに溜息を吐かれ、不意に身体の奥が楽になり、膝が限界を迎えたように床にぶつかりそうになるが、軽々と抱き上げられて驚きに目を見張る。 「鏡越しじゃなくて見下ろしたくなった」 「……っ!」  リアムが慶一朗にだけ見せるオスのような顔で笑い、己にはない余裕さにクソッタレと思わず吐き捨てた慶一朗だったが、抱き上げる腕の力は変わらないがその中心に冷えた何かが生まれた気がし、己が口走った言葉を理解して両手で口元を押さえてしまう。 「ケイさんは頭も良いし理解力はあると思っていたけどなぁ」  どうしてその言ってはいけない言葉を口にしてしまうんだろうなぁと見下ろされ、離せ、下ろせ、離してくれと手足をばたつかせる慶一朗の抵抗を難なく抑え込んだリアムは、それはそれは爽やかな笑みを浮かべて却下と言い放ち、ベッドに行くぞと宣言した後、成人男性を抱えているとは思えない軽い足取りでバスルームを出て階段を上る。  ロフトに置かれているマットレスにいつかと同じように慶一朗を荷物よろしく投げ落としたかと思うと、反動で身体を起こす慶一朗に覆い被さり、本当にこれに関してだけは物覚えが悪いと笑う。 「う、うるさいっ」  リアムの言葉よりも笑みに恐怖を覚えた慶一朗がそれでも精一杯の反抗をすると、恐ろしい言葉がリアムの口から流れ出す。 「今日のお仕置きは何が良いだろうな?」 「ちょ、ま、待て待て待て!」  リアム、待ってくれ、さっきの言葉なら謝るから、取り消すからと慌てふためきながら反省している事を必死に伝えるが、もう遅いと笑うリアムに抱きすくめられてしまい、洗面所で続きをしていた方がマシだったのではないかと思える時間がこの後己の身に襲いかかるのだと気付くと最早抵抗らしい抵抗も出来ず、それでも最後の意地だと言う代わりにリアムの背中に赤い筋を残すのだった。 「……っ、ん……っア……っ!」  斜めの天井に嵌まった窓に熱に掠れた声がぶつかり、二人の上に落ちてくるまでもなく霧散するが、それを追いかけるように声が上がり、天井にぶつかっては霧散していく。  次から次へと腹の奥から生まれる熱と快感に声を上げ続け、いったいどのくらい時間が経過したのかも覚束ない中、己の体を高みに押し上げ引き摺り下ろす大きな手から逃れようと体が自然とずり上がる。 「ン……っ!」  鼻から抜けるような声に消すことのできない甘い色が滲んでいることも自覚できず、ただただ中をかき回す熱に頭を振ると、顔の左右に手が突かれて宥める様にキスをされる。  そのキスにも煽られ熱を上げられ、その苦しさにハニーブロンドを両手で抱きしめ、快感に赤く染まる耳朶に口を寄せて文句の一つも言おうと口を開くが、出てくるのは鼻につく甘い嬌声ばかりだった。  これまでの人生の中、何があっても忘れられない顔や翌日にはもう覚えてもいない人達と何度も寝てきたが、そんな有象無象を遙かに凌駕する大きな男とこうして抱き合うまで、己がこんなにも甘い声を出せるとは思わなかった。  自覚した瞬間、羞恥で頭がどうにかなってしまいそうだと思うが、それを抑えることも出来ずに長く短く声を上げ続けていると、鼻の頭や頬にキスが少し前まで降っていた雨のように降ってくる。  それが擽ったさとそれ以上の思いを薄い胸に生み出し、顔を背けて熱い息を吐くと、唇にそっと唇が重なってくる。 「……ん……っ」  さっきまでシーツに吐き出していた甘い声を重なる口の中に吐き出し、水中から息継ぎするために水面に顔を出したように胸を喘がせると、汗で額に貼り付く髪を掻き上げられてそこに口付けられる。  己の中を埋めるものはこれ以外では経験したことが無い唯一無二のもので、普通であれば苦痛を覚えても仕方がないものだったが、今覚えているのは苦痛などではない感情だった。  それが不思議で、口を寄せている耳に囁きかけると、覗き込むように見下ろされる。 「ケイさん?」  どうしたと問いかける顔に精一杯の威勢を張るように顎を上げ、やっぱりお前のものからは何かが出ていると告げると動きがピタリと止まり、瞬間、物足りなさを覚えてしまう。 「またそれを言う」  その言葉を初めて聞かされたアポフィスの私室を思い出したらしいリアムの顔に呆れたような笑みが浮かぶが、あの時ラシードも言っていたが、これから出るものは限られているだろうと笑い、グッと腰を押しつけられて短く息を呑んでしまう。  ついでに言えばケイさんから出るものも同じだと笑う顔を睨むように見上げて絶対に違うと反論すると、少し考え込むようにヘイゼルの瞳が斜め上を見るが、その目が戻ってきた瞬間、表現上の行為だけだと思っていた息を止めてしまう。  見上げたリアムの顔は数え切れない程見てきた笑顔だったが、記憶の引き出しから全ての笑顔を引っ張り出してきてもそれらが色褪せるようなもので、ハニーブロンドを抱きしめていた手で口を咄嗟に押さえると、その衝撃で呼吸が戻るが鼓動が一気に早くなってしまう。 「程度の差はあるけれど、出てるものは同じだと思うなぁ」  俺から出ているとあなたが主張するものはきっとあなたに対する愛情だと思うと笑う顔を呆然と見上げた慶一朗だったが、リアムの愛嬌のある顔に快感とはまた違う由来の赤味が差したことに気付き、その言葉を受け止めた脳味噌がたった今覚えた感情を全身に伝えろと命令をする。  慶一朗が今まで付き合ってきた男達とは愛情よりは本能をより感じさせるセックスをしてきたが、その最中に好きだの愛しているだのを口にする男はいなかったし自身も口にすることはなかった。  そんな男達とは何もかもが違うリアムだけが、折に触れそれを言葉に出して伝えてきていた。  今までそれを気恥ずかしさから止めさせるようにしていたが、今はそれを止めることをしたくなくて、口を押さえた手をリアムに向けて伸ばすと、更に嬉しそうな笑みが髭に覆われている頬を彩り、広げた両手の間に大きな身体を押し込んでくる。  覆い被さってくる唯一無二の背中を抱きしめ耳朶に口付けた後、今日ぐらいはとの思いから有り触れているが何よりも大切な言葉を囁きかける。 「Du bist die Liebe meines Lebens.」  俺の中にある愛の全てを、お前に。ああ、本当に、愛している。  己の中にこんな感情が、言葉があったことを教えてくれてありがとう、どうかこれから先、忘れそうになったら思い出させてくれと続けると、本当に満足したときにだけ零れ落ちる吐息が顔の傍に落ち、次いで短い言葉も落ちてくる。  あなたもどうか忘れないでくれと続けられて同じく吐息で返した慶一朗だったが、中を埋めたままだったものが脈打ち大きくなったのを感じて短く息を呑む。  嬉しくて止められない、悪いと、欲も情も何もかも引っくるめた感情を切羽詰まった声で囁きかけられ、付き合える限りは付き合うことを広い背中をそっと撫でて伝えると、首筋に顔を埋められて背筋に抑えきれない震えが走る。  心の奥底にいつも存在する感情を互いに確認した、後はそれが生み出した熱を弾けさせるだけだから言葉はもういらないと笑うと、愛嬌のある顔にギラリと強い欲の色が浮かぶ。  だが、見下ろしてくる瞳に宿るものは変わることはなく、今までとは違って自然と声を上げ、リアムの動きに翻弄されながらも心身共に深い場所で繋がっていられる安堵も覚えているのだった。    息をしているのかを思わず確かめてしまうほどの眠りに落ちた慶一朗の頭の下に腕を差し入れ、いつもと同じ態勢になったリアムだったが、抑えようとしても到底出来ない笑みが顔に浮かび、一人百面相をしてしまう。  抱き合っている最中、慶一朗があそこまで強い愛情表現を、態度ではなく言葉で伝えてくれるなど想像も出来ないことだった。  愛しているとの言葉なら真冬のシドニーに降る雪のような奇跡的な頻度で耳にした事はあったが、それを上回るような告白が嬉しくて、負担を掛けさせてしまった為に失神したように眠っている慶一朗の頬にキスをする。  その言葉と共に脳裏に焼き付けておきたい表情を自然と思い出すと、眠りを妨げることになると分かっていながらも抱きしめたくなる。  抱き合っている最中に告白する気恥ずかしさと、その言葉の持つある種の気恥ずかしさが綯い交ぜになり、何をキザなことを言っているんだと笑われる可能性も考えつつ見下ろした顔は、いつか目にした笑顔だった。  己の目の前でだけ静かに密やかに開く、深紅の薔薇を連想させる笑み。  もしもこの顔を今まで誰かに見せていたのだとすればと、考えるだけで瞼の裏が赤く染まりそうなその顔だったが、己だけだと疑う余地もない事に気付くと、ただただ愛しさだけが込み上げてくる。  同じ思いを同じ言葉で伝えられない、羞恥心の強い人だと思っていた慶一朗だが、あのような顔で告白する力も持っている事に改めて気付いたリアムは、もう一度頬にキスをした後に大きく欠伸をし、満足した心身で慶一朗を追いかけるように目を閉じる。  ハネムーンで訪れたニュージーランドに別れを告げる為、明後日にはクライストチャーチに移動するが、それはドライブがメインになるだろう。  ここを満喫できるのも明日一日だけだと気付き、昨夜ノア達と一緒に見た夜空を横切る人工衛星に祈った願いが全て叶うどころか、期待以上の結果を齎してくれたことに満足げに息を吐いたリアムは、隣から聞こえる小さな寝息に釣られるようにもう一度欠伸をし、明日は何をしようかなと思案しつつ眠りに落ちるのだった。  斜めに嵌まった窓の遙か上空、昨日も見たために少しだけ感慨が薄くなったが、それでも二人が見ていれば感激の声を上げたであろう軌跡を描き、星がひとつ流れ落ちるのだった。    
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  Du bist die Liebe meines Lebens.
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