「いーやっほぅ!」
一際大きい掛け声が晴れ渡る青空に駆け抜けた直後、何かが水に飛び込む音も響き渡り、鈴を転がしたような笑い声と呆れが交じった声も沸き上がる。
その声は湖に直接出ることの出来るウッドデッキの上から上がったものだったが、ウッドデッキのラウンドソファにゆったりと腰を下ろして湖を見ていたウーヴェは、サングラスをずらした世界で湖の中に浮かび上がったくすんだ金髪を見て嬉しそうな顔で目を細める。
「……一緒に泳いでくればどうだ、フェリクス」
そんな顔で見ているぐらいなら一緒に泳いでこいと促すのは、昨日よりは血色の悪い顔で同じくソファに座って-というよりは沈んでいる-ギュンター・ノルベルトだったが、その横で同じように沈んでいる父、レオポルドの視線を受けたウーヴェの頭が左右に振られる。
「泳いでこい、ウーヴェ」
昨日溺れかけたのはボートを転覆させられたからだが、今日は浮き輪もあると青空とは正反対の険しい顔で告げる父にも首を振ったウーヴェは、穏やかな声がやんわりと同調したことに気付いて顔を向ける。
「せっかくのバカンスだからリオンと二人きりで泳ぎたいのでしょう」
「……!」
その声は母のもので、同じようにウッドデッキから湖を見ていた彼女は、茶目っ気たっぷりに目を細めてサングラスをずらすと、ぐったりとしている夫と息子に溜息を零す。
「もう若くはないんだから加減してといつも言っているのに」
「ああ、分かった分かった。確かに昨日は浮かれていた。反省しているからそれ以上言わないでくれ、リッド」
妻の小言を遮るように言い放った夫だったが、昨夜ウーヴェの機嫌を取るために持参したブッカーズを結局皆で飲んでしまい、足りないからと昼に買っておいたシャンパンやワインも飲んだために深酒になってしまったのだ。
その結果が真夏の青空を呪いたくなるような頭痛と胸のむかつきで、それはどうやら自分たちの長男も同じようだった。
もしもここにアリーセ・エリザベスがいれば、二人して鬱陶しい顔をしないで湖にでも飛び込んできてちょうだいと冷たく言い放つだろうが、幸か不幸か傍にいるのはウーヴェとイングリッドだったため、どちらもただ溜息を吐いただけだった。
そんな四人の耳にリオンがウーヴェを呼ぶ声が届き、一斉にその声の方へと顔を向けると、ウッドデッキの端にリオンが顎を引っ掛けてじっとこちらを見ていた。
「生首みたいに見えるから止めろ」
「俺よりも兄貴と親父の方がよっぽど生首みたいな顔色だぜ」
にししししと不気味な笑い声を発する生首を名指しされた二人が睨み付けるものの、二日酔いの姿ではいつもの威厳など全く感じる事は無く、更にリオンが生首状態でウーヴェを呼ぶ。
「オーヴェ、一緒に泳ごうぜ」
昨日は散々だったが今日はこの周辺で泳ごうと誘うと、生首のお誘いは遠慮したいとウーヴェがにべもなく言い放ち、頬を膨らませたリオンが勢いよく水の中からウッドデッキに上がってくる。
水を豪快に滴らせつつ前髪を掻き上げて太陽の日差しを受けているリオンは、いつも見ているよりも何割か男前に思えてしまい、つい鼓動を跳ね上げてしまったウーヴェだったが、それに気付いたのかリオンの目が意味ありげに細められ、言わんとする事に気付いて小さく吐息を零す。
「オーヴェ、泳ごう」
「…………仕方がないな」
生首ではなくなったお前の誘いだから受けようと笑ったウーヴェは、気が済むまで遊んだら昼食にしましょうと母に笑われて頷き、その場でサマーセーターを脱いで日に焼けていない素肌を陽光の下にさらけ出すが、結婚するまでは無かったものが背中と腰にあった。
背中の彼方此方には小さな傷跡があり、腰には10センチ四方に三日月と太陽に足と尻尾を絡ませたリザードのタトゥーが彫られていた。
ウーヴェの左足が杖がないと歩行に不自由する状態になってしまった事件の際、痕が残るような傷が背中にいくつも出来てしまったのだ。
この傷はお前があの凄惨な事件を経験しても死を選ばずに生きてくれた証なのだと、夜ごとリオンはウーヴェの傷の全てにキスをして癒していたが、ウーヴェが完全に仕事に復帰して間もなく、リオンの幼馴染みでありエンゲージリングも作ってくれた二人の女性に最も酷い傷跡を覆うようにタトゥーを依頼し、二人の関係も気持ちもよく知る女性達がリオンの左足の薬指で暮らしているリザードの兄弟に腰の傷を覆い隠してと願いを込めて彫ったのだ。
そのタトゥーのお陰でこうして人前-と言ってもまだ家族だけ-でも素肌を見せられるようになったウーヴェは、両親と兄の笑顔に頷いてリオンの腕に手を載せて寄り掛かると、濡れた腕がウーヴェの腰に回される。
「足、痛くねぇか?」
「大丈夫だ」
確かに溺れた時に嫌な顔を見て足が酷く痛んだが、昨夜ベッドルームに引き上げた後、ウーヴェが穏やかな顔でもう良いと言うまでずっとリオンが左足を撫でてマッサージを続けたお陰で今朝はさほど痛みを感じる事は無かったと笑ったウーヴェは、リオンが戻ってくるのを待っていたヘクターの驚いた後の笑顔にも頷き、リオンとは違って静かに湖に入っていく。
「ウーヴェが来たのなら俺は上がろうかな」
「ノルがへばってるから相手をしてやってくれないか、ヘクター」
「ああ」
同じように飲んだはずなのに、二日酔いが酷い二人を頼むとウーヴェが苦笑するとヘクターも短く頷くが、昼食は軽いものが良いと、こちらも二日酔いの片鱗を覗かせる。
「暫く遊んでるから、昼食頼む!」
ヘクターの背中に声を掛けたリオンは、無言で肩を竦められてウーヴェと顔を見合わせるが、ウーヴェが気持ち良さそうに水の中で手足を伸ばすと、その横でリオンも同じように大の字になってゆらゆらと波に揺られて笑みを浮かべる。
「気持ちイイなぁ」
やっと本格的なバカンスの始まりだと笑うリオンにウーヴェも同調するように笑い、昨日は本当に散々だったと苦笑すれば、昨日の事は忘れようとリオンが提案をする。
「親父や兄貴は今日帰っちゃうんだろ?」
「ああ。明日どうしても出席しなければならない会議があるらしい」
このバカンスシーズンに会議を設定した取引先の相手を散々罵ったギュンター・ノルベルトだったが、ウーヴェがしっかりと働いてきてくれ、バカンスが終わって帰ったらベルトランの店に食事に行こうと約束をした為、少しだけ機嫌を直したのだ。
それを思い出しつつ、ならばそんな兄貴達のためにも自分たちがバカンスを満喫しようと笑うと、ウーヴェが身体を起こしてウッドデッキから見守ってくれている家族へと顔を向けるが、それで良いのかと小さく呟く。
「……親孝行ってさ、色々な方法があると思うけど、俺たちが幸せに過ごしているのが一番の孝行だと思わないか、オーヴェ」
「リオン……」
「だから、俺たちはこのバカンスでみんなが呆れるぐらい楽しんで遊んで仲良くすれば良いんだって」
金銭的に親を援助するのも親孝行になるのだろうが、自分たちの場合は二人が仲良くしていること、そしてそんな二人を間近で見せることが孝行になると達観した笑みを浮かべるリオンにウーヴェが一瞬複雑な表情を浮かべるが、全てを腹に収めて納得した顔で頷き、リオンの頬にキスをする。
「ダンケ、リーオ。お前はやっぱり俺の太陽だ」
頭上で輝く太陽は皆のものだが、真横にいる太陽は俺だけのものだと穏やかな顔で笑うと、リオンが周囲をきょろきょろと見回した後、ウーヴェを抱き寄せて濡れた髪を肩に押しつける。
「どうした?」
「……俺のオーヴェ。頼むから……俺の目と手が届く所にいてくれ」
どうか頼むと、それが密やかな、いつものリオンからすれば考えられない程静かな声だったため、昨日の出来事がリオンにもかなりの深手を負わせていたことに気付き、くすんだ金髪をしっかりと抱き寄せる。
「大丈夫だ。もう何処にも行かない。お前の傍にいる」
昨日、溺れて意識が朦朧としている最中であっても、迎えに来てくれたお前の熱だけは感じ取れたし、また俺を呼び戻してくれただろうと囁き、腕に力を込めるリオンの髪にキスをする。
「もう大丈夫だ、リーオ」
表面的には普段と変わらないがその笑顔の奥底では傷を負った心が小さく丸まってまだ血を流していることをよく知るウーヴェは、自分たちの心身に傷を与えた少女への報復的な暴行がその傷の痛みの裏返しだとも気付き、宥めるように髪を撫でて背中を撫でると、ようやくリオンの口から小さな安堵の吐息がこぼれ落ちる。
「心配を掛けて悪かった。不安にもさせてしまったけど俺はここにいる。一人にして悪かった」
あの日あの時、神や皆の前で誓ったように、またお前がそう実践してくれているように俺もお前の傍にいる。お前を一人にはさせないと改めて誓うと、リオンの身体がひとつ震える。
表面的には陽気で騒々しい程の明るさを持つリオンだが、太陽の黒点のような暗い顔も当然持っていて、それを見る事が出来るのは今ではウーヴェを含めても片手で足りる程で、その顔をも愛おしむように首を傾げてリオンの髪に頬を宛がう。
「みんなが心配してこっちを見てるぞ、リーオ」
「…………うひっ」
ウーヴェの少し戯けた声にリオンも同じ調子で返してウーヴェから離れたかと思うと、そのまま水の中に潜ってしまう。
そうして水中から顔を出した時、たった今浮かんでいたであろう表情も水の中に捨てていつもの笑顔を浮かべてくれと密かに願うと、その願いが通じたのか満面の笑みを浮かべたリオンが水中から顔を出し、気持ちイイと、バカンスを満喫する顔で笑う。
「ああ、気持ち良いな」
「うん。最高」
そんなリオンにつられて笑みを浮かべたウーヴェだったが、今度は生首ではなく未確認の水中生物のように静かに近づいてくるリオンに思わず顔を引き攣らせてしまう。
「気持ち悪いから止めろっ!」
「あー、気持ち悪いとかひでぇ、オーヴェ!」
オーヴェのくそったれー、そんな事を言うオーヴェにはお仕置きだと、目を細めて口を尖らせるリオンに瞬きを繰り返すが、小さく吹き出してある思いを込めて問いかける。
「どんなお仕置きをするつもりだ?」
「陛下のご要望ならば不肖の身ですが、誠心誠意を持ってお応えいたしますがいかがでしょうか」
一転して戯けながらも真摯な色を瞳に浮かべるリオンに暫く考え込んだウーヴェだったが、片目を閉じたリオンが俺がどれだけ愛しているかを思い知れとも言ったため、口元に太い笑みを浮かべる。
「期待していようか」
「ご期待に添えるよう、努力いたす所存であります、陛下!」
「よろしい」
ではその努力を形として表して貰う為、そろそろ水から出ようと笑うと、背後からリオンに抱きつかれるだけではなく、水中でその手が腰から水着の中に入り込もうとしたため、後ろに手を伸ばしてピアスが填っている耳を思いっきり引っ張ると悲鳴が上がる。
「いてぇ!」
「あまり度を超すとこちらがお前をお仕置きするぞ」
「あ、良いな、それ。帰ったらお仕置きしてくれても良いぜ」
でもここでは俺がするんだと笑うリオンに最早何も言い返す気力が無くなったウーヴェは、今度こそ皆が呆れながら見ていることにも気付き、バカたれとリオンを叱咤して一足先にウッドデッキに泳ぎ着くのだった。
室内の明かりを最低限に落とし、ウッドデッキのラウンドソファで膝を抱えるように座って星空を見上げていたウーヴェは、デッキに直接腰を下ろしてウーヴェの足に頭を乗せて同じように空を見上げるリオンの髪を無意識に撫でていた。
背後の窓から続く室内から聞こえる物音は控えめに流しているラジオの音ぐらいで、数時間前までの喧騒がまるで嘘のようだった。
昼食を終えて暫くしてから、夕食の用意を済ませたイングリッドが笑顔でウーヴェとリオンをハグして帰宅する事を告げ、残りのバカンスを二人で楽しみなさいと言い残し、エーリヒが運転する車で別荘を後にした。
それから少し早めの夕食を取った四人だったが、食事の後片付けが終わってコーヒーを飲んだ後、ギュンター・ノルベルトが不承不承の顔を隠さないで帰ることを伝え、ウーヴェを抱きしめてぐずぐずと離れたくない意志を表明していた-その態度はまるっきり日頃のリオンと一緒だとは口が裂けても言えなかった-が、いい加減にしろとヘクターに引き剥がされて咳払いをし、リオンにはウーヴェをくれぐれも頼むと告げ、ウーヴェにも母と同じように残りのバカンスを満喫しなさいと優しく残すと、表情を切り替えるように頷くが、バカンスが終わって帰って来たらすぐに食事に行こう、予定が入っても無理矢理開けると未練がましく言い募ったため、ヘクターによって無理矢理スパイダーに押し込まれてしまう。
友人であり仕事では己のボスであるギュンター・ノルベルトを車に押し込めたヘクターは、呆気に取られるウーヴェに肩を竦めた後、ボートの一件については今後マスコミなどに公表されないように手を打ったこと、村人からと思しき写真やインタビュー記事などが新聞やネットに公表されたのを発見した場合、それなりの法的措置を執ることを言い含めてあることを告げてウーヴェを安堵させる。
ウーヴェのことがマスコミに知れ渡ると、今までバルツァーの家族が心血を注いで守り通してきた秘密までもが明るみになってしまう危惧からの措置だったが、それに対して素直に礼を述べたウーヴェは、ヘクターの手を取って兄のことを頼むと、その手に暖かな手が重ねられる。
窓から身を乗り出す勢いで手を振る兄を玄関先でリオンと共に見送ったのは二、三時間ほど前で、急に静かになった家の中が寂しくて、ラジオを小さな音で流し、風が気持ちいいという理由でウッドデッキで涼んで星を見ていた二人だったが、もっと家の明かりが少なくなれば星がよく見えたのにとリオンが嘆息し、ウーヴェも微苦笑で同調する。
「……あれ、な、オーヴェ、あの星ってさ、流れ星か?」
「うん?どれのことだ?」
リオンが声と共に指を空に向けて揚げたため、ウーヴェがリオンが指さす空を見上げると、思い描くような流星の軌跡は見えず、ただひとつの星が音もなく移動していく様が見えていた。
「ああ、あれか?」
「うん、そう。あれ、何だ?」
「あれは人工衛星だろうな」
「そうなのか?」
リオンよりは宇宙についての知識を持っているウーヴェだったが、何という名前の人工衛星だ、いつも見えるのかと矢継ぎ早に問われてしまっては苦笑するしかなかった。
「なあ、オーヴェ、教えてくれよ」
俺よりも賢いのだからと、ウーヴェの腿に両手を置いて好奇心に満ちた瞳で見上げたリオンは、ウーヴェの目尻のホクロが少しだけ赤くなっていることに気付き、小首を傾げてもう一度ウーヴェを呼ぶ。
「…………なんだ」
「……人工衛星も良いけどさ……」
手の届かないところで光っている星よりも俺の前で赤く静かに燃えてる月が欲しいと囁くと、ウーヴェの手がリオンの顎を撫でて顔の輪郭を確かめるように撫でられる。
そこからひとつの意思を感じ取り己の思いを伝えるように伸び上がったリオンは、軽く驚いた後に目を閉じるウーヴェの薄く開いた唇にキスをし、拒絶されなかったことからもう一度キスをする。
「────イイか?」
その短い問いに込められたのはウーヴェに対する最大限の思いやりで、溺れて生死の境を一瞬とは言えさまよったのは昨日であり、その傷が癒えたかどうかも分からないのにと言う躊躇いも含まれていたため、ウーヴェがキスをしてくるリオンの首に腕を回して優しく抱き寄せると、青い石のピアスが光る耳に口を寄せる。
「お仕置きをするんじゃなかったのか?」
「うん、する。しなきゃ収まらねぇ」
ウーヴェの問いにリオンが明るく返すとくすくすと楽しそうな笑い声が耳に流し込まれ、それで了承を得た事を知ったリオンがウーヴェの足の間に身体を割り込ませる。
「……ここ、は……っ」
さすがにここではイヤだと、見られている可能性と声を聞かれる可能性からリオンを制するように手を挙げるが、今ここでお前の気持ち良さそうな顔を見たい、それがお仕置きだと言われて絶句してしまう。
「イイだろ、オーヴェ」
さっきとは似ているのに全く違う言葉に聞こえるそれに頷く以外どうしようもなくて、ただそれでも素直に従うのは矜持が許さなかったため、くすんだ金髪に手を差し入れてぎゅっと拳を作るように握ると、大げさな痛いという声が星空の下に響く。
「この野郎」
「こらっ、リーオ!」
「うるさいっ!」
こうなってしまえば気遣いも何も無い、覚えていろと、名前の通り百獣の王を連想させる声で恫喝されて首を竦めたウーヴェは、そんな獣の王の前に身を横たえて食べられるのを静かに待つ獲物にしては強い光を湛えた目でリオンを見つめ、男よりは雄という言葉が相応しい顔になった伴侶の前に色々な意味での弱点である首をさらけ出すように頭を仰け反らせるのだった。
シーツに皺を寄せるように握りしめ、体中に満ちる快感を何とか堪えようとしたウーヴェは、その手をやんわりと掴まれて軽く握り合わさせられると、背後で快感に光る蒼い目を見ようと頭を仰け反らせる。
「……どうした、オーヴェ?」
「どうした、じゃない……」
どうしてそのままじっとしているんだと、最前から己の中で芽生えた疑問を途切れながらも口にすれば、ああ、と短い声が聞こえてくる。
「どうして、だ……?」
「……何かさ、いつももそうだけど、今日はいつもより熱くて気持ち良いなーって」
いつまでもこの熱に身を沈めていたい、だから今はまだ動きたくないんだと教えられて何だそれはと驚いてしまうが、リオンが最奥を埋めている今、ウーヴェが感じているのもいつもとはまた違った心地良さと快感だった。
ただ、この心地良さに浸っていたいと思う反面、もう一方の自由に動く手がウーヴェの腰や腿を撫でるだけではなく、腹に付きそうな角度のそれをやんわりと握って刺激を与えていたため、心地良さと快感の狭間でどちらにいくべきかと揺れ動いていたのだ。
「なん、なんだ、それは……」
「ん?オーヴェはこのままだとイヤか?」
「……っ!そんな、こと、は……」
ない、と、口の中でだけ言葉を転がすが、何だって、聞こえないと意地の悪い声が聞こえた直後、リオンの手がウーヴェのものを握り、先端を指の腹できつく撫でられてしまって顎が上がる。
こうしてリオンを受け入れてからどれ程の時間が経過したのかは分からないが、一度熱を放出した身体はいとも容易く熱を上げてしまうようで、ベッドルームに自力で戻ることが出来ずにリオンに抱き上げられて-しかも恥ずかしい事に横抱きで、だ-連れてこられた時には、ウッドデッキのラウンドソファの上でリオンの口での愛撫に身を委ねた身体がそれ以上のものを求めてしまうほどだった。
そんな己が恥ずかしくて顔を背けるウーヴェに労るような、だが間違いなく煽るような思いも込めてキスを繰り返したため今の状態に至るのだが、こんな状況下でも素直でないウーヴェにいつもの言葉を囁きかける。
「素直じゃないお前も好きだけど、素直なお前はもっと好き」
だから素直に今思っている事、感じている事を口にしろとも囁くと、ウーヴェの手が微かに震えながら上がり、リオンの頭を抱き寄せるように回される。
「……リーオ……っ……い、い……っ」
「何処がイイ?」
分かっているがウーヴェに言わせたい思いから問いかけると、そこ、という言葉が返ってくる。
「……そっか」
ここが気持ち良いのかとも問い返しながら腰をグッと押しつけると、ウーヴェの痩躯がびくんと跳ね、重ね合わせた手に力が籠もる。
そのままウーヴェの身体をうつ伏せにさせたリオンは、汗ばむ背中を見下ろすが、ひとつひとつの傷にキスをしていないことを思い出し、それを実行していく。
この行為はウーヴェの背中や腰に傷が出来た以降のものなのだが、いくらウーヴェがもう良いと言っても決して止める事は無く、文字通りひとつひとつを愛おしむようにキスをし、傷を覆い隠すように手足を伸ばすリザードに仕事を頑張っているご褒美のようなキスをするのだ。
今もまたそれをするリオンに気付いて顔を振り向けたウーヴェは、これもまたいつものようにもう良いと声を掛けようとするが、リオンがウーヴェの口元に手を伸ばしたあとで指を舐めてくれと強請られたため、制止の言葉を掛けることが出来なくなってしまう。
背中の彼方此方にされるキスがくすぐったくて身を捩れば、口の中で指が少しだけ動きを大きくしてしまう。
そして全ての傷にキスを終えたリオンは、ウーヴェに指を舐めさせたまま片手で尻を掴むと、再度ウーヴェの中にゆっくりと自身を沈めていく。
「……っ……ン……っ!」
その衝撃に三度顎が上がり、指を思わず吐き出してしまったウーヴェは、シーツを握りしめてキツイ快感を堪えるが、腰を引き寄せられて短く声を挙げる。
リオンが突き上げる度にウーヴェの身体が揺れ、堪えられなくなった声がシーツに零れ落ちるが、無意識に手を後ろに伸ばしてしまい、それに手を重ねられて空いた手でシーツを握る。
生死の境をさまよってからまだ一日しか経過していないのに、今こうしてリオンと抱き合っていることがおかしく己が気恥ずかしかったが、こうしている事で生きているのだと実感したウーヴェは、リオンも同じ思いなのだろうかと唐突に感じてしまい、重ねた手を引き寄せる。
「どうした?」
「……リーオ……っ……!」
「ああ、どうした?」
己が今感じた事をどのような言葉で伝えればいいのかが咄嗟に分からずに、ただもどかしそうに首を振ったウーヴェにリオンが宥めるようなキスをし、背中に覆い被さってウーヴェの頬にもキスをする。
「……お前、も……っ……」
途切れながらの言葉を何とか聞き取ったリオンは、ウーヴェのその疑問-冷静になればかなり滑稽に感じるもの-にひとつ頷くと、覆い被さったウーヴェの耳朶にキスをし、そのまま己の思いを耳に流し込む。
「お前と同じだ、オーヴェ」
だから今は気恥ずかしさなど感じず、本能のままに愛し合おうと囁くと、納得したのかどうなのか、吐息がウーヴェの顔の傍に零れ落ちる。
その後、ウーヴェの足を気遣いつつもいつも以上に長い時間ウーヴェの中に留まり、互いの快感を増幅させて意識が白濁するような瞬間へとゆっくりと登り詰めた二人は、熱を吐き出した後もなかなか離れる事が出来ないのだった。
リオンが二人の身体を拭いた後、ぐったりするウーヴェの横に潜り込むと、自然とウーヴェの手がリオンの腰に掛かり、それに安心したのかリオンが更にウーヴェに密着するように身を寄せる。
「な、オーヴェ、後三日あるけどさ、明日は何をしようか」
一日目にはボートに乗った、二日目の今日は二人で泳いだから明日はこの村の観光でもしようかと問いかけると、半ば睡魔に囚われているウーヴェの頭が観光と呟き、湖の傍に小さな修道院があるらしく、そこのビールが有名だと笑うと、ウーヴェの汗ばんでいる白っぽい髪が上下に揺れる。
「それ、も……良いな……」
「ん、じゃあ決まり。朝は……ゆっくりでイイよな」
どうせ二人きりのバカンスなのだ、予定に囚われることなくゆっくりとバカンスを満喫しようと告げてウーヴェの瞼にキスをすると、気怠げにそれが持ち上がってターコイズ色の双眸が茫洋と姿を見せる。
「それで……良い…」
明日の朝もゆっくりで、朝食がブランチになったとしても構わない、お前の思うようにすればいいと微かな笑みを浮かべたウーヴェは、お休みのキスをリオンにすると、再度目を閉じ、閉ざされた世界でリオンのお返しのキスを受け取るのだった。
2014/09/08
兄がだんだんと子どもじみていく……(爆)


