冬の休日の朝、冬の割には風は冷たくなくて、庭の洗濯ものも良く乾きそうだった為、パラソル型の物干しにバスタオルなどを干して風にはためかせていると、開けておいた掃き出し窓から軽快な足音を響かせながらデュークが庭に出てくる。
芝生の上に座り込んで両手を広げ、来い、デュークと呼びかけると、一瞬デュークが足を止めるが後ろ足で床を蹴って飛び上がる。
「ワンッ!」
嬉しそうな声がひとつ庭に上がり、その声に負けないような笑い声が後を追って冬の空へと舞い上がる。
「ははは、こら、デューク、くすぐったいぞ!」
芝生の上に背中から倒れこみ、尻尾をぶんぶん振りながら顔を押し付けるデュークの顔をわしゃわしゃと撫でまわしたリアムだったが、楽しそうにガウガウと吠えるデュークの口元にリアムが腕を持っていくと、吠える代わりにぱくっと腕に噛みつく。
だがリアムの顔は笑ったままで、それが甘噛みであることを教えていて、片手でデュークの首に腕を回して芝生に転がすと、腹を見せながらデュークが舌を出して荒い息を吐き始める。
毎朝自身のトレーニングも兼ねた散歩で運動させているが、夜はやはり毎晩散歩に行くことは難しく、その代わりではないが、リアムが自宅でトレーニングをするときに一緒に出来る様に犬用のトレッドミルを購入し、一緒に走っているのだ。
だがそれでもやはりジャーマンシェパードという犬種にとっては運動不足になりかねない為、休日にはこうして庭でおもちゃを使って遊ぶことにしているが、芝生の上をゴロゴロと転がっていると、何をしているんだと呆れたようなため息交じりの声が降ってくる。
「ケイさん」
デュークを片腕で抑え込みながら見上げたのは、寝起きであることを教えてくれる冬用のガウンに体を包んだ慶一朗で、おはようと笑顔で挨拶をすると、目の前にしゃがみこんでおはよう、芝生まみれの王子様と笑いながら髪を指ではじかれる。
「ワンッ!」
「おはよう、クレバーボーイ」
リアムの腕の下から抜け出したかと思うと逆にその背中に座り、胸を張って慶一朗に朝の挨拶をするデュークの鼻の頭に音を立ててキスをすると、慶一朗だけではなくデュークにまでクッション代わりにされているリアムが拗ねたように頬を膨らませる。
「どうした?」
「……俺はまだおはようのキスをしてない」
その言葉はただただ子供じみたものだったが、いつ頃からか自分にだけは見せるようになった顔だと気付いた慶一朗が、はいはいと呆れたように呟きつつもリアムの髪にキスをした後、膨らんでいる頬にもキスをする。
「もうモーニングは食ったのか?」
「うん、食った」
そろそろランチの準備をしようかと思っていた所だと、腹這いになっていた芝生に身体を起こしたリアムの背中からデュークが転がり落ちて不満の声を上げるが、慶一朗が同じように横に座ったことに気付き、甘えるように頭を擦り寄せる。
「あ、こら、デューク、押すな」
脇腹に頭を押しつけられて鼻先でぐいぐい押されてしまい、寝起き故にまだまだ力が入らないからか、慶一朗がデュークに押し倒されて両足を高く上げて芝生に倒れてしまうが、ガウンの裾が捲れ上がって白い内腿が冬の日差しに照らし出される。
「……」
「デュークぅぅぅ!?」
勢いよく起き上がった慶一朗が地の底から湧き出たような声でデュークを呼び、その声にデュークがすぐさま安全地帯であるリアムの背後に回り込むと、身体の横から上目遣いで慶一朗を見つめる。
「出てこい、セクハラボーイ!」
「キャウン!!」
己の身体を挟んだ前後でドイツ語と犬語でキャンキャンと言い合う二人に何も言わなかったリアムだったが、肺の中を空にするような溜息を吐いた後、何も穿いていないケイさんが悪い、Tバックでも何でも良いから穿いてくればどうだと胡座をかいた腿で頬杖を突きながら呟くとじろりと睨まれてしまう。
「何か言ったか、ハニィ?」
「……さっきシャワーを浴びたんだろう?」
そのままだとまたバスルームに逆戻りになるぞと笑うリアムの言葉に慶一朗が考え込むように眉を寄せ、何かに気付いたのかガウンの裾を手で押さえるが、裾がはだけた拍子にリアムに見られていた事に気付き、休日の朝だぞと少しだけ目尻を赤く染めてしまう。
「……見せるあなたが悪い」
こう見えて俺はあなたが大好きで仕方がない成人男性なんだ、目の前で内股を曝されたら興奮してしまうだろうと、リアムがにやりと笑って慶一朗を見ると、首筋まで顔を赤く染めた慶一朗が奇妙な声を口の中に溢れさせる。
「俺は悪くない! 悪いのはデュークだ!」
止めろと言ったのに押し倒したデュークが悪いと、リアムの背後から出てこないデュークを指さした慶一朗のその手を取ったリアムが手の甲に口付け、そのまま首筋に顔を寄せてそこにも口付ける。
「……っ!」
男の顔を強く感じさせるそのキスに慶一朗の背筋が震え制止の声を上げようとするが、漸く持ち上げることが出来た手でリアムのシャツの背中を握りしめることしか出来ず、再度芝生に押し倒されそうになった時、一声吠えたデュークがリアムのシャツの裾をぐいと引っ張る。
「……分かった分かった」
止めるから引っ張るなとリアムが苦笑し、身体を起こした後に慶一朗の手を掴んで同じように座らせる。
「セクハラ王子と公爵め!」
座り込んだ慶一朗がリアムとデュークに向けて舌を出すが、以前から学習したことを教えるように罵詈雑言を吐くことはなく、腹が減ったと盛大に声を上げ、うん、ブランチにしようかとリアムが立ち上がり慶一朗に向けて大きな手を差し出す。
その手を一つ叩いた後に握りしめ、立ち上がった勢いでリアムに抱きつくと、腰に腕を回してしっかりと抱きしめられる。
「……ブランチ、好きなものを作るから……」
これから良いかと問われて再度背筋を震わせた慶一朗は、足下に擦り寄ってくるデュークの頭を片手で撫で、もう片手でハニーブロンドをそっと撫でる。
「ブランチは軽いもので良い」
その代わり、ディナーはバーベキューで秘蔵のワインを開けるぞと笑うと、了承のキスが再度首筋に落とされる。
キスマークを付けて仕事に行くなど絶対に拒否することだけは伝えると、勿論と同意をした後に膝の裏に腕を通されて横抱きにされてしまい、こらえ性のない王子様だと笑うと煽ってきたケイさんが悪いと笑み交じりに返され、デューク、中に入るぞと呼びかけてリビングに入る。
「今からリアムと仲良くするから上に来るなよ」
デュークにそう告げると、少し考え込んだ後に尻尾が拗ねたように下がるがそれでも左右に揺れ、出てきたばかりのベッドルームに行くぞとリアムに命じるのだった。
心身共に満足するまで仲良くした二人だったが、夕方までベッドで眠っていた慶一朗をリアムがいつもより張り切ってバーベキューの準備をした後に起こし、庭に準備されたそれに慶一朗の腹が盛大に音を立てる。
慶一朗が好きな肉やソーセージを焼き、デュークの分も同じように焼いたリアムだったが、慶一朗がリクエストしたワインを開けると、いつもと同じように椅子を並べて焼き上がったそれとワインのディナーを始める。
そんな二人の横では、リアムが程良く焼いた味付けをしていない肉を与えられたデュークが嬉しそうに尻尾を振りながら齧りついているのだった。
そんな穏やかな休日を、冬の空に光る星が見下ろしているのだった。
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