It's a Wonderful Life.-Family Plan.-

第7話 Die neue Familie.
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 リアムからの青天の霹靂のような提案を受けた翌日、その場では結局はいともいいえとも言えずに返事を保留にしてしまった慶一朗は、週の始まりの仕事をいつも通りにこなし、最近ではすっかりアシスタントとしての役割が身についてきたホアキンと一緒にいくつものオペをこなしていた。  本日最後のオペを終えて手術着から着替えている時に脳裏の片隅に居座っていた思考が前面へと出てきた事に気付き、隣で手を洗っているファルケに問いかける。 「ホアキン、一つ聞いてもいいか?」  同じように手を洗いながらも気分転換を図っているような雰囲気の慶一朗に突然問われて驚きに目を丸くしたファルケだったが、どうぞと上目遣いになりながら先を促すと、取って食う訳じゃないと慶一朗が笑い、それにつられてファルケの顔にも笑みが浮かぶ。 「犬を飼ったことはあるか?」 「犬ですか? ありますよ」  今は一人暮らしをしているのでなかなか難しいですが、実家暮らしの頃は小型犬を飼っていたと教えられ、犬を飼うつもりですかと問われて少し逡巡した後素直に頷く。 「ああ……パートナーに犬を飼わないかと言われたんだ」 「ケイのパートナーって……」 「ホーキンスクリニックに出向しているドクターだ」  以前とは違うことを教えるように己のプライベートを少し伝えた慶一朗の言葉にファルケが驚くこともなく頷いて逆にどんな犬種を飼うんですかと笑顔で問いかけ、正直な話犬をはじめとしたペットを飼ったことがないから分からないと答えると、ファルケが天井を見上げる。 「うちは小型犬ばかりだったからなぁ」 「無駄に吠えなくて噛まない犬が良い」 「あ、それは躾次第ですねー」  躾が行き届いている犬ならば飼い主の横でじっとすることもできるし無駄吠えもしませんと笑うファルケだが、その顔に疑問が浮かび次いで口から流れ出す。 「確か、ケイのパートナーってドイツ出身でしたよね?」 「……良く知っているな」 「部長が教えてくれました」  テイラーが告げたのならば文句は言えないと舌打ちをしそうになるのを堪え、そうだと頷くと、犬と子供の躾はドイツ人にさせろって何かで聞いたことがあると笑われ、ああ、それは俺も聞いたことがあると返す。 「ドイツ人すべてがそうではないけれど、決まりは決まりだからと守るのが当たり前という人が多い気がするな」 「国民性ってやつですかね」  しっかりと流水で手を洗い満足そうに息を吐いた慶一朗にファルケも頷くが、ドイツでは子犬のころに通わせる犬の学校のような教室があるらしいと、いつかどこかで聞いた情報を慶一朗に伝え、初めて聞いたそれに慶一朗が目を丸くする。 「リアムに聞いてみるかな」 「そうですね。もし犬を飼う事が決まったら写真見せてくださいね」 「ああ」  生涯で一度も飼ったことのない犬を飼う事も想像できなければ、その犬を己が写真に収める光景も想像できずに微苦笑でそれでも部下の期待に応えるように頷いた慶一朗は、部長のオフィスに行ってくると伝えてオペ室から出て行く。  その背中を見送ったファルケに二人の会話を遠巻きに聞いていたらしいスタッフが好奇心を丸出しにした顔を寄せ、ドクター・ユズのパートナーについて切り出すが、一つ肩を竦めたファルケが聞きたければ直接聞けばどうだと返し、そのスタッフに病棟にいると告げて手を振り慶一朗に少し遅れてオペ室を出るのだった。    上司であり友人でもあるテイラーのオフィスのドアをノックして中に入った慶一朗は、デスクでラップトップと睨めっこをしている上司を発見し、忙しいのかと問いかけると、意外な言葉を聞いたと言いたげにテイラーが顔を上げる。 「何だ?」 「お前の口から僕を気遣うような言葉を聞けるとは……」  長生きするものだと涙を拭う振りをする上司にお決まりの文句を吐き捨てると、お前の王子様にそれをバラすぞと脅されてしまい、ソファに座って天井を見上げる。 「どうした?」 「……その王子様が急に犬を飼わないかと言い出した」 「犬?」 「ああ」  デスクからソファへと移動してくるテイラーの様子を何となく察し、どう言うことだと問われて顔を戻した慶一朗は、昨日の出来事を掻い摘まんで説明をし、そういうことかと溜息交じりの言葉を返される。 「ああ」 「子どもがいないカップルでは犬を子どものように可愛がることもあるし、それを狙ってるのか?」  テイラーの言葉は慶一朗の中では予想済みだったため、深呼吸を一度したあと、以前のドイツ旅行でリアムの子どもを代理母に産んで貰おうという話になったが、俺が巻き込まれた事件で女というものがダメになった、だから代理母の案もなくなった事をなるべく感情が暴発しないように気を付けつつ伝えると、今度はテイラーが天井を見上げた後、ああという言葉に出されない感情が込められた息が吐き出される。 「そうかぁ」 「ああ」  あの事件が無ければ代理母に依頼をしてリアムの遺伝子を受け継ぐ子どもを産んで貰うつもりだったと繰り返すと、テイラーが顔を戻した後にゆっくりと首を左右に振る。 「そうか」  繰り返されるその言葉からテイラーが心底から己を気遣ってくれていることを察し、サンクスと小さく礼を言った後、気分を切り替えるように眼鏡を外してシャツの裾で拭きながら聞きたいことがあると切り出す。 「何だ?」 「……すごくプライバシーに関わることだしデリカシーにも関わってくる」  だから答えたくなければ答えなくて良いと伝えると、テイラーの周囲だけ時間が止まったようになり、おいと声を掛けるとその声が魔法を解くキーだったようにテイラーが止めていた呼吸を思い出して胸を喘がせる。 「ジャック……?」 「……まさか、本当にお前の口からそんな言葉を聞ける日が来るなんて……!」  ああ、神よ、このワガママ大王をあの底抜けにお人好しで真っ直ぐな愛すべき男と結婚させてくれてありがとうございますと、胸の前で手を組んで上空を涙目で見つめるテイラーの様子に呆気に取られた慶一朗だったが、くそったれといつものように呟くと潤んだ瞳のままテイラーがじろりと慶一朗を睨み付ける。 「お前のダーリンを呼び出すぞ」 「……あいつはハニーだ」  テイラーの言葉に慶一朗が的外れの言葉を返すが、あのマッチョマンの何処がハニーだと驚かれて可愛いだろうがと素直な感想を口にしてしまう。 「……まあ、それは置いておくとして、何を聞きたいんだ?」  いつまでも不毛な会話が続きそうだと気付いたテイラーが咳払いで話題を戻すように頷くと視線を左右に泳がせた後、意を決したように真っ直ぐにテイラーを見つめて慶一朗が口を開く。 「……子どもの話だ」 「……う、ん……ああ……気を遣ってくれてありがとう、ケイ」 「いや……」  いくらどれほど親しい相手には傍若無人になる慶一朗であっても、相手にとって思い出すことすら辛い話題を口にするときは躊躇い相手の許可を得るだけの気遣いはできるようで、そっとそれを口にするとテイラーの顔が一瞬強張った後、小さな小さな笑みを口元に浮かべる。 「僕たちは子どもを持たないと決めたからね」  その代わりにお前も知っているように猫が沢山いると笑うテイラーに頷いた慶一朗は、その猫はやはり子どもの代わりなのかと更に疑問を口にすると、今度はテイラーの首がゆっくりと左右に振られる。 「子どもの代わりではないなぁ……強いて言えば子どものようなもの、かな」  テイラーの言葉の真意を完全には読み取れない慶一朗だったが、己には理解出来なくてもテイラー夫妻の中ではその違いがあるのだろうと気付いて友人の言葉を尊重するように頷くと、リアムが飼いたいと言っている犬も俺にとって子どものようなものになるのかなと呟くと、きっとお前の良き友人であり家族になってくれるだろうと笑顔で頷かれ、無意識に慶一朗が求めていた背中を押してくれる優しい言葉に慶一朗が目を伏せる。 「新しい家族、か」 「うん、そうだな。犬の躾はきっとリアムが得意だろう。だからお前はその犬と一緒に遊んだりブラッシングしたりスキンシップを取ってやればどうだ?」 「そんな事で良いのか?」  今までの人生で犬をはじめとしたペットを飼ったことがない慶一朗がそんな事で良いのかと驚くが、犬はそれが嬉しいんだと過去に犬を飼ったことのあるテイラーが頷き、お気に入りのおもちゃとブラッシングを念入りにすることは犬の病気やケガなどの不調にいち早く気付けることになるために実用性もあるんだとも頷き、慶一朗の心の天秤を一方に傾かせることに成功する。 「……リアムに、相談してみる」 「うん、そうだな、きっと喜ぶと思うぞ」  どんな犬種を飼うのかは不明だが家族に迎えれば写真を見せてくれと笑うテイラーに、さっきファルケにも同じことを言われたと笑う慶一朗の顔は部屋に入ってくるときに比べれば明るくなっていて、年下の友人の中で何某かの答えが出たことに気付く。 「どんな犬がいいんだろうな」 「そうだなぁ、リアムなら大型犬の力にも対抗できるだろうからお前が飼ってみたいと思う犬種を言えばどうだ?」 「……良く牧場とかにいるふさふさの毛をした犬が良い」  その犬の腹に顔を埋めたり頭を乗せて枕にしてみたいと素直に告げるとテイラーがそれは虐待だと眉を寄せるが、まあそれをしたいのであれば最低でも中型犬以上の犬種になると天井を見上げながら想像している顔で呟くが、どんな種類だと本当に犬種など何も知らない慶一朗が問いかけ、警察や軍隊で仕事をするような犬だと教えられて納得したように頷く。 「耳がピンと立っているのが可愛いな」 「シェパードか……ああ、ジャーマン・シェパードやオーストラリアン・シェパードという犬種もあるから調べてみろ」 「そうする」  己が何となく思い描く犬の特徴を伝えればリアムならば的確に理解してくれるとの絶対の信頼感から頷き、疲れたと呟きつつ立ち上がる。 「お前の突然のその疑問に答える僕も疲れたよ」 「……」  テイラーがやれやれとあからさまに疲れた顔を見せたためにデスクで座っているだけで何が疲れるんだと言いたげに慶一朗が上司の顔を見下ろすと、理事長と病院長の二人の愚痴を聞くのも仕事のうちだと肩を竦められてしまい、納得した証に大きく頷く。 「それはお前にしか出来ないことだな」 「だろう?」  お互い自分にしか出来ない仕事のために疲労しているが今日も無事に仕事を終えられると図らずも同じ笑みを浮かべ、慶一朗は時間まで病棟にいること、テイラーはラップトップとの睨めっこの続きをすると口に出し、手を挙げて慶一朗が出て行くのをテイラーが見送るのだった。 「……リアム、教えて欲しいことがある」  そう、慶一朗が躊躇っているような気配を滲ませながら問いかけた時、リアムは食後のフラットホワイトの泡を髭に蓄えている所だった。  どうしたと問い返すと慶一朗が微苦笑しつつリアムが座っているソファの肘置きに腰を下ろし、ハニーブロンドの髪を撫でながら言葉を選んでいるような慎重さで口を開く。 「犬を飼うことだ」 「うん」 「それは……子どもを持たないと決めたからか?」  慶一朗の疑問がリアムには青天の霹靂とも言えるものだったようで、マグカップをコーヒーテーブルに置いた後、慶一朗と正対するように身体ごと向き直る。 「それは考えてなかった」 「……そうなのか?」 「ああ……子どもの話はケイさんのタイミングに任せると決めただろう?」  あの事件の後に退院後に久し振りに向かったハーバーブリッジをいつもとは違って車の中から見ていた時、子どもの話についてはあなたが口に出さない限り俺が話題にすることは無いと言った筈だと苦笑され、確かにそうだと慶一朗もその時のことを思い出してそっと頷くがどうしてそんな事を思ったと返されて視線を二度三度左右に泳がせる。 「慶一朗」  今あなたの胸の中にある思いをどれほど拙かろうと言葉足らずだろうと教えてくれと目を細め、眼鏡をそっと奪い取ったリアムが躊躇うように開く慶一朗の唇に小さな音を立ててキスをして先を促すと、今日テイラーとその話をしたと教えられてそっと頷く。 「うん」 「ジャックは……リズの病気があって子どもを諦めた。だからではないけれどあの家には猫が三匹いるんだ」 「そうなのか?」  己の伴侶の友人夫妻に子どもがいないことをリアムは知っていたがその事情まで当然ながら知らずに教えられた事実に言葉を失いかけるが、そのテイラーに自分達にとって猫たちは子どものようなものだと言われてお前も新しい家族を迎えればどうだと言われたと聞かされてヘイゼルの双眸を見開いてしまう。 「ケイさん……」 「……もし犬を飼うとなったら……その犬は俺たちの子どものようなものになるのか?」  最近良く見聞きするがペットは大切な家族で、人間の子どもを可愛がるように可愛がるのかと、慶一朗の戸惑いや疑問を己の中にしっかりと受け入れたリアムがそっと手を伸ばして抱き寄せると、肘置きの上から大人しく己の足の上に滑り降りてくる。 「家族のようなものだけど、子どもじゃないかな」 「……ああ」 「俺はその犬のパパとは呼ばれたくないな」  慶一朗の手触りの良い髪を撫でキスをした後苦笑したリアムが告げたのは、家族だとしても犬は犬だし人は人だとの言葉で、意味が分かるようで分からないと慶一朗がその顔を見下ろすと、例えばルカが犬を飼ったとしてルカのことをその犬のパパと呼びたいかと問われ、瞬時に慶一朗の顔が左右に振られる。 「だろう?」 「ああ」 「家族のようなものだけど、犬は犬だ」  だからケイさんが言うようにその犬が俺たちの子どもであるはずがないし、子どもの代わりにその犬を世話するつもりは無いと断言されて慶一朗がリアムの頭を抱え込むように腕を回す。 「良く子どもがいないカップルが犬を飼うけれど、俺はどちらかと言えばケイさんの信頼できる友人になって欲しいと思ってる」 「俺の?」 「そう」  慶一朗の腕を叩いて合図を送ったリアムが顔を上げて口の端を持ち上げつつ慶一朗に伝えたのは、犬を飼わないかという真意だった。 「昨日みたいに俺がいないときにケイさんと一緒にいてくれる存在が欲しいと思った」 「……」 「ケイさんはぬいぐるみをハグしてると落ち着くみたいだし、それなら犬でも大丈夫じゃないかと思った」  昨日の出来事を思い浮かべ悔恨の表情を浮かべるリアムを呆然と見下ろした慶一朗だったが、確かに己は精神的に落ち込んだ時などは青い電話ボックス型のぬいぐるみをハグしていることを思い出し、でも犬は噛んだり嫌がったりしないかと疑問を口にすると、そうならないように躾をするからとリアムが己を信じてくれと言わんばかりの強い光を目に浮かべる。 「絶対にケイさんを噛んだりしないし吠えたりしない。でもケイさんが辛いときには傍にいるような優しくて賢い犬を飼おう」  ケイさんが顔を埋めても嫌がらない犬だともっと最高だと笑うリアムの言葉に、慶一朗の中にあった未知の経験への不安が一つずつ昇華されていく。 「無駄吠えもしないように、犬の躾教室に通う」 「ドイツにそんな教室があるらしいな」 「うん。ドイツではそこに通うのが当たり前だったな。こっちにもそういう習慣があるらしいから迎える犬にとって良さそうな教室を一緒に探さないか?」  その言葉の後己の横をポンと叩くリアムの希望に気付いて隣に座り直すと、リアムが再度向き直りながら慶一朗の髪を手に取る。 「散歩が出来るようになれば毎日の散歩は俺が全部やる」 「……全部お前にやらせることになる」  ルカやラシード達に話せばきっとまた甘やかすと苦い顔をされるぞとリアムを見ると、言いたい奴らには言わせておこうと良い意味で人の言葉を聞き入れないことを教えるように肩を竦められて小さく吹き出してしまうが、そんなリアムの顔が考え込むように眉を寄せられる。 「そうだな。じゃあケイさんがその犬にしてやりたいことを教えてくれ」 「俺がしたいこと?」 「うん、そう」  散歩をしたいというのなら俺と一緒に行こう、ご飯を準備したいのならそれをしてくれと笑うリアムの言葉に考え込むように顔を伏せた慶一朗は、テイラーが教えてくれた事を思い出して不安を滲ませながら口を開く。 「……ブラッシングをしたい」 「喜ぶだろうなぁ」  短毛種長毛種どちらにしても小さな頃からブラッシングをしてスキンシップを取っていると、きっとケイさんがブラシを手に取るだけで尻尾を振るようになると頷くリアムにそうなのかとテイラーにも投げかけた疑問をぶつけると、もちろんとテイラーよりも安心感を与えてくれる声が返ってくる。 「毎日スキンシップを取っていれば病気や不調も早く見つけることが出来るだろうし」 「……そうか」 「うん。だから……」  初めての事に挑戦するのは不安が伴うものだが一緒に犬を飼ってみないかと再度提案をされ、リアムの広い肩に己だけではなく新しくやって来る家族も乗ることになるが良いのかと小さな声で問いかけると、肩を抱き寄せる腕の強さで返事を貰ったような気持ちになる。 「……何処で犬を探すんだ?」 「犬の保護をしている団体から受け入れるのも良いけど、初めて飼う犬だから子犬から世話をしたいし信頼できそうなブリーダーから購入しよう」  それなりの費用が掛かるものだが新しく家族を迎え入れるのだ、初期費用は当然のことだと笑うリアムに慶一朗がようやく笑みを浮かべ、耳がピンと立っている犬が良いと答えつつタブレットを手に取り犬を紹介しているサイトを表示する。 「顔を埋めたい……枕にもしてみたい」 「それは……うん、大型犬になるかな?」  テイラーのように虐待だと言いたいのを堪えるような顔でリアムが一度天井を見上げるが、警察犬のようなかっこいい犬が良いと教えられて顔を慶一朗に向ける。 「ジャーマン・シェパード?」 「飼うのは難しいか?」 「子犬の時にしっかりと躾をすれば家族に対してすごく忠実だからな……」  ジャーマン・シェパードかと繰り返すリアムの顔を見つめた慶一朗は、犬でも雌は嫌だとも伝え、再びうんと安堵させるように頷かれる。 「じゃあシェパードのブリーダーを探そう」  もし良かったらルカやラシードに依頼して信頼できるブリーダーを紹介して貰うのも良いなと笑うと、慶一朗があの二人が紹介してくれる人なのだから信頼できると頷き、早速二人にメッセージを送る。  その横顔が己が思うよりも楽しそうで嬉しそうだったため、じわじわと歓喜で口の端を持ち上げたリアムは、慶一朗の頬を手の甲で撫でて眼鏡の下の目がこちらを見たことに気付きそっとキスをする。 「ケイさんが喜んでくれて良かった」 「……お前がいるから」  だから不安があっても大丈夫だと思えるようになったと答える慶一朗の頬にキスをし、うん、大丈夫だ、問題が起きたとしても二人で解決していこうと笑い、慶一朗の顔にも笑みを浮かべさせるのだった。    その週末、慶一朗が希望しているジャーマン・シェパードのブリーダーをルカが紹介してくれ、久し振りに友人に会いたくなったと笑ったルカとラシードと一緒にそのブリーダーの元に四人で訪れたのだが、シェパードと聞いた人が思い浮かべる毛色の子犬を慶一朗が気に入り、リアムほどの体格の人ならばジャーマン・シェパードの力に負けることもないだろうし躾も出来るだろうと太鼓判を押され、母犬と離しても大丈夫な頃になればルカを通して連絡をすることや今後この子犬と暮らすにあたり必要になる金額の目安を書いた書類を手渡される。  そこにはどんなものが必要なのかも書かれてあり、慶一朗が気に入った子犬が家に来る日を心待ちにしている、必ず大切に飼うと約束をし四人でその日は帰宅したのだった。  こうして、リアムと慶一朗の二人家族にジャーマン・シェパードの雄の子犬が加わることになるのだが、彼が家族になったことで目には見えないが確実に慶一朗の中の何かが変化をし、その変化はリアムにとっては喜ばしいものだった為、自らの言葉通りに裏庭でおもちゃを投げては遊ばせた後にブラッシングをして腹を見せる子犬とスキンシップを図る慶一朗を微笑ましい目で見守っているのだった。      
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  ブラッシングをしたい。
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