新しい年に変わった瞬間、広大な屋敷の庭で打ち上げられる花火の喧騒を数時間前に聞いた翌朝、新しい年になったからといって特に何が変わる訳でもないいつもと同じ朝を、家を出るまでは毎日過ごしていたベッドの上で迎えたウーヴェは、目を瞬かせて睡魔を遠ざけると、不意に感じた寒さに体を一つ震わせる。
そして、この部屋が自宅ではなく両親の家である事を思い出し、昨夜の楽しかった時間も思い出す。
ここ数年の恒例行事となった12月31日の過ごし方だが、家族間の断絶があった頃からは想像も出来ない楽しく愉快な時間で、それを演出してくれた存在を思い出し、ベッドの中で寝返りを打ってそこに想像通りの顔で眠るリオンを発見すると、無意識に安堵の溜息をこぼす。
今は閉ざされている瞼の下、ウーヴェが愛して止まない至宝のようなロイヤルブルーの双眸が、いついかなる時も好奇心に輝いていて、曇る事は滅多になかった。
リオンが歩んできた道を思えば澱んでしまっても仕方がない双眸が、例えどれほどの困難や辛苦に直面しても曇ることも澱むことも無い事実は得難い奇跡のようなものだった。
その奇跡を毎日無意識に感じ取っていたウーヴェは、じっと見つめられている不愉快さを眠りの中で感じているのか、リオンの眉間にシワが寄せられ、小さな不満の声が流れ出したことに気付いて目をみはるが、その様子が楽しくて、鼻先を指の背で軽く撫でた後、起き上がる事を体に伝えるために欠伸をする。
「────んだよ、もう起きたのかよ」
「ん?ああ、Grüß Gott、リーオ」
「・・・・・・いつもいつも言ってるけどさぁ・・・」
お前は年寄りか、それともご近所中の鶏を叩き起こして回るつもりかと、地の底から響くような怨嗟の籠った声に罵られて激しく目を瞬かせたウーヴェは、いつもと同じ時間に目が覚めただけでそこまで言われるのかと、ほんの少しの不満を尖らせた唇で表すが、片目だけ覗くロイヤルブルーの至宝にイタズラっ気が滲んでいることに気付き、珍しく鼻息荒くふんと言い放つと、これもまた珍しいことにリオンの体に覆い被さるように寝返りを打つ。
「重てぇって!」
「ふぅん?」
軽すぎるからもっと食えといつもいつもうるさく言っているのは何処の誰だと目を細めながらリオンを見下ろすウーヴェにニヤリと笑みを浮かべた蒼い目が笑い掛け、小さな音と共に頬にキスが届けられる。
「機嫌を直せよ、ダーリン」
「────誰かさんが年寄りと言ったからなぁ、どうしようかな」
たった4歳しか変わらないのに年寄り扱いは心外だと口を再び尖らせると、陛下は我儘だと言い放たれると同時に寝返りを打たれてリオンの分厚い胸の下に組み敷かれてしまう。
「・・・・・・こら」
「────ダーリン、愛してる。今日は1日で休みだ、もうちょっと寝ていようぜ」
「それも悪く無いが・・・・・・」
リオンのキスとともに降ってくる囁きに密やかな笑みで応えつつも、そろそろエリーが起こしにくるぞと囁きながら背中を撫でると、先ほどと同じ非難の言葉が投げかけられようとするが、女性のことをそんな風に言うのは良くないと咳払いで自制される。
己の姉を年寄りと非難する言葉など聞きたくなかったウーヴェが、その自制に感謝の意を伝える代わりにピアスが嵌る耳朶にキスをする。
「────フェル、リオン、良かったら一緒に朝食を食べましょう」
貴方達の好きなスクランブルエッグも用意できているわと、ノックの後に呼びかけられてベッドの上で顔を見合わせた二人は、勿論食べるが顔を洗ってから食べに行くとリオンが返し、ウーヴェもベッドを降りようと上体を起こす。
「アリーセもああ言ってくれてるから起きるかー」
「そうだな」
俺たちの好物を用意してくれているんだ、出来立てを食べようと笑ってベッドから立ち上がったウーヴェは、同じくベッドを抜け出したリオンの腰に腕を回し、支えられながら部屋を出る。
自宅とはまた違う広い屋敷の階段をゆっくりゆっくり下りながらリオンが楽しそうに囁く声に自然と笑顔が浮かんでくる。
「今日は何する、オーヴェ」
「そうだな、ゆっくりするのもいいけど、お前は何がしたい?」
その言葉は二人が互いを思いやる気持ちが滲んだものだったが、それを当たり前のように今もまた投げかけあいながら、家族が揃っているからボードゲームで遊んでもいいし、いつかのようにチェス大会をしてもいいと笑い合いながら肩を寄せる。
階段から廊下を通って家族がいるダイニングに向かった二人は、ドアが開いてテーブルについている家族が皆揃っていることに気付き、この光景もリオンが家族間の蟠りを解きほぐしてくれたからだと改めて気付くと、それをもたらしてくれたリオンへの感謝と同時に、今年もまたこうして側にいて奇跡のような存在に支えられ、また支えていけるようにと、滅多に祈らないが最近は自然と回数が増えた神に短く祈り、自分達のために朝食の用意を整えてくれる姉や家人たちに礼を言い、絶品の朝食にありつくのだった。
その後、フィンランドから一時的に帰国していたアリーセ・エリザベスとその夫のミカも含めてリビングでボードゲームやチェスで盛り上がる、過ぎ去ってしまえばあっという間に忘れてしまうような平穏な休日を去年と同じように過ごし、いつか思い出すためのアルバムにそっと記憶するのだった。
2020.01.01
Herzlichen Gluckwunsch zum Neuen!und Seien Sie mir auch in diesem Jahr gewogen!
新年、明けましておめでとうございます。そして、今年もよろしくお願いします。


