Das Chiristkind

Über das glückliche Leben(UGL) -Lion & Uwe -

 街の中がクリスマス色に染まり始めたある冬の午後遅く、すでに太陽は寝床に入ったようで薄暗く、外の世界は足早に帰宅を急ぐ人たちや、間もなく明かりが点るであろう屋台の様子を楽しみにする人たちが交差するようになっていた。
 そんな午後の遅い時間休診を利用して書類整理などをしていたウーヴェは、デスクに置いた携帯電話から軽快な映画音楽が流れ出したことで我に返り、壁の時計を見上げてそろそろ切り上げようと苦笑する。
 映画音楽はすっかり耳に馴染んだもので、思わず聞き入ってしまったウーヴェだったが、再度我に返って携帯を耳に宛がうと、安堵の滲む声が名を呼んでくる。
 『仕事中だったよな。大丈夫だったか?』
 「ああ、大丈夫だ。お前の電話で気がついたようなものだ」
 逆にありがとうと言わせて貰うと笑うと、なんだそれと同じく笑って返されて吐息を零す。
 『どうした、オーヴェ』
 「今日は屋台でオーナメントを買うんだったな?」
 今日は仕事が終わればウーヴェのクリニックのすぐ近くの広場で開かれているヴァイナハツマルクト-クリスマスマーケット-に一緒に出向き、グリューワインを飲んで身体を温めた後、恒例になっているアドヴェントクランツに飾るオーナメントを買うのだろうと問いかけると、小さな小さな声がうんと答える。
 『・・・今年はさ、どんなオーナメントを見つけられるだろうな』
 「そうだな。リンゴとテディベアとボール・・・気に入るようなものがあれば良いな」
 大きなツリーを飾るのでは無く、二人で協力して小さなアドヴェントクランツを作り、そこに蜜蝋と年を重ねるごとに一つずつ買い足していくオーナメントを飾ることがこの時期の二人に決まりになっていたが、それに飾るものを今日探そうと決めていた。
 その為、どんなものがあるだろうと問いかけたウーヴェは、何かを躊躇うような気配を察した為、声を潜めて事件が起きたのかと問いかける。
 『え?あ、ああ、いや、そうじゃねぇ。もうすぐこっちを出るけどさ・・・』
 この電話の前にマザーから電話があったことを教えられ、思わずデスクに手をついて立ち上がったウーヴェは、マザーに何かあったのかと口早に問いかける。
 『大丈夫だ、オーヴェ。時間があれば帰ってきなさいって言われただけだから』
 「そうか、それなら良い。今日帰りに寄るか?」
 文字通り生後間もないリオンを発見し、学校を卒業するまで何くれと無く面倒を見てくれていた女性、マザー・カタリーナからの連絡が、久しぶりに家に帰ってきなさいと言う優しい言葉だったことを教えられて無意識に安堵したウーヴェは、それならばマルクトでツリーの飾りやお前の弟や妹たちが喜ぶお菓子を持って行こうと笑うと、安堵の溜息と思しきものが伝わってくる。
 『ダンケ、オーヴェ。・・・今こっちを出たからさ、お前も帰る用意をしててくれよ』
 「ああ、そうしようか」
 リオンが己の職場を出たことを教えられて頷いたウーヴェは、程なくしてからやってくるだろう恋人を出迎え、二人揃って広場の屋台でお気に入りの飾りや孤児院にいる子供達に持って行くお菓子を買いに行く為に仕事を終えてクリニックを閉める準備に取りかかることを再度伝えると、携帯に小さなキスが届けられる。
 『また後で、オーヴェ』
 「ああ」
 通話を終え己の言葉通りにするためには手早く書類を纏め、保管すべきものは隣の小部屋に運んだウーヴェは、デスクの上を明日出勤したときに気持ちよく仕事が取りかかれるように整え、いつリオンがやって来ても平気なように手早く片付けをしてしまうのだった。

 

 電話ですぐに向かうと告げた通りにすぐやって来たリオンは、すっかり準備を終えたウーヴェに出迎えられ、最近忙しくて孤児院に帰っていないから今日は顔を出したいと、鼻の頭をかりかりと掻きながら呟き、何を遠慮しているんだと苦笑されて照れたような笑みを浮かべる。
 「良いか、オーヴェ?」
 「ああ。俺も久しぶりにマザーに会いたいからな」
 だから孤児院に出向くことについては何らの異論は無いと頷き、外気によって冷えているくすんだ金髪を撫でたウーヴェにリオンが軽く目を伏せるが、あいつらが喜ぶようなお菓子を買って行こうと笑い、ウーヴェの頬に感謝の思いを込めたキスをする。
 「そうだな。ナッツやクッキーは好きかな」
 「もちろん、あいつら甘いものが好きだからな」
 今も孤児院には何名かの子どもが生活しているが、その子供達は同年代の子供達同様甘いものやお菓子が大好きだった。
 だが、他の子供達が親や祖父母から与えられるそれらが、孤児院ではシスターや教会の活動に賛同してくれる人々からの寄付などで賄われているため、いつでも好きなときに好きなものを食べられると言う当たり前が贅沢なことになっていた。
 幼い頃の己を思い返せば何ともいえない気持ちになるリオンだったが、卑屈に走りそうになる心を無意識の暖かさで引き留めてくれる存在が隣にいること、また今も手を取ってしっかりと握ってくれていることから、いつも言ってくれているように顔を上げて前を見る。
 「マザーのシュトレン、早く食いてぇなぁ」
 「本当に好きだな」
 「うん、すげー好き。な、オーヴェ、マザーから作り方聞いて作ってくれよ」
 アドヴェントの期間になれば売り出されるシュトレンだが、リオンが育った孤児院では、マザー・カタリーナが少しでも教会や孤児院の運営資金の足しにしようと売っているのだが、孤児院に暮らす子供達用にいくつかシュトレンを焼いてくれているのだ。
 それが今年も出来たと教えられ、早く食いたいと鼻歌交じりに呟くリオンに呆れた横顔を見せたウーヴェだったが、繋いだ手を離すことはせず、クリニックを閉めて広場の屋台に向かう為廊下を進んでいく。
 アパートの向かいにある広場にはいくつもの屋台が並び、ツリーや部屋に飾る為のものが所狭しと並べられ、空腹を満たすための食べ物や温かなワインなどが売っているが、今年初めてやって来たため、これもまた恒例になっている、マルクトで飲んだグリューワインが入っていたカップを持ち帰ることを笑って伝えると、リオンがスパイダーのキーを貸せと掌を上に向ける。
 「お前に渡したキーはどうした?」
 「ん?出すのが面倒くせぇ」
 「こら」
 ホットワインを飲めば車の運転が当然出来なくなるため、孤児院に向かうときにはリオンが運転することになるのだが、今では二人の愛車になっているスパイダーのキーはリオンも去年ウーヴェから貰っているはずだった。
 それはどうしたと問われて面倒臭いの一言を言い放ったリオンだったが、仕方が無いと言いたげな顔でウーヴェが特徴的なキーホルダーを掌に載せると、それをしっかりと受け取ってブルゾンのポケットにしまい込む。
 「グリューワインを飲んで飾りを見つけてさ、早くホームに行こうぜ、オーヴェ」
 「ああ、そうしようか」
 ここで時間をとってしまえばホームでゆっくりする時間が短くなってしまうと頷くウーヴェに口の中で礼を言ったリオンは、去年のマルクトでお気に入りのリンゴの飾りを見つけた店が出店していることに気付き、ご機嫌の証の鼻歌を歌いながら店の前に向かうが、その背中を微笑ましそうに見送ったウーヴェは、グリューワインを買いに行こうとするが、一つの屋台の前を通りかかったとき、何かが気になって足を止める。
 その屋台は他の屋台と同じようにツリーなどの飾りを売っている店だったが、店先でも目立たない隅に、決して上手とは言えないが何ともいえない愛嬌がある木彫りの天使の置物を発見し、足を止めるだけでは無く身体ごと向き直ってそれを凝視してしまう。
 「気になる子がいるかしら?」
 じっとその木彫りの天使を見つめるウーヴェに店員が微苦笑しつつ声を掛けると、その木彫りの天使が気になっていることを半ば上の空で返す。
 「手に取ってくれて良いわよ」
 「ああ、ありがとう」
 店員の言葉にそっと天使を掌に載せると、立てた膝の上に星を掲げる天使がウーヴェを見上げてくる。
 その姿が何ともいえない感情をウーヴェの中に芽生えさせたのか、店員が再度呼びかけたとき、これを下さいと伝えていた。
 「随分と気に入ってくれたのね、嬉しいわ」
 「あなたがこれを作ったのですか?」
 「いいえ。私が働く施設の子どもが作ったのよ」
 その子は手先が器用で集中力もあるから、こういった細かなものを作ったりするのが得意だと笑ってウーヴェの手から天使をそっと預かった女性は、もし興味があるのならチラシを入れておくから目を通して欲しいと笑い、店名がスタンプされている変哲も無い袋に天使を入れてチラシと一緒に差し出してくる。
 「必ず目を通させて貰う」
 「ありがとう」
 袋を受け取ってコートのポケットに入れたウーヴェは、背後から呼びかけられて顔だけを振り向け、何か見つけたのかと笑いかけるリオンに一つ頷いて別の天使を指し示す。
 「天使?」
 「ああ」
 何故か気になって一つ買ったと告げると、リオンの蒼い目が軽く見開かれ、商品の横に置いてあるチラシと店員の肩越しに見える施設の紹介写真へと目が向けられるが、もう一度目が驚きに見開かれた後、一転して穏やかな優しい目つきでウーヴェを見つめ、その頬を手の甲で撫でる。
 「リオン?」
 「うん・・・お前が天使に興味を示すなんて珍しいなって思っただけだ」
 「・・・まあ、な」
 今まで過去の事件から天使に代表される宗教的な文物や行事には一切興味も関心も示さなかったが、ようやく過去を乗り越えた今、ウーヴェの心境に僅かながらも変化が芽生えていたことが嬉しいと笑われて今度はウーヴェのターコイズ色の双眸が左右に泳ぐ。
 「あなたも良かったら見ていって」
 「あー。うん。ありがとう、オネエサン」
 商品の善し悪しや施設の紹介チラシは不要だと笑ったリオンに店員の女性の顔が曇ってしまうが、己の言動が誤解を与えていることに気付いたのか、少しだけ慌てながらそうじゃないとリオンが首を振る。
 「え?」
 「オネエサンが働く施設さ、マザーやゾフィーと行ったことがあるんだよ」
 「知っているのか?」
 店員とウーヴェの疑問を横顔で受け止めて肩を竦めたリオンは、どちらにも一度で分かる説明をするため、テントに掲示されている施設の写真へと顎を向ける。
 「マザーがバザーで売る商品を探してるときに見つけたって言ってさ、バザーに出店してくれるかどうかを話し合うって言ってた」
 「そうなのか?」
 その施設は障がいを持つ人たちが集まる施設で、教会に併設している孤児院で育ったリオンは、教会の理念とマザー・カタリーナの信念が合致するその施設に何度か足を運んだことがあった。
 それを伝えるとウーヴェの驚きは当然だが、店員も零れ落ちそうなほど目を見開くが、マザー・カタリーナと呟いてリオンの頷きを貰って口を手で覆う。
 「マザー・カタリーナと一緒に働いているの?」
 「いや、俺はあの孤児院出身だ」
 女性の驚きにやや伏し目がちに返したリオンは、孤児院でマザー・カタリーナの世話になったが今は独立してこの人と一緒に暮らしていると、声と表情に自慢を滲ませつつ笑うと、女性の顔に複雑な色が浮かぶものの、マザー・カタリーナやシスター・ゾフィーらの世話には私もなったと返されて頷き合う。
 「マザー・カタリーナに会うことがあれば、宜しくと伝えておいて」
 「ああ、良いぜ。今日はこれからマザーの所に行くつもりだったし」
 意外なところで接点を持つ人と出逢った偶然に三人が驚きつつも手を上げてまた明日にでも顔を出すとリオンが伝えると、女性が笑顔で頷く。
 「ええ、楽しみにしているわ」
 「チャオ」
 そのタイミングで店に他の客が来たため、女性がそちらに笑顔で語りかけ、そっと身を引いたウーヴェは、己のコートのポケットにしまった袋を取りだしてスタンプされている名前を小さく読み上げる。
 「その施設でさ、すげー面白いヤツに会った」
 「どんな人だったんだ?」
 リオンが言う面白いヤツとの言葉に引っかかりを感じつつも問いかけると、筋ジストロフィーか何かだったと答えられて足を止めてしまう。
 「筋ジストロフィー?」
 「高校に入学した年に発症したって言ってたっけな。それまではフツーに生活してたって言ってた」
 「・・・なあ、リオン、面白いというのは・・・」
 まさかとは思うが、その人物の身体的特徴を捉えてのものでは無いだろうなと、どうしても聞かずにはいられないことを問いかけると、少し先を歩いていたリオンがくるりと振り返り、ウーヴェの心配が杞憂である事を示すように太い笑みを浮かべる。
 「安心しろよ、オーヴェ。俺が言ってる面白いってのはそいつの性格だ」
 「・・・そうか」
 「だってさ、そいつ、サッカーと女のパンツの中しか興味が無いって言ってたもん」
 「・・・・・・」
 リオンがにやりと笑いながら続けた言葉は、高校生と言えば青春真っ只中、難病を発症していようがそれまでは健常者と同じだったのだ、女の裸に興味を持つのは至極当然のことだと笑うが、彼とは話題の範囲が似通っていたためにかなり楽しく話が出来たとも笑うと、ようやくウーヴェの顔に微苦笑が浮かび上がる。
 「青春真っ只中の男だぜ?興味があるっていえば女の裸とかサッカーとかになるよな」
 どちらかと言えば淡泊なお前はそうでは無かったかも知れないが、俺たちの青春時代と言えば好きになった女の子とキスしただのセックスしただのだったと肩を竦められ、恋人の過去の武勇伝に眉を顰めたウーヴェは、早くお菓子を買ってホームに行くぞと声に冷たさを滲ませると、過去のことだ今更どうすることも出来ない、だから嫉妬するなと笑われて瞼を平らにしてしまう。
 「誰が嫉妬してるんだ」
 「ん?オーヴェ」
 「・・・美味しいチーズを買ってきたのを食べようと思っていたが、ナシだな」
 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、お願い許してオーヴェ!」
 今から学生時代に戻れるのならば、お前という最愛の人に出会えるのだから十把一絡げの女なんか相手にするなと言えるのにと捲し立てられて絶句したウーヴェだったが、リオンが片目を閉じつつだからお願いと許しを請うてきた為に鷹揚に頷くと、くすんだ金髪に手を宛がってそっと掻き上げてやる。
 「その彼は今も女性の下着の中身に興味があるのか?」
 「ん?生きてりゃそうだろうなぁ」
 きっと神様の側で天使の下着を覗き見しているかも知れないと肩を竦めたリオンのその言葉から真意を察したウーヴェは、今この場でどのような言葉を伝えるべきなのかが咄嗟に分からずに口を閉ざすが、そんな恋人を救うようにリオンが肩に腕を回して今度はリオンがその髪に口付ける。
 「優しいオーヴェ。もう昔の事だ」
 下着の中にしか興味の無かった彼が神の御許に旅立ってすでに何年かが経つからそんな顔をするなとひっそりと笑うリオンに頷いたウーヴェは、マザー・カタリーナと一緒に彼の話が出来れば良いと精一杯の思いから伝えると、リオンが嬉しそうに一つ頷く。
 「ダンケ、オーヴェ。な、まだグリューワイン飲んでねぇだろ?早く飲んでホームに帰ろうぜ」
 「ああ、そうだな、そうしよう」
 グリューワインを飲んで、子供達が喜んでくれるだろうナッツにキャラメルをまぶしたお菓子やレープクーヘンを手に、お前の母が待つ家に帰ろうと笑うとリオンも照れたような自慢するような笑みを浮かべて大きく頷くのだった。

 

 その後、孤児院に立ち寄った二人だったが、いつもと何ら変わらない穏やかな笑顔で出迎えてくれたマザー・カタリーナの頬にそれぞれキスをし満足するまでハグした後、先程マルクトで偶然出会った馴染みのある施設の職員との話を聞かせると、彼女の顔に懐かしそうな笑みが浮かぶ。
 「そう言えばそこにあなたが親しくしていた人がいましたね」
 「そうそう。エロアレフがいただろ?久しぶりに思い出した」
 エロアレフ、つまりは先程話題に上った難病を患い死去した青年のことだと思われるが、いくら何でもそのあだ名は無いだろうとウーヴェが苦笑すると、マザー・カタリーナが同意を示すように頷いて胸の前で手を組む。
 「その施設で作った天使をオーヴェが買ってた」
 「天使、ですか?」
 「ああ。クリストキントだな」
 教会関係者ならば馴染みのある天使だが、クリストキント-幼児のイエス・キリスト-は特別で、日頃良い行いをしている子ども達にクリスマスプレゼントを運んできてくれるのだが、その天使を今年は一人自宅に迎えたと笑うと、ウーヴェがポケットから買ったばかりの木彫りの天使をマザー・カタリーナの手に載せる。
 「可愛らしい天使ですね。・・・あなたの小さな頃を見ているようです」
 「止めろよ、マザー。恥ずかしいだろ」
 掌の上で星を抱いている天使を見つめて遠い昔を思い出したのか、マザー・カタリーナがリオンに呼びかけると、今度こそ羞恥から顔を赤らめたリオンが、頼むから止めてくれと顔の前で手を振る。
 「・・・リオンがクリストキント?」
 「ええ。5歳位になるまでは本当に天使のように愛らしい子どもでした」
 ただ、もうあなたもご存じでしょうが、ほとんど笑いもしなければ泣きもしない子どもでしたがと、ウーヴェの疑問にマザー・カタリーナが返すと、リオンが二人に背中を向けて孤児院へと大股に突き進んでいく。
 「マザー、早くシュトレンをくれよ!持って帰ってオーヴェと食うんだから」
 「はいはい。分かっていますよ」
 その怒鳴り声の元が羞恥だとしっかりと見抜いている二人が顔を見合わせ、本当に仕方が無いと声に出して小さく笑うが、やはりリオンは幼い頃感情を表に出す子どもではなかったのかとウーヴェが問いかければ、マザー・カタリーナの頭が小さく上下する。
 「リオンの変化が目に見えるようになったのは小学校に通うようになってからでした」
 それまでは本当に笑うことの少ない子どもだったと、幼いリオンがこの敷地内を走り回っていた頃を思い出しているのか、遠くを見る目で周囲を見回す彼女に頷き、笑うようになったいきさつはリオンから聞きましたが、今からは想像も出来ないと目を伏せれば同じようにマザー・カタリーナもそっと頷く。
 「・・・ゾフィーなどは24日に生まれたからか、本当に天使だと思っていました」
 マザー・カタリーナにとっては娘でありリオンにとっては姉であるシスター・ゾフィーが、生後間もないリオンをすぐ側にある聖堂で発見したのだが、しばらくの間はリオンのことをクリストキントと呼んでいたのだ。
 「オーヴェ、マザーもいつまで外でしゃべってんだよ!」
 さっさと中に入れ、風邪を引いても知らないぞと、窓を開けて今度は二人のみを案じるが故に怒鳴り声を発するリオンに二人同時に頷き、幼い頃と比べれば遙かに感情が豊かになったが、表情が少なかった頃も実はいつも自分たちを心配してくれていたと彼女が呟くと、ウーヴェが理解出来る事を示す様に頷き、そろそろ本気でリオンが怒り出しかねないから中に入ろうと彼女の背中に手を宛がうと、今度こそ中に入るための一歩を踏み出すのだった。

 マザー・カタリーナが持たせてくれたシュトレンは、次の休日に切り分けて食べようとウーヴェが提案し、楽しみにしているリオンを落ち込ませるかと思ったが、それで何ら問題は無いと笑ってその提案を素直に受け入れた。
 今年はリビングのテーブルにアドヴェントクランツを飾っていたため、その横に今日買い求めた天使をそっと置くウーヴェの横顔は穏やかなもので、そんな顔を見たリオンが何故その天使に惹かれるのかを知りたくなり、背後から腕を回してウーヴェを抱きしめる。
 「どうした?」
 「な、オーヴェ。なんでその天使を選んだんだ?」
 「・・・・・・」
 「なあ、どうしてだよ」
 教えてダーリンと、後ろから耳朶に囁きかければ白皙の頬にさっと赤みが差す。
 そのことから理由に己が絡んでいることに気付いたリオンは、俺に似てるってマザーが言ってたけど、似てると思うかと声を潜めて問いかけると、頬の赤みが首筋にまで広がっていく。
 その様子から確信を得たリオンは、もしそうなら本当に嬉しいことだ、だからその天使はクランツにではなく、暖炉の上のお宝コーナーに飾ろうと告げると、短い間逡巡するような気配が腕の中で芽生えるが、是非そうしようと小さく返されて嬉しそうな笑みを浮かべ、赤みが引いた頬に口付ける。
 「お前とシスター・ゾフィーの写真の前に飾ろうか」
 「えー。暖炉の上だったらどこでも良いけど、写真の前はやめようぜ」
 孤児院で見せたときと同じ顔でそれを拒否するリオンに苦笑し、腹の前で組まれる手を撫でてその手を後ろに回してくすんだ金髪を引き寄せる。
 「リーオ」
 「ん?」
 「・・・笑わない天使でも笑うようになった天使でも愛してる」
 「・・・・・・」
 その素直な告白に今度はリオンが口を閉ざす番で、思わず沈黙してしまったリオンの腕の中でウーヴェがくるりと振り返り、驚く蒼い目に優しく笑いかける。
 「笑わなかった頃のお前も、女性とサッカーのことしか興味が無かった学生の頃のお前も、こうして傍にいて笑っている今のお前も愛してる、リーオ」
 確かに今から過去に戻れるわけでは無いが、それでもそんなお前を愛していると繰り返すと、リオンの蒼い瞳が左右に揺れた後、羞恥を遙かに上回る自慢の色を浮かべた顔が笑みに彩られる。
 「ダンケ」
 「ああ」
 お前がいつもくれる言葉にどれほど勇気づけられ励まされているだろうと目を細めるリオンに頷いたウーヴェは、お前が傍にいるだけで俺も力を分け与えられているが、きっとマザー・カタリーナや孤児院の子供達も同じように感じているだろうと笑って額に額を重ねると、リオンがウーヴェの腰に腕を回して抱き寄せる。
 「オーヴェ、オーヴェ」
 「ああ」
 「ダンケ、オーヴェ、愛してる!」
 「ああ」
 二人が付き合うようになり、悲しい出来事を経験し繋いだ手を離してしまった時期もあったが、それでも今こうして互いの目を見ながら己の中に溢れる思いを伝え合えることが幸せで、ついつい似たような笑みを浮かべるものの、堪えきれなくなりどちらからともなく笑い出す。
 「天使の置物もこれからは買っていこうか」
 「うん。良いなそれ」
 リンゴとテディベアの飾りに加えて天使の置物もマルクトで買うことを、これからの二人の約束にしようとウーヴェが提案するとリオンも素直に頷き、今日天使を買ったあの店でずっと買おうと約束をする。
 二人の新たな約束の第一歩にもなった木彫りの天使の置物を暖炉の上に飾ったウーヴェは、再び背中から抱きしめてくるリオンの腕に手を重ね、覗き込むように突き出される頬にキスをし、言葉だけでは無く態度でも愛情を示すのだった。

 マルクトの屋台で天使の置物を一つずつ買うという約束は、二人が交わした他の約束と同様に二人の間では決して破られることの無いものとなり、二人が一緒にいる時間が積み重ねられていく様を、一つまた一つと増えていく天使が教えてくれるようになるのだった。

 

2015/12/24
2015年の誕生日話、何とか間に合いました・・・・・・!後は誕生パーティのお話だー(がんばれー)


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