Die Hände falten.

Über das glückliche Leben(UGL)-Lion & Uwe -

 今日もいつもの様に、己を頼ってやってくる患者に誠実に向き合ったウーヴェは、診察の終わりと共に、初夏の暑さを通り越した気候に相応しい、疲労を回復してくれるハチミツとレモンの自家製ドリンクを出され、それで精神的な疲労の回復をしたのだ。
 いつも美味しいお茶とお菓子をありがとうと、ウーヴェの忙しさに比例して自身も忙しいのに、仕事終わりの一杯を用意してくれると彼女に礼を言ったウーヴェは、喜んでもらえて良かったと笑う彼女に、明日の診察もよろしく頼むと終業時の挨拶を交わし、今日は楽しみにしているバンドのライブに行くと笑顔で帰宅する彼女を見送ったのだ。
 診察室のデスクに尻を乗せ、二十窓の外をぼんやりと見ていたウーヴェだったが、デスクに置いたままのスマホからただ一人を示す映画音楽が流れ出したことに気付いて耳に充てがう。
 「ハロ」
 『ハロ、オーヴェ。診察は終わったか?』
 電話の主はリオンで、外から掛けている事を教える様に声以外にも外界の喧騒が微かに伝わってくる。
 「今電話をして大丈夫なのか?」
 こちらは診察は終わって今ゆっくりしている所だと返し、デスクに着いた手を窓に向けて伸ばしたウーヴェは、その手をそっと握り返された感触を不意に覚え、軽く手を握り締める。
 『平気。ボスが今政治家と話をしてるからちょっと待ってる』
 軽く握った手を開き、覚えた感触に小首を傾げた時、まるで手を離すなと言わんばかりに再度握り締められた感触を覚えて軽く目を見張る。
 その感触は確かなもので、錯覚でもなんでも無いと心が声を発するが、己の手をこんな風に握る相手など今電話で話をしているリオンしかおらず、そのリオンはと言えば、彼のボスであり己の父であるレオポルドのベルリン出張に従っているため、目の前には当然ながらいなかった。
 それなのにリオンに触れられ、いつもの様に手を組まれている気がするのはどういう事だと微苦笑したウーヴェに耳聡くそれを聞きつけたリオンがどうしたと問いかける。
 「いや、何でも・・・」
 『離れてるからさー、キスできねぇんだけど、オーヴェ?』
 まさか離れているお前に手を握られた気がしたとは言えず、何でもないと口癖の様な言葉を伝えた直後、ニヤリと笑みを浮かべている事を簡単に想像させる声が、二人の間の約束を思い出せと伝えてくる。
 その言葉に、今己が感じている事を伝えるべきかと瞬間的に思案するが、黙っている事で機嫌を損ねられても堪らないと気付き、自分でもおかしいと思うと前置きをして躊躇いがちに口を開く。
 「・・・何か、お前に手を握られた気が、したんだ」
 どちらかと言えば感覚的ではないウーヴェのその言葉にリオンが驚いたのかどうなのか、すぐに返事はなくて伝えた事を後悔しかけたウーヴェの耳に、歓喜の滲んだ溜息の音が小さく響く。
 「リオン・・・?」
 『────今さ、お前が目の前にいて手を伸ばしてる気がしたから、握り返してた』
 助けを求めたり縋る様なものではなく、太陽に掌を向けるような感じだったからつい手を重ねてみたくなったとひっそりと笑うリオンにウーヴェが眼鏡の下で目を限界まで見張る。
 約500キロ離れているドイツ国内でも有数の別の大都市にいる二人が、ほぼ同時に同じように手を伸ばし、触れ合って手を握り合う感覚が芽生えたというのはどういう事だと苦笑するウーヴェに、電話の向こうでリオンが嬉しそうに笑い声を零す。
 『不思議なこともあるもんだな、オーヴェ』
 「・・・・・・ああ」
 いつもならば、そんなことなどあり得ない、ただの錯覚だと、一見すれば冷酷に思える声と表情でリオンの言葉を否定するが、己の手が覚えているリオンの温もりを感じ取った事への説明がつかず、そんな事もあるのかなと小さく呟いてみる。
 『オーヴェ?』
 「・・・そんな不思議な事も、あるんだな・・・あっても、良いな」
 常日頃の己の言動を思えば信じられないが、遠く離れた場所にいる魂の片割れの温もりを掌で感じ、向こうも同じように感じている事が不思議な事だと思う以上に幸せなことに感じ、眼鏡を外して目を伏せる。
 『そーだな・・・不思議だけど、あっても良いよな』
 遠く離れていてもお互いを感じられるなんて幸せだと笑うリオンに頷いたウーヴェは、先ほどのリオンの様に満足げな溜息を一つ零し、どうしたと問われて小さく笑みを浮かべる。
 『ああ、そうだ、今日さ、ボスを待ってる間に懐かしい人に会ったぜ』
 「懐かしい人?」
 リオンが言う懐かしい人が誰か分からずに先を促したウーヴェは、ブライデマンと言う名を聞き首を傾げるが、ゾフィーやお前の事件で世話になったBKAの歩く堅物と教えられて小さく吹き出してしまう。
 「歩く堅物は無いんじゃないか?」
 『いや、マックスぐらいだぜ、あいつに勝てるの』
 元同僚で四角四面ばった男がいたが、その男に匹敵する生真面目さだと笑ったリオンにつられて笑い返したウーヴェは、彼には世話になった、もしまた会う機会があればしっかりと礼を言っておいて欲しいと告げ、お前が思う以上に礼を言っておいたから大丈夫と返されて一瞬だけ言葉に詰まる。
 「・・・そうか」
 『そうそう』
 お前が言う礼は本当に礼なのか、礼と言う名の無礼ではないのかと心配するウーヴェに楽しそうに笑ったリオンの声に何とも言えなかったが、満足とも歓喜ともまた違う吐息が溢れる音に再度窓に向けて手をのばす。
 『・・・明日、帰れると思うけど、逢いてぇなぁ』
 本当は1日たりとも離れたくないのだが、流石にこればかりは仕方がないと、まるでテーブルに突っ伏しながら愚痴っているような声にウーヴェが目の前にくすんだ金髪があるかのように優しく撫でると、再度歓喜の滲んだ吐息が零れ落ちる気配がする。
 『・・・頭、撫でてくれた?』
 「────!」
 今日は本当にどうした事だと驚くが、それよりも一緒にいたいとの思いが同じ重さで己の中に存在している事に気付き、デスクから降り立って二重窓に手をつく。
 「リーオ」
 『ん?』
 「手を、貸してくれないか?」
 いつからだろうか、ウーヴェの心が不安定になり不安に襲われた時、それを癒すように護るようにリオンが己の左手を差し出すようになったのだが、離れている今もそれをしてくれとひっそりと懇願すると、夏の日差しに熱を持った二重窓に別の温もりが生まれた気がし、その温もりに左手を重ねてゆっくりと指を折り曲げる。
 親指から人差し指へと順に曲げる指と指の間に、いつも感じている熱と感触を覚え、安堵の溜息を窓に吹き付ける。
 『────今日は随分と甘えてくるな、ハニー』
 夜の色香を滲ませた声にウーヴェが眉を潜めてしまうが、ハニーと久し振りに呼ばれて条件反射のような言葉が口をつく。
 「・・・出張でいないのに豚の貯金箱に1ユーロを食べさせるなんて偉いな」
 『げ!』
 相変わらずハニーと呼ばせてくれないのかと泣き言が回線を通して伝えられ、不安になった心が瞬間的に軽くなる。
 左手を重ねている感触と温もりと言葉にウーヴェの心が平安を取り戻したようで、小さく肩を揺らして笑い声を立てると、何を笑ってるんだよと、口を尖らせている顔を簡単に思い描ける声が聞こえてくる。
 「1ユーロは今回は見逃そうかな」
 『やっほぅ』
 「だからその代わり・・・」
 明日の帰宅時間が分かれば教えてくれ、空港でも駅でも迎えに行くと、二重窓を通じて感じる温もりにキスをするように顔を寄せて囁くと、中央駅に迎えに来てくれと返される。
 「分かった」
 『────明日まで寂しいだろうけど、我慢してくれ、オーヴェ』
 「どっちが寂しいんだ?」
 遠く離れた場所でクスクスとニヤリと笑みを交わし合った二人は、最後にとほぼ同時に左手を握り締め、スマホに小さな音を立ててキスをする。
 『ボスが呼んでる』
 「ああ。────あと少し頑張ってこい、リオン」
 背後の喧騒にリオンを呼ぶ父の声が混ざったことで休憩が終わりを告げたことを知らされ、もうちょっと頑張ってこいと、今度はウーヴェが見えない手でリオンの背中をそっと押すと、行ってくると元気な声が返事をし、じゃあと言い残して通話が終わる。
 途切れた通話に寂寥感を感じるものの、今だ手に残っている温もりと感触がそれ以上の満足感を与えてくれた為、小さく伸びをして明日の診察も頑張ろうと小さく決意をすると、ステッキを突いて帰宅する準備に取り掛かるのだった。

 

 


2019.07.19
気持ち的に仲良しです。ええ、気持ちです(おい)


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