Glück des Lebens-Heavenly Blue 20-

 付き合いだしてから初めての夜を迎える時のように緊張していた二人だったが、リオンがウーヴェを抱き上げようとすると同時に自分で歩ける、いや抱っこさせろとの呆れるような口論がはじまり、自分達二人には色気など必要無いのかとどちらからともなく笑い出してしまう。
 以前からおいてあったワイヤーチェアにリオンが座って肩を揺らして笑うと、その腿にそっとウーヴェが座るが、その背中にリオンがバスローブを引っかける。
 「・・・背中の傷、見たくない、か?」
 「んー、ずっと見てたらオーヴェの背中にずーっと張り付いてたくなるし、そうなったら大変だろ?」
 だからお前が考えている様な悪い意味で背中を隠したい訳じゃないと告げ、その言葉が嘘ではない事を教えるようにバスローブを半ば引きずり下ろすと同時に、見えた背中の傷にキスをする。
 「な、オーヴェ、ベッドに行こうぜ」
 色気よりもどちらかと言えば子どもが寝ようと誘うそれに近い声にウーヴェが素直に頷くが、それがリオンが仕掛けた罠だと気付いたのは、バスローブを再度背中に掛けられた直後にそのまま横抱きにされてしまった時だった。
 「歩けるっ!」
 「嫌だ、抱っこする!」
 こんなにも大好きな俺の願いなんだから聞き入れなさいと恨みがましい目で睨まれ、寄せた眉にキスをされたウーヴェが何も返せなくなるがそれが悔しかったのか、リオンの背中に拳を一つ叩きつけて悲鳴を上げさせる。
 「いたいっ!」
 「うるさいっ!」
 お前が思うよりも好きな俺の言葉を聞き入れないのだから、一度叩かれるぐらいガマンしろと伝えたウーヴェにリオンが一瞬驚くが、照れたような笑みを浮かべて今度はウーヴェの額にキスをする。
 「俺よりもお前の方が好き?」
 「う、うるさいっ!」
 「もー、素直じゃないんだからー」
 いつもいつも言っているが、素直じゃないお前も好きだけど素直なお前はもっと好きと、二人にとっては物事をある方向へと向かわせる言葉を囁きながらバスルームを出たリオンは、ベッドに向けて大股に歩いて行くが、以前とは違って荷物のように投げ出したりはせずにそっとウーヴェをベッドに下ろすが、ウーヴェが口を開く前にその身体を掛け声一つで寝返りを打たせて俯せにする。
 「!?」
 「はいはーい。暴れないのー」
 大人しくしなさいと笑ってウーヴェの肩にキスをしたリオンは、バスルームの中でもしたように傷のひとつひとつにキスをし、左足のつま先にまでそれをすると、最後の一つの傷へのキスをしようとするが、ウーヴェの反応が不安だったため、傷に直接するのではなく、幸運なことに傷がほとんどついていない尻に小さな音を立ててキスをする。
 「っ!!」
 「はい、終わり」
 これで総ての傷にキスをしたからもうひっくり返って良いぞと笑うリオンだったが、ウーヴェが羞恥に目元を赤らめた顔で肩越しに睨んできた為、その顔ヤバイと呟いて口を手で覆い隠す。
 「リオン・・・?」
 「オーヴェ、今の顔反則。絶対ダメ」
 「?」
 何をそんなにと反論しかけるウーヴェの肩の横に手をついて覆い被さるように身を伏せ、肩越しに振り仰ぐ顔が驚きに染まるほど力強く肩を掴んで寝返りを打たせると、そのまま額と額を重ね合わせる。
 「さっき違うって言ってたけどさ、本当に違うって事を思いだそうぜ」
 「・・・うん」
 しがみつきながら否定していた言葉、それは間違いではないと改めて心身に思い出させようと笑い、小さな返事をした唇にキスをする。
 救出された直後、何度もレイプした男が性病を持っているとルクレツィオが思い込ませた事から、リオンとのキスも避けていた時を思い出し、結局検査結果で異常なしと出た事も思い出すと、自然と角度が深くなり、息が上がるようなキスへと変化していく。
 ルクレツィオやジルベルトがウーヴェに遺したのは背中や足の傷のように目に見えるものだけではなく、性病に感染している、それがいつか発症する、二次感染の危険があると言う目には見えない恐怖などもそうだった。
 その恐怖から抜け出すのに検査結果を待たなければならなかったが、今こうしてキスをし互いの熱を上げているが、一瞬で総ての熱が冷めてしまうような言葉がウーヴェの脳裏で小さく響き、それを振り払うように頭を振ってしまうと、リオンが囲うようについた手で額を撫でて安心しろと見下ろしてくる。
 「・・・あいつらが多分しなかったことをしてやる」
 「・・・?」
 なんだそれはとの疑問を目に浮かべてリオンを見つめたウーヴェに見下ろす蒼い双眸が細められ、再度キスをされると同時にリオンの手がウーヴェの股間に伸ばされてびくりと腰が揺れる。
 「・・・っ・・・ん・・・」
 「あいつらさ、自分だけ気持ちよかったら良いって感じだよなぁ」
 絶対にお前の心身がどう感じているかなど気を配っていないはずだと、キスの合間に囁きながら手をやんわりと動かし、徐々に硬さを持ち始めるそれに目を細めたリオンは、ウーヴェの口からそろそろ荒くなり出した呼気が零れても良いのに聞こえて来ないことに気付いて今度は耳朶にキスをする。
 「オーヴェ、約束」
 「・・・な、んだ・・・?」
 「────ガマンするな」
 気持ち良いと思ったのなら声に出して身体で教えてくれと囁かれ、一瞬きつく目を閉じたウーヴェだったが、もう一度約束と囁かれて頷き、リオンの足に足を絡めるように持ち上げる。
 声を出す時は命じられた時だけだ、気持ち良かったとしても声を出すなと、ルクレツィオが抱く度に命じていた為に声を堪えてしまいそうになるが、繰り返されるリオンのキスと大きな掌がもたらす快感に自然と声が零れて顔が強張りそうになり、その度に約束と囁かれて今はガマンする必要は無いと思い出す。
 ルクレツィオや他の二人が何度も抱いたのはあくまでもウーヴェを大人しくさせる為の調教だったが、今リオンと身体を重ねているのは互いの中に存在する愛情を確かめ深める為のもので、監禁されていた時のものとはまったく違う意味を持っていた。
 それを危うく書き換えられそうになったが、今もまた約束と囁かれて頷き、密着するようにリオンに身を寄せると、嬉しそうな吐息が首筋に落とされる。
 ウーヴェが完全に受け身になるのではなく、されている事と同じ事を返して欲しいとリオンが思っていて、密着されたことが嬉しいのだと気付くと、リオンの背中に回していた手を恐る恐る腹の前に持って来ると、同じようにやんわりとリオンのものを握る。
 「・・・オーヴェ」
 「・・・な、んだ」
 「もっとして。すげー気持ち良い」
 久しぶりに抱き合うからと言うのもあるが、お前からしてくれることが嬉しくて感度が上がってると淫靡なはずなのに突き抜けたように笑うリオンに自然と笑みを浮かべ、ピアスが填まる耳朶にキスをする。
 「あいつらの望むことは嫌だ、けど・・・」
 お前が望むのならどんなことでもしてやると囁くと、夜の太陽を彷彿とさせる声が嬉しいと素直に返すが、今はされるよりもしたい、今何をして欲しいと逆に問われて一瞬考え込んでしまうものの、強弱を付けて握られ、時々先をグッと押さえられて腰が揺れたため、無意識のようにもっとと強請ってしまう。
 「・・・ここ?」
 どこが気持ち良いと聞かれたことも違いを感じさせてくれ、そことだけ返しつつ場所を示す様に己の手を動かすと同じ場所に強い快感が生まれる。
 「っ・・・は・・・っ」
 「気持ちイイか、オーヴェ」
 問いに潜む感情に気付いたが口に出しては返事が出来ず、ただ約束を思い出して頷いたウーヴェにリオンがそっかと短く返すと、首筋や胸や薄い腹にキスをした後、たった今まで手で刺激を与えていた為に緩く勃っているものにキスをし、そのまま銜え込む。
 「────っ!!」
 不意に訪れた生暖かい感触と耳に聞こえる濡れた音にウーヴェが腕を上げて目元を覆い隠し、強くなった快感を堪えるように唇を噛み締める。
 久しぶりに感じる舌と口で吸い上げられる感触に腰が揺れ、ガマンする必要の無い声を零してしまうウーヴェに嬉しそうに目を細めたリオンは、気持ちよさそうなウーヴェに少し申し訳ないと思いつつも同じ事をして欲しいと不明瞭な声で囁くと、快感に溺れかけていてもしっかりと聞き取ってくれたらしいウーヴェに合図を送られて顔を上げる。
 ベッドヘッドに枕を立てかけてもたれ掛かり、ハイどうぞと促すとウーヴェの口に微苦笑が浮かび、一気にやる気が無くなったと笑われてそれは嫌だと笑い返すが、リオンの立てた膝の間に上体を屈めて躊躇せずに口に含んでくれるウーヴェに目を細め、リオンもまた久しぶりに感じるそれに一気に快感が体中を駆け巡るが、何とか堪えつつサイドテーブルの引き出しを開けて懐かしさすら感じるローションだのスキンだのを取りだす。
 「オーヴェ、お願い」
 「・・・何だ?」
 今忙しいのにと言いたげなウーヴェの顎を撫でて目を細めたリオンは、頬や顎を撫でたで腰を撫でて尻を上げてくれと囁き、逆の手に取りだしたローションを垂らす。
 羞恥を感じるはずだし最悪の場合ルクレツィオらにされていた事を思い出すかも知れなかったが、それを堪えたらしいウーヴェの尻が上がり、ダンケと礼を言ってローションを垂らした手を尻の間に滑り込ませると、滑りに気付いたウーヴェが顎を上げる。
 「オーヴェ、口」
 「んっ・・・!」
 下に気を取られて口を忘れてないかと笑い、白い髪に手を添えて軽く押さえつけると、思い出した様にリオンのものに舌を這わせて吸い上げるが、正直な話、尻の間の滑りと指の動きに気を取られてしまう。
 期待と恐怖を半分ずつ感じながらリオンのものを口にしていたウーヴェは、指が滑りを借りて中に入ってきたのを感じて顎を上げてしまうが、再び頭を押さえられてしまう。
 監禁されている時は常に誰かのもので尻や口を犯されていた為に中に入る感触が当たり前のようになっていたが、事件から三ヶ月が経過した今はその当たり前の感覚を忘失していて、ケージの中で初めて無理矢理突っ込まれた時の恐怖が蘇りそうになるが、上目遣いになって見上げると、そこには久しぶりにこうして抱き合えることが嬉しいと顔中で語るようなリオンがいて胸を撫で下ろす。
 「痛いか?」
 まだ指は一本だけだが痛いかと問われて小さく頭を左右に振ったウーヴェは、そっかと嬉しそうに返された後、中に入る質量が増えたことに気付いて小さく声を上げる。
 二本の指が自由に動いて中を解す間もリオンのものを咥えていたが、時折滑りが増えたように感じ、その度にケージの中での行為と今は全然違うのだと己に言い聞かせる。
 時間を掛けて緊張を解くように中を解し、三本の指が出入りしても苦しそうな顔を見せない事に気付いたリオンが封を開けたスキンをウーヴェに見えるように差し出すと、見上げてくるターコイズの双眸ににやりと笑みを見せつける。
 「口で着けてくれよ」
 どうせならば口でお願いと腰を低くお願いしてくるくせに、その顔に浮かんでいるのは絶対に断られないという自信で、悔しいが断らないと笑みを浮かべたウーヴェがリオンのものにスキンを載せると、口を使ってゆっくりと被せていく。
 ウーヴェに口を使ってスキンを着けさせる事など今までほとんどさせなかったが、これをさせることで、ルクレツィオ達との違いに気付いて欲しいとの思いがリオンにはあった。
 男女間とは違ったリスクのあるセックスにならざるを得ない自分たちの関係を補助してくれるローションやスキンといったものを使い、あいつらのように性欲の処理だけを考えているのではないと伝えたかったリオンだったが、その思いは正確には伝わらなくてもウーヴェの中では違いとして受け止められたようで、被せ終わった後にウーヴェが満足そうに溜息を吐くが、尻の中の指を軽く動かすとびくりと肩が揺れる。
 「・・・ン・・・ッ」
 「もう良いか?」
 そろそろ指じゃなくて俺自身を入れてもイイかと問われたウーヴェが逡巡するように視線をさ迷わせるが、頬から顎を撫でて再度頬を撫でる手に促されて頷くと、本当に嬉しそうな吐息が零れ、そのまま唇にキスをされる。
 そのキスが不意に強くリオンだと感じさせ、ウーヴェがきつく目を閉じると、宥めるようなキスが繰り返されて更にその思いが強くなる。
 胸に芽生える疼痛のような思いから腕を伸ばしてリオンに抱きついたウーヴェは、宥めるように背中の傷を撫でられてベッドに背中から沈められて目を開けると、何よりも誰よりも信頼し愛している蒼い双眸に見下ろされる。
 「────オーヴェ、俺のオーヴェ」
 愛している、だから目を逸らさずに俺を見ていろと耳元に顔を寄せて囁いたリオンに頷くと、両足を抱え上げられて息を飲む。
 己の意志では動かす事が出来なくなった左足首から先が力なく揺れるが、リオンが小さな音を立ててキスをした後、グッと力を込めてウーヴェの中に入ってくる。
 「ぁ、あ・・・っ・・・んぅ・・・!!」
 ゆっくりと押し広げながら確実に入って来る熱にウーヴェが堪えられない声を上げ、頭を振って自然と逃げようとしてしまうが、それを抑え込んだリオンが足を抱えなおすと同時に押しつけて窮屈な姿勢を取らされる。
 「・・・全部、入った」
 久しぶりのお前の中は本当に本当に、気持ちよすぎて一瞬で総てを持って行かれそうだと笑うリオンにウーヴェが唇を噛むが、見ていろと言われたことを思い出して蒼い目をじっと見つめると、鼻先にキスが降ってくる。
 「動きてぇけど、動きたくないなぁ」
 「な・・・だ、それは・・・っ・・・ンぁ!」
 ウーヴェの中が気持ちよくて動きたくないと言いながらも、包まれているだけの快感よりも擦られる刺激が欲しいと気付き、ゆるゆると腰を動かすとウーヴェの口から途切れ途切れの快感が音として流れ出す。
 その声がリオンの中であの日のビデオ通話と重なってしまうが、こうすることで声が出るようにしたのは自分だとの言葉も思い出してその通りだと再確認すると、だからこの声をもっともっと聞きたいと囁き、少しずつ動きを激しくするとウーヴェの声もそれに合わせるように早く大きくなってくる。
 ウーヴェとリオンのどちらにも事件は影を落としていたが、一人ではなく二人で手を繋いで乗り越えようと幾度となく約束を交わし、今もともすれば浮かんでくる男達の声や行為を目の前にいる互いの顔で掻き消し、約束と囁き合って今抱き合っている理由を思い出す。
 あいつらとは違うのだとリオンが囁きウーヴェも頷くことでそれをしっかりと理解した上で、二人で気持ちよくなろうと白熱の瞬間を迎えようとも囁く。
 その為に何度もキスをし、白い尻を抱えてリオンが腰を押しつけウーヴェが高い声を上げるが、思っていたよりも早くにウーヴェに限界が訪れたのか、シーツを握っていた手が上げられてリオンの腕に重ねられたかと思うと、つま先がグッと丸められる。
 「────っ・・・ア!」
 短く声が上がった直後、ウーヴェの薄い腹にぽたぽたと滴が落ち、それに気付いたリオンがウーヴェの頬にキスをして身を寄せる。
 「・・・気持ち良かったか?」
 だからたった今熱を出したのだと言いたかったが、肩で息を整えているのにキスをされて何も言えずにいたウーヴェは、腕に重ねていた手でリオンの頬を撫でると、お前も早くイケと仄かな笑みを浮かべる。
 「・・・ん、分かった」
 その間、熱を放って敏感になっているだろうが堪えてくれと囁いたリオンは、今までの動きが嘘のように激しく腰をぶつけ、ウーヴェの口から途切れ途切れの快感の声を流させるのだった。

 

 どちらも息が上がる瞬間を迎え、忘失したようにベッドで身を横たえていたが、ウーヴェが左足を庇いつつリオンの傍へと身を寄せると、リオンがウーヴェの腕を掴んで痩躯を抱き寄せて己の身体に乗り上げさせる。
 「・・・思い出さずに済んだか?」
 互いの背中を抱いている時に脳味噌のどこかに引っかかっていた問いを小さな声で投げかけるとウーヴェも同じ思いだったのか、リオンの胸に頬を宛がいながら小さな声で思い出したと返す。
 事件の影を忘れるにはこれから長い年月が必要だとは思っているが、仕方が無いと思うには少し辛く、それを忘れるようにウーヴェの背中を撫でたリオンは、思い出したが違うと分かったから大丈夫だと思うと自信の無い声で囁かれて蒼い目を瞠る。
 己をレイプしていた男達やルクレツィオはその時にいわゆる玩具や道具を使うことはあっても、今のように身体のことを思ってローションを使ったりスキンを使う事が無かった。
 そのことからもお前との違いは分かると囁き、顔を上げて驚愕に瞠られる蒼い目に目を細めたウーヴェは、そうだろうと問い返して小首を傾げ、返事の代わりに頭に手を添えられて目を閉じる。
 「だから・・・思い出すけど、大丈夫」
 「そっか」
 「うん。────お前がいる、リーオ。お前だから・・・大丈夫」
 もう本当に大丈夫、事件を乗り越えられると言うにはまだまだ時間が必要だし、過去のあの時のように十何年もかかるかも知れないが、それでもお前がいてくれるから大丈夫とも告げて口角を自然と持ち上げたウーヴェは、蒼い目に真っ直ぐに見つめられている事に気付き、胸に手をついて頭を持ち上げると、伸び上がるように己からリオンの薄く開く唇にそっとキスをする。
 「・・・俺とキスをして良いのはお前だけだ、リーオ」
 お前があの時言ってくれたように、手を繋いでキスをし抱き合いたいと思うのはお前だけだと繰り返すとリオンの目が一度きつく閉じられ、次いで頬を挟まれて今度はリオンからキスをされるが、息が上がると言うよりは互いにここにいる事を確かめ合うようなそれを何度も繰り返し、心が満足した頃にリオンが掛け声を上げて寝返りを打つと、今度はウーヴェに覆い被さるようにリオンが手をついて身体を支える。
 「な、オーヴェ、腰の傷は痛くねぇか?」
 「ああ、もうマシになった」
 「じゃあさ、お前のリザードが壊されちまったから、次はお前の傷を守ってくれるようにリッシーに頼もうか」
 「どういう、ことだ?」
 リオンが嬉しそうに語る言葉の意味が分からずに首を傾げたウーヴェに、リッシーがタトゥースタジオもやっていることは知っているだろうが、彼女に頼んで腰の傷を新たなリザードに守ってもらおうと笑ったリオンは、目を瞠るウーヴェの頬を撫でて額を重ねる。
 「傷跡をタトゥーで隠すのは知ってるよな?」
 「あ、あ。見たことは無いが、聞いたことはある」
 「リッシーに頼んでさ、俺と同じリザードをお前の腰の傷の上から彫ってもらおう」
 そうすればその傷は目立たなくなるし、新たなリザードもどこにも行かないだろうと笑うとウーヴェが唇を噛み締める。
 「タトゥーに良い印象ないだろうけどさ、だめか?」
 「・・・良い」
 傷跡が目立たなくなるのも嬉しいが、何よりも嬉しいのはあの時壊されてしまったリザードが形を変えて戻って来てくれることだと笑い、その拍子に涙が一粒だけ目尻を伝って髪に吸い込まれていく。
 「リッシーに頼もう。あ、結婚指輪もベラに頼まないとなぁ」
 事件を思い出すが捨ててしまうことが出来ないリングを、暖炉の上のお宝コーナーに置いたが、結婚式の時に交換する指輪も作らないといけないと見下ろしてくるリオンに頷くウーヴェだったが、シンプルな指輪が良いと答えてリオンの背中に腕を回す。
 「そーだな。近いうちに店に行って探そうぜ」
 「うん」
 二月後に予定している結婚式、その時に交換する指輪も買いたいし、今話をしたタトゥーのデザインも相談したいと笑うとウーヴェも素直に頷いてくれたため、自分たちが思うようなデザインがあれば良いのにと笑い、ウーヴェの汗ばむ首筋に顔を押し当てる。
 「・・・ある、だろう・・・っ・・・ン」
 くすぐったいのかそれとも他の思いからか、ウーヴェの鼻から抜けるような吐息が零れ、それがついさっき熱を出したはずのリオンに火を付けてしまう。
 「オーヴェ、悪ぃ。────もう一回、イイか?」
 「────!!」
 リオンがひっそりと了承を求めてくる声に息を飲み、疲れたから嫌だと断りたい反面、望まれるのならばいくらでも答えたいとの思いもあったため、リオンの首の上で手を交差させて顎を上げる。
 「・・・明日の朝、最高に美味しいコーヒーを飲ませてくれるか?」
 「もちろん。明日も明後日もその先もずっと飲ませてやる」
 だからもう一度、いや、体力が続く限り抱き合おうと囁かれて身体を一つ震わせたウーヴェは、言葉で了承を与えるのではなく、先程のように足をリオンの足に絡めるように持ち上げ、今もまたリオンにキスをする。
 それを合図にリオンがウーヴェの手首をシーツに押しつけてキスをし、心臓の上にキスマークを残すと、へその周囲、薄い色の茂みのすぐ上、内股にも印を残していく。
 その度に小さく息を吐いたり飲んだりしていたウーヴェは、程なくしてローションの滑りを借りて突き入れられる熱と質量に震える吐息と熱の籠もった嬌声をシーツに零し、再び訪れる白熱の瞬間目がけてリオンと二人昇り詰めるのだった。

 

 失神したように眠るウーヴェを抱きしめ、自身も心地好い疲労の中にいたリオンは、抱き合っている間もルクレツィオ達にされた事を思い出してはリオンの顔や声を思い出して掻き消している様子に気付き、二人でもそうだが一人でも事件を乗り越えようとしているウーヴェに感嘆の思いと同時に尊敬の念も抱いてしまう。
 己を信じて短期間の内に事件を乗り越えようと頑張るウーヴェがただ愛おしくて、その思いから何度も抱いてしまった結果の失神だったが、ウーヴェを抱きしめながらそっと閉じた瞼にキスをし、事件を思い出してしまう事を恐れるよりは、思い出してなお乗り越えられるように頑張ろうとの思いがしっかり伝わっていた事にも気付いていて、頬にもキスをする。
 どんなに酷い目に遭ったとしても生きようとしてくれるウーヴェの魂の強さに頭が下がる思いだが、そんなウーヴェを支えて一緒に生きていくとの誓いを改めてすると、明日は朝からリッシーやベラの店に行こうと決め、不意に訪れた睡魔に身を委ねるように目を閉じる。
 事件から三ヶ月が経過したが、一日でも早く乗り越えて己の中の納めるべき場所に納められるようにと祈りつつ小さな欠伸をして眠りに就くのだった。

 窓の外では、初夏の月が安心したような光を放って夜空に白く輝いているのだった。

 

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2017.07.23
何だかちょっと照れますね(おい)


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