It's a Wonderful Life.-Family Plan.-

第4話 Mit Mandarine und meinem besten Freund.
 冬の雲がゆったりと流れる遙か下は既に太陽の領域から月のものへと移行し、人々は天上よりも地上の星を崇める夜に光に集まっていた。  そんな光の中の1つに古代エジプトの悪神の名を冠するナイトクラブがあり、店内は今日も賑やかな音と男女の歓声が悪神への祈りのように満ちていた。  人々の祈りを聞き神に届ける神官のような役割を担っているスタッフ達の中、今日も仕事中である事を教えるように完璧にメイクをしたルカがカウンターの中で常連客やスタッフらと談笑していたが、踊り疲れた顔の親友がフロアからこちらにやって来る事に気付き、慣れた手つきでよく冷えたグラスによく冷えたビールを注いで己の前にコースターを置く。  それが目印になっているようにカウンターのスツールを引いたのは、今日も毎週末のように音の洪水にまみれて満足しているはずの慶一朗だった。 「休憩?」 「……ああ」  満足するまで踊ったと思っているものの何かが違うと眉を寄せつつルカが用意したビールを飲むが、周囲を見回した後に一瞬不安そうな顔色になったのをルカが目敏く見つけ、カウンターに上体を乗り出すと慶一朗の耳にルージュが光る唇を寄せる。 「……店の奥で急に体調が悪くなった子が出たんだ」  その話をラシードが持って来たときに聞きつけてしまい、気になるからと店の奥に一緒に行ってくれていると苦笑しつつ事実を伝えるルカの顔を横目で見つめた慶一朗だったが、己が腰を下ろした横では少し前までルカと談笑しながら踊っている慶一朗に時折視線を投げかけては合図を送ってくれていたリアムがいたはずだった。  その姿がない理由をルカの言葉から察し、ふうと息を吐いてその言葉を受け入れるが、胸元でざらつく何かの上を通過したような神経を擦る不快さを覚えてしまう。 「……お人好しのマッチョマンめ」 「うん、そうだね。僕から頼んでおきながらなんだけど、せっかくの週末なのに仕事のことなんて忘れれば良いのにね」  週末の夜、遊びに来ているはずなのにここに来てまで仕事をする必要は無いよねと、カウンターに乗り出していた体を戻して同じようにビールをグラスに注いだルカが肩を竦め、自分達の愛すべき人畜無害のマッチョマンとグラスを目の高さに掲げる。 「まったく」  飛行機などでお医者様はいらっしゃいますかというアナウンスが流れると話を聞いたことはあるが、まさかナイトクラブの奥で密かに経営しているブロッセルのスタッフの体調不良に駆り出されるなんてと溜息を吐くと、そのブロッセルを経営しているのが親友である為にその溜息で不満を抑え込んだ慶一朗がビールを飲み、一仕事終えて出てきた人畜無害のマッチョマンと愛情を込めて呼ぶ己の伴侶のために飲み物を用意してくれとルカに伝え、もちろんと大きく頷かれて安堵の息を零す。 「冬になったからさ、インフルが流行ってるみたい」  客から貰った可能性もあると心配そうにカウンターの背後の目立たないドアへと視線を向けるルカに慶一朗が苦笑し、ワクチン接種はしているんだけどと、ナイトクラブとブロッセル双方の経営者の顔で呟くルカに再度苦笑した慶一朗はインフルが流行っていることを職場のスタッフ内の会話の端々からも感じ取っていたが、重症化しないことを祈ると呟いた時、目立たないドアから何処にいても目立つ鍛えられた体を窮屈そうに屈めたリアムが姿を見せ、無意識に安堵に口の端を下げてしまう。  その一見すれば不機嫌に見える慶一朗の横顔にルカが軽く驚くものの、己に黙って視界から消えた事への不満を訴えるつもりだと気付き、あのねと、姿を消したリアムへのフォローをしようと慶一朗の腕に手を載せるが、何かがいつもと違うと違和感を覚えたように眉を寄せる。 「……」  親友が己の腕に手を重ねた理由が分からずに首を傾げた慶一朗が溜息を吐くが、何も事情を知らないリアムが少しの疲労を顔に浮かべて慶一朗の隣のスツールに腰を下ろし、少し遅れてラシードが姿を見せた為にお疲れと労いの言葉を掛ける。 「本当に疲れているのはお前だろう? それにもう仕事は終わったのにどうして働いていたんだ?」  ラシードがリアムに返事をしようとするよりもルカがフォローを入れようとするよりも先に慶一朗が不機嫌さを全身から滲ませながらぼそりと呟き、それに三人が同時に顔を見たことが不愉快さを増幅させたのか、ビールを一気に飲んだ後踊ってくると言い残してスツールから立ち上がる。 「ケイさん?」 「……放っておいて良いよ、リアム」  きみが大変だったのにそれを労いもせずに子どもみたいな我儘を言う奴なんて放っておけと、ルカがへそを曲げたような顔で背中を向ける慶一朗に言い放ち肩越しに睨まれてしまうが、駄々をこねる子どもに睨まれても怖くないと言い返してしまう。  カウンターを挟んだ内外で突如始まってしまった睨み合いに二人のすぐ傍で意味が分からないと顔を困惑に染めていたリアムとラシードだったが、己がリアムを呼びつけたことが気に食わないのだとラシードが気付き、本当にガキかと溜息を吐く。 「……ケイさん」  ルカとラシードの二人から子供じみた態度を非難されてしまえば慶一朗の立つ瀬が無いと思ったのか、それとも本心からそう思っているのかは分からないが、リアムがそっと名を呼び細い肩がリアムにも非難される恐怖に揺れた事に気付くと、腰を下ろそうとしていたスツールから立ち上がり、次の言葉に怯えるような背中をそっと抱きしめる。 「……家じゃないのに悪い」  第三者の目がある場所でのハグを許してくれと囁きかけつつもしっかりと痩躯を抱きしめたリアムの右手に慶一朗が右手を重ね、同じ指にデザインは違うが同じ気持ちがこもるリングがある事を確かめると、全身から力を抜いて背後の何があっても倒れない壁のような胸板に凭れ掛かる。 「……ビールが飲みたい」 「うん。さっき飲んだのと同じで良いか?」 「……うん」 「じゃあシャルルに用意して貰おう。その前に」  あなたの大事な大事な親友達に今の子どものような態度を詫びようとも囁きかけたリアムの頭を後ろ手で抱き寄せた慶一朗は、うんと小さな声でその提案を受け入れたことを伝え、何かを確かめたような小さな呟きが顔の傍に落ちた事に気付いて何よりも安心できる腕の中から抜け出すと、カウンターの内側で同じようにそっぽを向いているルカの前のスツールに再度腰を下ろす。 「……ルカ」 「……何だよ」 「ビールが飲みたい」 「一仕事してきたリアムが先!」 「もちろん。用意してやってくれ」  俺のビールはその次、いや、ラシードの分を用意した後で良いと、二人の親友に向けて申し訳なさそうな顔になった慶一朗を褒めるようにリアムが目を細めて手の甲でその頬を撫で、それを見た二人も毒気を抜かれたのか盛大に息を吐いた後、もうとルカが一声叫んでビールのグラスを三つ並べてビールを注いでいく。 「はい!」  勢いよくグラスをまずはリアムの前に、次いでラシードの前に置いたルカだが、最後の一つをそっと慶一朗の前に置くと、お前に黙ってリアムに仕事をさせて悪かったと小さく詫び、そんなルカの手を慶一朗がそっと握って俺も子供じみた態度を取ったと謝罪の言葉を口にする。 「……お互い様?」 「そうだな」  その言葉で二人の間では和解がされ、それを見守っていたリアムとラシードが顔を見合わせて同時に安堵に目を細める。 「ケイさん、黙っていなくなって悪かった」  慶一朗の不機嫌の理由に今更ながらに気付いたリアムが微苦笑しつつ詫びると、隣からそっと手が伸びてきて無言で鍛えている腕に重ねられ、それが今の精一杯だと気付いたリアムの顔にじわじわと笑みが浮かび上がる。 「……もう、いい」 「うん。それを飲んだら踊ってくるか?」 「少し、考える」  いつもと比べれば遙かにゆっくりとビールを飲む様子からリアムが察したのは、今は離れるつもりがないという意志と踊っている間も常に見守ってくれていると思っていた己が急に姿を消した事への不安を解消しようとしている事とその体に表れている異変だった。  だから、もう黙っていなくなることはないと教えるように己の腕に重ねられている手を撫でて驚いたように見つめてくる双眸に目を細めてもう大丈夫と無言で伝えると、照れたように目尻が赤く染まり、ふいと顔が背けられる。  だが、重ねられている手はそのままだったためにリアムもそれ以上何も言わずにビールを飲むと、ラシードが呆れたように溜息を吐き、そのラシードの肩にルカが寄り掛かりながら似たり寄ったりの顔で二人を見つめる。 「……何だ」 「リアムが本当に心が広い男で良かったね」  親友達の視線が気に食わなかったのか慶一朗がじろりと睨み返すとルカが揶揄うような声を掛け、再び一触即発のような空気が漂うが、今度もそれを停めたのは心の広い男と褒められたリアムの分厚い掌だった。  ルカと慶一朗の顔の間に手を翳し、はいそこまでと言葉とともにストップをかけたのだ。 「……ケイさん、今日はもう帰ろう」  温厚な男をついに怒らせたのかと危惧した二人がリアムへと顔を向けると、そこには怒りよりも心配を色濃く浮かべたリアムがいて、さすがに長くなり出した付き合いからそれに気付いた慶一朗がそっとその名を呼ぶ。 「リアム?」 「うん。今日は帰ろう」  きっとこのままここにいればルカとラシードに対していつもとは違う態度を取ってしまう、後々それを後悔することは目に見えているのだからと子どもを諭す親のように慶一朗を説得すると、納得と不満が綯い交ぜになった顔で慶一朗がリアムを上目遣いに見つめる。 「インフルじゃないとは思うけど、万が一そうなら月曜日からの仕事に影響が出る」  だからその前に帰ろうと根気強く説得をするリアムに負けたように溜息を吐いた慶一朗が意味が分からないと呟きながらも素直に頷くと、その選択を褒めるようにリアムが顔に笑みを浮かべる。 「今日は元々始発で帰るつもりだったからなぁ……」  タクシーで帰るがそのくらいの時間は何とかもつかと、リアムにだけ意味が分かるような言葉を呟きつつそっと慶一朗の額に掛かる前髪を掻き上げて手の甲をそこに押し当て、己の見立てに間違いはないと確信した顔で頷く。 「リアム……?」 「うん。家に帰ってケイさんの好きなミカンを食おう」  ジンジャーとレモンを混ぜたホットドリンクも用意をして、しっかり汗を掻いて熱を下げようと伝えると、今まで黙って二人の様子を見守っていたルカとラシードが顔を見合わせて熱と叫ぶ。 「熱が出ているのか!?」 「ああ」 「これはさっきまで踊っていたから……」  だから体温が上がって汗を掻いたと説明をする慶一朗をさすがに今だけは厳しい目で見つめたリアムは、本当にあなたは熱に強くて自覚症状が無いのだから困ると溜息を吐き、いつかも発熱を原因とした不機嫌さを見せていたが、今の不機嫌さはそれと同じだろうと慶一朗の額に額を重ねると、間近にある眼鏡の下の目が見開かれる。 「……リアム」 「うん」 「ジンジャーティーが飲みたい」  見開いた目のまま慶一朗がぽつりと体が求めるものを口にするとリアムがようやく理解したかと言いたげに頷くが、家に帰って用意をしよう、ミカンも買ってあるからそれを食べても良いしハチミツに漬け込んだそれを食っても良いともう一度額に額を重ねれば、慶一朗が甘えるようにリアムの首に両腕を回してしがみつく。 「タクシーを呼んでくれないかな」 「あ、ああ、うん……リアム、大丈夫?」  慶一朗の体調不良をしっかりと見抜いていたらしいリアムに感心していたルカだったが、リアムの言葉を受けたラシードがタクシーを呼ぶために電話を掛ける横で慶一朗の隠れている顔を見ながら、何故今日はこんなにも不機嫌さを前面に押し出していたのかの理由を察すると腹立たしさよりも心配が先立つ顔でぽつりと呟き、リアムの太い笑みを見るだけで不安が薄らいだような不思議な気持ちになる。 「大丈夫だ、ルカ」  だからお前もそんな顔をするなと、カウンターの向こうのルカに手を伸ばしてその頬を手の甲で撫でたリアムは、15分ぐらいでタクシーが到着する、アンディには伝えてあるから到着したら店を出ろとラシードが伝えてくれた事に目を細め、グラスに注がれたままのビールを一息に飲み干すと、寄り掛かってくる慶一朗をしっかりと支えながらカウンターに背中を預けてタクシーが来るまでの間、遠慮がちな様子のルカに気にするなと伝える代わりにいつもと変わらない態度で二人と言葉を交わすのだった。  リアムの見立て通り、タクシーに乗ってからはずっとリアムの肩に頭を預けたまま目を閉じていた慶一朗が自宅に辿り着くと、ようやく発熱を自覚したときのように熱い息を吐いて玄関前のソファに力なく座り込んでしまう。  大急ぎで慶一朗が発熱したときに必要になるものをベッドルームに運んだリアムは、最後にとソファでぐったりする慶一朗を抱き上げてさっきよりはゆっくりと階段を上り、ベッドルームのドアを器用に足で開ける。 「……リアム」 「どうした?」  ベッドにそっと寝かせて靴やら服やらを脱がせていると、腕で目元を覆い隠した慶一朗が滅多に聞かない類いの声で名を呼び、どうしたと問いかけつつそっと腕を掴んで顔を見下ろすと、見るなと言わんばかりに背けられてしまう。 「ケイさん」  ルカとラシードなら元気になったときにもう一度謝ればきっと許してくれる、だから今はまず元気になろうと苦笑すると、顔は背けたまま己に向けて両手を広げられ、それが意味するところを正確に理解出来るリアムがうんと頷いた後、その腕の間に体を押し込むように覆い被さる。 「熱が出ていて体が辛かったんだろ?」 「……分からない」 「うん。薬を飲むから起きられるか?」  さすがに発熱しているときにも丸裸で眠る訳にもいかず、年に何度かしか袖を通さないシルクのパジャマを着せられてベッドに置き上がった慶一朗は、ベッドヘッドにもたれ掛かりながら熱の籠もる息を吐きつつ隣に座るリアムの肩にタクシーの中と同じように頭を預けて目を閉じる。 「二人とも驚いていたみたいだけど、薬を飲んでケイさんの好きなミカンを食えばきっと明日には熱も下がってる」  だから今はジンジャーティーを飲んで薬も飲もう、そしてご褒美ではないがミカンも食べようと、己の伴侶に今最も必要なものを全て揃えたリアムが小さく笑いながら慶一朗の髪を掻き上げ、その掌の気持ち良さに慶一朗の頭が上下する。 「……ルカに、謝りたい」 「うん、そうだな。明日熱が下がったら電話をすればいい」 「……でも、その前に……」  仕事が終わって遊びに行っていたはずなのに、そこでも仕事の延長のようなことをしているお前にあんな態度を取ってしまって悪かったと、珍しく言葉で謝罪を伝えるとリアムの目が驚きに丸くなる。 「……たまには、言葉にするのも良い、だろう?」  さっきまでならばただ不機嫌になっていただろうが、今は二人きりだし不機嫌になる理由がないために上目遣いにリアムを見ると、良く出来ましたと褒めるようにリアムが目を細め、慶一朗の少し赤くなっている頬にキスをする。 「リアム……ここに……」 「うん。横にいるから安心しろ」  ジンジャーティーを飲んで薬も飲んだら横になろう、いつかも約束をしたが絶対に一人にはしないからと今度は額にキスをすると慶一朗がくすぐったそうに首を竦め、リアムが差し出すカップに満たされているジンジャーティーと薬を飲み、のそのそと掛布団の下に潜り込む。 「明日は土曜日だ、最悪一日中寝ていても何も問題は無い」  日曜日には回復するだろうからゆっくり休もうと、子どもにお休みのキスをするときと同じ優しさで額にキスをすると、慶一朗が掛布団の下からそっと手を出してリアムの手を掴んで胸元に引き寄せる。  その手の熱さに少しすればきっと薬が効いてくると己に言い聞かせたリアムは、小さな書き物デスクにトレイを置いて慶一朗の横に潜り込むと、安堵の吐息が枕に落ちる。  いつものように頭の下に腕を差し入れて片手で腰を抱き寄せると、いつもより体温の高い体が大人しく引き寄せられてくる。 「ルカに謝るためにも早く元気になろう」  口では厳しいことも言うがあなたの身を案じてくれている親友達の為にも早く元気になろうと告げ、擦り寄るように身を寄せてくる慶一朗の髪にキスをし、お休みと囁きかけると吐息でお休みと返ってくる。  程なくして聞こえてくる寝息が規則正しいものである事を確かめたリアムは、明日には希望通りルカに電話を掛けられるほど回復するだろうと気付き、慶一朗の寝息に誘われるように目を閉じるのだった。  リアムの希望通り翌日には回復した慶一朗だったが、家から出るどころかベッドから出る許可も貰えず、大人しくベッドの中でゴロゴロして休日を過ごしーもちろんその許可を与えなかった主治医も同じベッドルームで趣味のキャンプに関する新たな情報を仕入れていたー、翌日曜日はベッドから出る許可が下りるほど回復していた。  だが、それでもリビングのソファでブランケットにくるまりながらテレビを見る事しか許されず、その不自由さもあと少しの我慢だと己に言い聞かせながら録画するだけして見ていなかった番組を見ながらミカンの皮を剥いていた。  そんな慶一朗の様子を、一人掛けのソファに座って雑誌を見ながら安堵に胸を撫で下ろしていたリアムだったが、慶一朗が唐突に名を呼んだために顔を上げると、慶一朗がブランケットの中から手を突き出してくる。 「……ん」 「ダンケ、ケイさん」  その手に摘ままれているオレンジ色の一房をありがたく食べたリアムが、酸味が強いと不思議と笑顔になりながらもう一つと口を開けると、仕方がないと言いたげにもう一房口に投げ入れられる。 「うん、美味い」 「美味いな」  日本に纏わるものは慶一朗以外ほぼ存在しないこの家だが、日本の冬には当たり前に食べられるがこの国ではさすがに難しいミカンという果実を二人で味わい、今のは酸っぱかっただの甘かっただのと笑い合えるまで回復したことを互いに感じ取っていた。 「……リアム」 「ん?」  一つのミカンを二人で食べ終えたあとに何かが物足りないと気付いた慶一朗がソファの肘置きをポンと叩いて合図を送り、それを正確に受け取ったリアムが座っていたソファから立ち上がると、慶一朗が同じように立ち上がり、空いたそこに腰を下ろしてクッションを肘置きに立てかけていつもの態勢になる。 「……ルカにメッセージ送らないと」 「うん、そうだな」  もう元気になったことを伝えないとと、リアムの胸板に背中を預けた慶一朗が手を伸ばして親友の顔を脳裏に思い浮かべると、その手にリアムがキスをするために口元に引き寄せる。 「心配していたからなぁ」  ケイさんの不機嫌さに釣られてルカも不機嫌になってしまったようだったが、帰り際には本当に心配していたとリアムが慶一朗の手にキスをし、あなたの親友を安心させてやれと笑うと今日は素直に慶一朗も頷き、スマホを手にメッセージを送るのだった。  その日の夕方、一抱えもある箱を抱えたラシードと、少しの怒りとそれ以上の安心を顔中に浮かべたルカが二人の家を訪れ、突然の来訪に驚きながらも嬉しさを隠すことなく二人の肩に腕を回した慶一朗が二人と和解するのを見守っていたリアムは、ミカンを食べて回復したことを教えられた二人が運んできた大量のミカンをどのように食べようかと思案し、すぐに帰ろうとする二人を引き留めて四人でのディナーを、昨日とはまったく違う笑顔で食べ、お詫びのような絶品のフラットホワイトを慶一朗が振る舞うのだった。
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  ジンジャーティーとみかんと。そして、あなたの親友と。
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