9月に入り夏の晴れ間が少なくなりだしたある日、シドニーから帰国後にそれなり精を出して実業家として忙しい日々を送っていたケネスは、一息ついた夕方に姉夫妻の訪問を受け、自宅で最も寛げる旧市街を見下ろせるリビングのソファへと姉夫妻を招き入れる。
「突然どうしたんだ、アニー」
来るなら前もって言ってくれればディナーの用意をしておいたのにと、今日は残念ながらこの後マッカラム夫妻とディナーに行く事を申し訳なさげな顔で伝えたケネスは、それは申し訳ないことをしたわと謝罪をする姉の頬にキスをし、その隣にいるいつも一歩引いた場所から見守ってくれている義兄ともキスを交わすと、向かい合う席に腰を下ろす二人に小首を傾げる。
「殿下から連絡があったの」
「殿下から?」
姉の穏やかな声に少しだけ滲む緊張感に目を見開いたケネスは、アダムが差し出す飾り気はないが高級品であることを感じさせる封筒を受け取り、中身を確かめる。
手紙の差し出し主の顔を脳裏に浮かべながら読み進め、今年のバカンスでは不在だったから一緒に狩りが出来ずに残念だった、狩りをしなかった為に夏が終わったという気がしない、月が代わった最初の土曜日にそちらに行くので一緒に狩りをしようとの誘いの内容を読み終えて高い天井を見上げる。
「……私とアダムにも同じものが届いたわ」
今年の夏、あなたはずっとシドニーにいて殿下のお供をしなかったからと笑う姉にひとつ息を吐いて視線を戻したケネスは、そうだけどなぁと苦笑しながら運ばれてきた紅茶に口をつけてもうひとつ息を吐く。
「仕方ないか」
「ええ」
仕方ないという言い方も失礼だけどと笑う姉に弟も肩を竦めて同じ気持ちを表すと、姉弟揃って招待された日付を確かめ合い、その日は何があっても予定を開けなければと一頻り笑い合うが、マッカラム夫妻とディナーなんて珍しいわねと少しの驚きを越えに載せたアイリーンがケネスを見つめ、その視線に少しだけ居心地の悪さを覚えた顔で目を逸らすが、シドニーでは迷惑を掛けたことを手紙で詫びたら一度ゆっくりと話をしたいと誘われた事を伝え、弟の交友関係が広がる事に姉が嬉しそうに目元を和ませる。
「良いんじゃないかしら」
「私もそう思う」
だから楽しんでくるよと返したケネスは、8月の愚行とその結末を思い出して苦く笑うものの、己の行動の帰結先にこうして食事に誘われる関係があるのなら、あの時の行動も無駄ではなかったと安堵に息を吐く。
「じゃあ長々とお邪魔するのも悪いから帰るわ」
弟の様子から何かを察した姉が笑顔で立ち上がり、隣のアダムも同じく笑顔で立ち上がって妻を支えると、マッカラム夫妻によろしくねと、いつかのパーティーの夜を思い出しながら弟を抱きしめ、同じく抱き返されて胸を撫で下ろす。
あのパーティーであまり話をしたことのないマッカラム夫妻の態度が府に落ちずに色々と調べた結果、ケネスが裏で糸を引いていたことが判明したのだが、その事実からマッカラム夫妻の態度の理由も察した彼女は、弟がいるシドニーに夫婦で向かい、あの日直接話をして得心させたのだった。
己の行動がいい年をした弟に対して過干渉ではないのかとの疑問が常に彼女の中にはあったが、弟が心配だからと一言で片付けられない関係であることを熟知する夫に行ってくれば良いと背中を押され、夫の腕を掴んでシドニーへと渡った事は間違いではなかったと安堵し、殿下の招待の前に家で食事をしましょう、今なら何を食べたいのか言ってくれれば作るわよと笑う姉に、それならば久しぶりにパイが食べたいと笑顔で弟が義兄を見ると、うん、そうだな、久しぶりに作ろうかと笑みを浮かべて頷く。
「楽しみにしている」
「ああ」
今日は突然お邪魔をしたわねと笑顔で出ていく姉を玄関先まで見送った弟は、車の後部シートに乗り込む二人を同じ場所で見送り、車が見えなくなるまでその場から動かないのだった。
振り返れば慌ただしかった8月が終わり9月も半ばに差し掛かろうとしていた頃、今日もクリニックでリアムと一緒に患者の診察に当たっていたホーキンスのPCに見知らぬ番号からビデオ通話のリクエストがあり、何だろうと訝りつつ画面を開くと、そこには緊張しているのか、画面中央に写りながらも視線を右に左にと移動させているケネスがいて、予想外の相手からの着信にホーキンスも驚きに絶句してしまう。
『……レディ・ホーキンス、突然のビデオ通話で済まない』
こちらの驚愕を見抜いたのかケネスが軽く頭を下げる光景を信じられない目で見つめた彼女だったが、クリニックにリアムと己宛に届いた謝罪の手紙もそれまでの態度を思えば俄には信じられない丁重なものだったことを思い出し、少し前にリアムともしかすると彼の本質はそちらなのかもしれないなと笑い合った事も思い出す。
「いいえ、大丈夫ですよ」
どうしましたかと穏やかに聞こえるように最大限の注意を払ってホーキンスが問いかけると、そちらに正式な書類を郵送した、控えも後でメールで送るので目を通して欲しいと教えられ、書類と呟きながら瞬きをする。
『ああ……マッカラム伯爵から奪うような真似をしてしまったが、帰国後姉と色々相談をしてあなたのクリニックの支援をさせてもらう事にした』
その支援に関する形式上だが何かと便利になるであろう書類だと笑う顔は晴れ晴れとしていて、視察の時に目の当たりにした顔からは想像できない穏やかさと、持って生まれた貴人としての風格すら漂っているようだった。
直接顔を合わせた時にはさほど感じることのなかった彼の侯爵という肩書の重さを、不思議なことに画面越しの今感じ取った彼女が目を見張って言葉を無くすと、その顔から説明不足だったことに気付いたケネスが苦笑しつつ簡単に事の経緯を話し始める。
それを聞いているホーキンスの顔が次第に心を開いたような穏やかなものになり、説明を終えて咳払いをしたケネスだったが、まるで教師が求める正解を披露できたか自信がない生徒の様な顔になってしまう。
「……そういう事でしたら快くお受けいたします」
遠いスコットランドから小さなクリニックの経営状況や必ず訪れるであろう未来を案じてくださり、ありがとうございますと深々と一礼をする彼女の頭に、顔を上げてくださいと穏やかな声が画面を通して降ってくる。
『私が侯爵という肩書を持つ間は必ずこの約束を守ります。そして、次代の侯爵へと引き継いだ時にも、決して忘れるなとも固く言い伝えます』
その声は特に力むでも緊張に強張るでもない、ごく自然と腹の底から出される決意のもののように感じ、 その事からも約束は必ず守られるであろう確信すら感じ取ってしまい、再度頭を下げると厳しい教師に褒められた生徒の顔でケネスが頷き、今回大変迷惑を掛けたのにこんな私を友達と呼んでくれる人達がいることが嬉しかったと続けられ、ホーキンスが誰を指しているのかを察して目を細める。
「そうですか」
『はい……次にそちらに行くときにはキャンプに行こうと誘ってくれました』
キャンプなど未経験なので今から楽しみだと笑う声に彼女も釣られて笑みを浮かべ、それは楽しみですねと小さく頷くと、己の中でのみ考えていた事への回答が出た安心感に目元が和らぐが、何かを思い出したように一度視線を流した後に咳ばらいをし、真っ直ぐにホーキンスを見つめる。
『……これは私などが口を挟む問題では無いと思いますが』
どうしても気になるために宜しければ答えていただけないかと、ケネスを知る者からすれば信じられないと耳を疑ってしまうような鄭重な言葉で出来れば聞きたくは無いが決して避けて通れない問題についての疑問を問いかけると、どちらにも沈黙が降りかかり、やはり聞くべきでは無かったかと後悔するような色が端正な顔に浮かんだのを見た彼女は、ゆっくりと首を左右に振った後、顎の下で手を組んで伏し目がちに口を開く。
「あなたの心配は良く分かります」
そこまで心配をしてくださってありがとうと、その心配の中から時折顔を覗かせる実業家としての感情と、友人を案じるが故のものだと見抜いたホーキンスは、あなた方が視察に来た後からそのことについて考えるようになりましたと、彼女の中では半ば確定している回答があることを教える笑みを浮かべて頷き、ケネスの心配をしっかりと受け止めたことをモニターの向こうに伝える。
『……そういうことでしたら、私がとやかく言う事はありませんね』
「理解してくださりありがとうございます」
そして、もしもあなたとあなたのお姉様夫妻が許してくださるのなら、いつまでもクリニックを支えてくださいともう一度頭を下げると、さっきよりも強く穏やかな声がご安心くださいと彼女の不安を拭い去るように聞こえ、安堵の笑みを浮かべた顔を上げ、モニター越しでも直接話が出来て良かったと目元を和ませる。
『そうですね。私も、あなたの連絡先をマッカラム伯爵から教えていただいて良かった』
ホーキンスの連絡先をどうして知っているのかという疑問に笑顔で答えるケネスに、従弟から聞いたのかと納得の声を上げた彼女は、そろそろ診察の時間なので失礼すると伝えると、ああ、申し訳ないと己の不躾を詫びられて思わず遠い昔を思い出してしまう。
「いいえ、構いませんよ」
『次にそちらに行くときは案内をしてくれたミス・ホワイトも一緒に食事に行きましょう』
勿論、その時には私の友人であるリアムとケイも一緒にと笑う顔に楽しそうですねと彼女が返し、では失礼と通話切断ボタンを押す手が名残惜しそうに一瞬デスクの上を彷徨うが、お話しできて良かったと伝えると返事を聞く前にビデオ通話を終えて深い溜息を吐くが、それは満足の証のようなものだった。
一月前の視察の時にはリアムを傷付けそうな強い視線で睨んでいた彼が、たったひと月足らずで今のように穏やかな顔で未来について話し合える関係になるなど、あの頃は想像も出来ないことだった。
嫉妬からリアムを恨んでいたことを慶一朗の手紙から教えられたとき、何と幼稚な感情を撒き散らす人だと呆れていたが、嫉妬という感情が老若男女に拘わらずに持ってしまうものであることを思い出すと、マイナスのような関係から良く友人というプラスの関係にまで変化させられたものだと、今ここにいない、大きな心とその心を内包する大きな身体を持つ息子や孫のような存在のリアムの顔を思い浮かべ、感心しきりの顔で何度も頷きながらデスクから立ち上がるのだった。
彼女がデスクに置いたままの手紙には、ホーキンス・ファミリー・メディカルセンターへの今後長きにわたる支援計画と共にとある条件が記されていたが、その条件については今はまだケネスとホーキンスの胸に納められた為、ホワイトですらその話題について教えられるのはまだ当分先の話になるのだった。
ガレージのシャッターを巻き上げるウィンチの音が聞こえ、玄関とリビングの間の通称トレーニングエリアで汗を流していたリアムは、同じように隣のルームランナーの上を軽快に走るデュークを見ると、今すぐ止めろ早く止めろと急かすように尻尾を振っていることに気付いて二台のルームランナーを停止させる。
ベルトコンベアが停まった瞬間に飛び降りたデュークが、もう一人の家族が入ってくるドアの前に向かい、リアムが帰宅した時より浮かれた様子の尻尾で床掃除を始める。
「デューク、床は綺麗だから掃除をしなくても大丈夫だぞ」
そんなに尻尾を振っているといつかちぎれてしまうぞと、汗を拭きながら笑うリアムを小首を傾げるように振り仰いだデュークは、悔しかったら同じように尻尾を振ってみろと音を立てるように激しく振るが、人間には尻尾は無いんだよとリアムが笑ったとき、シャッターが地面に接した小さな音が聞こえ、次いでドアの開閉音が聞こえてくる。
玄関前のソファの肘置きに腰を下ろし、鼻歌交じりにまだかなとリアムが呟いた直後、ドアノブが回転しゆっくりとドアが開く。
「お帰り、ケイさん」
「……ただいま」
ドアからそっと入ってきた慶一朗の顔は今朝家を出たときに比べれば少し疲労が滲んでいたがそれでも明るいもので、今日一日の仕事が忙しさはあったものの、理不尽な出来事は無かったと教えてくれるものだった為、肘置きに腰を下ろしたまま両手を広げると、にやりと笑った慶一朗が己の為に広げられている腕の間に倒れ込み、わざと支える事をせずにリアムが背後のソファに倒れ込む。
「……今日も一日頑張ってきた」
「うん、そうみたいだな」
「だから腹が減った」
リアムの逞しい身体に乗り上げながら頬杖を突く慶一朗が、己の頑張りを認めて褒めろ、そしてお前の絶品料理を食わせてくれと笑みを浮かべると、それを見上げながらリアムが髭の下の唇で綺麗な弧を描く。
「イチローに教えて貰ったビーフシチューを作った」
あなたの双子の兄が何かある度に作ると教えてくれた料理を作ってみた、それを一緒に食べようと、慶一朗の鼻の頭に小さな音を立ててキスをすると、サラダは要らないという子供じみた言葉が返ってくる。
「ポテトサラダを作ったんだ、食わないか?」
「ポテトサラダ?」
「そう! それは、ええと、カズから教えて貰った」
今日のディナーはあなたの家族の味の再現だと笑うリアムの胸板に頬を宛て、今日はそれが嬉しいけれど明日はお前の家族の味が良いと返し、そうだなぁ、ばあちゃん特製の料理にしようかと返されて嬉しそうに眼鏡の下で目を細めるが、そんな慶一朗の背中に突如衝撃が加わり、慶一朗の薄い身体を通してリアムにまでそれが伝わってしまう。
「ぐぇ!」
「ケイさん!」
慶一朗の口からくぐもった悲鳴が上がりリアムが思わずその名を呼ぶが、慶一朗の背中にどしっと腰を下ろしているのは、自分も待っていたのにどうして撫でてくれない、ハグしてくれないんだと不満を訴える顔のデュークで、体重が40キロ近くのデュークに背中に飛び乗られた衝撃に苦しそうな声を上げた慶一朗は、分かったから降りろと苦しい息の下で命令するが、リアムのものと比べてもあまりにも弱々しいもので、そうと気付いたリアムが鋭く降りろと命令をする。
さすがにリアムの命令には従順なデュークが飛び降りてその場で待ての体勢になると、身体を起こした二人の顔を交互に見つめ、もしかすると何かやってはいけない事をやってしまったのかという焦りの表情を浮かべ、両耳を忙しなく右左右と動かし始める。
「デュークぅー?」
「きゃうぅん!」
慶一朗がまるで地を這うような声で名を呼び、己の危機を察知したのかリアムの背後に隠れようとそろそろと移動するデュークをヘッドロックの要領で抱え込んだ慶一朗は、この野郎と一声吠えながら床の上を転がり、デュークも逃げようとしているのか遊んでいるのか分からないながらも、楽しそうに尻尾を振って慶一朗の身体の上に乗ったり乗られたりと、ドタバタと埃を立てるように騒ぎ出す。
突如始まった異種間プロレスを呆れた顔で見下ろしたリアムだったが、ディナーの用意をするから満足したら着替えてこい、デューク、お前も程々にしておかなければケイさんの枕にされてしまうぞと手を打って伝えると、プロレスを止めると慶一朗が起き上がり、デュークもビシッと背筋を伸ばしてリアムを見上げてくる。
「Sehr gut.」
良しと満足げに頷いたリアムは、慶一朗が洗面所に駆け込み、その後ろとデュークがチャッチャッチャと足音を軽快に響かせながらついていく様に嬉しそうに目を細め、さあ、ディナーの仕上げに掛かろうかと、壁に吊しておいたエプロンを着けてキッチンに入るのだった。
二人と一匹の楽しいディナーを終え、慶一朗が今日はお手軽にと言ってマグカップに布のフィルターを使ってコーヒーをドリップし、リアムの分にはミルクを多めに、自分の分にはミルクを入れなかったものをソファで待っているリアムに運ぶと、言葉とキスで礼を言われる。
「今日はディアナの機嫌が頗る良かった」
「何か良いことがあったのか?」
ランチタイムの後の診察時間、ホワイトも驚くほどの上機嫌で診察に臨んでいたホーキンスの顔を思い浮かべたリアムが肩を竦めつつ呟き、それを聞いた慶一朗がマグカップを傾けながら首も傾ける。
「何だろう」
「まあ、不機嫌より良いだろうな」
こっちは相も変わらずパリスが燃えていて暑苦しかったと笑う慶一朗にリアムも笑い、そういえばと何かを思い出した顔で己のスマホを手に取る。
「ラシードから何かお詫びをしたいってメッセージが来てた」
そんなもの要らないと返しておいたけれどと苦笑するリアムに慶一朗も確かに要らないなと同意するが、己のスマホにはルカから同じ文面が届いていたと伝えると、あの親友達はとどちらの顔にも同じ表情が浮かぶ。
「次にアポフィスに行った時に話をするか」
「そうだな、それが良いな」
本当に俺たちの親友達はと笑った慶一朗はコーヒーを飲み干してリアムにも早く飲めと指さしして伝えると、その言葉に従ったリアムが空になったマグカップをテーブルに置くが、何を望んでいるのかを察してクッションを肘置きに立てかけて背中を預ける。
「……何だか久し振りの気がするな」
「そうか?」
リアムをクッション代わりにした慶一朗が胸板に背中を預け、太い腕を掴んで顎の下で交差させた後、一人掛けのソファで丸くなっているデュークを呼んで傍にやって来るのを待っていると、腹もいっぱいになりブラッシングというスキンシップも図った為に満足しているデュークが慶一朗の横にやってくる。
「明日も帰ってきたらブラッシングをしてやる」
「ワン!」
二人が悲しい口論をしてしまい、慶一朗が家を飛び出していた間はブラッシングをさせてくれなかったと教えられたが、今日ブラッシングしたデュークの被毛はつやつやで香りも良く、そのことから己の家出の結果を実感してしまい、リアムとデュークに見えないように拳を小さく握りしめる。
帰宅してから約束したが、もう二度と己の過去がもたらす恐怖に囚われて口を閉ざしてしまう、逃げてしまうようなことをしないようにしよう、感情がもつれて囚われそうになった時にはリアムに預けてしまおうと改めて決意をし、握った拳を広げて背後に伸ばすと、大きな手がそっと手を包んでくれる。
その温かさから決意が身体全体に行き渡った気がし、振り仰いだ先には愛嬌のある顔に穏やかな笑みを浮かべて慶一朗を見つめるリアムの顔があり、寝返りを打って頬杖を突くと大きな掌が頬に宛がわれる。
「リアム……俺の友人達を許してくれてありがとう」
家出から帰ってきてちゃんと伝えたかどうか自信が無いからと前置きをした慶一朗は、あなたの礼を聞くのは嬉しいから何度言ってくれても良いけれど、でも今回の事に関してはもう大丈夫だ、だから礼も謝罪も必要ない、その代わり同じ過ちを繰り返さないように二人でちゃんと向き合おうと笑う顔に頷き分厚い胸板に頬を押し当てると、さっきとは違ってデュークが慶一朗の頬を舐めるように顔を寄せてくる。
リアムに支えられながら手を伸ばしてデュークを抱きしめた慶一朗は、己の手の中にいるこの愛すべき存在を二度と悲しませないように強くなろう、たとえ強くなれなくても素直に感情を見せられるようになろうと腹の内に秘め、顔を寄せてくるデュークの鼻の上にキスをし、次いで期待に満ちた目で見つめてくるリアムの髭に覆われている頬にキスをするのだった。
こうしてケネスというスコットランドからやって来た男と紆余曲折を経て友人関係を築くことになったリアムは、彼の事をエキセントリックと評した過去の己がもしかすると先々を見通す魔法の目でも持っているのかと疑いたくなるほどの突拍子もない行動を見せつけられてしまうが、それら全てを友人だからという一言で許し認めた為、彼との友誼はまるで学生時代の友人達と同じように決して消え失せない強固な物へと変化をしていくのだった。
そしてそんな二人を慶一朗が呆れながらも微笑ましい様子で見守り、二人の交友関係を受け入れるのだった。
Mein lieber Freund. Ende.
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