Garden of Southern Cross.

第1話 Garden of Southern Cross.
7
 人生の大きな転機を迎えたニュージーランドでの仕事は、拠点にしている街に戻った翌日から文字通り寝る間を惜しんで働いた結果、クライアントも紹介してくれた友人も感激の握手だけではなくハグをし、次の仕事の約束までしてくれるほどの成果を上げ、その結果にノア自身も感慨深い思いを抱くほどだった。  大成功した仕事を忘れないためにと、今回の仕事で撮影をした写真でクライアントから許可を得たものを何枚か集めてブックレットを作ったノアは、真っ先にそれをニュージーランドのテッドとミアに郵送し、いつものように教会とリオンにも送っていた。  そうしてブックレットという形で手元に残ったそれを棚に並べ、ここに並ぶそれも増えてきたこと、つまり知名度が上がるにつれ仕事量も比例して増えた結果が一目で分かるようになってきていると、アシスタントをしてくれているユリアから笑顔で教えられたノアは、嬉しいことだと思いつつ、癖になった胸元のペンダントに手を当てる。  このペンダントトップが文字通り幸運のお守りになってくれているようで、掌に載せて思わずキスしたくなるのをぐっと堪えたノアは、近々完全休養を取る、今来ている仕事のオファー以外は調整してほしいとユリアに告げると、彼女自身もフォトグラファーとして名をあげたい野望があるからか、仕事をセーブするような働き方は理解できないと言いたげに見られるが、そろそろ周囲ではバカンスの話題で盛り上がりだした事を告げ、彼女にもバカンスを取ればいいと提案する。  ウィーンにいる頃は両親や友人達と小旅行に出かけたりしていたが、両親と距離を置くようになった今、バカンスの過ごし方で悩むこともなく、仕事が入れば仕事をしていたし、無ければ毎日のように顔を出している教会で子供達と遊ぶだけだった。  バカンスや働き方で悩むことはなくなったノアだったが、まだ具体的なものとしてノアの意識に現れてはいないが、以前とは何かが大きく変化をしそうな予兆を無意識が感じ取っていた。  その変化の一端が、以前ならば一人でふらりと出かけて仕事に繋がるかもしれない写真を撮ったりしていたのにニュージーランドから帰国して以来、仕事以外での写真撮影をしたいという気持ちが薄れてきていることだった。  物心ついた時からカメラを構え、いつしかそれで飯を食っていく、そんな道が当たり前のようにノアの前に広がっていたのだが、今ノアが漠然と感じているのは道を喪ったかもしれないという不安だった。  様々な方法で自己表現をしている人達が高い確率で陥るスランプという状態。それなのだろうかと掌の上で深い緑に光る幸運のお守りを見下ろしつつどういうことだろうなと内心苦笑する。  スランプに対する不安はもしかすると己と同じ道の先を歩き続け、少し前に完全に引退をした父親ならば何かしらの回答をくれるかもしれなかったが、距離を自ら取っている今、相談することに躊躇してしまっていた。  以前ならば何も躊躇することなく父に相談し、それを同じく聞いている母にもアドバイスを求めていただろうが、両親の過去を知った今、昔のように無邪気にそれをすることが出来なくなっていた。  自分だけが両親の愛情を受け取って良いのか。  己に血の繋がった兄がいる事実を知った時からノアの中に芽生えた疑問は、以前までの己の行動を無知故のものと嘲笑い、本当ならば本人が言うように気にしなくても良いはずのことまで気にしてしまうようになっていたのだ。  それを、海のすぐ側に立つ小さいながらも居心地の良い家に住む彼が、お前のせいではないと言葉に出して明確に否定してくれたのだ。  その言葉で救われた気がしたノアだったが、そんな彼と離れ今までいた世界に戻って来た途端、その声を忘れ言葉を疑い出しそうになっていて、頭を一つ振ってバカな思いを弾き出す。 「あなたはどうするの?」  ユリアがノアの様子に小首を傾げつつ問いかけ、作業用のテーブルに尻を乗せて高い場所にある窓を見上げたノアは、バカンスを取るかどうしようか悩んでいると正直に答えながら足を前後に揺さぶるが、口にこそ出さないものの脳裏に浮かんでいるのは、ピクニックをしているようだと感じた庭で寝転がりながら見上げた四つの小さな星で構成されている星座で、今目を閉じて思い浮かぶのも網膜に焼き付いたのかと思うほどの満天の数えきれない星々と、時々ノアを見下ろしては嬉しそうに目を細めている日に焼けたいかつい顔だった。  己がずっと抱え込んで誰にも零すことのできなかった本音を受け止め、お前が背負うべきはお前自身の罪だけだと、ノアの心に重く圧し掛かっていた悩みを軽くしてくれた彼にその後幾度も涙を見せてしまったものの、無理に話題を作る必要もなく、ただ傍にいて同じ星を見上げているだけで、庭の外の海のように穏やかな気持ちになれたのだ。  こんな相手は今までおらず、気が付けば好きになっていたのだが、それをはっきり自覚したのは、非日常を凝縮したような庭から日常に戻らなければならないことを思い出した時だった。  好きだと自覚してもドイツに帰らなければならず、また同性を好きになったのも初めてだった為にどう行動に移せばいいかも分からず、ただただこの居心地の良い庭から帰らなければならない現実に胸が痛んだ。  過去に国外を何度も訪れ、その度にいい場所だったと記憶することはあったが、たとえどれほどその場所の居心地が良くても、頭の片隅には帰国の飛行機や空港で出迎えてくれるであろうリオンとウーヴェの顔が浮かんでいたのだ。  それなのに今回に限って真っ先に思い浮かんだのは、どうして帰らなければならないのかという今まで一度も覚えたことのない疑問だった。  何故己はこの居心地の良い場所を離れて喧騒の中に戻らなければならないのか。  その強烈な違和感はノアがあの日空港に到着した時から芽生えていて、今も腹の奥深くに渦を巻いていたが、仕事で訪れただけだから仕方がないと説得力などまるでない言葉でそれを抑え込んでいた。  バカンスであの国を訪れればその違和感も解消されるだろうかと自問し、根本的な解決には至らないと自答すると、またニュージーランドに行っても良いかもしれないとテーブルを撫でながらポツリと呟く。 「そんなに良かったの?」  ユリアの嘲りと少しの羨望が滲む声に顔を向けたノアは、その声に潜む感情に気付きつつペンダントをきゅっと握ると、自然と口元に笑みを浮かべて彼女の苛立ちを増幅させるようなことを呟いてしまう。 「今までと世界が変わった、そう感じさせてくれた国だったね」  今まで生きて来た世界が実はそれなりに色のある世界だったが、今の己からすれば本当の意味で生きていなかったとも笑うと、彼女が口を開く前に作業台から飛び降りて伸びをする。 「今日はもう終わりだからまた明日頼む」 「……はい」  ノアの仕事の成果であるファイルを棚に戻しつつ悔しいのか羨ましいのか、微妙な表情を浮かべた後小さく頷く彼女が出ていくのを見送ったノアは、俺をライバルにする必要はないのにと肩を竦めてしまう。  同年代や少し年下の同業者−やそれを夢見る人達からすれば間近にいる成功者の見本であり目標であるノアだったが、以前ならばそれなりに切磋琢磨して互いの腕を競ったりしていただろうが、己の感情の全てを曝け出しても揺るがない大地のように受け止め軽くしてくれた奇跡のような存在を知った今、嫉妬や羨望が渦巻くこの世界がただ無性に悲しく感じ、その思いがノアの気持ちから写真を撮るという情熱を奪い去ったのかもしれないと気付く。  写真を撮ること以外これといった特技も無い己が、それに対する情熱を失ってしまったかもしれない不安はノアが思っている以上に混乱を与えていて、今は考えても仕方がないと棚上げするように天井を見上げるが、その時、傍にあったスマホから着信音が流れ出し、画面を見ることなく耳にあてがう。 「ハロ」 『今話をしても大丈夫か?』 「ウーヴェ? ああ、大丈夫だけど、どうした?」  耳に聞こえる穏やかな声にノアの気持ちが一瞬軽くなるが、以前とはまた違う浮上の仕方に小首を傾げつつどうしたと問えば、リオンがさっき出張から帰って来た、面白い土産があるからノアの家に行けと言われたと教えられ、告げられた言葉の意味を理解するのに何度も蒼い目を瞬かせてしまう。 「面白い土産?」 『ああ。俺もよく意味がわからないと言ったんだけどな』  面白いものは面白い、それ以上でもそれ以下でもないと断言されてこれは現物を見るまで答えを教えてもらえない事に気付いたウーヴェが分かったと返事をしたが、一足先にノアの家に行っててくれ、そして可能ならみんなでゲートルートに行こうと口早に告げられたことも教えられて絶句してしまう。 「……うちに?」 『ああ。先に行っておけとしか言わなかった』  だからきっとあいつの言う面白い土産はきみにも関係しているんだろうなと笑うウーヴェの声を聞きながらノアが見たのは、いつかの誕生日プレゼントにリオンが面白半分で贈りつけたラブドールが鎮座しているクローゼットのドアだった。 「……まさか、またラブドールとか言わないよな?」 『流石にそこまでふざけていないと思うが……そう思いたいが……』  己の伴侶が時々常識の範疇を超えた行動をすることをウーヴェは誰よりも知っていて、まさかと思いたいが完全に否定できない事を言葉にすると、ノアもうんと小さく頷いてしまう。 『とにかく、今からクリニックを出る』 「あ、ああ、分かった。気をつけて」 『ああ、ありがとう』  ノアがウーヴェのクリニックに訪れることの逆を思えば遥かに少ない来訪を通話を終えて待つ事にしたノアだったが、メッセージアプリを起動し、己が一昨日送ったメッセージが最後で返事がない事に溜息をついてしまう。  帰国してから毎日のように電話をしたりメッセージを送りあったりしていたが、最初はすぐに返事をくれていた彼もその返事の間隔が開き、昨日などは電話をかけても声を聞くこともできず、メッセージも既読にはなるが返事もなかった。  あの日空港で交わした約束は嘘ではないと思いたい気持ちと、やはり距離が離れてしまえば心も離れてしまうのだろうというある種の真理が脳裏に浮かぶが、そんなことはない、彼はそんな嘘をつくような人ではないはずだ、疑ってどうすると内心で叱咤し、一人きりになるとロクでもないことを考えてしまうから早くウーヴェが来ないかと窓の外へと視線を向けるのだった。  ノアがウーヴェの電話を受けた頃より少し遡った頃、空港から街の中心部へと向かう電車のプラットホームに、真夏のドイツにしては厚着の日に焼けた体格の良い男が、電車を待っているのかそれとも迷っているのか、ガイドブックらしきものを開きながらキョロキョロとしていた。  出張が予想以上に早く終わり、仕事上ではボスでありプライベートでは伴侶の父であるレオポルドが、今日は会社に帰らなくても良いと伝えた為、感謝感激のキスの雨を義理の父に危うく降らせそうになったリオンは、空港で迎えに来た車に乗り込むレオポルドを見送り、自身は電車で帰ると駅に向かったのだが、その時、キョロキョロする男に気付いたのだ。  観光客もビジネスパーソンも沢山訪れる街への入口である空港の為、ガイドブック片手にキョロキョロする人など見慣れた光景だったが、リオンの琴線に触れるものが何かあったのか、さりげなく男のそばに近寄り、ガイドブックに挟まっている栞がわりのポストカードを見て目を丸くする。  それは、天使の階段やヤコブの梯子とも呼ばれる自然現象を写したもので、そのポストカードを作成し名刺がわりに配布しているフォトグラファーを良く知っている為、思わず男に声をかけてしまう。 「ハロ、何か困っているのか?」 「ハロー。……友人の家に行きたいんだが、どの電車に乗れば良いのか分からないんだ」  己の問いかけに驚きつつも、訛りがひどい英語で何とか答えてくれた男の二の腕から見えるタトゥーに一瞬目を奪われたリオンだったが、友人が誰であるかを何となく想像しつつ行き先はと問いかけると、観光客にしては小さなバッグから満天の星空が表紙のブックレットを取り出し、このブックレットにも見覚えがあると己の想像を確定に変える。 「これを作った友人なんだ」 「────あんた、もしかしてニュージーランドから来た?」  男が命の次に大切だと言いたげな丁重な手つきでリオンにブックレットを見せるが、それを見たリオンがニヤリと笑みを浮かべて問いかけると深い海の色に似た双眸が見開かれ、どうして分かったと同じくぶっきらぼうな声が疑問をぶつけてくる。 「テッドだよな」 「!?」  初めて訪れた街で初めて出会った男に名を呼ばれてただ驚きに目を見張った男、テッドは、警戒心を露わにしつつそうだがと返事をすると、ニヤリと笑ったリオンがテッドの腕を軽く叩き、あんたの友人なら良く知っているから案内してやると頷くが、当然ながらテッドの警戒心が解けるはずもなく、ああと笑って手を差し出す。 「あんたが探してる友人ってフォトグラファーのノアだろ?」 「!!」  ニュージーランドからはるばるようこそと、驚きに目を見張るテッドの手を握り、ノアの家を探しているということはここに来ることをあいつに話していないのかと笑うと、ようやくテッドの顔から警戒の色が薄れ、リオンの顔をまじまじと見つめた後、安心したような息を吐く。 「……確かにノアと良く似てるな」  さすがは兄弟だと笑いながらリオンの手を握り返した瞬間、今まで笑みが浮かんでいた顔から一瞬表情が消え、その顔もノアにそっくりだなとテッドが目を丸くする。 「……ノアから聞いたのか?」  それ以外にありえないと思いつつ自分達の関係を聞いたのかと無表情に問いかけるリオンにテッドが肩を竦めたかと思うと、ステッキを使っているもう一人の男と一緒の写真を見せて貰った、大切な友人であり兄だと言っていたと答えると、リオンが長い息を吐いて顔を上げた後、さっきとは何かが違う笑みを浮かべてテッドの肩に腕を回す。 「……よろしくな、テッド」 「ああ」  その距離感のなさに驚きつつも不思議と嫌な感じを覚えなかったテッドだったが、このブックレットを一目見てどうしても顔を見て直接礼を言いたくなった、だから今日ここに来たと、照れたように口早にここにいる理由を口にすると、リオンがそうかと頷きつつスマホを取り出すのを見守ってしまう。  そのスマホの画面には車のボンネットに腰を下ろすブロンドと白か銀の髪をした二人の男の背中が見え、彼らが見ている先には向日葵らしき花畑が広がっているのも見え、一瞬で脳裏に焼き付いたその画面だが、それを写したのがノアであると確信をしたテッドは、リオンが満足そうに通話を終える直前にスマホにキスをしたことに軽く驚いてしまう。 「俺のダーリンにもノアの家に行けって言っておいた」 「確かウーヴェ、だったか?」 「……あいつどこまで話をしてるんだよ」  写真も見せているし名前も伝えているのかと笑うリオンの顔は楽しそうなもので、話をしていることに対して不満を覚えているわけではないと気付いたテッドが、本当に仲の良い二人だと話していたと答えると、リオンが驚いたようにテッドを見つめるが、破顔一笑という言葉がふさわしい表情になる。 「ノアの家に行ってあいつを驚かせようぜ」  あんたがここに来ていることを知らないのだから飛び上がって驚くぞと笑うリオンにテッドも似たり寄ったりの笑みを浮かべてしまうが、突然来て怒っていないだろうかと一抹の不安を口にする。 「大丈夫だろ」  好きな人が突然目の前に現れて怒るやつなんてそうそういないと笑われて胸を撫で下ろしたテッドは、ここでリオンと出会えた偶然を神に感謝しつつ到着した電車に乗り込もうとするリオンの後に着いて行くのだった。  リオン曰くの面白い土産に期待半分恐怖半分を抱いていたノアは、一足先にやって来たウーヴェにいつものディレクターズチェアを示して座ってもらい、己は作業台に腰を下ろして片膝を抱え、癖になっているペンダントを掌に載せて手触りを楽しんでいた。 「そのペンダント、随分気に入っているな」 「え? ああ、これ、幸運のお守りってテッドがくれたんだけどさ」  本当に幸運のお守りのようで、帰国して以来仕事が途切れないしメディアにも取り上げられることが多くなったと笑い、立てた膝に顎を乗せて小さく笑う。  一昨日送ったメッセージへの返事も電話へのそれもないが、ウーヴェがいることで意識を逸らして悪い方へと物事を考えなくて済んでいた。  一人だと絶対に悪い方へと考えていたと内心感謝しつつ、ニュージーランドで仕事をするまでは頭の片隅にいつもあの夜のウーヴェの泣き顔が浮かんでいたことも思い出す。  リオンが己の存在について両親について悩み一人家を出てしまった時、帰りをただ信じて待っていたウーヴェの心が疲弊し、リオンに良く似た己と関係を持って心の均衡を保とうとした夜、ノアも己がリオンの代替であることを理解しつつウーヴェを抱いたのだ。  その夜以降、ノアの脳裏ではウーヴェの顔が消えることはなかったのだが、帰国してからは思い出さない限りは出てこないことに気付き、まじまじとウーヴェの顔を見つめてしまう。  端正ないつも穏やかな笑みを浮かべているウーヴェだが、以前とは何かが決定的に違う気がし、彼が変わったのではなく己が変わったのだと気付いたノアは、どうしたと問われてゆるく首を左右に振る。 「何でもない」 「そうか?」 「うん、そう」  ノアの言葉をそれ以上追求せずに頷いたウーヴェが何か口を開こうとしたその時、作業スペースと玄関を仕切っているパネルの向こうから何かを殴りつけるような音が響き渡り、突然の物音にノアが作業台から飛び降りて思わずウーヴェの真横へと移動するが、ウーヴェはといえばチェアの上で頭痛を堪えるようにきつく目を閉じていた。 「ウーヴェ?」 「……大丈夫だ、ノア」  リオンが到着したんだろうと呟き、家主の代わりにどうぞと声をかけると、ハロという陽気な声が響き渡り、仕切りのパネルの向こうからひょっこりとノアによく似た顔が突き出される。 「リオン!!」  驚くからもっと静かに入って来てくれと、ノアが目を釣り上げて不満を訴えようとするが、リオンの後ろに誰かがいることに気付いて誰かいるのかと問いかけると、それには何も答えずにリオンがウーヴェのチェアの後ろに回り込んでそっと抱きしめる。 「お前に客だぜ、ノア」  ちなみに面白い土産というのはその客のことだと笑ってウーヴェの白とも銀ともつかない髪にキスをしたリオンの言葉にどういうことだとノアが眉を寄せるが、パネルの影から遠慮がちに入ってきた人の姿に絶句し石像か何かのように固まってしまう。 「……リオン、まさか」 「さすがダーリン。そのまさかだ」  ノアの驚く背中と、そんな彼の前に不安そうな表情を厳つい日に焼けた顔に浮かべたテッドが近づくのを見守っていたウーヴェは、背後のリオンの頭を撫でるように手を後ろに伸ばすと、リオンがさすがと褒めつつウーヴェの頬にキスをする。 「空港でノアのポストカードを持ってるのを見かけて声をかけた」  そうしたらブックレットの礼を直接言いたくてニュージーランドからやってきたことを教えられ、テッドだと分かったとウーヴェに事情を説明したリオンだったが、現実なのかと確かめるようにノアがぎこちなく振り返った事に気付き、大きく頷く。 「────!!」  リオンとウーヴェが見守る前、目の前にテッドがいる現実を受け入れたノアは、テッドがバッグを床に置くと同時に一歩を踏み出したかと思うと、シャツの胸元を握りしめて少し高い位置にある厳つい顔を見上げる。 「ブックレットの礼を直接言いたかった」  だから黙ってやって来たが怒っているのかと、テッドがリオンに告げた不安を口にするとノアのくすんだ金髪が激しく左右に揺れるが、一度大きく口を開いたかと思うと、泣き笑いの顔になってテッドの顔を抱え込むように腕を回して抱きつく。 「────逢いた、か……っ!」  帰国して季節が進み真夏になってしまったが、いつでも逢いたかった、画面越しの会話や声だけや文字だけのやり取りだと寂しかったと、途切れ途切れの本音を素直にテッドにぶつけると、それをノアの体ごとしっかりと受け止めたテッドが頷き、俺もだと短く返す。  地球の北と南で時間も季節も違う国に離れ離れになりながらもそれでも互いを信じて想いを交わして来た二人の再会を目の当たりにし、何か新鮮だなと声を潜めて笑いあっていたが、今日は一緒に飯を食うのは無理だろうから明日ゲートルートに行こうぜとリオンがウーヴェの頬にキスをしつつ囁くと、確かになぁとウーヴェ自身も覚えのある感情から微苦笑する。  再会を果たした恋人たちが抱擁しキスをするのを微笑ましい顔で見守っていた二人は、まさかあんな顔でテッドに抱きつくなんてと後日盛大にノアを揶揄うのだが、今はそんな野暮なことはせずにただ静かに見守っているのだった。   
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