Hand in Hand

Über das glückliche Leben(UGL) -Lion & Uwe -

 初夏の夕方、冬に比べれば遥かに長くなった明るい時間の中央駅に着いた電車から降り立ったのは、これからの夏のシーズンにスーツを着るなど考えたくないとぼやきながら、少し乱れているニットタイを無意識に触ったリオンだった。
 前日から己のボスであり義父でもあるレオポルドの出張のお供でベルリンに出向いて居たのだが、空港にチャーター便で到着した後、会社に寄らずに直帰して良いことを教えられたリオンは、ひゃっほぅと浮かれた声を出しつつ取り出したスマホで、レオポルドが見守る前にも関わらずにウーヴェに帰って来たと電話を掛け、中央駅に迎えに行くからと返事とともにキスを貰い、感じた疲労感を吹き飛ばしたのだが、ウーヴェにキスでもしてもらったのか、嬉しそうな顔をするなとレオポルドに笑顔でからかわれ、ムッティからキスしてもらえないからって僻むなと、憎たらしい顔で言い放つ。
 『誰が、キスを貰えないんだ』
 『親父』
 『ふふん、残念だったな、リッドならそこにいる』
 レオポルドの言葉にチャーター便専用のタラップの周囲を見回したリオンは、イングリッドの運転手を務めることの多い、年若い青年と一緒にイングリッドが笑顔で手をあげて出迎えてくれたことに気付き、レオポルドを睨みつける。
 『何でムッティが迎えにくるんだよ』
 『約束をしたからな』
 今日はこれからリッドとデートだと笑われ、ぐぬぬと悔しそうに唸ったリオンは、そっちがデートをするなら俺もデートすると宣言し、ウーヴェとのデートに相応しい場所を探し出す。
 『リオン、送って行ってやろうか?』
 イングリッドと一日ぶりの再会を果たし、互いの頬にキスをしたレオポルドだったが、ウーヴェと待ち合わせ場所まで送ってやろうかとスマホと睨めっこをしているリオンに声をかけると、意外なほど真剣な声が大丈夫だと返した為、内心で軽く驚いてしまう。
 いつも口を開けば人をからかったり上司を上司とも思って居ない口振りだったが、いまの様に己の予想外の真剣さを時折滲ませることがあった。
 その予想のできないリオンの心の動きに若干翻弄されつつも、ウーヴェならばきっと感情の波を読みきってうまく渡って行くのだろうと、息子とその伴侶の心の繋がりを想像し、自分たちとはまた違う想像もできない関係を築いている事に密かに安堵していた。
 『いや、大丈夫。オーヴェとのデートなのに親父に送ってもらうのは気がひける』
 愛する人を迎えに行く時は、例えそれが見窄らしいとも思われる自転車であっても、高級車であっても己の持てるもので行きたいと、レオポルドが驚いている事にも気付かない顔で返したリオンは、そうかとだけ返されて初めてスマホから顔を上げ、力強い笑みを浮かべた顔で見守られている事に気付いて目を瞬かせる。
 『親父?』
 『────美術館近くのバーにはいったのか?』
 『あ、ああ、前に行った。オーヴェすげぇ気に入ってたなぁ』
 『そうか。・・・あの雰囲気に近いバーがホテルの裏通りにある』
 良かったら行ってみろとリオンの耳に囁いたレオポルドは、イングリッドが何の相談だと目を細めた事に片手をあげ、男同士のヤラシイ話だからムッティは聞いちゃダメと、小さな子供が友達との秘密だから教えないという様に気軽に告げてイングリッドの目を見張らせる。
 『・・・男同士も良いけれど、程々にしなさい』
 『はーい』
 良い子の返事をしたリオンは、レオポルドに礼を言ってエーリヒが運転する車に向かう二人をその場で見送り、再度スマホを耳に宛てがうと、今から中央駅に向かう、迎えに来てくれダーリンと告げて長い足を大股に駅に向かい、すぐに出発する電車に飛び乗るのだった。

 

 

 そうして到着した中央駅は、観光客や仕事を終えた人達、またはこれからナイトライフを満喫するために出掛ける人達が溢れていて、待ち合わせ場所にしている階段に腰を下ろしたリオンは、階段の下を忙しなく行き来する人や、己の横を通り抜けて駅に入る人、駅から出てくる人をぼんやりと感じながらタバコに火をつける。
 リオンと今ここですれ違うだけの関係の人たち、もしかすると仕事で関係を持つ事になるかもしれない人たち、そして、昔のリオンと関係のある人達が行き交う眼下の世界をぼんやりと睥睨したリオンだったが、その人達にもその人達の人生があり、何かがなければリオンと交差する事の無い人生があるはずだった。
 座っているリオンの側を通っただけで生まれる関係があるかも知れないが、大半は、スーツを着て階段に腰を下ろしている不釣り合いな様子に、ショックな出来事でもあったかも知れないが自分には関係がないと思っているだろうなと、煙を吐き出して風に乗せたリオンだったが、階段下に決して見間違う事の無い、白とも銀ともつかない髪とフレームの細いメガネを掛け、初夏の色合いで涼しげだが首元を隠す様にアスコットタイとイタリアンカラーのシャツを着た細身の男を発見し、自然と浮かび上がる笑みを抑えるためにタバコのフィルターを噛む。
 ステッキを突きながら階段をゆっくりと上がってくるその姿に、いつもならばすぐさま駆け寄って手を差し伸べるのだが、今日はこのまま待っていたいとの思いが強く、リオンが腰を下ろしている階段の二段下までやって来た時、タバコを投げ捨てて左手を差し出す。
 「ハロ、オーヴェ」
 「・・・ああ」
 ああ、迎えに来てくれたと、己が来てくれと電話をしその言葉通りに来てくれたウーヴェに、何がそんなに嬉しいのかと思わず疑いたくなる様な笑顔で、差し出された右手をそっと掴んだりおんは、ウーヴェが訝る様に見つめる前で、昨日電話をしながらやった様に指を軽く折り曲げて行く。
 「────ああ、それ、か」
 「・・・そう、これ」
 昨日互いに感じた不思議な感覚、その感覚の元になるものを互いに感じ合い、小さく笑みを浮かべるウーヴェにリオンが満面の笑みを浮かべるが、ウーヴェの手に力を感じさせない様に気を配りつつ立ち上がると、驚いた様に見上げてくる顔に顔を寄せ、ただいまと囁きながら頬にキスをする。
 「・・・お帰り、お疲れ様、リーオ」
 「うん。オーヴェも」
 二人肩を並べてゆっくりと階段を下りていくが、車が近くには見えずに周囲を見回したリオンは、少し離れた路面駐車場に停めてある、場所が場所だけにあまり長居したく無いと苦笑されて頷くと、ウーヴェのポケットからキーホルダーを取り出す。
 「晩飯どうする?」
 「そうだな・・・」
 イタリアンレストランでもゲートルートでも良いがと呟いた後、ステッキを左手に持ち替え、空いた右手で己のものでもある左手をそっと握る。
 「オーヴェ?」
 「・・・昨日、レオをずっとハグしていたんだけどな」
 リオンの左手に手を重ねて軽く指を曲げたウーヴェは、晩飯の話を聞かれながらも関係がないと思われることを呟き、リオンに横合いから顔を覗き込まれる。
 ウーヴェが呟いたのは、リビングのソファやベッドルームのソファを居場所にしている異様な大きさを誇るテディベア–名前はレオナルド–を昨日はずっとハグしていたということで、それがどうしたと思う反面、何でレオをハグするんだという嫉妬も芽生えてくる。
 「レオをハグしてたのか?」
 「・・・ああ。でも・・・」
 ハグしても抱き返してくれないのは寂しいと、思わずリオンの呼吸が止まりそうな、数時間後を簡単に想像させる艶のある笑みを浮かべたウーヴェに、呼吸を止めなかったが足を止めてしまったリオンが名を呼ぶ。
 「・・・オーヴェ?」
 「────昨日は特に、レオよりお前がよかった、な」
 出張で仕方がないが、一人で寝るベッドは大きすぎて広過ぎて淋しかったと素直に呟くウーヴェにリオンが手をキュッと握り返すと、足早に車に向かって歩き出す。
 「リーオ?」
 「・・・晩飯さ、家で食おうか」
 本当はレオポルドに教えてもらった雰囲気の良いバーに行くつもりだったが、気が変わった、今日は久しぶりにお家デートだと前を向いたまま笑ったリオンにウーヴェもクスリと笑みを零し、可能な限りリオンの歩幅に合わせようとするが、我に返ったリオンが歩く速さを緩めて再び肩を並べて歩き出す。
 「・・・帰り、何処かで惣菜でも買って帰るか?」
 「賛成!」
 外飯も良いが自宅で二人でってのも良いと笑い、それをする為にスーパーで買い物をして帰ろうと笑った二人は、車に乗り込んで外界からの視線をある程度遮ると、自然と顔を寄せてキスをする。
 「さっきも言ったけど、お疲れ様、お帰り、リーオ」
 「うん。ただいま、オーヴェ」
 車内でキスをし、ステアリングを当然の顔で握って鼻歌を歌いだしたリオンに、ウーヴェが薄い色合いのサングラスを掛けて珍しく口笛を吹く。
 「しゅっぱーつ」
 ウーヴェが浮かれていることが嬉しいのか、リオンが陽気な声で発進の合図をし、お気に入りのスーパーに向けて車を走らせるのだった。

 

 

 一人で使うには広すぎると告げたベッドで、肩を上下させて息を整えようとしていたウーヴェは、覆い被さってくるリオンの広い背中に手を回し、同じ様に汗ばんでいるさまと上がっている呼吸に自然と笑みを零してしまう。
 「・・・オーヴェ?」
 「・・・気持ち、良かったか・・・?」
 「────サイコー」
 昨日は親父と同じ部屋なんて断固拒否すると隣の部屋を一人で使ったのだが、やはり寝るときはお前と一緒が良いと笑い、ウーヴェの頭を囲う様に両手をついたリオンは、汗ばむ額を重ねて隠微な癖に突き抜けた子供の様な笑顔でウーヴェの耳に囁きかける。
 「・・・もう、終わり?」
 「────外の太陽はもう寝床に帰ったようだけど、俺の太陽ももう寝るか?」
 たった一日離れていただけで、どれほど離れていたのかと、ベルトランやギュンター・ノルベルトらが見れば苦々しく呟くだろう仲の良さを見せた二人だったが、ウーヴェの言葉にリオンが天井を一瞬見上げ、まだまだ遊んでいたい、お前の熱を昨日のような感覚ではなく実感として感じていたいと耳に流し込み、背中をやんわりと撫でられることで返事をもらう。
 「・・・俺も、だ」
 「へへ」
 こうして触れ合うことで伝わる想いが同じであることは本当に嬉しいと笑ったリオンだが、笑みの質を変えてウーヴェの口を塞ぐようにキスをすると、背中に回った手が頭を抱きしめるように回される。
 その拘束が心地よくて、角度を変えてキスをし、息が上がる頃を見計らってウーヴェの体をひっくり返すと、さっき抜け出した中に再度自身を沈め、跳ね上がる顔に背後から伸び上がってキスをするのだった。

 

 

 昨日は離れていた為に当然ながら感じられなかった温もりを、熱を吐き出した気怠い身体を寄せあいながら感じていた二人は、睡魔に襲われている事を伝えるように大きく欠伸をし、リオンが当たり前の顔でウーヴェの頭の下に腕を差し入れ、ウーヴェもリオンの腰に腕を回す。
 「・・・おやすみ、オーヴェ」
 「・・・ああ」
 明日もまた仕事がある、それに向けて寝ようと小さく笑うリオンに頷いたウーヴェは、昨日感じた不思議な感覚を忘れることは無いが、やはりこうしてすぐそばで感じられる方がいいと、口に出したか脳味噌の中でだけ呟いたのかが判別しない声で呟き、リオンがどうしたと顔を覗き込んでくるが、それに対して返事をする事も出来ずに目を閉じてしまうのだった。
 瞼にキスを感じて誰よりも何よりも安心するキスだと感じつつ、お返しのキスをする代わりに腕に力を込めたウーヴェを追いかけるようにリオンも目を閉じ、出張帰りのデートが自宅デートになったことを明日報告しようと決めて眠りに落ちるのだった。

 

 


2019.07.21
Die Hände falten.が気持ち的に仲良しだったので、今回は物理的に仲良しに。
・・・初夏なのよっ。暑苦しいでしょっ(笑)


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