It's a Wonderful Life.-Family Plan.-

第15話 Chocolate Game. -Secret love potion.
2
 二人の間でチョコレートゲームと名付けられたそれは大粒のチョコレートを互いの口の中で転がしあい、どちらかの口の中で溶けてしまえば負けという、恋人同時の頃にリアムが思いついて始めたものだった。  それを久し振りにしようと提案をしたのは慶一朗だったが、その心の中には帰宅するまでの間のリアムの不可解な表情や言動があった。  リアムのように相手の気持ちを上手く言葉に出させることも、読み取った思いを己の中で噛み砕いて相手に伝える術も持たない慶一朗に出来るのは、ゲーム中に本音を吐き出させることだけだった。  だからチョコを口に咥えてさあどうぞと細めた目でリアムを見つめたとき、お前が感じている事を口に出せとも内心で呟くと、それに気付いたのかどうなのかリアムが慶一朗の舌に乗っているチョコを奪うようにキスをする。 「……ん」  大きなチョコを互いの口内に押し付け合い奪い合いそして少し溶けて小さくなったのを確かめると、リアムの頬を慶一朗が両手で包んで顔を固定し一気に溶けろと舌先で押し込んでくるが、当然ながらリアムがディフェンス一方になる事などなく慶一朗の柔らかな髪に手を差し入れて頭を固定すると、程なくして苦しそうな気配が二人の間に広がり、大きく息を吸うために慶一朗が顔を離した瞬間、やられたという顔とやってやったという笑みが二人の顔に広がり、リアムが握りしめた右手を突き上げる。 「バニーボーイだ!」  負けてしまった、負けてしまったのかと、まるでアニメの主人公が敵に敗北した時のようにベッドに手を付き項垂れる慶一朗の背中をそっと撫でたリアムは、恐る恐る振り返る端正な顔にチョコの味が残る舌で唇を舐める様を見せつけ、この野郎と一声吠えられる。 「さっきは俺が勝つみたいなことを言ってたけど、ケイさんの勝率は低いよなぁ」 「うるさいっ!」  負けた悔しさとバニーボーイという単語からイメージする衣装から目元を赤くした慶一朗がお決まりの言葉を吐き捨てようとするが、このまま吐き捨てると己の身にとんでもない不幸が降りかかることに気付いて寸前で飲み込んだ後、負けた相手を見下すなんて下品だぞ王子様と悔し紛れに顎を上げて胸を張ると、その上がった顎をリアムの手がそっと掴んでくる。  触れるだけのキスにしようと思っていたが、散々今までキスをしてきたために赤く熟れた果実のように色付くそこに我慢が出来ずに吸い付くようにキスをしたリアムは、さっきとは全く違う思いから己の首の後ろ手しなやかな両手が交差したことに気付き、腰と背中を両手で支えるように抱きしめ、角度を変えて何度もキスをする。  一頻り満足するまでのキスはゲームとは違って駆け引きなど何もない、ただそこに愛情と本能から来る欲があるだけのもので、気付いたときには慶一朗がリアムの支えが無ければ立っているのが辛いほどになってしまっていた。  それを詫びながらひょいと抱き上げてベッドに背中を沈ませると、潤んだ目で見上げられて思わず奥歯を噛みしめてしまったリアムだったが、再度両手が己の首の上で交差したことに気付いて顔を寄せて白い頬に髭を擦り寄せると、痛いとくすぐったいという不満にしては楽しそうな声が耳元に零れ落ち、その楽しさを増幅させようと更に頬を擦り寄せると、今日の罰ゲームはさすがにすぐに準備が出来ないから別の日でも良いかと問われ、首を傾げながら見つめてくる顔に勿論と嬉しさを隠さない顔で頷く。 「バニーボーイか」  やはりウサギの耳と尻尾は必要だろう、足下はヒールが良いのかなと嘯くリアムの髭を慶一朗が軽く引っ張り、痛い痛いという悲鳴のような声を上げさせて溜飲を下げると、機嫌が直ってくれて良かったと思わず本音を零してしまったと言いたげな顔で小さく呟く。 「ケイさん?」 「今日は俺を見られたくないと言っていたし帰りの電車でも他の人に見せないようにしていただろう?」  今まで露骨にそんな態度を取ったことが無かったから機嫌が悪かったのかと思ったと苦笑され、見抜かれていたことに小さく唇を噛んだリアムだったが、次いで聞こえてきた言葉に腹の底に生まれた熱が一瞬で凍結してしまいそうなものを覚えてしまう。  少し前の口論がまだ尾を引いているのかと続けられてそれはないと断言すると、うんという小さな頷きの声の後に目が閉じられて程なくして瞼がゆっくりと上がると、そこには自分達の間では言葉の裏を読む必要は無いことを確認するような色が浮かんでいて、そんな必要など無いことが伝わるようにと額に額を重ねて目を閉じる。 「……悪い、ケイさん。駅からケイさんが出てきたのを見てたら……周りの人がケイさんを見てたから」  その視線に嫉妬してしまったと、あの時生まれた名付けられなかった感情にしっかりと名前を付けたリアムが悪かったと小さく謝る声に慶一朗が髭に覆われている顎のラインを指でなぞり、頬を両手で挟んで鼻の頭を擦り合わせる。 「……嫉妬深い王子様め」 「うん、ごめん」  慶一朗の笑み交じりの非難に同じく笑み交じりに返すリアムはごろりと寝返りを打たれ、己の腹に座り込んでバスローブを脱ぎ捨てて裸になる慶一朗を見上げて俺が脱がせたかったと残念そうに呟くと、少し尖った唇に慶一朗が小さな音を立ててキスをする。 「今日はワガママばかりを言うからその罰だ」 「……仕方ないか」  見下ろしてくる端正な顔に気分を切り替えた証の太い笑みを見せたリアムは、再度前屈みになって口付けてくる頬を両手で挟んで固定すると、その先に進もうと伝えて返事ではなくキスで了承を得るのだった。  前とは確実に何かが違うことを感じさせる手で快感の絶頂に追いやられ、まだだと言うように引きずり下ろされては息も絶え絶えにその手の持ち主を見つめる慶一朗だったが、もうだめだとこれ以上の快楽に浸ってしまうと戻れなくなる恐怖から太い手首を掴んで手を止めさせようとするが、逆に手を握られて逆らうことが出来ずに身体の奥に芽生える快感を引きずり出すように突き上げられ中を掻き回されて声を抑えることが出来なくなってしまう。  いつもならば嬌声を聞かせることも顔を見せることもしたくない一心で手近にあるクッションや枕に顔を埋めたりするが、今夜はそれをさせてくれるつもりがないようで、慶一朗が救いを求めるようにシーツの上で手を滑らせてもその度に熱い大きな手に阻止されてしまい、そんなに縋るものが欲しければと笑っているような声で広く逞しい背中へと導かれてしまう。  素直に広い背中に縋り付くのも悔しくてほんの少しの意地から軽く爪を立てると、それでも嬉しそうな色を隠しきれない声が痛いなぁと呟くが、それにどうだともうるさいとも返すことも出来ない強烈な快感が背筋を駆け上り、意地悪ではない思いから広い背中を抱きしめる。  抑えきれない声ももっと聞かせてくれと強請られ、縋るものを探す手と同じように意地悪な思いを覗かせると、途端に反論できない強さで突き上げられて息を詰めてしまいそうになる。  過去身体を重ねた男女の中では嗜虐的なセックスをしたのは先日帰国したケネスだったが、リアムとのセックスはその中の誰とも類似しておらず、そろそろ長くなってきた付き合いの中、幾度となくこうして互いの背中を抱いているが、その度に新しい発見だったり新たな気付きがあるが、今日はそのどれにも当て嵌まらないものだった。  強いて言えば、いつだったか慶一朗がリアムとのセックスにはある種の中毒性があるとルカやラシードに告げた時、今己の中を満たすだけではなく蹂躙するような熱と質量を持つものからは得体の知れない何かが溢れていると言ったことがあったが、その時に感じたものに似ていた。  その何かが今もまた溢れ出しているのだろうかとの疑問からヘイゼルの双眸を見上げると、何だと言いたげに見返された為にやっぱりお前のアレからは何かが出てるんだと、精一杯の意地で唇の端を持ち上げると、またそれを言うと小さく舌打ちをされてしまい、俺の物でもケイさんの物でも出るものは決まっているだろうと憮然と呟かれるが、声の響きと動きが全く一致していない為にギリギリまで抜かれて息を呑み、その勢いのまま突き上げられて仰け反ってしまう。 「……ァ……っ……!」  どうしても高くなる声に羞恥から口を封じたくなるが、そのための両手をリアムに掴まれてしまい、唇を噛もうとするとキスで宥めた後に強引に脱力させられてしまう。 「ケイさん……昔ドラッグを使ってたって言ってたよな」  快感に霞む視界を一瞬で晴らしてしまうような疑問が降ってきた為に驚きに瞠る目でリアムを見つめると、己が危惧するような表情とは真逆の笑みを浮かべられていることに気付き、それがどうしたと微かに緊張と快感に掠れる声で問いかけると、あの頃と今だとどちらが気持ち良いと比べる言葉が返ってくる。  本当に今日は嫉妬深い王子様になっているなと己の伴侶の心情を思って微苦笑した慶一朗だったが、真っ直ぐに見下ろされて見つめ返し、意地からではなく心からの笑みを浮かべると、顎髭を指の腹で撫でてキスをするために頭を持ち上げる。 「……っ!」  瞬間芽生える強い快感にどちらも短く息を呑むが、リアムの顎と頬の髭にキスをした後、あの頃使っていたいわゆるラブ・ポーションやドラッグーといっても常習性は低く非合法なものでも無かったーをお前がもしも使ったとすれば、きっと今頃俺は正気を保っていられないと素直な感想を口にし、お前がその手の薬を必要とするような男でなくて良かったと笑うと、リアムが嬉しそうに笑みを浮かべ、掛け声ひとつで慶一朗を抱き起こして高い声を嬉しげに聞きながら背後に倒れ込む。  見上げる赤く染まった顔はいつまでも見続けたい、記憶に留めておきたいとリアムが思うほど壮絶な色香があったが、自重で更に奥へと進んだものに腰を震わせ、リアムの腹に手を付いて辛うじて姿勢を保とうとするが、軽々と持ち上げられて喉が詰まったような悲鳴が上がり、薄い腹が忙しなく上下する。  この光景をケネスも見ていたと思ったとき嫉妬がまた頭を擡げるかと思ったが、ルカやラシードらと遊んでいた過去、付き合いだして二人を紹介されてからは時折四人で余り公言できない付き合い方をしているときと同じように嫉妬の心は沸き起こらず、それどころか、今もしケネスとセックスをすればどんな顔を見せるのかを見たいという背徳感に塗れた想像が脳裏に浮かび、まだ残っていた理性がその想像を追い払ってしまう。  己を好き勝手なリズムと角度で突き上げているリアムが慶一朗にとっては思わず絶句したくなるようなことを考えているなど想像も出来ず、また次から次へと生まれる快感に飲み込まれ、最後の理性まで吹き飛ばすような醜態を見せないようにと気を張っているが、突き上げられて腰を掴んで引きずり下ろされてはそれすらも危うくなりそうだった。  だからもう無理だ、せめて身体が安定する体勢が良いと喘ぎ交じりに伝えると、慶一朗の意思を尊重してくれる優しい男が宥めるようなキスをし中から抜け出した安堵に震える息を吐いた慶一朗だったが、誰よりも優しい男は出し切るまでは止まることの出来ない本能も持ち合わせている為か、片足を抱えられてグッと肩で押しつけながら中に入ってくる。  それを受け入れながら息を吐き自由になった手で前髪を握りしめようとするが、その手をそっと外されてリアムの顔の前に運ばれると、薬指に光る二度の誓いが込められているリングに口付けられる。 「――ン……っ!」  その顔を友人達が見ればそれほどまでに慶一朗を愛しているのかと揶揄うよりは感心するような表情だった為、己に向けられる愛情を羞恥から素直に受け止め返すことの出来ない慶一朗が息を呑んでしまうが、待ち合わせ場所からアポフィスへと向かう道中でひっそりとだが決意をしたことを思い出し、リアムが飽きることなくキスを繰り返す己の手を己の意志でそっと動かすと、冬だけじゃなく夏も秋も、これからやって来る春もずっと手を繋いでいてくれと甘えるように告白するとリアムの顔が一度伏せられるが、次いで上げられたときには慶一朗の心臓が一瞬動きを止めてしまうのではないかと思えるような笑みを浮かべていて。  その顔に心臓を鷲掴みにされた方がマシと思えるような不可解な痛みに襲われ、助けを求めるようにリアムの肩に手を掛けると、意味を察したように覆い被さられて頬や額、鼻の頭に繰り返しキスをされる。  幸せが過ぎると痛みになるのかと、こんな本能を剥き出しにしたときに何を考えているんだと己に呆れてしまうが、今瞬間的に覚えた痛みの理由を慶一朗はその言葉でしか表現できず、今己に幸せすぎる痛みを与えた男も同じ思いを持つのだろうかと問いかけようと口を開いた瞬間を狙ったようにリアムが腰をぶつけてきた為、開けていた口から高い声が流れ出す。  快感が全身に広がり抱えられている足が伸びシーツを握りしめても抑えられない声を上げ続け、その合間にリアムの上がり始めた息遣いも感じ取ると、自分だけではないと気付いてシーツを離した手をリアムの腕に載せると、嬉しそうに目を細められ、そこから先はただただ蹂躙されるような快感の中で押し上げられ放り出され、失墜するような感覚に囚われるまで高い声を上げ続けるのだった。  指一本動かす気力も体力も無くなった慶一朗がベッドに伏せて死んだように目を閉じていると、体力モンスターとこれからは呼んでやると決めたリアムが、後始末を全て終えて満足そうな顔でベッドに潜り込み、慶一朗の頭の下に腕を差し入れてくる。 「……何がラブ・ポーションだ」 「ケイさん?」  漸く落ち着いた息の下、リアムの腕を当たり前の顔で枕にしながら慶一朗が恨みがましい声で呟くと、媚薬がどうしたと返されて愛嬌のある顔をじろりと睨む。 「ラブ・ポーションなどと言うロマンチックで可愛げのあるものじゃない」  どちらかと言えばお前の場合は劇薬だと瞼を平らにされたリアムがそうかなぁと上目遣いに嘯くと、鼻をぎゅっと摘ままれて目を白黒させてしまう。 「本当に……ケネスと付き合っていた頃にお前と付き合わなくて良かった」  そんな事をしていれば今頃俺はドクターではなくラシードの店で毎晩誰かの相手をしているだろうと、もしかすると訪れていたかも知れない未来を想像して苦笑する慶一朗の手を掴んだリアムが鼻から手を離させると掌にキスをする。 「……もう必要ない?」 「当たり前だ」  そんな何処かに売っているようなドラッグなど必要ないと、今まで使ってきたドラッグのどれよりも強烈な快感を与えてくれる存在がここにいるのにと笑う慶一朗の言葉にリアムが鼻の頭を引っ掻くと、うんと頷いてこの話題を打ち切ろうと慶一朗の顔を覗き込むが、己の腕に頭を預けて穏やかな寝息を立て始めていることに気付く。 「お休み」  ゆっくり寝てくれと額にキスをしたリアムは、己も一足遅れで眠りに就こうと目を閉じ、あっという間に穏やかな寝息を立て始めるのだった。  その後、罰ゲームのバニーボーイの衣装をルカを通して入手した慶一朗は、週末の夜にそれを披露するとリアムが歓喜に肩を震わせるだけではなく写真撮影を始めてしまい、リアムの男の欲望丸出しの顔が楽しくて調子に乗った慶一朗がソファやアイランドキッチンに腰掛けたりしな垂れかかりながら手を伸ばしたり、ベッドの上では煽情的なポーズを何種類も取った為、ごめんと謝ったリアムによってバスタブのあるバスルームに連れ込まれてしまい、せっかく着替えた衣装を脱がされるだけでは無く、バスルームに高い声を響かせてしまう羽目に陥るのだった。  二階のドタバタとした足音を階段の下で聞いていたデュークが何かを察したのか、己のおやつが隠されている棚を開けてひとつだけおやつを取り出し棚を閉めると、自分のベッドがある寝床に潜り込んでおやつを楽しみ、そのまま眠ってしまうのだった。    
← Prev | 第15話 Chocolate Game. -Secret love potion. | Next 第16話 → 
  ……やれやれ。
Waveboxで感想を送る
コメントは↑からどうぞ。一言でも匿名でも嬉しいです。励みになります