今日は一人で市街へと買い物に行ってくるからピックアップを貸してくれと、庭のテーブルで今日もまたテッドが用意をしたベーコンとスクランブルエッグをトーストしたバケット–パンの種類だけは高頻度で入れ替わるのは、毎日同じパンを食べる事にテッドが飽きるかららしかった–に載せてかぶりついていたノアが同じものを食べているテッドに伝えると、一瞬考え込むように視線を彷徨わせた後、まあ大丈夫だろうと頷く。
「ドイツと違って右ハンドル左側通行だからな」
「そうか、英国と同じか」
「ああ」
ここは昔は英国の植民地だったからなと苦笑するテッドに大丈夫かなとノアが晴れ渡る青空を見上げるが、古い車だからぶつけたところで気にすることはないと、本当に気にしていない顔でテッドが頷くが、口の中のものを飲み込んだ後、横に乗っていこうかと提案する。
「あーそうだな……うん、横に乗ってもらって良いか、テディ?」
「ああ」
公共交通機関での移動には慣れたが、自ら運転する車で市街地を走るのはやはり少し緊張すると笑うノアに短い言葉で頷いたテッドだったが、ウェリントンから帰ってきたその日以来、二人でいる時にテッドと呼ぶことの方が少なくなっていて、意外なほど素直にそれを受け入れられた為、今もまた気にすることなく頷いていた。
いつかも聞いたが、ノアの兄であるリオンが己の伴侶を愛称というには幼い感じのする呼び方をしていたことを思い出して理由を問いかけると、ノアが青空に回答を探すように視線を左右に泳がせるが、ああと呟きつつ顔を戻す。
「ウーヴェの家にあっためちゃくちゃ大きなテディベアを覚えてるか?」
「そういえばあったな」
「そうそう。二人が付き合いだした頃、ウーヴェは事情があって自分の誕生日を祝うことがなかったらしい。だから誕生日祝いじゃなくてクリスマスプレゼントにあのテディベアを買ってきたって」
「クリスマスと誕生日が近いのか?」
「二人ともクリスマスイブが誕生日なんだ」
その時、そのテディベア–名前をレオナルドという–がウーヴェのことをオーヴェと呼びたいと言っていると、言動や思考に直截的なことが多いリオンにしては遠回しな言い方でオーヴェと呼ぶことを伝え、ウーヴェもまたリオンのことをリーオと呼ぶようになった経緯を思い出して伝えると、本当にあの二人には色々あったんだなとテッドが感心したように呟き、ノアが頬杖をついてそうだなと目を細める。
「一番印象に残ってるのは俺の太陽とDu bist mein Ein und Alles. だな」
「……なかなか呼べないな、それは」
己の恋人を太陽と表現することはレベルが高すぎると苦笑するとノアも似たり寄ったりの顔で肩を竦めるが、リオンとウーヴェの傍にいて二人の関係をより深く知るようになってからはそんな気恥ずかしさを感じることもなく、そう呼ぶのが当然のようにすら感じていたのだ。
それは、二人が悲喜交々の、時には命を絶ってしまいたくなるほど辛い出来事を、繋いだ手を離さずに乗り越えてきた結果だと気付いたのだ。
「ウーヴェにとってリオンは本当に太陽なんだろうな」
ウーヴェが左足を負傷した事件に巻き込まれた時、長期間入院していた病室にほぼ毎日リオンが泊まり込み、退院した後のウーヴェを支えたいからと天職だと自他ともに認めていた刑事を何の躊躇いもなく辞め、紆余曲折を経て今はウーヴェの父の秘書として働いているが、リオンの世界の中心にはウーヴェがいることをノアも教えられていた。
己の兄ながら尊敬すると感心したように息を吐いたノアの頭にテッドが手を載せて柔らかな髪をクシャクシャと乱すと、くすぐったそうにノアが首を竦める。
「後のドイツ語はなんと言ってるんだ?」
「────俺のすべて」
天職だった刑事をあっさり辞められるほどリオンにとってウーヴェの存在は大きく、あいつが生きているから俺も生きている、そういう意味だといつか教えられたと笑うノアにテッドが脳裏に己が知るリオンの顔を思い浮かべる。
一緒にいるだけで騒々しいとウーヴェが酷評していたが、その言葉通り確かにリオンは賑やかだった。
だが、ウーヴェとノアが楽しそうに言葉を交わしているのを少し離れた位置から見つめるリオンの横顔は、人生の明暗をいくつも目の当たりにしながらも決して諦めることも項垂れることもない男のものだったことも思い出す。
そんなリオンの横顔をノアは知っているのだろうかと疑問が芽生えるが、きっとリオンのことだ、恥ずかしいからそんな顔を見せるかと、あの子供じみた大輪のひまわりが咲き誇るような笑顔を浮かべることが簡単に想像できてしまい、そこからリビングの壁に掛けられているひまわりの写真を思い出す。
「ノア、リビングのひまわりの写真だけど……」
「うん。あれがどうした?」
突然話が変わって驚くもののどうしたと小首を傾げるノアに目を細めたテッドが告げたのは、同じ写真の元データがあるのなら小さくプリントできないかという言葉だった。
「船の操舵室に飾りたい。小さくできないか?」
あのひまわりの写真はお前がドイツからわざわざ持ってきたものだし、なによりも自分たちにとっても思い出深い花の写真で俺も好きだから船でいつも見れるようにしたいとテッドがダメかと首を傾げると、その前でノアの顔が左右にぶんぶんと揺れた後、はにかんだ笑みを浮かべて何度も頷く。
「大丈夫。じゃあプリントする紙と額を買いに行こう」
「そうだな」
そして、一週間分の食料品を買っておこうとテッドが告げた後、出かける準備をしなければならないから早く朝食を食べようとノアがバケットを手に取るが、すでにテッドの皿は空になっていて、そういえば己の恋人は早食いができる人だったと思い出す。
「慌てずにゆっくり食え」
慌てて食べ始めるノアの口の端についたパン屑を指で摘んでぺろりと舐めたテッドの言葉に目を丸くしてしまうが、今の行為よりも恥ずかしいことを何度もしていると思い出し、自己最高の速度で朝食を食べ終えるのだった。
夜明けまでまだ時間を残した真夜中、小さく鳴らしたスマホの目覚ましで目を覚ましたテッドは、隣から聞こえる穏やかな寝息に少し安心しつつベッドから抜け出し、なるべく足音を立てないように気をつけながらベッドルームを出る。
ノアが移住してきてそろそろ二週間が経過し、先日は一人で車を運転して目的地に行けたことから、もう仕事を再開しても大丈夫だろうと判断し、今日から漁に出ることを伝えたのだ。
仕事に出ることについてノアは何も言わずにただ頷いたが、約束通りお前が漁に行く前に俺がドイツで買ってきた二人にとって大切な星を首に着けたいと笑った為、ぜひそうしてくれとテッドも頷いたのだ。
ノアが自ら着けると言った星はリビングの壁のアクセサリーを吊るすフックに吊るされていて、その横にはテッドがあの日ノアに預けた両親の形見でもあるペンダントトップも吊るされていた。
二人にとって大切なものを集めたコーナーになっていると、アクセサリーフックの上のひまわりの写真を見て欠伸を一つしたテッドは、キッチンでカゴから取り出したバケットを切ってかぶりつきつつコーヒーメーカーに特に拘っていないコーヒー豆と水をセットする。
夏とはいえ海の上はやはり寒くなるため、温かいコーヒーが嬉しいことが多かった。
その為にポットに1日分のコーヒーを用意していくのだが、カフェラテ用のミルクを冷蔵庫から取り出そうとした時、背後で足音と眠そうな声が聞こえてくる。
「……Grüß Gott、テディ」
「グ……? モーニン、ノア」
欠伸まじりの挨拶がドイツ語だった為にはっきりと聞き取れないと苦笑しつつミルクを取り出したテッドは、持っていくためのカフェラテを用意しているが飲むかと問いかけながらも、今これを飲めば眠れなくなるから止めておけと、舌の根の乾かぬうちに前言撤回する。
「……後で温め直すから残りそうならおいててくれ」
目を瞬かせる顔はいつも以上に幼なさを感じさせるもので、思わずノアの額に小さな音を立ててキスをしたテッドは、どうしたと不思議そうに見つめられて肩を竦め、今日は何をするんだと問いかけつつコーヒーメーカーが立てる音と微かに漂ってくるコーヒーのいい香りを嗅ぎつつミルクを鍋で温める。
「そろそろ本格的に仕事に取り掛かりたいと思ってる」
「そうだな」
「うん。ウェリントンで会った仲間が仕事の情報をくれたから、ちょっとコンタクト取ってみる」
生まれ育ったウィーンならば良くも悪くも同業者である父の影響があり、ついで暮らしていたドイツ南部ではウィーンでの知名度と世話になったリオンたちの顔の広さが仕事の助けをしてくれていたが、何しろここは今まで拠点としていた街からは遥か遠く離れた町で、友人知人など誰一人いないかった。
今までのツテが使えるかどうかも全くわからず、自ら動かなければ何も始まらないことに気付いていたノアが本格的に始動すると宣言すると、鍋の中で程よくミルクが温まったことに気付き、ノアにポットをとってくれと告げてそれを受け取り、先にミルクを注いでおく。
「……お前なら大丈夫だろう」
「そう、かな」
「ああ。────写真のことは分からないけど、お前が写したものは好きだ」
お前の目に映る世界をもっともっと見せて欲しいと笑うと、ノアの蒼い目が限界まで見開かれた後、破顔一笑。
「うん、見てくれ」
「ああ」
テッドの言葉から力を受け取ったノアは、コーヒーを飲んだら仕事に行ってくる、鍵は閉めておくから気にせずにもう一度寝ろと伝えられ、一つ頷いた後リビングのひまわりの写真の前に向かい、二つの星を手に戻ってくる。
当初の予定ならばドイツで己の肌のどこかにタトゥーという形で残るはずだったノーティカルスターだったが、小さなペンダントトップという形で今ノアの手の中にあり、その一つにテッドに見えないようにキスをする。
「テディ」
「ん?」
「帰ってきたらさ、リオンとウーヴェに送る写真を撮りたい」
「俺も?」
小さなノーティカルスターを手に戻ってきたノアの言葉に今度はテッドが目を丸くするが、濃い色の革紐に通した星をテッドの首に巻いて満足そうに息を吐いたノアは、驚く意味がわからないと言いたげに目を丸くし、己の首にも同じように星をぶら下げる。
「テディが釣ってきた魚を持って、その横に俺が立ってるってのどうだ?」
楽しそうだろうと笑うノアにその光景を脳裏に思い浮かべたテッドだったが、目の前の恋人の顔が心底楽しそうだった為、お前の好きにしろと目を細めて口角が上がっている唇にキスをする。
「帰る前に電話をする」
「分かった」
バケットをいつの間にか食べ終えてコーヒーも少し飲んだらしいテッドがシンクで顔を洗って出かける準備を整えてそろそろ行ってくると笑うと、ノアがその腰に腕を回してそっと抱きしめる。
「────気を付けて」
「ああ」
以前ならばスマホに届くメッセージやモニター越しに見送るしかできなかったが、今は直接顔を見てその温もりを感じつつ送り出せる幸せに気付いたノアは、見下ろしてくる顔を安心させるように笑みを浮かべてキスをする。
「今日も頑張って来い、テディ」
帰ってきたら一緒にご飯を食べよう、その時何があったか教えてくれと笑って頷くノアの頬にキスをしたテッドは、お前も何をしていたか教えてくれと告げて細い背中を一つ撫で、胸元できらりと光る星がきっと良い方へと自分たちを導いてくれるだろうと胸の奥で呟き、ポットと残りのバケットを袋に詰めたカゴを手に取る。
今までならば一人静かに起き出してパンにかぶりつき、コーヒーを用意して一人きり誰に見送られることもなく家を出る真夜中だったが、玄関へと向かった後、くるりと振り返ればそこには眠そうな顔をしつつも笑みを浮かべるノアがいて。
ああ、本当にこれから毎日こうして見送りをしてもらえるのだと気付くと、今までとはまた違うやる気がテッドの腹の底に芽生えてくる。
「……行ってくる」
「うん。今日も満足できるぐらい魚が取れるように」
慎ましい暮らしを送るだけの収入になる魚が取れますようにと願い、だがそれよりも何よりも無事に帰ってきますようにと、板切れ一枚、底は地獄と言われる環境下で働く恋人の無事を祈るように背中から抱きついたノアは、大丈夫だから安心しろと囁かれて小さく頷き、帰ってきたら俺の大好きな庭で写真を撮るからなと再度宣言する。
「ああ、分かってる」
このままではいつまで経っても仕事に行けないことに気付いたテッドがノアの頭をポンと撫でて合図を送ると、さすがにそれに気付いたノアがテッドから離れて両手を腰の上で組む。
「鍵は掛けるから大丈夫だ」
「ん、お願い」
テッドが玄関を出て外から鍵を掛けるのを確認したノアは、ピックアップのエンジン音がやがて小さくなるのをその場で聞いていたが、完全に静まり返ったことに気付くとキッチンを軽く片付け、もう一眠りする為にベッドルームに戻るのだった。
こうしてテッドが夜中に仕事に向かうのを起きて見送る行為が日常のものになる第一歩を踏み出した二人だったが、当初は緊張気味だったもののあっという間にそれが当たり前の光景になるのだった。
真冬の寒さに一つ体を震わせ、リオンが魔法のブランケットと呼んでいる暖かなブランケットを片手に、暖炉の前に置くことになっているソファへと移動したウーヴェは、長い廊下の向こうから陽気な鼻歌が聞こえてくることに気付き、マザー・カタリーナの用事でホームに行っていたリオンが帰宅したことを知る。
「ハロ、オーヴェ。今帰った」
「ああ、お帰り、リーオ」
寒さが厳しいからか、鼻の頭が少しだけ赤くなっているリオンがウーヴェの頬にキスをし、ああ、暖かいと実感のこもった声を流すのに微苦笑しつつ隣に座れとブランケットを持ち上げると、革のブルゾンを脱ぎ捨ててウーヴェの隣にそそくさと潜り込んでくる。
「ノアから手紙が届いてた」
「ノアから?」
二人の愛する弟が、己が愛しまた愛してくれる人の元へと旅立ってそろそろ二十日近く経過するが、そんなノアから初便りだと笑いながら、あちらこちらが擦り切れていて長旅をしてきたことが一目でわかる封筒を取り出したリオンは、早く開けようぜと笑ってウーヴェに開封を促す。
封筒に書かれている住所はテッドと一緒に暮らす家のもので、隅に小さく星が描かれていることに気付いたウーヴェは、ペーパーナイフで開封した封筒の中身を膝の上に広げると、海と空の青が半分ずつ切り取られた写真や満天の星の写真が出てくるが、その中の一枚を手に取ると思わずリオンと顔を見合わせてしまう。
その写真は庭で写したもののようで、テッドが釣った自慢の一匹らしき大きな魚を片手で持ち、その隣に満面の笑みを浮かべたノアがお気に入りのカメラを片手に並んでいて、二人の前のベンチテーブルには小さな写真立ての中で咲き誇るひまわりと、その写真立てには二つのノーティカルスターとノアの胸元にいつもぶら下がっていた幸運のお守りが引っ掛けられていた。
自分達にとって大切なものがあるように、ノアとその恋人の間にも大切なものが出来たようで、つい自然と目元を綻ばせてしまう。
そして、その写真にはノアの走り書きで、漁師のテディと家族を始めましたと記されていた。
「家族を始めましただって」
「面白い表現だな」
写真から伝わる幸福感と文字から伝わるノアの茶目っ気にリオンとウーヴェが顔を見合わせ笑みを深めてしまうが、何かに気づいたようにリオンの蒼い目が見開かれ、テディと呼んでいるのかと呟くとウーヴェも同意するように笑みを浮かべる。
「テディなんて可愛いモンかよ」
「良いじゃないか」
たとえ外見がテディという愛称から連想するものと掛け離れていたとしても、ノアがそう呼びたいんだからとウーヴェが笑うものの、リオンがただ口でからかっているだけであることをしっかりと見抜いていて、お前が俺をオーヴェと呼ぶように呼びたいんだろうと笑って写真をリオンに預け、ついでに頭も広い肩に預けて目を閉じればリオンの手がウーヴェの腰に回される。
「幸せそうで良かったな」
「そうだな。ま、これから色々あるんじゃねぇの?」
でもきっとあの二人なら大丈夫だと暖炉の炎が爆ぜる音を聞きながらウーヴェが安堵の呟きを発すると、リオンもそんなウーヴェを抱きしめながらニヤリと笑う。
自分たちが経験したものとは同じではないだろうが、二人にしか乗り越えられない出来事がこれから先きっと二人の前に立ちはだかるだろう。
だが、二人ならそれを乗り越えられることを信じて欲しいとほぼ二人同時に願いつつ、リオンがマザーからクリスマスの飾りつけに小さなリンゴのオーナメントを貰ってきたからあとで飾り付けようと告げ、ウーヴェも楽しみだなとリオンの頬にキスをする。
口では色々な事を言いながらも久しぶりに届いたノアからの便りが幸せを伝えてくれるものであったことに胸を撫で下ろした二人は、同封されている手紙に両親にも同じ写真を送ったこと、住所は特に知らせていない事が書かれていることに気付き、ノアが選択した両親との、ひいては過去との向き合い方を受け入れ、漁師の家族を始めたと書かれた写真を暖炉の上の家族や大切な人たちの写真が並ぶ一角に飾ってくれとリオンに伝え、大切な家族の写真がまた一つ増えたなと嬉しそうに目を細められるのだった。
そして。
今日もまた真夜中に仕事に向かう恋人を見送ったノアは、もうひと眠りをした後に起きだして一人で食べるあまり美味しくない朝食を終えて仕事部屋で作業をしていたが、お昼を少し過ぎるが一緒にランチを食べようとの電話をもらい、朝食時には感じなかった空腹を一瞬で覚えてしまう。
恋人が帰宅するまでまだ時間があるのに、一緒に食事をしようと誘われただけで空腹を覚えるなんて俺はバカかと笑いながら作業に戻っていたが、集中が途切れた頃に遠くからピックアップのエンジン音が聞こえ始め、次第に大きくなって静まり返ったことに気付くと作業の手を止めて部屋を出る。
仕事部屋を出た廊下の先で玄関のドアが開き、仕事道具とノアが作ることにした軽食とコーヒーのポットを出かける前に詰め込んだ空のカゴを床に置いたテッドを発見し、視線を合わせると笑みを浮かべて両手を広げる。
「お疲れ、テディ」
「ああ」
恋人の大きな体に手を回してしっかりと抱きしめたノアは、今日も十分稼いできたと報告を受けて一つ頷くが、それも嬉しいが怪我もなく無事に帰ってきてくれたことが嬉しいと素直に本心を口に出し、背中を撫でられて顎を上げる。
「────ん」
その合図をしっかりと見抜いているテッドがノアにただいまと感謝の思いを込めたキスをし、細い腰を抱きしめる。
「ランチはまだだろう?」
「うん、まだ」
帰ってくるのを待っていたと笑ってテッドの腰に腕を回し、荷物を受け取って二人肩を並べてキッチンに向かうが、その二人の胸元には小さいが二人の行先を示すように星がきらりと光っているのだった。
名前の通りに自分たちの人生を導く星とともにドイツからやって来たノアと、そんな恋人を迎え入れたテッドの二人暮らしがこうして始まるのだった。