今日は何故か階段を使って恋人の家に向かいたい気分だった。
その理由が分からなかったが、それでも己の心が浮かれた気持ちを全身に伝えた為、足取りも軽く5階にたった一つだけ存在する家に向かってコンクリートの階段を駆け上る。
その手には恋人御用達のブランドの袋と、これまた彼が愛してやまない国内でも名の通ったワイナリーが自信を持って販売している白ワインをクリスマス用にラッピングしたものと、デパートか何処かの使い回しされた紙袋が握られていた。
鼻歌交じりに階段を苦もなく登りきり、真鍮のドアノブを見つめた後、滅多に押すことのないボタンを力一杯押し続ける。
「…………うるさいぞ、リオンっ」
「ハロ、オーヴェ!」
眼鏡の下で碧の目を険しく光らせ、いい加減にしろと言いたげな顔でドアを開ける恋人に満面の笑みを見せた彼、リオンは、いつもの挨拶をいつもの笑顔で告げた後、痩躯に腕を回して仕事の疲れを吹き飛ばすようにしっかりと抱きしめる。
「逢いたかった」
「………寒いから早く中に入れ」
俺も逢いたかったとは素直に返してくれない恋人に不満を抱くが、言葉ではなく腰に回された腕がそっと力を込めて身体を引き寄せたことに気付き、それだけでも満足したリオンが言葉通りにドアを閉めてウーヴェの額に口付ける。
「マザーが俺たちにって、シュトレンをくれた」
「そうなのか?」
クリスマスイブを迎えるまでの間のアドヴェントごとに食べる習慣があるシュトレンだが、誕生日と同じでクリスマスを祝う事のないウーヴェはそれを食べる事も止めてしまっていた。
その為に買い求める事を忘れていたのだが、リオンはと言えば育った孤児院が教会に属していた為か、教会に深い関係のある行事に関しては一通り行う事が習慣になっているらしく、シュトレンを買っていないと知った時の落ち込み振りを思い出し、ついくすりと笑ってしまう。
「ん?何かおかしな事を言ったか、俺?」
「何でもない。後でコーヒーと一緒にいただこうか」
「ぃやっほぃ!」
お互いの腰に手を回そうとするが、リオンの両手には荷物がぶら下がっていてそれが出来ず、僅かに覚えた不満から荷物を一つ取り上げたウーヴェは、驚く恋人に目を細めてしっかりと片腕を回して身を寄せる。
「この後ミサをするから来いって」
ここに来る直前、渡すものがあるから帰っていらっしゃいと連絡を受けたリオンは、仕事が終わった後一目散にホームに自転車を飛ばし、暖かな笑顔で出迎えてくれたマザー・カタリーナと憎まれ口を叩きながらもそれでも優しく出迎えてくれたゾフィーからプレゼントの袋を手渡され、この後の予定を聞かされたのだ。
「……リオン、俺は…」
聞かされたその言葉に申し訳なさそうに目を伏せ、自分はミサには行かないと言いかけた時、そっとリオンが顔を寄せてその言葉を吸い取るようにキスをする。
「…知ってる。だからシュトレンとプレゼントを貰ってきた」
毎年出席しているミサだが今年は出られないと思うと、目を瞠る二人の女性に欠席する旨を伝えたリオンの脳裏に浮かんでいたのは、穏やかな顔をしながらも自らの決め事を守り通す強さをもつ恋人の端正な横顔だった。
その横顔を今も間近に見ていたリオンはもう一度ウーヴェの唇にキスをし、二人分のシュトレンを貰ってきたと笑顔で紙袋を突き出す。
「随分と大きな袋だな」
「んふー。俺がシュトレン大好きなの、マザーは知ってるからさ」
貰ってきたシュトレンの形と同じように目を細めるリオンを不気味なものを見る目つきで見たウーヴェは、何だよその目はと瞼を真っ平らにする恋人に無言で肩を竦め、何でもないと言いきろうとするが、何かを察したリオンがこの野郎と吼えると同時にウーヴェの耳朶に噛みつくようなキスをする。
「こらっ!!」
くすぐったいから止めろとリオンの頭を押し退けようとしたウーヴェは、ぺろりと耳朶を舐められた後くすくすと笑い声を上げる恋人に気付いて目を細めるが、鼻息で不満を現した後くすんだ金髪を軽く引っ張る。
「ぃてっ」
「白ワインを買ってきてくれたんだろう?」
「お前の好きなフランケン産だぜ」
「ダンケ、リーオ。愛してる」
リオンがワインボトルを掲げて片目を閉じた為、にっこりとそれはそれは綺麗な笑顔を浮かべたウーヴェがボトルを受け取り、ラッピングが施されたそれにキスをした後、何食わぬ顔をしながらも心の中ではキスを待ち侘びているリオンの頬に小さな音を立ててキスをする。
「オーヴェ、腹減った!」
「はいはい」
廊下で一頻り戯れた二人は、お互いが空腹であることを思い出すと、再び腰に腕を回してキッチンへと向かい、ささやかな二人だけのディナーを楽しむのだった。
ささやかな二人だけの食事を何故か賑やかなものにしながら終えた二人は、お互いが相手を思って買ったプレゼントをリビングのテーブルに並べ、食事時に飲まなかった白ワインを楽しんでいた。
去年のクリスマスプレゼントのテディベア、名前はレオナルドの大きな身体に半ばもたれ掛かるように座っていたウーヴェは、無くなったワインを名残惜しそうに見つめた後、気分を切り替えるようにプレゼントの袋をリオンの前に差し出す。
「開けるぜ、オーヴェ?」
「ああ」
心底楽しみにしている事を顔中で表現したリオンが乱雑にラッピングを剥がし、出てきた箱に描かれたロゴを見て軽く目を瞠る。
「オーヴェ、これ…」
「開けて見ればどうだ?」
ラッピングを破くだけで満足なのかと、リオンを驚かせたことに対する優越感に顎で指し示せば、そっと蓋を取ったリオンの顔が見る見るうちに赤みを帯びていき、青い眼がじろりとウーヴェを睨み付ける。
「オーヴェぇ!?」
「………嬉しくないか?」
「これの為だけにブッテロの箱を取り寄せたのか!?」
リオンが捲し立てる箱の中に鎮座しているのは、いつかオルガと話をしていた時に思いついた子供向けの、いわゆるお菓子が詰められた赤い布地に白いファーがぐるりと縁取ってあるブーツだった。
呆気に取られた瞬間の顔が面白くてソファの上で膝を抱えてくすくすと笑いだしたウーヴェにリオンが眉を上げてこの野郎と一声吼えたかと思うと、そのままソファに押し倒す。
「こらっ!!」
「うるせぇ!」
俺は何処のガキだと吼えるリオンについに声を立てて笑ってしまい、更にリオンの目を吊り上げさせたウーヴェは、いい加減にしないと本気で機嫌を捏ねることに気付き、咳払いを一つするとリオンの尖った唇に小さな音を立ててキスをする。
「冗談だ」
「笑えねぇ!」
「リーオ。────本当のプレゼントはそこにある」
テーブルの下に隠してあると、リオンの鼻先や頬、顎にキスをしながら目で伝えれば、ムスッとしながらもテーブル下に手を伸ばしたリオンが袋を引っ張り出してくる。
無造作に袋を縛っているリボンを解いて中を見た後、笑みを浮かべるウーヴェを見下ろし、もう一度袋の中を確認するとそっとそれを取りだして掲げる。
「…マウンテンブーツ?」
「ああ。気に入ったか…?」
リオンの腕を掴んで身体を起こしたウーヴェは、内心の緊張を押し隠しながら軽い口調で問い掛けるが、返ってきたのは返事ではなくキツイぐらいのハグだった。
「ダンケ、オーヴェ!!」
何時かは一足は欲しいと思っていたブーツだと教えられた後、ぐりぐりと頭を肩口に押しつけられてくすぐったさに身を捩る。
「大丈夫だと思うが、履いてみろ」
「うん」
嬉しさを隠さないで新しいブーツを床に置き、荒っぽいがそれでも丁寧に紐を緩めて足を突っ込んだリオンは、両足でしっかりとブーツの履き心地を確認した後、ウーヴェの前に膝を着いて端正な顔を見上げる。
「…最高。ダンケ、オーヴェ」
去年貰った時計も今ではそれがあって当たり前のように己の腕に馴染んでいるが、このブーツもきっとあっという間に己の足に馴染むだろうと囁き、満足そうに目を細めるウーヴェの唇にキスをする為に僅かに伸び上がる。
「……ん」
「俺のは…これ」
キスに少しばかり気を持って行かれている様子のウーヴェの前に袋を差し出したリオンは、お前のように立派なものは買えないが、それでも必死に選んだプレゼントを気に入ってくれるかどうかを知る緊張の瞬間を何とかやり過ごそうと捲し立てるが、ウーヴェがそっと片手を立ててリオンの唇に指先を宛がった為に沈黙が生まれる。
袋から丁寧に取り出してラッピングも丁寧に丁寧に解いていったウーヴェは、化粧箱から取り出したマフラーに目を細め、両手で捧げ持つようにした後、無言のまま首に巻いて温もりを確かめる。
「────リーオ」
「うん」
くるりと首に一巻きした後、見上げてくるリオンの頬に手を宛がい、今日リオンが見た中では最高に綺麗な、まるで花がふわりと開くような笑顔を浮かべたウーヴェは、頬から髪の中へと手を移動させるとソファから滑り落ちるようにリオンに身を寄せる。
危うくテーブルに衝突しそうになるのを何とか堪えたリオンは、気に入った事を示す様な吐息と謝罪の言葉をしっかりと受け止め、このマフラーを購入する時に経験してしまった嫌な出来事が昇華されていく事に気付く。
このマフラーはウーヴェ御用達のブランドで買い求めたものだったが、休日を利用して買いに出かけようとしたリオンは、店に入る寸前に中にいた店員から思い切り胡乱な目でじろじろと見られて居心地の悪い-どころではない思いをしてしまったのだ。
だがどうしてもこのブランドのマフラーが欲しかった為、数日後、オルガに無理を言ってリベンジを果たすように店についてきてもらい、ディスプレイされていたマフラーを買い求めたのだ。
あの時の店員の目つきとあからさまにリオンを見下すような視線だけは絶対に忘れる事が出来ないと、今思い出してもはらわたが煮えくり返りそうだが、こんなにも喜んで貰えるのならば忘れても良いと内心で苦笑する。
「ありがとう、リオン」
本当に気に入ったと、カシミア素材のグレーのマフラーの端を掌に載せて満足そうに吐息を零したウーヴェは、そっとリオンの身体を床に押し倒すとその上に寝そべって額に口付ける。
「青もあったんだけど、赤の方が良いかなって…」
グレーのマフラーが濃淡のある赤系の糸で格子模様に織られてあり、所々にグレー地が顔を出している。
そんなデザイン性のあるカシミアのマフラーだったがきっと赤系も似合うと思うと自信無さそうに笑ったリオンは、巻かれていたマフラーが弾みで解けたことに気付いてウーヴェを座らせるともう一度白い首にふわりと巻き付ける。
首に痣を持つウーヴェが不意に恐怖心を抱かないように滑稽なほど慎重な手付きでマフラーを巻いたリオンは、己の見立て通りに似合う事に安堵の吐息を零し、似合っていると笑みを浮かべる。
「Frohe Weihnachten、オーヴェ」
「ああ」
メリークリスマスと互いに言い合い、そっとそっと触れるだけのキスを交わした二人は、互いに貰ったプレゼントを身に着けている事に気付き、一頻り笑いあった後明日から早速使おうと決めて今はそれぞれの箱に戻しておくのだった。
敬虔なキリスト教の信者であれば教会で行われるミサに出席したり、またキリスト教を信仰していない人達であれば家族や親戚らと供に暖かな食卓を囲んでいる聖なる日を明日に控えた夜、ウーヴェの広い自宅ではリオンと二人きりの静かな、だがどこの家庭にも負けない暖かさが満ちた時を過ごしていた。
ミサには行かない為にリオンが持参したボードゲームで過ごし、飽きてくればこれもまたリオンが持って来たシュトレンを切り分けて濃い目のコーヒーとともに楽しんだ。
こんな風にクリスマスイブを誰かと過ごした事など何年ぶりだろうかと、去年は初めてのクリスマスイブだった為に結構賑やかだった事を思い出しながらソファに深く腰掛けて穏やかな笑みを浮かべたウーヴェは、己の腿に腹這いになっているリオンの髪を無意識のように手で梳いてその手触りの良さを確かめていた。
二人で楽しく食事を終えてその後のプレゼント交換も賑やかなうちに終えた二人は、リビングにあるテレビから小さく流れる今の時期に相応しいクラシック音楽を聴いていた。
ぱちぱちと暖炉で木が爆ぜる音が響き、手遊びしていた髪にキスをする為に身体を折ったウーヴェは、猫が伸びをするように背中を反らせたリオンに苦笑し、ベッドルームを暖めてくると告げて立ち上がろうとすると一足先に立ち上がったリオンに手を取られて引っ張られてしまう。
「リオン?」
「────シャワー浴びて来いよ」
リオンの言葉に秘められたものを察したウーヴェは、暖炉の火の始末を頼むという言葉とキスを残してリビングから足早に出て行くが、ベッドルームにあるバスルームへと駆け込むと恋人の気遣いに感謝しつつ手早く事を済ませる。
男女であれば不要な行為かも知れないが、悲しいかな自分達は同じ性を持つ男だった。
その為にしなければならない事がいくつか存在し、リオンを思う気持ちからついつい神経質になってしまうウーヴェは、事を済ませて気分を切り替えるようにシャワーを浴びた後、お気に入りのバスローブの袖に腕を通すが、洗面台の棚に二つ並べて置いてある同じブランドだが違うラインの香水に目を細める。
付き合い出して半年が過ぎた去年のちょうど今頃、初めてリオンがこの家にやって来てキスから先の関係になったのだ。
付き合い出して半年もの間、ただ手を繋いでキスをするだけのまるでティーンのような付き合いをしてきたが、お互いが抱えている過去の一端をさらけ出すようになり、より深く互いを知る為に些細な口論や大喧嘩に発展しそうなそれを何度も重ね、その度にまた繋いでいられるように手を取り、以前よりもより強く深く繋がっていられるようになった。
そんな自分達だからこそ起こった問題や、互いを想う気持ちがあればこそ乗り越えられた問題を振り返り、同じ過ちは繰り返さないようにしようと己を戒めると、いつも付けている香水ではなく恋人の為に買い求めたそれを頭上に向けて吹きかけ、降り注ぐ霧状のそれを身に纏うとバスローブの襟を整えてバスルームを出ようと振り返る。
「…そうやって香水を付けるんだ?」
いつの間にかドアが開けられ、開いたドアにもたれ掛かって腕を組んでいたリオンが興味深げに顔を突き出した為、時々こうすると肩を竦めたウーヴェは、笑みを浮かべたまま近寄るリオンに目を細め、匂いを確かめる様に胸元に顔を寄せられて目を閉じる。
「あ、俺の香水使った?」
「……ああ」
ウーヴェの身体から仄かに立ち上る香水とは違う匂いがした事に気付き、確認するように問い掛けたリオンの言葉に短く返したウーヴェは、己の身体がふわりと浮いた事に慌てて目の前の首にしっかりと腕を回して身体を支えてしまう。
「リオンっ!!」
「────イイか?」
その問いが何を意味するのかを咄嗟に理解出来ずに青い眼を見下ろしたウーヴェは、ホテルのスイート並の広さを誇る洗面台に座らされたことに気付いて抗議の声を挙げようとするが、あっという間にバスローブを肩から落とされて素肌を露わにさせられてしまい、抗議の声が喉の奥で籠もってしまう。
結果的にはバスローブの上に座っていたが、そっと口付けられ露わになった胸にもキスをされ、あっという間に両足を肩に担がれてしまい、背後に倒れるのを避ける為に手を着いたウーヴェににやりと笑みを浮かべたリオンは、下着を着けていなかった為に曝されている色素の薄い繁みにキスをし、微かに震えるそれを躊躇うことなく口に入れると肩に担いだ足がぴくりと跳ねる。
バスルームに濡れた音が谺し、聞こえる音から羞恥を煽られていたウーヴェは、後ろに着いた両手を握りしめ、次第に大きくなる快感に頭を仰け反らせる。
バスルームでこんな風に愛撫され抱き合う事は時々あったが、その時に感じる快感と同じ顔をしながらも何かが違うそれを受け止めていたが、何が違うのかが理解出来ずにただ与えられる快感に堪えきれずに声を挙げて片手を額に宛がえば、名を呼ばれたことに気付いて恐る恐る視線を下げていく。
「────お前の、最高」
いつも抱き合う時には早くに中に入りたい為にあまり口でする事は無いが、こうしてお前の顔を見ながら出来るのも捨てがたいと男臭い顔で笑われてしまうだけで瞬間的に顔に血が上ってしまうのに、先にチュッと小さな音を立ててキスをされ先を愛撫されて腰が揺れてしまう。
「…リオン…っ、も…ぅ…!」
「ん?どうした?」
子供のように嫌だと頭を振り、髪の白さが映えるような赤さを増した顔で懇願されればリオンとしてもガマン出来なくなりそうだったが、身体を引き寄せれば呆気ないほど簡単に背中が洗面台に倒れ込む。
「────っ!!」
「あとちょっとな、オーヴェ」
あと少し、この場所での行為を楽しませてくれと笑み混じりに告げてウーヴェのこめかみにキスをしたリオンは、すっかりと形を得てリオンの唾液か自身のものかも判別が付かない滑りに光るものを再度口に迎え入れ、跳ねる足を肩と手で押さえつけて快楽の果てに追い上げるのだった。
ぐったりとするウーヴェを子供の様に抱き上げて肩に懐かせたままベッドに向かったリオンは、ゆっくりと体をシーツに沈ませてそっとキスをする。
一度快感を極めた身体にはキスだけでも新たな刺激になるらしく、無意識のように膝が立てられて己の身体を挟まれたことにリオンは気付くが、目を細めて今度は深く深く呼気すら奪うようなキスを繰り返すと、それに応えるように顎が上がり、鼻から抜けるような呼吸が二人の間に零れ落ちる。
「…ん……っ、ハ…ッん──ッ!」
息苦しさに負けて顔を背けたウーヴェの顎を捕まえ名を呼びつつ瞼を持ち上げさせたリオンは、欲と情が滲むターコイズを真正面から見下ろしながら呼吸を止めそうになる。
快楽に染まっていてもしっかりと見据えてくる碧の目を一度でも覗き込めば、二度と目が離せなくなる。
一目惚れをした時の事を思い出してもう一度名前を呼んで目を覗き込んだリオンは、至近にある双眸に強い光が浮かんだのを見た刹那、ガマン出来ないと小さく吐き捨てて白い首筋に顔を埋めるように擦り寄せる。
「ん…ン…ッ!!────ッゥ…!」
ウーヴェの喉の奥に籠もるような声にも気付かずにリオンがむしゃぶりつく様に顔を寄せ、白い首筋に舌を這わせた後勢いで軽く噛みついてしまう。
その場所が様々な意味でウーヴェの急所である事を理解していたが、艶を含んだような唇や欲の滲む双眸を見てしまえばガマンなど出来ず、日頃の気遣いすら忘れ去って荒々しい抱き方をしてしまう。
「リ…オン、リ…ッ、ぃ…アァ…っ!」
言葉にならない途切れ途切れの音がリオンの耳に流れ込んだ瞬間、消え去ってた理性が僅かに戻ってきたのか、慌ててリオンが顔を上げてウーヴェを見下ろせば何かを堪えるように唇を噛みしめて顔を背けていた。
「オーヴェ…ごめん」
「────リーオ…っ」
今こうして首筋に顔を埋めているのも、息を吹きかけているのも誰だか十分に理解しているが、身体はやはり昔の恐怖を覚えているのだと申し訳なさそうに目を閉じて謝るウーヴェの前髪を掻き上げて額にそっと口付けたリオンは、謝るのは自分だと告げて言葉通りに謝罪をし、許しを請うように噛みしめられた唇にそっとキスをすると、その願いを叶えるようにキスに応えたウーヴェがリオンの首に腕を回してしっかりと抱き寄せる。
「もう…大丈夫だ」
だからこれからは裡から焼き尽くすような熱をくれと、青い石のピアスが嵌る耳に囁きかけて目を閉じれば、その言葉に従うように熱を持ったキスを何度もされてその度に心地良い熱に浮かされた様に声を挙げ、触れ合った場所から伝わるそれを逃さないように広い背中に腕を回し足を絡めると、最奥を突き上げられて背中を撓ませる。
そして訪れた白熱の瞬間をほぼ二人同時に迎え、青と碧の双眸に互いの貌を映しながら頂点に手をかけ、直後に二人同時に失墜感に襲われるのだった。
嵐のような時が過ぎさった後の穏やかに凪いだ様な時の中、何とか呼吸を整えたウーヴェは、リオンが恭しい手付きで身体をいつも以上に綺麗にして行く事に気付き、ありがとうと小さく呟く。
「はいはい、気にしないのー」
てきぱきとウーヴェにだけ見せる手早さで互いの身体を清め終え、コンフォーターを二人の上にすっぽりと被せたリオンは、ごそごそと寝返りを打ったあと背中をリオンの胸にくっつけるように身を寄せてくるウーヴェに気付き、苦笑しつつそっと抱き寄せる。
「…リオン」
「ん?どうした?」
小さな小さな声で名を呼ばれ、自分に比べれば薄い肩に顎を載せてどうしたと囁けば、躊躇いを振り切るような声で誕生日おめでとうと囁かれる。
「オーヴェ…」
「おめでとう、リオン。…あのブーツを気に入ってくれてありがとう」
顔を見ることなく告げられる言葉に咄嗟に何も返せなかったリオンは、こちらこそあんな高価なブーツと今日の美味しい食事をありがとうと返し、有りっ丈の思いを込めて首から肩のラインに掛けてキスをする。
「お前は……お前には、おめでとうは言っちゃダメなんだよな?」
「…ああ」
人の誕生日は盛大に祝うし、何度もおめでとうと言ってくれるが、いざ自分が祝われるとなればウーヴェはすぐさまそれを拒絶したのだ。
何故誕生日を祝わないのか、良く考えればその理由をリオンはまだ知らなかったが、それに気付くことなく、ただウーヴェは過去に巻き込まれた事件の結果から、自らの誕生日を祝う事が無くなったのだと結論づける。
「…じゃああのマフラーはレオナルドと同じで、クリスマスプレゼントだな」
「…ありがとう、リーオ」
それ以上深く追求しない恋人に心からの感謝の思いを告げたウーヴェは、バスルームでリオンの愛撫を受けていた時に感じた快感がいつもとは違う顔をしていた事を思い出し、その理由をぼんやりと探ってみる。
その時、ふわりと微かに鼻先に漂ってきたのは、今のところ最大の擦れ違いとなった事件を経験した後にウーヴェがプレゼントした香水の匂いだった。
その香水を霧状に吹きかけて頭から浴びた為に香水が霧雨のように降りかかった場所から匂いが立っていた。
自分とは明らかに違うその匂いから連想するのは、当然ながら本来の持ち主である恋人の顔だった。
人は匂いによってある事象が関連づけられれば強烈な印象となって残ることは良く知られているが、知らず知らずのうちにこの香水の匂いはすっかりとリオンのものと頭にすり込まれていたらしく、我が身に降りかけた為にそこだけではなく、まるで全身を隈無く愛撫されている様に感じていたのだ。
それ故、いつも感じている快感とは別のもののように感じてしまい、あんなにも過敏になったのだと結論付けるが、そうしたお陰で一気に羞恥を感じてしまい、腹の前で己の手に重ねられていた手の温もりが一度ならずも二度も吐き出した快感を呼び戻しそうになる。
「オーヴェ?どうした?」
ぴたりと胸を背中にくっつけていた為にウーヴェの心の動きを敏感に察したリオンは、どうしたと頭を擡げて顔を覗き込もうとするが、見られるのを拒絶するようにウーヴェが枕に顔を押しつけてしまう。
「オーヴェ?」
「うるさいっ!」
「あー、また名前を呼んだだけでそんな事を言う!」
全くこの恋人はと呆れた声を挙げたリオンだが、覗き込んだ顔と白い髪の間に見える耳朶が真っ赤である事に、腰なり腹なりに熱が再度籠もった事を知り、内心ほくそ笑む。
「オーヴェ……これ、気持ちイイか?」
そっと名を呼んで優しく問い掛け、先程綺麗にしたばかりで硬さを失っているものに大きな手を宛がうとびくんと腰が揺れる。
己の考えが間違いではない事をその動きから知り、気持ちイイのならそう言えよと囁いて快楽の海へと突き落とすと、止めろと言うように手首を掴まれるのも気にせずに手を上下させれば手の中のそれが三度硬さを増してくる。
「────このままイケよ、オーヴェ」
「…ッァ…────ア!」
上下にそれを扱きつつ掌の窪みで先端を擦れば腰が揺れ、指の腹で先をこじ開けるようにすれば小波のように腰から全身へと快感が伝播していく。
あと少しで手の中に熱が吐き出される事に気付いたリオンは、赤みを帯びた耳朶を食べる様に唇で挟んで吸い、仰け反る白い頭にもキスをする。
そして三度訪れた絶頂の瞬間、堪えるように身を丸めるウーヴェの肩口を吸いながら激しく手を上下させたリオンは、せっかく綺麗にしたシーツにそれが吐き出される前に手を宛がい、己の手で総てを受け止めるのだった。
その後、リオンがどれ程謝ろうとも恫喝するように低い声を出そうとも、うるさいバカタレと言う言葉を吐き捨てて決して背後から抱き寄せるリオンの顔を見ようともしなかったウーヴェだが、リオンが泣きそうな声で謝罪をし、鼻を啜って明日ベルトランに頼んでリンゴのタルトを作ってもらうと宣言した瞬間、深々と溜息を吐く。
「………バカタレっ!」
「お前のそんな顔を見られるのなら、バカでもイイや」
「うるさいっ、バカタレっ!」
リオンの言葉に勢い良く寝返りを打ったウーヴェは、目元を赤く染めながらリオンを睨み付け、鼻を摘んでバカタレと連呼する。
「オーヴェぇ…」
「うるさいっ!リンゴのタルトを二つで許してやる」
ウーヴェの言葉にリオンが目を瞠って絶句するが、二つで許してくれるのならば安いものだと頷き、ウーヴェの腰に腕を回して今度は胸と胸をくっつけるように身を寄せ合う。
「おやすみ、オーヴェ」
「……ああ。おやすみ、リオン」
羞恥からバカを連呼するウーヴェだが、三度の熱の解放がもたらす眠気には勝てず、リオンのおやすみのキスを額に受けながら目を閉じ、瞼と頬の高い場所、そして唇にもキスを受けて自然と笑みを浮かべると、あっという間に意識を手放すのだった。
恋人が眠りに落ちたことを穏やかな寝息から察したリオンも同じように眠りに落ちようと大きく欠伸をし、穏やかな眠りを護るように抱き寄せて目を閉じるのだった。
去年とはまた違う、二人の誕生日と聖なる夜は静かに更けていくのだった。
Das Weihnachtsgeschenk | Next
2010/12/24


