Über das glückliche Leben4

Über das glückliche Leben(ÜGL)-Lion & Uwe -

 街中がクリスマスカラーに彩られ、アドヴェントカレンダーを開けるのが楽しみになり始めた12月、大切な人の為のクリスマスプレゼントに人々は悩みはじめていたが、そこに誕生日のプレゼントも加わった悩みを、ウーヴェも抱えていた。
 付き合いだした時はそれなりに格好良く見せたい下心もあり、時計をプレゼントしたが─その時計は今でも毎日欠かさずリオンの腕で時を刻んでいた─、キーホルダーやマフラーなど、その時々に印象深かった物を贈っていた。
 今年は何にしようかと、診察を終えたデスクでくるくると万年筆を回しながら考えていたウーヴェの耳に、静かなノックの音とお茶にしましょうという、悩みから一時だけ解放してくれる声が届き、安堵のため息を零してデスクから立ち上がる。
 「何か考え事?」
 今日はジンジャークッキーとホットココアだと笑いながらお気に入りのチェアに向かうウーヴェに告げたのは、優秀で有能な助手であり貴重な友人でもあるリアで、クリスマスと誕生日プレゼントに悩んでいると肩を竦めて腰を下ろす。
 「毎年悩んでるんだけどな」
 「そうねぇ、今年の流行は何かしら」
 この時期になれば毎年メディアや各お店がお勧めをディスプレイしてくれるが、今年は何かしらと首を傾げる彼女に苦笑し、何だろうなとウーヴェも返すが、リアはどうすると問いかけて沈黙が返ってくる。
 「弟にはプレゼントじゃなくてケーキを焼いてと言われたわ」
 「リアのことをケーキ職人だと思ってるんじゃないか?」
 大学近くのカフェで店長として働くリアの弟に何度か会ったことがあるが、姉のお菓子作りの腕を安く買い叩いているんじゃないかと、彼女の好意に誰よりも甘えているウーヴェが告げると、そうかも知れないと、リアが姉の顔で苦笑する。
 「恋人もいないし」
 「そうか」
 「私よりもあなたでしょ、ウーヴェ。何を買うの?」
 確か何年か前はベストとかセーターとかを買っていたわねと笑われ、悩んでいると何度目かの溜息をテーブルに落としたウーヴェは、最近欲しいと言っていたものは無いのかと問われて何故かココアの満たされたカップを揺らしてしまう。
 「ウーヴェ?」
 「・・・お前の愛が欲しいと言われたな」
 「まだ欲しいの!?強欲ね」
 傍目には時々鬱陶しい程なのに、まだ欲しいのかと、リアが己の言葉の棘を意識せずに言い放ち、ウーヴェも気付かないフリで頷いた時、ドアが再度ノックの音を立てる。
 慣例からすればここで聞こえてくるのはノックではなくドアを破壊するつもりかと疑いたくなるような暴力的な音だが、今も聞こえるのはちゃんとしたノックの音だった為、来客かとリアが慌てて立ち上がり、ウーヴェがどうぞと声をかける。
 「ハロ、ウーヴェ、リア。今大丈夫かな?」
 診察は終わりましたの札がドアに掛かっていたので大丈夫だと思ったんだけどと、顔だけをそっとだしながら遠慮がちに問いかけたのは、外見だけはそっくりだか、内面は全く違うリオンの実の弟だが実際は友人のノアで、リアが微苦笑しつつどうぞと入室を促し、ウーヴェも笑顔で手を挙げる。
 「ハロ、ノア。もう仕事は終わったのか?」
 「やっと作業が終わって、引き篭もってるのが辛いから出てきた」
 仕事の邪魔なら言ってくれ、すぐに帰ると、リオンとの違いをここでも見せつけながら笑顔でリアな隣に腰を下ろしたノアに二人が微笑ましい顔で頷き、飲み物を持ってくるとリアが立ち上がる。
 「ああ、大丈夫、ありがとう、リア」
 水を持ってきているから平気と笑う青年に仕事が終わったのなら少しはゆっくり出来るかと問いかけたウーヴェは、新しい仕事の予定が入ったらまた出かけるが、当分は大丈夫かなと返されて頷き、ウィーンで暮らしている両親に変わりはないかとも問いかける。
 「何とか元気にやってるみたいだな。ありがとう、ウーヴェ」
 「どういたしまして」
 ノアとの出会いとその後の一連の出来事を思い出せば辛いことや今だから笑い合えるが、当時は渦中にいた人間全てが、どうすれば良いのかに悩んでいた。
 それをほぼ同時に思い出し、二人がリオンに対して酷い裏切り行為を働いたことも思い出すが、それを顔に出さずにいると、リアが先に戻って腰を下ろす。
 「ノア、ご両親にクリスマスプレゼントは贈るの?」
 「悩んでる。カードは送るつもりだけど、プレゼントはなぁ」
 今までは三人揃って食事をするのが習慣だった為、今年はどうしようかと本気で悩んでる顔のノアに問いかけたリアとウーヴェが顔を見合わせ、仲が良かったからなと苦笑する。
 「二人はどうするんだ?」
 「私も家族にカードを送るぐらいかしら」
 「俺は、今何にするかリアに相談していたところだ」
 何を贈ろうかなと、腕を組んで天井を見上げたウーヴェにノアが欲しい物を聞いてみればどうだと提案されて眼鏡の下で眉を寄せるが、それが一番かと呟きつつ顔を戻す。
 「・・・愛が欲しいと言われたのよね」
 「は!?ウーヴェの愛!?」
 まだ欲しいのかよと、素っ頓狂な声を挙げるノアに、己の反応は間違っていなかったと自信を持ったリアが仰々しく頷き、ウーヴェが肺を空にするような息を吐く。
 「時々訳の分からない事を言うからな」
 己の伴侶ながら何を考えているのか全く分からないと首を振ってお手上げのポーズをウーヴェが取った時、三度ドアがノックされるが、その音にノアが椅子の上で文字通り飛び上がってしまい、すっかり慣れているウーヴェとリアが無言で溜息をこぼす。
 「どうぞ」 
 「ハロ、オーヴェ、リア!」
 今日はボスが早く帰ってこいと相談役に言われていたから早く仕事が終わった、でも頑張ったから誉めろと、満面の笑みで捲し立てる金色の嵐に誰も何も言えずにいたが、呆気に取られてポカンと口を開けるノアに気付いたのか、リオンがよぅと手を挙げながらノアの頭に上げた手を下ろし、向かいで何とも言えない顔で座っているウーヴェの背後に回り込むと、そっと抱きしめて頬にキスをする。
 「今日も頑張ってきたー」
 どれほど呆れようが、頑張ってきたと顔を寄せるリオンを無碍にできずに後ろに向けた手で柔らかな髪を撫でると、見守るノアの顔が赤くなるような表情を背後に向ける。
 「お疲れ、お帰り、リーオ」
 「ただーいま!」 
 この、永久不変の二人の遣り取りを最も間近で見続けてきたリアには既に免疫があるからか何とも思わなくなっていたが、まだまだ免疫が無いノアが顔を更に赤くする。
 「ノア、倉庫にこもってする作業はもう終わったのか?」
 ウーヴェの頭に頬をぐりぐり押し当てながら赤面しているノアに笑いかけたリオンは、何とか終わって人と話をしたくなったから出てきた事を教えられて興味があるのかないのか分からない顔で頷くが、そーいやマザーがシュトレンを食いにこいって言ってたなぁと皆の顔を見た後に告げ、ウーヴェの頬に再度キスをして肘置きに尻を乗せる。
 「マザーが?」
 「そう。今年も美味しく焼けたってさ」
 その言葉に皆の顔が明るくなり、次の日曜に食べに行こうと頷きあうが、リオンはウーヴェへのプレゼントは考えたのかとリアが問いかけ、ロイヤルブルーの双眸を瞬かせる。
 「んー、前に一度買った事あるんだけど、ブックマークで良い感じのがあったからさ、それにしようかなーって」
 今使ってるのは太陽と月が両端に付いてる革紐のブックマークだが、本の端に引っ掛けるタイプの良いのがあったと笑いながらウーヴェの顔をちらりと見下ろすと、リオンにだけ分かる歓喜を滲ませていて、見えないように小さくガッツポーズを作る。
 刑事の頃は収入の差がかなり大きくて、密かに劣等感すら抱いていたが、今はその感情も素直にウーヴェへの憧れに昇華していて、ささやかだが自分で探した好きそうな物を贈れる事に喜びすら感じるようになっていた。
 「楽しみだな」
 「ただなー、誕生日プレゼントはなー、悩み中」
 リオンのその言葉にノアが目を瞬かせ、誕生日が近いのかと二人の顔を交互に見ると、クリスマスイブだとウーヴェが微苦笑混じりに答え、二人とも同じ日なのかとノアが素直な驚き方をする。
 「ああ、同じ24日だ」
 「ふぅん、そうか・・・え、じゃあさ、プレゼント4つ用意しないといけないのか!?」
 うわー、二人に二つずつなんて何を選べば良いんだと、まるで来週世界が終わると知らされた人のように慌てるノアに三人が顔を見合わせるが、ウーヴェが咳払いをして落ち着けと言い、リオンが二つくれるのならありがたく受け取るが、クリスマスと誕生日とまとめて一つでも問題ないぞと、年下の友人の素直さに感心しつつ目を細める。
 初めて出会った時から素直だとは思っていたし、それから友人として付き合いだしてからもその素直さに時々心配になる程だったが、少しだけ羨ましいと思いつつ、お前がくれるのなら何でも受け取るが、人形は必要無いからなとニヤリと笑うと、ノアが頬を赤らめる。
 「・・・俺の初めての誕生日プレゼントにラブドールをくれたよなぁ!?」
 「ははは。役に立ったか?」
 ノアがこの街に本格的に腰を据えて仕事を始めた年の誕生日に、リオンが冗談半分でラブドール──所謂ダッチワイフ──を贈ったのだが、貰ったものが極めてプライベートな時間に使用する物だった為、暫くの間、自宅兼作業場の倉庫の片隅に袋に入れたまま保管していたのだ。
 この街に来て新たに出来た数少ない知人がそれを目の当たりにしては気の毒そうに見られたり、肩を叩かれて今度いい女のいるFKKに連れて行ってやると言われたりで、その度に顔を赤くしたり青くしたりしていたのだ。
 今はそのラブドール──名前はクリスティーナ──を防犯対策として、窓際に置いたチェアに座らせているのだが、あの時は本当に困ったと赤い顔でリオンを上目遣いに睨んだノアは、堂々とあんな物を贈るなとブツブツと文句を言うが、人形じゃなくてオモチャが良かったかと、更にニヤリと笑みを深めて問いかけられ、口をパクパクとさせてしまう。
 その反応を一頻り楽しんだリオンだったが、己の視界の隅に白い手が入ったかと思うと、耳に痛みを覚えて悲鳴を上げる。
 「痛いいたいイタイ!」
 「時と場合と相手を考えろ、バカタレ」
 さっきは恐るべき優しさでリオンの髪を撫でた白い手が、今は涙目になるほどの痛みを与えていることにノアがポカンと口を開き、リアがやれやれと首を振る。
 「ごめーん!お願い許してオーヴェ!」
 「バカタレ」
 友人とは言え女性の前での下品な話は好きじゃない、いつも止めろと言っているだろうと言いつつ最後にギュッと引っ張ったウーヴェの耳に、オーヴェのイジワル、トイフェル、悪魔というお決まりの罵詈雑言が流れ込み、リオンの耳を引っ張った指を立ててその顎に宛てがうと、今何を言ったと、絶対に逆らえない笑顔でリオンを見上げる。
 「今、何を言った、リーオ?」
 「オーヴェのカタブツって思っても、もう言いません」
 「ふぅん、思っているんだな?」
 そのやりとりすらも永遠不変のもののように思えたリアが、流石にいつまでも続けられれば精神的にダメージを食らうことに気付き、こほんと咳払いをして片目を閉じる。
 「それ以上その件で口を開けば、有名パティスリーのガナッシュを買って来てもらうわよ」
 確か一日の限定数が少ない上に、予約もできないから欲しければ朝一番に並ばないと買えないのよね、あれ、と笑うリアに男二人が顔を見合わせたのち、ほぼ同時に失言でしたと頭を下げる。
 その光景を呆然と見ていたノアだったが、誕生日プレゼントとして何が欲しいと、話題を変えようとしているが変わっていないことを問いかけ、それに気付いたウーヴェが咳払いをして何が欲しいかなと顔の前で指先を重ねて目を細める。
 「俺はオーヴェの愛が欲しい!」
 「・・・まだ言ってるのか」
 「えー、いつだってどこでだって欲しいだろ?」
 やっぱりいつでもどこでも何をしていても欲しいものだと笑うリオンにウーヴェが諦めたように溜息を零すが、そんなに俺の愛が欲しいのなら覚えておけとウーヴェにしては珍しい不敵な笑みを浮かべると、リオンの顔に期待と不安が綯い交ぜになった表情が浮かぶ。
 「オーヴェ?」
 「なんだ?」
 「ん、いや・・・何でもねぇ」
 お前の愛ならいつでも欲しいから楽しみにしてると笑い、リアへと顔を勢いよく向けると、俺もココアを飲みたいが水でも良い、冷蔵庫に入っているかと問いかけ、無言で頷かれた為にそそくさと診察室を出て行く。
 その背中に誰も何も言えずに見送るだけだったが、ノアが何をするつもりなんだと問いかけ、不敵な笑みのまま楽しみにしていろと返されてリアを見れば、最早何も言うつもりはないと言わんばかりに少し冷めたココアに口を付けるのだった。

 

 

 

クリスマスイブへと日付が変わる瞬間を、小さな教会のマリア像に見守られながら二人だけで過ごす、いつ頃からか恒例になった時間の過ごし方を今年も終えて真夜中に自宅に戻った二人は、お昼前に目を覚まし、今日の午後に行われる誕生日会の準備の仕上げの為に動き出そうと苦笑しあう。
 今年もギュンター・ノルベルトが送りつけて来た生のもみの木に様々な形のオーナメントを飾り付け、一番上の星を今年はリオンが飾り付けたのだが、もみの木の根元には雪をイメージした飾り付けがなされていたが、それを隠してしまうほどのプレゼントが置かれていた。
 そして、何よりも目を引くのは、もみの木と同じ高さにふわふわと浮いている色とりどりのバルーンで、誕生日おめでとうの文字やクラッカーが破裂して中の飾りが飛び出しているイラストなどが描かれたものがいくつもあり、パーティー気分を盛り上げてくれていた。
 その雰囲気の中、暖炉の前に置いたソファーベッドに二人並んで座り、リオンが魔法のブランケットと呼ぶそれでウーヴェの足を覆ってグリューワインを飲んでいると、一足先に準備にかかるからと、両親の家の料理長とベルトランが食材や下拵えが済んだ物を運んで来る。
 何か手伝おうかとベルトランに伝えたが、邪魔になるから座っていろと笑われ、素人が手を出さないほうがいいと懸命な判断をした二人は、キッチンから聞こえて来る料理の音に期待に胸を膨らませる。
 「そう言えば今日はノアも来るんだったな?」
 「うん、来る。写真撮ってくれるって言ってたっけ」
 こんな時でも写真を撮るんだからと、感心しているのか呆れているのか微妙な表情で肩を竦めるリオンにウーヴェも苦笑するが、彼は仕事では風景や自然しか扱わない、人を写すのはプライベートだけだと断言していた事を口にすると、分かっていると言いたげにウーヴェの髪をリオンの手がそっと撫でる。
 「ノアにたくさん写真を撮ってもらおうぜ」
 「そうだな」
 その中にノア自身も入ってもらおうと笑い、グリューワインを飲み干した時、インターフォンが来客を告げ、リオンがすぐさま立ち上がって玄関へと向かうと、程なくして何人かの声が聞こえて来る。
 その賑やかな声にウーヴェもゆっくりと立ち上がり、着替えるためにステッキを頼りにリビングを出るが、ちょうどリオンが戻って来た為、手招きをしてその腰に腕を回して支えにすると、リオンも当たり前の顔でウーヴェを支えてベッドルームに向かう。
 「みんな、リビングにいてくれ」
 ベッドルームのドアを開けながら振り返ったリオンは、着替えたらすぐに戻るとも伝えてドアを閉め、ベッドルームでウーヴェと二人で着替えを済ませてパーティへと気持ちを切り替えるのだった。

 

 

  

 料理長とベルトランが用意してくれた料理は、質も量も最高な物で皆満足していたが、プレゼントの開封の時間になり、ウーヴェがギュンター・ノルベルトやミカに頼んでコーヒーテーブルを部屋の隅に移動させる。
 今から何が起こるのかに胸を弾ませていたリオンだったが、目隠しをされてソファーベッドに座らされ、何だ何だと楽しげな声を上げる。
 「もう少し待て」
 リオンの声にウーヴェも楽しそうに返し、ノアとカインが二人で運ばなければならない大きさの箱から星の形をしたオブジェのような物を取り出すと、星の頂点に開けられた穴にロープを通し、リオンを除いてこの中で一番体力があるミカとヘクターがロープの両端を握って星をミカが手を伸ばしてギリギリ届く高さにまで引っ張り上げる。
 部屋の中央に突如現れたスターに、レオポルドやイングリットが何が起こるのかと顔を見合わせ、氷の女王と称されていたアリーセ・エリザベスも何だと、シャンパングラス片手にソファで足を組む。
 「リオン、もう良いぞ」
 ウーヴェが準備が整ったと手を打ち、その声にリオンが目隠しを外すと、一瞬何があるのか周囲を見回すが、己の頭上に吊り上げられた星のオブジェに気付いて目を見張り、次いでウーヴェへと顔を向けると、ニヤリと笑う永遠の恋人の顔を発見する。
 「オーヴェ、これ・・・?」
 「ピニャータだ」
 ウーヴェがビールを一口飲んで悪戯が成功した子供の顔で笑ってリオンを手招きすると、今は以前と同じように青い石のピアスが一対だけ嵌る耳朶に口を寄せ、俺の愛が欲しいんだろう、目に見える形で用意したと囁いてメガネの下で不敵に笑う。
 「・・・ダーリン、最高!」
 こんな形でお前の愛を手に入れられるなんて本当に幸せだと笑うリオンの手に、風呂掃除をする時に使うデッキブラシを手渡し、これであの星を割るんだと告げ、本来ならば目隠しをして声の誘導でピニャータを割るのだが、流石にそれをお前の力ですると部屋の物を壊しかねないから、何秒で壊せるかチャレンジだと笑い、期待に満ちた周囲の顔を見回す。
 「何秒で割れると思う?」
 「30秒!」
 「げー、流石にそれは無理だろ!」
 誰かの声にリオンが嬉しそうに返し、30秒は無理でも最短時間を目指すと腕に力を込めた為、ウーヴェが暖炉前のソファーベッドに腰を下ろし、時計を見ながら用意スタートと声をあげる。
 「っしゃぁ!!」
 ウーヴェの声に合わせてリオンが一声吼えたかと思うと、頭上で吊るされている星を破壊するためにデッキブラシの棒を叩きつけ、オブジェが壊れていく音が響く度に、レオポルドやイングリッドが歓声をあげ、カインと千暁とこの時初めて顔を合わせたノアが三人揃って応援の声を上げる。
 「ねえ、フェル、中に何を入れたの?」
 「壊れてからのお楽しみだな」
 弟の背後に回り込んだアリーセ・エリザベスが教えなさいよと笑みを浮かべ、弟も内緒だと片目を閉じるが、俺の愛が欲しいと言っていたからぎゅうぎゅうに詰めてやったと笑った時、星の右下の頂点が壊れ、中が少しだけ見えて来る。
 「リオン、もう少しだ!」
 「くそ、これ結構腕がキツイ!」
 手を伸ばしても届くか届かないかの高さに吊るされているそれをデッキブラシの棒でひたすら殴るのは流石に腕力や体力に自信があるリオンでも疲れることのようで、ちらりと振り返った先でウーヴェが足を組み、いつもならば見せない尊大な態度で目を細めたのを発見すると、何が何でも全部壊してやるという意地が芽生えてくる。
 「もう少しで底が壊れるわ」
 時間ができたからと駆けつけてくれたリアの声にリオンが最後とばかりにデッキブラシの棒を叩きつけると、星が破裂する音と何かが降ってくる音、そしてリオンの声が部屋中に響き渡る。
 「い、いてて・・・いてぇ!!」
 「リオン!?」
 その悲鳴に皆が一瞬ざわつきリオンを見つめるが、当の本人は頭を抱えてその場に蹲っていて、その手の上に星形のピニャータが、忘れ物だよと言わんばかりに四角い物体を落下させる。
 ごつ、という痛そうな音が響いた後、リオンが一体何が起きたと周囲を見回すと、己が蹲っている場所を中心に四方八方に色とりどりの正方形の袋が散らばっていて、その一つを手に取って呆然とするリオンに向けてウーヴェが小気味好い音をさせて手を一つ打つ。
 「オーヴェ・・・?」
 「誕生日おめでとう、リオン」
 リオンの周囲に散らばっているのは、好物の正方形のチョコで、最後に降ってきたのは特大サイズのチョコだった。
 俺の愛が欲しいと言っていただろう、だからありったけの思いを詰めてみたぞと笑うウーヴェに誰も何も言えなかったが、特大のチョコを手に立ち上がったリオンがウーヴェの前に向かうと、その場に胡座をかいて座り込む。
 「嬉しくないか?」
 「嬉しいけど!嬉しいけどさぁ・・・」
 お前の愛が痛いと情けない顔でリオンがウーヴェを見上げたため、周囲から小さく吹き出す声が響き、次第にそれが大きくなっていく。
 「むー。俺のダーリンはやることがすごいんだからぁ」
 呆れているのか感心しているのか不思議な顔で呟いたリオンだったが、周囲で起こる笑い声につられるように表情を切り替え、破顔一笑。
 「ダンケオーヴェ、愛してる!」
 「こら!」
 あぐらをかいて座っていた場所でカエルか何かのように飛び上がってウーヴェに抱きついてその頬にキスの雨を降らせたリオンにウーヴェが目を白黒させるが、せっかくの楽しいパーティの雰囲気を壊したくないと言い訳をし、リオンの頬にキスを返すと、周囲からはいい加減にしろだの、仲良しアピールを見せつけるなだのと不満の声が上がるのだった。

 

 

 

 ピニャータから出てきたチョコを一枚ずつ持って帰ってくれとリオンが自ら提案し、次は31日のカウントダウン花火を家でするからいらっしゃいとイングリッドとレオポルドに誘われて頷き、ギュンター・ノルベルトとヘクターも参加する、美味しいものを食べようとウーヴェとリオンをハグする。
 カウントダウンはフィンランドに帰るからもう今年は会えないけれど、花火を楽しみなさいと、姉夫婦のしばしの別れをハグとキスで済ませ、裏方として奮闘してくれた料理長にも感謝のキスとささやかなプレゼントを手渡す。
 リアが帰りが一人だからと知ったノアが送っていく事、今日の写真は信じられないぐらいの量だから、後日アルバムにまとめて持ってくると約束し、二人に誕生日おめでとうの言葉とともに、プレゼントを必死に考えたから喜んでくれたら嬉しいと僅かに顔を赤らめ、リオンがノアの肩に腕を回してありがとうと素直に礼を言う。
 今日のパーティーは楽しかった、次は年が明けたら家でホームパーティをするから来てくれ、その時にはピアノをカインと一緒に弾くからと、ワイン一杯で真っ赤になっている千暁を難なく支えながら頷いたカインは、次は年明けに会おうと、ウーヴェの額とリオンの頬にキスを残して帰っていく。
 もう一人、料理人として裏方で汗水を流してくれていたベルトランにウーヴェがありがとうと一言伝えると、お前が楽しそうで嬉しそうに飯を食っているのを見られただけで満足だと照れているのか口早に告げ、誕生日おめでとう、ウー、リオンと、ベルトランだけが呼べる名で祝うと、二人も素直にありがとうと頷き、年明けに店に行くからうまい飯を食わせてくれとハグをして送り出す。
 皆が帰った後のリビングはパーティーの残滓を色濃く残して寂寥感も漂っていたが、これが永遠の別れになる訳でもないと苦笑した時、ドアベルが控え目に鳴らされ、誰かが忘れ物でもしたのかと顔を見合わせるが、もう一度鳴ったためにリオンがリビングから出ていく。
 皆が手分けをして後片付けもしてくれたのだが、忘れられていたピニャータのかけらがソファの下に落ちていることに気付き、ステッキでそれを手元に引き寄せたウーヴェの耳に流れ込んできたのは、少しだけ抜け出してきましたという穏やかな、今日ここで聴けるとは思っていなかった母の声だった。
 「マザー!来てくれたのか!?」
 「アーベルらが行って来てくださいと」
 ミサや教会を訪れる人の相手で忙しいのに、時間を作ってくれましたと笑みを浮かべるマザー・カタリーナにウーヴェが嬉しそうに目を細め、冷たい頬にキスをすると、暖炉の前のソファーベッドへと案内する。
 「今みんな帰った所だ」
 「はい、下でお会いしました」
 皆さん元気そうで良かったと笑う彼女の手を撫でて忙しいのによく来てくれたと再度歓迎の言葉を伝えると、キッチンに向かったリオンがマグカップとチョコを持って戻ってくる。
 「マザー、グリューワインとチョコだ」
 「ありがとうございます」
 湯気のたつカップを受け取ってほっとした顔で頷く母を挟んで左右に座った息子たちは、ミサの様子はどうだ、子供たちはちゃんとプレゼントを貰えたのかだのと交互に問いかけ、あなた達がプレゼントを沢山くれたので、みんな大喜びでした、料理も美味しく食べていましたと教えられて母の頭上で顔を見合わせる。
 「そっか。良かった」
 「はい。・・・で、これは、リオンとウーヴェに、と」
 子供達がカードを書いたので持って来ましたと、バッグから出されてリオンが受け取り、ついでウーヴェにそれを渡すと、あいつらもこんなカードを描けるようになったんだなとリオンが照れ隠しに呟く。
 「マザー、子供達に礼を言ってて欲しい」
 「はい。・・・これは、わたくしから」
 次いで取り出した小さな袋をそれぞれの手に載せると、二人が袋を開け、フェルトか何かで出来た小さな天使の像を発見する。
 「久しぶりに神父様と作ってみました」
 「げ、あの神父様、こんなのもつくれるのか!?」
 「人は見かけによらないな」
 リオンにしてみれば口うるさい大人の代表とも言える司祭が、こんな繊細な人形を作れるとは思わなかったと呟くと、意外と手先が器用なのですとマザー・カタリーナがニコニコと頷く。
 「・・・アーベルが、どうも苦手なようで、なかなか苦労してましたよ」
 ああ、その場面を見せたかったと笑うマザー・カタリーナに二人が再度顔を見合わせた後、確かに見てみたかったと笑う。
 「パーティはどうでしたか?」
 「カインも来てくれたし、すげー楽しかった」
 オーヴェがピニャータを用意してくれたことが最大の驚きだったと笑うリオンにウーヴェも苦笑するが、誕生日プレゼントですかと問われて頷く。
 「どちらかと言えばクリスマスプレゼントかな。誕生日プレゼントは手袋に穴が開いたと言っていたので、手袋にした」
 「良いですね。リオンは何を贈ったのですか?」
 「俺はブックマークと部屋で着るキルトのガウン」
 すげー暖かいのを見つけたからそれにしたと笑ったリオンだったが、大切なものを思い出したと立ち上がり、ウーヴェも頷いたため、リビングを飛び出していく。
 「どうしたのですか?」
 「うん、忘れ物だな」
 「?」
 バタバタと足音を響かせて出ていったリオンが戻って来るが、その手には丁寧に
照れ隠しにその袋を母に突きつける。
 「ほら、マザー」
 「え・・・?」
 「俺たちからのプレゼントだ」
 子供達やホームのシスターらに渡したのとは別だから受け取って欲しいと母の手に袋を握らせたウーヴェは、袋を開けて中を見て嬉しそうに目を細める。
 「来年の手帳と万年筆ですか?」
 「そう。ノアの誕生日に勧めてただろ?」
 それを見て思い出したのと、ゾフィーが赤い手帳をいつも使っていたからマザーにもと思ったと、二人で選んだ事を笑顔で伝えながらぜひ使ってくれと頷くと、マザー・カタリーナがはいと頷いて袋を抱きしめる。
 「大切に使わせてもらいますね」
 「うん」
 今日は何とか時間を作ることができたが、明日はやはり忙しさが増す為、そろそろ帰りますと名残惜しさを隠さないで告げる母に残念だと言いたいのをぐっと堪え、送って行ってもいいかとリオンがウーヴェに囁きかけ、俺も一緒に行くと返事をされて嬉しそうに目を細め、ウーヴェの頬を指の背で軽く撫でる。
 「ダンケ、オーヴェ。でも雪が降って来たし寒いから家で待っててくれ」
 「分かった。気をつけて行ってこい。────マザー、31日の昼頃にホームに二人で行くから」
 「はい。楽しみにしてますね」
 今日は本当に短い時間だったが、ここにくることが出来て良かったと頷く母の頬にキスをし、そっと背中を抱きしめると、同じ優しさで背中を抱き返されて安心感に包まれる。
 「じゃあ行ってくるな、オーヴェ」
 「ああ」
 リオンとマザー・カタリーナを送り出し、雪が降り出した窓の外へと視線を向けたウーヴェだったが、帰って来たリオンが寒さを訴えてはいけないからと、お気に入りになっている魔法のブランケットをソファーベッドに用意し、テーブルには今日はピニャータに押し込めた物をぶつけると言う、ある意味数の暴力のような事をしてしまったが、好物にかわりはないチョコを用意し、暖炉の炎で暖まりながら帰ってくるのを待っているのだった。

 

 

 

 母を送り届けて帰って来たリオンを玄関で出迎えたウーヴェは、寒いなぁと言いながら腰に腕を回して支えてくれるリオンにお疲れと労いの言葉を掛け、チョコを食べるかと顔を見ると、あとどれぐらいチョコが残っているんだと嬉しそうに問いかけてくる。
 「そうだな、最低でも20枚はあるかな?」
 「あと、最後に落ちて来た特大のチョコ。あれが一番痛かった」
 「ははは」
 リビングに二人で入り暖炉の前の定位置にリオンを座らせると、何か飲むかと問いかけつつキッチンに向かおうとするウーヴェの手を掴んで引き寄せられ、リオンにのしかかるように倒れこんでしまう。
 「こら、リオン」
 「────マザーも来てくれてさ、良かったな、オーヴェ」
 己の身体をしっかりと抱きしめながら嬉しそうに囁くリオンにウーヴェも最初は呆れていたが、確かに嬉しいなとリオンの歓喜を自身に中に取り入れたように笑みを浮かべ、掛け声をかけて体勢を立て直すと、リオンにもたれかかるように身を寄せる。
 「皆にプレゼントを贈れたし、もらうことも出来たな」
 「そーだな」
 今日ここに来てくれた人達からもらったプレゼントはそれぞれにとって必要なものであり、またもらって嬉しいと思えるものばかりで、本当に嬉しいと笑いながらウーヴェがリオンの隣に座り直すと、その腿にリオンが甘えるように頭を乗せる。
 この場所に置いたソファーベッドで、魔法のブランケットを被ってウーヴェに膝枕をしてもらう、それは二人にとって付き合いだした頃から変わることのない行為で、当たり前のようにそれをするリオンにウーヴェも当たり前にそれを受け止め、暖炉の炎が爆ぜる音をただ静かに聞いている。
 「・・・さっきまでうるせぇぐらいだったけどさ、二人きりで静かってのも悪くないな」
 「・・・そうだな」
 静けさよりも賑やかさを好むリオンだったが、こうしている二人の時間も悪くないと笑い、ウーヴェの前髪を軽く引っ張って顔を引き寄せると、メガネをそっと外して目尻のホクロを指の腹で撫で、ついで薄く開く唇にキスをする。
 「ああ、そうだ。────誕生日おめでとう、オーヴェ」
 「お前も」
 年は違えども同じ日に生まれ、同じ日におめでとうと言いあえる、今年もそれが出来たと嬉しそうに笑ったリオンは、そっと起き上がるとウーヴェを抱き締め、ダーリン愛してると囁きかける。
 「やることが極端なダーリンでも?」
 「もちろん!お前の愛が痛いってのに気付いたけど、でもそれでも愛してる!」
 「はいはい」
 リオンの告白を適当にあしらったウーヴェは、そんな事をいうダーリンにはお仕置きだと言い放たれて嫌な予感を抱くが、何かを告げる前に抱き上げられていつものように離せ下ろせバカリオンと言い放つ。
 「素直じゃないお前も好きだけど、素直なお前はもっと好きっていつも言ってるでしょー」
 だから素直になってこのままベッドに運べと言えと笑われ、一瞬考え込んだウーヴェは、間近でそれを見たリオンが赤面するような笑みを浮かべ、ベッドに連れて行けと囁きかけると、言葉ではなく鼻息で返事をしたリオンがリビングを飛び出していく。
 「こらっ!」
 「ウルセェ。あんな顔で煽るオーヴェが悪いんだ!」
 だから俺は悪くないと吼えつつベッドルームに突進するリオンに最初はやめろと汗を浮かべたウーヴェだったが、楽しさに気付いた顔で笑みを浮かべ、頭を抱え込むように腕を回して早くベッドに降ろせと命じるのだった。

 

 

 

 こうして、クリスマスイブと二人の誕生日の夜は更け、翌日のクリスマス当日の午後遅く、二人揃ってホームに顔を出し、昨日の名残のピニャータから転がり落ちたチョコを子供達にもお裾分けするのだった。


2020.12.24
誕生日、おめでとう、リオン・ウーヴェ! いつまでも、仲良くね。


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