Der Rote Faden-1-

Über das glückliche Leben(UGL) -Lion & Uwe -

 赤い糸の伝説があるそうよ。
 紅茶のカップを静かにソーサーに戻した彼女が、窓際に佇んで雨に煙る街並みを見つめていた顔を向けた彼にもう一度、仕事中には決してみせることのない笑顔を浮かべて告げる。
 「東洋には赤い糸の伝説があるそうよ」
 「赤い糸…?」
 どこかは忘れたが観光地を巡る時に使われる赤いラインの事かと眼鏡を押し上げて呟けば、淡いピンクのルージュが光る唇が不満を訴えるように小さく尖る。
 「ロマンの欠片も無いんだから」
 「……それは悪かった」
 無粋だと言外に非難されて窓枠に軽く尻を載せて苦笑した彼は、では君のロマン溢れる話を聞こうかと肩を竦め、更に唇を尖らせてしまう。
 「あなたの永遠の恋人にも同じ事を言われていない?」
 茶目っ気たっぷりに大きな目を細められ、無言でもう一度肩を竦めれば、男女が付き合うのは一人の老人が持っている赤いロープを男女の足に結んだからだそうよと告げられて軽く目を瞠る。
 「…それでは」
 「まるで囚人か奴隷の様じゃないか、そう言いたいんでしょう、ウーヴェ?」
 彼の秘書でもあり受付嬢でもある彼女の言葉に絶句し、もう一度眼鏡を押し上げた後その通りだと笑えば、本当に仕方の無いと笑われてしまう。
 「それはどこの話だ?」
 「中国ではなかったかしら」
 さっきまで読んでいた雑誌を差し出す彼女に目を細め、運命だのホロスコープだのの文字が躍る表紙に瞬きを繰り返しながら雑誌を捲り、程なくしてそっと閉じる。
 「あいつに見せてみようかな」
 「彼がどんな風に思うのかを知りたいわ」
 紅茶のカップを再度手に取り笑顔で小首を傾げた彼女に素っ気なく頷き、待ち合わせている恋人が早く来ればいいと内心で呟いて窓の外を見る。
30分ほど前だろうか、今日は奇跡のように早く仕事が終わったからこれからそちらに向かうと連絡が入った。
 この雨の中を自転車でやって来るのだろうかと心配したが、雨天とはかけ離れた陽気な声が電車に乗れば問題ないと返した為、ならば気を付けてこいと苦笑したのだ。
 その時の土砂降りからは一段落付いたが、それでもまだまだ雨のカーテンが掛かっていたのだが、不意に雨脚が弱まってきた様に感じ、遠くに霞む市庁舎のからくり時計を見つめていると小さな溜息が聞こえてくる。
 「リア?どうした?」
 「何でもないわ。彼はまだ来ないのかしら?」
 いつもならば患者が腰を下ろす一人掛けのソファで足を組んでゆったりと座り、早く来ないかしらと歌うように呟く彼女に首を傾げた彼は、何か用事でもあるのかと問い掛けて首を振られる。
 「彼を見ていると何だか明るくなれるの」
 おかしいでしょうと苦笑するオルガに目を瞠り、それは誉められたと思っても良いのかと小さく問い掛けてもちろんと返される。
 「傍にいるだけで人の気持ちを明るくできるなんてすごい才能よね」
 「そうだな」
 いつもいつも明るく楽しいその性情に自分自身いつも救われていると同意すれば、眩しそうに目を細めて足を組み替え、満足げな溜息を膝の上に落とす。
 「もし本当に赤い糸なりロープなりがあるのだとすれば…」
 「それは男女の話だろう?」
 彼女の言葉を遮り、自分達は残念ながらそうではないと、口調に皮肉の色を混ぜ込んで問い掛けた彼に彼女が肩を竦める。
 「あなたは信じない?」
 「そうだな…信じないな」
 「やっぱり」
 「ただ…いや、信じてみても面白いかも知れないな」
 彼の心裡を現す独特の表現に彼女が少しだけ呆気に取られるが、伝わった真意に目を閉じ、次に目を開けた時には茶目っ気と嫉妬を込めて見つめてくる。
 「惚気ないで欲しいわね。私、この間彼と別れたばかりなのに」
 「別れたのか?」
 「ええ」
 一生懸命汗水流して働く彼が好きだったが、仕事仕事、少し休んでまた仕事の彼には付き合いきれなくなった。
 淡々と告げられる言葉にそうかとだけ返した後、何故彼女が恋人同士の言い伝えを持ち出したのかに思い至る。
 先日別れた彼とは赤いロープなり糸なりは結ばれておらず、次に出逢う誰かと結ばれているのかも知れないと考えているのだろうか。
 「どんな老人かは知らないが、早くまだ見ない彼の足にロープを結んでくれればいいな」
 口先だけの慰めではなく本心からそう思っている、それが伝わる表情と口調で告げて目を伏せれば、ありがとうと苦笑される。
 「自分自身は信じていないくせに、人のことなら信じられるのね」
 不思議な人ねとも笑われ、どのように言葉を返そうか思案していると、もしかするとあなたとあなたの恋人とはその老人がロープではなくワイヤーを結んだのかも知れないわねと感心したような顔で囁かれ、微苦笑交じりに首を左右に振る。
 目に見えないものなど信じられない、そう自らにも他者にも醒めた目で常々言い聞かせる彼だが、年下の恋人はと言えば日頃の言動はかなり不敬虔なものなのだが、真底では神の存在を信じ、目には見えない存在すらも信じられる強さを持ち合わせていた。
 神の存在は書物の中でのみだと言い切る彼は、教会に併設された孤児院で育った恋人と共にいる事で教会に自然と足が向くようになったが、神に感謝をしたり祈ったりすることはまだ出来ないでいた。
 純粋無垢に神を信じ、同じように周囲の大人達を信じていた子供時代は10歳で終わりを告げ、それ以降は暗く冷たい灰色の世界でただ日々を過ごしてきたのだ。
 彼自身は神を信じることはないが、目には見えないものすらも信じられる強さを持つ男が己の恋人である事は秘かな誇りでもあった。
 胸に灯った誇りに微かに唇の両端を持ち上げつつもう一度前髪を掻き上げ、再度雨に煙る街並みを見つめる。
 どうやら先程感じた感覚は間違いではないらしく、窓を流れ落ちていた雨が今では雨粒が見える程度の弱さになっていた。
 「雨、弱くなって来たわね」
 「そうだな────今日は弟と待ち合わせをしているんだったな?」
 「ええ、そう。ベルリンから久しぶりに帰って来たの」
 いつもならば仕事が終わればすぐに帰宅する彼女が手持ち無沙汰にソファに座り、恋人を待っている彼の話相手をしている事が珍しかったが、そんな彼女を足止めしているのが少し弱くなった雨と弟との食事の予定だと教えられて納得の表情で頷く。
 何があっても就業時間内にきちんと仕事を終わらせる事が彼女のモットーであり、彼も共感する所であるため、仕事を離れてお互いのプライベートについて話し合う事はランチの時間だけで滅多にある事ではなかった。
 この機会を逃さずに彼女のことを少しでも深く知ろうと話しかければ、意外そうな表情を一瞬だけ浮かべた後は楽しそうに答えてくれていた。
 「弟は何をしているんだった?」
 「イラストレーターよ。最近やっと大きな仕事を貰えるようになったけど、今の仕事が無事に終わればこの街で個展を開きたいって」
 膝の上で手を組んで弟を誉める顔は姉のもので、そう言えば自分の姉もいつもどこでも自分のことを誉めてくれていた事を思い出す。
 家族間の不仲が決定的なものになった時も兄と己の間に入って必死に修復をしようとしてくれた姉には悪いが、父や兄と和解をするつもりはなく、出来る事ならそっとしておいて欲しいとすら思っていた。
 そんな心裡を一切表に出さずにそれは楽しみだなと笑みを浮かべ、姉の顔になった彼女を驚かせてしまう。
 「個展が開かれれば教えて欲しいな。一度見てみたい」
 「あまり興味がないと思っていたけど、あなたに来て貰えるなんて嬉しいわ」
 胸の前で両手を軽く触れ合わせてにこりと笑い、先程まで彼が見ていた窓の外へと視線を向け、土砂降りの雨がいつの間にか小康状態になっている事に気付いて安堵の気持ちを唇に浮かべる。
 「このままだと濡れなくて済むかしら?」
 「大丈夫だろうな」
 「今日はどうするの?」
 ここで待ち合わせた後はいつものようにゲートルートでディナーにするのか、それとも誰にも邪魔されずに自宅で二人で食べるのか。
 茶目っ気たっぷりに問われて肩を竦めて窓枠に手を着いてもたれ掛かった時、スラックスのポケットに入れておいた携帯が着信を告げる。
 「────Ja」
 彼女にちらりと視線を向けて目を伏せれば、私は興味も関心もありませんと顔を背けてドアの横にある本棚を見つめてくれ、仕事も有能で気配りも十二分に出来る彼女にはもっともっと相応しい彼氏が現れるだろうと内心で確信し、聞こえてくる声に相槌を打つ。
 「ああ。そうだな…もうそろそろ着くのか?」
 告げられる声が明るくて自然と笑みを浮かべて窓の外を見れば、聞こえてくる声につられたように明るさが増し、雨脚がより一層弱くなってくる。
 「お前が駅に着く頃には上がっているかも知れ無いな」
 手を組んで天に祈っている、そんな様を彷彿とさせる声にくすくすと笑い、ちらりと流された視線に気付きながらも会話を続けていると、弱まった雨は完全に降ることを止めてしまったようで、まるで置き土産だというように窓にぽつぽつと落ちてくるだけになっていた。
 「雨が上がりそうだ」
 いつも食事の前にすらお祈りをしない不敬虔な自分たちだが、俺が祈れば何故かそれが通じるといつかに胸を張られたことを思い出し、ホームのシスターが聞けば卒倒しそうだなと苦笑して通話を終えれば、さっきは惚気るなと口を尖らせた彼女が何故か嬉しそうな顔で頬杖をついていた。
 「リア?」
 「何かしら?」
 「何かおかしな事を言ったか?」
 己が彼女にそんな表情を浮かべさせている、その事実に思い至らない彼に一瞬驚いたオルガは小さな吐息を零した後、あなたの恋人がいるだけで明るくなれるように、あなたが笑えば周りにいる私たちも嬉しくなると囁き、片目を閉じて人差し指を立てる。
 「そうなのか?」
 「ええ、そうよ。あなたがどう思っていようとも、ね」
 窓の前で何とも言えない表情でメガネを押し上げる彼の前に立ち、先程立てた人差し指で胸元を軽く一突きする。
 「あなたのお姉さんもきっとそう思っているはずよ」
 「────そうだと良いな」
 姉の知己であることを採用してから後に知り、その時の感情にまかせて解雇した彼女だが、そんな事情を差し引いても仕事に対する姿勢やその適性さは得がたいものだった為に再雇用したのだ。
 彼が抱える家族の問題をそれなりに知っている彼女に苦笑し、本当にそうだと良いともう一度呟いた時、二人がいる診察室のドアがノックされる。
 「どうぞ」
 「────お邪魔しまーす」
 いつかの光景を思い浮かべてしまいそうな態度でひょっこりと顔を出し、そのまま顔を左右に向けて室内を見回した後、探している人物を窓の前に見つけた顔が一瞬にして明るくなり、彼が背中を向けている窓から見える空も急に明るさを増す。
 「お疲れ様、ヘル・ケーニヒ」
 「オルガさんもまだいたのか?」
 両肘を掌で掴んで苦笑している恋人に今日まで逢えなかった淋しさを教える為に有無を言わさずにハグしてキスしたかったが、人前でのハグどころか手を繋ぐ事すらあまりいい顔をしない彼に無理強いをし、後々の楽しいだろう時間を氷漬けにされた針山に座るつもりはないと急ぐ足を何とか押し止めれば、私はすぐに帰るからと苦笑される。
 「ああ、そうだわ。ねぇ、リオン」
 「?」
 「リア?」
 彼女の呼びかけに感情表現の豊かな彼が青い眼を最大限に見開き、感情表現があまり豊かではない彼はメガネの奥の双眸を同じく見開いて名を呼ぶ。
 「ね、私がリオンと呼ぶのはダメかしら?」
 「へ?いや、俺は気にしないけど…?」
 茶目っ気たっぷりな表情で問われて素っ頓狂な声を挙げた後、ちらりと端正な顔を見れば何故自分を見ると言いたげに目を細められ、彼女の顔を見下ろして滅多に見せる事のない男の顔で笑みを浮かべる。
 「じゃあ俺もリアって呼ぶけど、彼に嫉妬されないかな?」
 「大丈夫よ。今はフリーだから」
 「何てもったいない。俺がフリーなら放っておかないのに」
 「あら、愛しのウーヴェの前でそんな事を言っても良いのかしら?」
 目を細めて口を尖らせる彼女に片目を閉じ、きっと次に付き合う彼は最高の男だと思わず見惚れそうな笑みを浮かべたリオンは、目を丸くして驚くオルガの頬に親愛のキスをし、今日も一日お疲れ様と労いの声を掛ける。
 「あ、ありがとう」
 「今度オーヴェと三人で飲みに行かないか?」
 「そうね」
 楽しみにしているとリオンの胸元を指で軽くついた後表情を少しだけ引き締め、目元に優しい色を浮かべて小さく笑みも浮かべる。
 「今日も一日お疲れ様でした、ドクトル・ウーヴェ」
 「お疲れ様。明日も頼む、フラウ・オルガ」
 二人の遣り取りを微苦笑を湛えただけで特に口を挟むことなく見守っていた彼は、身体を起こして彼女の前に向かうと、お互い恒例になっている労いの言葉を掛け合い、雨が上がって本当に良かったと笑顔で踵を返す彼女の細い背中を恋人と二人で見送る。
 「今日は早かったんだな」
 「こんな平和な一日は年に一度あるか無いかだーってみんなと話してた」
 「そうか」
 やっと二人きりになれた安堵感にさっきとは全く違う笑みを浮かべ、両腕を伸ばしてハグしようとしてきた恋人にただ苦笑し、逆らうことなく抱き寄せられる。
 「オーヴェ」
 「何だ?」
 「うん。今日もずっと逢いたかった」
 耳朶と頬に口づけられ、辿り着きたい場所をぺろりと舐められた為小さな音を立てて唇を触れ合わせた後、コツンと額をぶつけて目を伏せる。
 「お疲れ様」
 「うん。オーヴェもお疲れ様」
 一方は刑事として日々危険と隣り合わせの職業を生業とし、一方はカウンセラーという精神的に疲労度の激しい仕事を選んでいる為、肉体的にも精神的にも疲れる事が多かった。
 仕事に対する互いの姿勢に最大限の敬意を払った後、先程彼女に掛けた労いよりももっと情のこもった声を掛ければ心底安堵した溜息が零れ落ち、今度は何日ぶりかに舌を絡めるようなキスをする。
 「────家に帰ろう、リオン」
 「今日の晩飯は?」
 息が上がる前にどちらからともなく離れ、続きは空腹を満たした後だと秘かに笑い合い、今夜のメニューは何だと問われてクヌーデルが残っていると返して絶句させる。
 「リオン?」
 「クヌーデルだけか!?」
 「ポテトサラダもあるぞ?」
 「イモばっかじゃねーか!!」
 そんなんじゃイモになっちまう、肉が食いたい、肉と嘘泣きか本気泣きか分からない顔で肩に懐くように顔を押しつける恋人にくすくす笑い、お前の好きなチーズが残っていたからグラタンでも作ろうかと言えば頭があがり、みるみるうちに晴れ渡った青空のように輝く。
 お前は食べさせて貰っていない欠食児童かと思わず皮肉の一つでも言いたくなるが、その顔があまりにも嬉しそうで、喉元まで出掛かった皮肉も自然と溶けてしまう。
 「グラタンの具は?」
 「だからクヌーデルが残っていると言っているだろう?」
 「やっぱりイモかよ!!」
 今は戦時中か非常事態宣言発令中かと喚く恋人の前、うるさいとの意思表示を両耳を押さえることで行い、帰る支度をする為に診察室の横にある小部屋のドアを開ける。
 「リオン」
 「んー?」
 「雨は上がっていたか?」
 「さっきまではぽつぽつって感じだったけど、今は完全に上がってるな」
 警察署を出る前の土砂降りは一体何だったんだと苦笑する恋人に同じく苦笑し、帰り支度をして小部屋を出る。
 早く帰ろうと待ちわびる恋人に小さく頷いて窓の外を見れば、雨を降らせていた灰色の雲はすっかりと流れ去ったらしく、所々から夕方の光が雨に濡れた建物や道路をまるで舞台照明のように照らし出し、あちらこちらで水滴を弾いてきらりと光っていた。
 そう言えば恋人が顔を出したと同時に雨が止んだ事に、厚い雲の向こうに隠れていた太陽を連れてきてくれた、そんな錯覚すら抱いてしまい、馬鹿な事をと内心呟いて首を左右に振る。
 「あ、これ、受付のサラも読んでた」
 「ああ。────赤い糸の伝説があるそうだ」
 デスクに置いていた雑誌を捲る恋人につい先程聞き知った伝承を掻い摘んで話せば、感心したような我が意を得たと言うような顔で大きく何度も頷かれる。
 「恋人達の足には老人によって赤いロープが結ばれているらしい」
 「じゃあ俺とオーヴェの足に何処かのじいさんが結んだって事か?」
 「信じるのならば、な」
 「あ、その言葉だと信じてないな?」
 ウーヴェが皮肉を込めた笑みを浮かべて当たり前だと告げる直前、俺は信じたいなぁと、暢気な声とは裏腹に青い双眸に強い光を浮かべたリオンがいて、軽く目を瞠ってその顔を見つめれば、さっきまでオルガが座っていたソファに腰を下ろし足を組んで背もたれに腕を回して見上げてくる。
 「きっとさ、俺とオーヴェの間には絶対に切れないロープがあるんだぜ」
 「そうかな?」
 「そうさ。そのじいさんのせいどうかは分からないけど、俺たちの出逢いは必然だからな」
 「必然?」
 「そう」
 足を組み替えながらウーヴェの腕を掴んで引き寄せたリオンは、二人が初めて出逢った日を思い出したように言葉を句切ったあと、眼鏡の奥の双眸を細める恋人を見上げて嬉しそうに目を細める。
 「出逢うべくして出逢った」
 その妙な自信はどこから出てくるんだと眉を寄せるウーヴェに、意味のない出逢いは無いんだとも告げ、胡乱なものを見る目で見つめられて唇を尖らせる。
 「信じてねぇな?」
 「……言葉は信じられないな」
 今度こそ皮肉を込めて笑った恋人に口を尖らせていたリオンだったが、告げられた言葉の奥に秘められた思いに気付いてにやりと笑みを浮かべる。
 「言葉は信じられなくてもいいぜ」
 その代わり、俺を信じてくれているんだろう?
 さっきとは少しだけ質の違う自信を込めて囁かれて咄嗟に言葉に詰まったウーヴェは、このまま沈黙してしまうと認めることになり、だからといって反論したところで自信満々の恋人には勝てない事を最近漸く知った為、せめてもの反論だと言うようにそっと手を挙げて金髪を指で掬った後、見えた額をぺちりと叩く。
 「ぃてっ」
 「バカなことを言ってないで帰るぞ」
 「肉食いたい、肉っ!オーヴェ、肉!!」
 「肉肉うるさい」
 逃げられないリオンの腕の中でうるさいと叫んでじろりと睨めば、青い目がごめんと言うように上目遣いで見上げてくる。
 「…あまり手の込んだものは出来ないぞ?」
 その目に逆らえない事もつい最近知ってしまったウーヴェは、深く溜息を吐きながら冷蔵庫の中身を思い浮かべてさっきは叩いた額を今度は親指の腹で撫でれば、窓の外と同じ雨上がりの青空のような笑みが浮かび上がる。
 「ダンケ、オーヴェ」
 「ああ」
 心底嬉しいと言うように抱きついてくる恋人に満更でもない表情で頷いた彼は、帰宅してから用意を手伝ってくれとも告げ、戸締まりの確認をして職場を後にする。


 仲良くドアを出て行く二人を窓の外、姿を見せた虹が静かに見守っていた。

 

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2010/05/14


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