真冬の太陽は長時間空に居座ることを嫌うようで、早々に傾き始めた午後、千暁は温室効果と僅かの暖房のお陰で小春日和のような暖かさをもたらしているサンルームのベンチで微睡んでいた。
そのベンチは千暁が名前すら知らない南国の植物に囲まれた場所にあり、設置した本人の意向からか、まるでリゾートのホテルのような籐のベンチで、クッションもふんだんに中綿が入っている大きめのものを置いていた。
そのクッションを枕に、ベンチの横にあるこれもまた籐で出来たテーブルに置いたラジオから流れてくるクラシックを聴いていたのだが、暖かさと冬の日差しが心地よくてついつい微睡んでしまう。
眠ってしまえばこの家の主である恋人でもあるカインからの連絡が分からなくなるとの思いが芽生えるが、心身に優しい緑に囲まれた暖かな世界は千暁を今すぐ夢の世界に連れて行こうとしていて、何度かそれに抵抗してみるものの本能に勝てるはずもなく、程なくして千暁の口からは小さな気持ち良さそうな寝息が零れ始めた。
この植物園-と千暁は呼んでいる-を造園したのは、金儲けという趣味と実益を余すことなく叶えられる株屋として働くカインで、心身のバランスを取るために緑が必要だと教えられて以来、千暁は週末になれば小さな花や観葉植物の鉢を買ってくる恋人に対して何も言わなくなった。
確かにカインの言う通り、緑が溢れるこのサンルームに一歩足を踏み入れると、南国の空気を感じ取ることが出来、日常生活で凝り固まった心身がゆっくりと解されていくようだった。
趣味と実益が金儲けのカインだが、一生かけても使い切れない程の金を稼いだとしてもその使い道を問われれば一瞬考え込んでしまうような男で、稼ぐことにだけ情熱を傾けるそんな男が唯一金と時間を掛けるのが植物だと知った時は心底仰天した千暁だったが、千暁がカインと心を通わせて互いの存在が無くてはならないと痛感してからは、植物以上に千暁に対して愛情と金を注ぐようになっていた。
そんなカインが今日も趣味と実益を叶える為に働いていたが、少し早く仕事を切り上げて帰って来た時も千暁は籐のベンチで寝息を立てていた。
ネクタイを少し乱雑に解き、ジャケットも皺が寄ることも気にしないでリビングのソファに投げ出したカインは、サンルームへの入口になっている窓が少し開いていることに気付き、そっと中に入ってベンチの背もたれに手をついて眼下で眠る恋人を見下ろす。
クッションに埋もれるように眠る千暁の顔は本当に幸せそうで、悩みや不安を小さな胸一杯に抱え込んでいる筈だったが、そんな影を一切感じさせないほどだった。
己の居心地が最も良い場所で最愛の恋人が幸せそうに眠っている事実は、金という俗世の川を泳いでいるカインにとっては喉から手が出る程欲している安定した大地のようで、ようやくそれを手に入れられたのだという思いが不意に芽生え、額に掛かる黒髪をそっと指で掻き上げてやると、微かな声が流れ出す。
幸せそうな眠りを妨げたくはなかったが、今この幸福感の塊のような千暁の傍で己も眠りたいという強い欲求が芽生え、ベンチを回り込んで足下に座ると、その衝撃に身体が動いた結果、驚くほど大きな目がゆっくりと開く。
「……カイン…?」
「ああ。起きたか?」
「……う、ん……お帰り……」
眠い目を何度か瞬かせる千暁の額にキスをしたカインは、お帰りと呟く唇にもキスをすると、一瞬で目を覚ました恋人を抱き上げてそのままベンチに寝転がる。
「カイン!?」
「うるさい」
「うるさいって……ここで寝るの?」
カインに半ば乗り上げていた千暁だったが、特徴的な赤毛の長身の恋人がこのまま寝たいのだと気付き、それならば自分は邪魔にならないように起きようとするが、カインが千暁の腕を引き寄せたため、胸に倒れ込んでしまう。
「わっ!」
「……ここにいろ」
「…………うん、分かった」
短い命令形のお願いに頷いた千暁は、規則正しい鼓動を確かめるように耳を押し当てる。
「お帰り、カイン」
「ああ」
間近にある顔にお帰りを告げた千暁は、短い言葉を返されて己もまだ睡魔が体内に居座っていることに気付き、小さく欠伸をする。
「寝るぞ」
「……う、ん……」
ここは本当に居心地が良いが、今はきみがいるから天国のようだと笑った千暁だったが、カインが身に纏っている空気が一瞬で柔らかなものになったことをぼんやりと察し、眠い目でカインの灰色の切れ長の瞳を見つめる。
「……アキ」
「ん……?」
「……何でもない。おやすみ」
「う、ん……」
人に対してあまり関心を持たないカインだったが、今のように穏やかな顔で笑みを浮かべることを知る人は限られていて、その数少ない人でありまたその対象でもある千暁は、穏やかな顔で目を閉じるカインにつられて笑みを浮かべ、お休みと呟いて目を閉じる。
程なくして再び千暁の小さな寝息が聞こえ、目を開けて己の身体に伏せて眠る千暁の髪をそっと撫でたカインは、何があっても二度と手放すつもりはない千暁の身体にしっかりと腕を回してベンチに横臥すると、すっかり寝入ってしまった千暁を追いかけるように目を閉じる。
己が幼い頃から欲していた楽園を与えてくれる小さな恋人と植物たちに胸の裡でのみ感謝しつつカインも一時の眠りに身を委ねるのだった。
2015/03/10
【中世風ファンタジー♂×♂読みたい?】アンケート回答お礼コバナシ(その2)
こちらの二人も早く書きたいですね(、、;


