Stand By Me -Stand By Me-

Über das glückliche Leben(UGL) -Lion & Uwe -

 三度リオンから電話が掛かってきた時、彼は午前中に買い求めた物へのカードにメッセージを記入している時だった。
 初めて過ごすお互いの誕生日。
 先日ここで恋人の同僚による誕生日パーティを開いたが、その時にプレゼントが用意できず、今日渡す為にスパイダーを走らせたのだ。
 パーティから一夜明けた日も一緒に過ごしていたが、時計の調子が悪いと言っていたのを思い出し、気に入ってくれればいいと願いつつこれを選んだ。
 買った物はスイス製の時計で、夜間であっても視認性が良く、ブランドとしても信頼の置けるものだった。
 仕事中だろうと休みだろうとどちらにでも使えるような時計を選んだつもりだが、気に入ってくれるだろうかとの一抹の不安はあった。
 恋人へのプレゼントは今まであまり贈ったことはなく、しかも送る時は花束と決めていたのだ。
 今の恋人相手に花束を贈れば、きっとくっきりと眉間に皺を刻んで熱でもあるのかと言い出すだろう。だから何を選べばいいのか随分と悩んだが、時計の話を思い出して買い求め、カードの用意をしている時に背後のベッドに広げたものの中から軽快な音楽が流れ、恋人からの着信を教えてくれる。
 「はい」
 携帯を肩と耳で挟み、書き終えたメッセージカードを封筒に入れて丁寧にラッピングされた小箱に挟み込んだ彼は、賑やかな声とそれに負けない程の賑やかな背後の物音に瞬きをする。
 『ウーヴェ?今駅にいるんだけど』
 「駅?どこの駅だ?」
 ナイトテーブルの時計を見れば既に時刻は夕方を示していて、窓の外も日が沈んだことを教えてくれる暮色に染まっていた。
 『中央駅!』
 「は!?」
 どうりで背後が賑やかだと苦笑したウーヴェは、迎えに行こうかと問いかけて待っていてくれと返される。
 『晩飯どうするんだ、ウーヴェ?』
 「まだ何も考えていないが・・・君はどうするつもりだ、リオン?」
 『あー。また俺のことをお客さん扱いする気?』
 「いや、そんなつもりはない」
 先日この家で恋人の誕生日パーティを行い、泊まって帰ったのだが、その時の一悶着を思い出せと言うように声を潜めたリオンに慌てて訂正をする。
 『なんか買っていこうか?』
 それとも何処かに食いに出掛けるかと問われ、少し考えた後、何が食べたいと逆に問い返す。
 『今なら何でも食う!』
 「そうか」
 それならば適当に何か作ってやるから酒だけを買って帰って来いと告げ、ふと己の発言に目を瞠る。
 帰ってこい。
 まるで一つ屋根の下に暮らしているかのような言葉。
 その言葉が持つ響きに目を瞠ったものの嫌悪感や疑問などは一切感じず、ごく自然とその言葉が流れ出した。
 『ウーヴェ?』
 「なんだ?」
 『いや、ビールとワインのどっちが良い?』
 先日のパーティでお互いにかなりの酒を飲むことが判明したが、酒の好みは違っていた。
 その為の問いだと気付き、ワインならば家にあるから君が飲むものを買って来ればいいと苦笑混じりに告げれば少しだけ沈黙が流れ、ヤーと威勢良く返される。
 『下に着いたら連絡する!』
 「分かった」
 耳の底に残る濡れた音に首を竦め、携帯をデスクに置いて食事の用意をする為にベッドルームを出るが、自分がかなり浮かれていたことを思い知らされる。
 先日のパーティの材料は皆持ち寄りだったのだ。ストックしてある酒などもあまり飲まずにいたが、良く考えれば晩ごはんの材料などある訳がなかった。
 先日までここのキッチンをロクに使ったことなど無かったのだ。
 寒々しいキッチンに入って冷蔵庫を開け、更に寒々しい庫内の現状に溜息を吐いた彼は、どうせならば恋人が食べたいと思っているものを作ってやろうと決める。
 そうと決めれば行動は早かった。
 ベッドルームに取って返し、デスクに置いた携帯を操作しつつクローゼットからコートを引っ張り出して車のキーを掴む。
 「リオン?」
 『どうした?』
 「今中央駅だと言ったな?」
 『あ、もうそっちに向かってる』
 聞こえてきた声は確かに周囲を気遣う風で、ここのマンションの最寄り駅に向かっていると言われた為、今から車をそちらに走らせるから一番近い駅で待っていろと告げれば、電話の向こうで盛大に驚く気配がするが、ヤーと戯けた声が返ってくる。
 「20分くらいは掛かるかも知れないが、待っていてくれ」
 『分かった。あ、ウーヴェ』
 「どうした?」
 こちらに来るのはスパイダーかと問われ、荷物があるから出来ればベンツが良いとも言われて瞬きをする。
 『結構大きい荷物だからさ・・・』
 「ベンツは家に置いてきたぞ。トランクに入らないか?」
 『げ、そうなんだ?うーん・・・何とかするか』
 「大丈夫か?」
 『いけると思う。あ、もうそろそろ駅に着く』
 「ああ、待っていてくれ」
 スパイダーのキーをちゃらりと鳴らした彼は、なるべく恋人を待たさないようにする為に駆け出し、この家に入って初めて長い廊下を疎ましく思うのだった。

 

 中央駅からいくつか進んだ駅で降り、雪が降る中待っていたリオンを猛スピードのスパイダーで迎えに行ったウーヴェは、驚くほど大きな荷物を持った恋人に絶句し、確かにトランクに入らないかも知れ無いと苦笑するが、何とかそれはトランクに収まってくれた為、閉店間際のデリカテッセンに駆け込んでチーズにサラミ、ソーセージや出来合いの料理、そしてビールを買い込む。
 いつもならばランチにしっかりと食べるのだが、二人とも今日に限ってはランチを楽しむ余裕が無く、今夜の食事を二人で楽しもうと決めて余るほどの食材を買い込み、トランクに積めない為に助手席のリオンが買い物袋であっぷあっぷしつつ何とか帰路に就く。
 二人揃ってマンションの駐車場からエレベーターに乗った時、どちらの心の裡にも同じ思いが芽生える。
 いつか経験したような光景。良く言われるデジャブ体験。
 エレベーターの中でその不思議を考え込んだ二人は、お互い抱えきれない程の荷物を何とか家にまで運ぶ。
 「リオン」
 「ん?」
 「・・・・・・お帰り」
 顔を見ることなく呟いたウーヴェに、一瞬何を言われたのかを理解出来なかったリオンだったが、理解した瞬間、手にしていた荷物を放り出してしまいそうになる。
 先日のパーティの後の一悶着や先程のお客さん扱いをするのかとの言葉を否定したウーヴェだったが、どうやらそれは本心からのようで、伝えられた言葉にどう返そうかと思案するが、ごくごくありきたりな当然の言葉しか出てこなかった。
 「うん。ただいま」
 玄関先で荷物を抱え、互いの顔を見ることなく帰宅を知らせる言葉を告げたリオンは、じわりと胸の奥が暖かくなった事に気付く。
 「食事の用意を手伝ってくれるか?」
 「ヤー」
 びしっと片手で敬礼をするリオンに、呆れたような、だが嬉しそうな笑みを浮かべてウーヴェが指でリオンの金髪を軽く弾き、荷物はリビングに置けばいいと告げながらキッチンへと向かい、弾むような足取りでリオンがその後をついていくのだった。

 

 二人揃って初めて食事の用意をし、出来上がった料理をどこで食べようかと思案するが、リオンがあっさりとキッチンの小さなテーブルで良いと言った為、そこに料理が並べられる。
 今日は世間ではクリスマスイブなのだ。
 デリカテッセンで売っているものもクリスマス料理と呼べるようなものが多く、それらを並べた時、リオンの誕生日を祝うケーキを買ってきていない事を思い出す。
 せっかく二人で過ごす初めての誕生日なのにと、メガネの奥の双眸を曇らせるウーヴェの頬にキスをしたリオンは、この食事だけで十分だと笑い、恋人に満面の笑みで礼を言う。
 一般家庭のようにクリスマスに力を入れた料理は出来なかったが、この家で二人で初めて食べるそれはやけに美味しく感じられた。
 二人ともいつも食べるものはそれぞれ行きつけのカフェの自慢の料理だったが、同じメニューを食べたとしてもこんなにも美味しく感じられるだろうかと、チーズを載せてオーブンで焼いただけのポテトグラタンを頬張りつつリオンがぽつりと呟いた。
 「・・・どうだろうな」
 二人何故か沈黙気味に食事をするがその沈黙は好ましいもので、時折リオンがウーヴェのグラスにビールを注いでやれば、逆にウーヴェがグラタンをリオンの皿に取り分けてやる。
 前までとは決定的に違う空気の中で静かにイブの夜の晩餐を楽しんだ二人は、後片付けも並んで済ませ、ウーヴェがワインのボトルとグラスを手にリビングに向かえばリオンがチーズとクラッカーを両手に後に付いていく。
 リビングにはカウチソファが置かれてあり、壁際にはどうやら飾りではない暖炉があったが、それらはまるで新品のような艶やかさだった。
 リオンの言葉を借りれば、この部屋にはウーヴェは存在しない-つまりは生活感が全くない-らしいが、ソファに並んで座るだけで無機質だった部屋ががらりと雰囲気を変えた。
 「リオン、何を持って来たんだ?」
 ソファの上にでんと存在を示している包みを指さしたウーヴェの言葉を聞いたリオンの顔ににやりと意味ありげな笑みが浮かび、何かとんでも無い悪戯でも思いついたのかと思わずウーヴェが問い返してしまう。
 「後でのお楽しみ」
 何やら激しく嫌な予感がするが、きっとこの様な顔の時に何を尋ねてもはぐらかされるだけだろうと直感的に悟ったウーヴェは、リオンと自分の前に置いたグラスにワインを注ぐ。
 「ウーヴェ、乾杯?」
 「ああ・・・・・・ちょっと待て」
 「へ?」
 グラスを取り上げて片目を閉じたリオンにストップを掛けたウーヴェは、足早にリビングを出て行き、暫く経ってから小さな袋を持って戻ってくる。
 「ウーヴェ?」
 「リオン、誕生日おめでとう」
 リオンの横に、さっきよりも身体を寄せるようにして座ったウーヴェは、驚きに目を瞠る恋人が手にしたグラスをそっと取り上げ、代わりに袋から取り出した小箱を載せる。
 「これ・・・」
 「ああ。気に入ってくれると嬉しい」
 伏し目がちに呟き、開けても良いかの言葉にどうぞと素っ気なさすら感じる声で返したウーヴェの前、リオンが微かに震える指でリボンを解き、ラッピングを外していく。
 「時計?」
 「今使っているのは調子が悪いと言っていただろう?」
 二人で初めて夜を越え朝を迎えた日に調子が悪いと言っていただろうと、照れ隠しのようにグラスのワインを一気に飲み干した時、そっと小箱を差し出して俯くリオンを発見し、ターコイズの双眸を見開く。
 「リオン?」
 「・・・嬉しい・・・けど、受け取れねぇ・・・っ!」
 「どうしてだ?」
 遠慮するなと苦笑しながら時計を取りだし、リオンのつむじを見つめながら腕に嵌めてやる。
 「ウーヴェぇ」
 今にも泣きそうな声で名を呼んだリオンは、腕に嵌められた時計とウーヴェの顔を交互に見つめ、受け取れないともう一度呟く。
 「気に入らないか?」
 気に入らないので受け取らないと言われたのならばどうしようという不安から平静さを装って問いかけるが、返事は言葉ではなく態度で示された。
 リオンがそっと腕を伸ばして抱き寄せると言うよりはしがみついてきたのだ。
 「ウーヴェはカードもプレゼントも受け取らないのに、俺だけ貰うなんて出来ない・・・っ」
 歯軋りとともに告げられた言葉に再度目を瞠ったウーヴェは、気にせずに貰ってくれと震える声を出す。
 年端もいかない年齢のウーヴェが遭遇した一連の事件の最中、幼い子供が知るにはあまりにも辛い事実を知らされ、その結果、ウーヴェの中で自分の誕生はめでたいことではなく、忌まわしく呪わしい出来事になってしまったのだ。
 そしてそれを契機にウーヴェと家族-特に父と兄との間に溝が出来、それは20年が経った今も埋まってはいなかった。
 忌まわしい事件を思い出して歯を噛みしめたウーヴェだったが、同じ日に生を受けた二人なのに俺だけ祝って貰う事など出来ないと、リオンが呼気の塊とともに吐き出す。
 「リオン」
 「どうしてだよ?どうしてダメなんだ!?」
 この世に生まれ出たことをどうして祝ってはいけないのか。
 悲痛な声で問われてウーヴェの胸の奥が以前と同じようにぎしりと軋むが、恋人の声よりも過去からの声の方が大きくて、口から零れ落ちそうになるそれを堪える為、リオンの肩に口を押しつけるように顔を寄せる。
 「ウーヴェ!!」
 「リーオ・・・頼む。分かってくれ」
 「分かるかよ、そんな事!!」
 抱きしめながら叫ぶ声を聞いてられなくて、ウーヴェがリオンのシャツを握りしめる。
 「分からねぇよ!」
 「君は優しいな」
 その優しさ故に分かりたくないのだろうと宥めるように背中を撫でて囁けば、背中に回されていた腕が外され、頬を大きな掌がそれでも優しく挟んで視線をぶつけられる。
 怒りと哀しみに染まったロイヤルブルーの双眸が今まで見た事がない程綺麗で、まるで一対の宝石のようだった。
 笑顔を見せてくれと願ったが、怒りを宿した瞳にも惹かれてしまうと目を細め、ゆっくりと瞼を閉ざせば濡れた感触が瞼の上に何度も降ってくる。
 「本当に優しい良い子だ、リオン」
 「ガキ扱いするなよ」
 「してないさ」
 薄く目を開けて見つめれば、怒りは納まったが悲哀が強くなった瞳で真っ直ぐに見つめられ、同じように頬を両手で包んで顔を寄せる。
 「どうしても受け取れないか?」
 「俺だけがおめでとうと言われるのは・・・嫌だ」
 子供が拗ねるよりも激しいそれに苦笑し、ならば誕生日プレゼントではなくクリスマスプレゼントだと小さく笑みを浮かべれば、碧い眼がぱちぱちと瞬きを繰り返す。
 「クリスマスプレゼント?」
 「ああ。それならば問題無いだろう?」
 幸いなことに今日はクリスマスイブなのだ。プレゼントを贈ったとしても問題はない。
 だから機嫌を直せと言うように囁き、頬にキスをすればやんわりと背中を抱き寄せられる。
 「・・・・・・分かった」
 「良い子だ」
 「だからガキじゃねぇって」
 「ああ。分かってる」
 まだ少々膨れっ面の恋人の頬にもう一度キスをすれば、やや躊躇った後、時計を確かめるように腕を持ち上げてウーヴェをじっと見つめる。
 「気に入ったか?」
 「サイコー。これ、高かったんじゃないのか?」
 「気にするな」
 「・・・・・・じゃ、これ、使わせて貰うな?」
 上目遣いで確認するように問われ、笑み混じりに小さく頷けば、さっきまでは曇っていた顔が一気に晴れ渡る。
 「ダンケ、ウーヴェ!」
 「ああ」
 名目は兎も角、受け取ってくれたことの安堵と己の誓いを理解してくれた事への感謝を込めて時計を嵌めた腕をそっと掴み、手の甲に口づける。
 「リオン────リーオ」
 「うん」
 「クリポとして精一杯働け。遊ぶ時もこれを忘れるほど遊べばいい」
 ただ、独りにしないとの言葉を忘れないでくれ。
 伏し目がちに囁きながら再度手の甲にキスをしたウーヴェに、リオンが驚いたように目を瞠るが、そっと髪に手を差し入れて手触りの良い髪を撫でる。
 「忘れねぇ」
 絶対に忘れないと強い口調で言いきったリオンだったが、誓いを立てるように三度手の甲にキスをされ、今感じている思いを胸に刻み込む。
 独りにしないと言ったものの、それは独りよがりの言葉ではないのかと内心不安だらけだったが、どうやらそうではなかったらしい。
 それが嬉しくて、再度ウーヴェの頬を両手で挟んで顔を上げさせる。
 「ウーヴェ・・・あ、そうだ!」
 「何だ?」
 何かを思い出したのだろう、あっと叫んだリオンが目を丸くするウーヴェをそのままに、ソファから飛び降りて置いてあった大きな包みを抱えて戻ってくる。
 「それは・・・」
 「まさかとは思うけどさ、クリスマスプレゼントも受け取らないとか言わないよな?」
 それを言われてしまうと今日の半日の努力が水の泡だ。
 じとっとした目で睨まれ、実はそれも受け取らないと言いたかったウーヴェだったが、これ以上彼を悲しませたくなかった為にただ苦笑するに止めれば、嬉しそうな笑みが顔中に広がる。
 「はい、ウーヴェ。メリークリスマス」
 「ああ」
 大柄のリオンが持っても大きいそれを受け取り、中を見ても良いかと問えば、ヤーと悪戯小僧の顔で頷かれる。
 急ぎながらも丁寧にラッピングを外し、姿を見せたものにただ呆然としたウーヴェは、その表情のままリオンを見つめてにやりと笑われる。
 「驚いたか?」
 「良くこんな大きなのを見つけてきたな」
 「探し回ったぜー」
 俺の苦労を察してくれと肩を竦めるリオンに半ば呆然と頷いたウーヴェの前、恋人のくすんだ金髪とよく似た毛色の、驚くべき大きさのテディベアがつぶらな瞳で座っていた。
 「まさかとは思うが・・・」
 「そのまさか!と言いたいけど・・・」
 何しろ自分はウーヴェと違って安月給なのだ。残念ながらアウトレット商品だと肩を落としながら告白され、ウーヴェがぽかんと口を開ける。
 ドイツ国内どころか世界中にコレクターがいる、縫いぐるみメーカーのテディベア。
 ヴィンテージものは小さくても高額な値段が付くと聞いた事があるが、この巨大なテディベアは一体幾らしたのか。
 ある意味聞くことすら怖ろしいと思いつつ一体幾ら掛かったと問えば、愛の力で解決しましたと、何故か胸を張って返される。
 その自信満々な様子につい吹き出してしまえば、リオンが片目を閉じつつ頑張ったと再度告げた為、そっと手を伸ばしてテディベアと同じ毛並みの頭を撫でてやる。
 「これでさ、俺がいない時は独りにならないだろ?」
 白い歯を見せて笑うリオンに、少しだけ芽生えた皮肉心から恥ずかしいだろうとつい呟いてしまえば、意外と真剣な顔でリオンが小首を傾げる。
 「別に恥ずかしくないけど?」
 「そうか?」
 「ああ。愛する人が独りになる辛さに比べれば、これくらいどうってことないね」
 「・・・っ!」
 自分を独りにしないと何度も言ってくれ、また誓ってくれたリオンだが、同じ屋根の下で暮らしていない上、職業柄ずっと一緒にいることはなかなか思うようにはいかなかった。
 だから、せめて自分と似通った毛色のテディベアを傍に置いてくれ。
 テディベアを挟んでウーヴェを向かい合ったリオンは、背後からテディベアの腕を掴み、呆然としているウーヴェの頬をクマの手で撫でる。
 「オーヴェ、僕がいるからね?もう独りじゃないよ?」
 「!!」
 クマが話しかけているように声音を変えたリオンが今度は両手でウーヴェの両頬を挟んでもう一度呼ぶ。
 「オーヴェ」
 「リオン、俺はオーヴェじゃない・・・」
 「こいつはオーヴェって呼びたいらしいぜ。誰かさんが俺のことをリーオと呼ぶみたいに」
 テディの脇の下からひょっこりと顔を覗かせて笑うリオンから顔を背け、頬に宛がわれていた縫いぐるみの腕を掴んだウーヴェは、柔らかな撫で心地の良い毛並みに顔を埋めるように前のめりになる。
 「オーヴェ?」
 「・・・テディがそう呼びたいんだろう?なのにお前もそう呼ぶのか、リオン?」
 くぐもった声で笑み混じりに問われるが、つい先程までの口調とは変化している事に気付き、リオンが縫いぐるみではなく己の手でシルバーに光る髪を撫でる。
 「お前が許してくれるのなら」
 ウーヴェの銀髪を見下ろしながら強い口調で囁けば、無言のまま頭が上下に揺れた為、腕を伸ばして抱き寄せようとするが、二人の間に座っているテディの巨体に阻まれてしまい、短く舌打ちをする。
 「リーオ」
 「何だ?」
 「・・・・・・・・お前がいない時はこれを枕にして寝るよ」
 「えー、俺、枕代わり?」
 くすくすと笑い声とともに届けられた声にぶーと唸る声が重なり、テディがウーヴェの手で抱き上げられて背後に移動させられる。
 「ダンケ、リオン」
 「喜んで貰えたら嬉しい」
 メガネの奥の双眸を微かに湿らせたような顔で礼を述べ、自ら手を回して抱き寄せるウーヴェのつむじに口を寄せたリオンが満面の笑みで返す。
 子供騙しだと笑われる覚悟で買い求めたテディだが、予想外に喜んで貰えたようで胸を撫で下ろし、こればかりは子供騙しでもなく真剣に思っていると胸中で呟きながら頭に頬を押し当てる。
 「オーヴェ、もう独りにしない────もう、独りじゃない」
 これからはこのテディの様にずっと一緒にいる。
 穏やかな声と表情で囁くと背中に回っていた手がそっとシャツを握りしめ、胸に触れていた顔が上下する。
 「これからもよろしくな、オーヴェ」
 「ああ」
 頬に手を宛がいながら囁けば、半ば付せられていた双眸が完全に姿を隠して先を許してくれた為、そっと唇を重ね合う。
 クリスマスイブでありお互いの誕生日でもある今日、二人はお互いにクリスマスプレゼントとして、手で触れることの出来るものと、耳と心で確かめられるものを贈り合う。
 この日以降、リオンがこの家に転がり込んでくるまでは、メインのベッドルームのソファで巨大なテディベアが己の任務を果たす為にちょこんと座っているのだった。

 

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2009/12/31
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