Please Please,Kiss me Please-Lion-

Über das glückliche Leben(UGL) -Lion & Uwe -

 何が、と言う訳じゃないが、突然そう思った。
 それは抑えようと思えば何とかなる程度のものだったが、何事においてもガマンするなと伝えてくれる恋人の言葉に従い、その思いを口にする。
 「オーヴェ、キスして」
 「………は?」
 学生の頃の俺からしてみればテレビや映画や夢の中でだけ存在しているような広いリビングの座り心地の良いソファで、いつものように雑誌を読んでいた彼は俺の言葉に眼鏡の下の目を見張った後、突然どうしたんだと、心配だけを浮かべた瞳で見つめ返してきてくれる。
 特に何があったわけでもない。俺自身何故いきなりキスして欲しいと思ったのかも分からない。
 ただ、唐突にそう思ったんだと、何とか己の思いを伝えてみるが、きっと俺の言葉の中から俺が思う以上の意味を探り、不安の芽や心の奥底で身を潜めている思いが首をもたげていないかを探るのだろうと予想すると、ターコイズ色の綺麗な瞳が探るように、だけど不快感を与えない優しさで見つめてくる。
 「突然どうした?」
 「ん?うん、何となく思っただけ。オーヴェ、キスして」
 他意も何もなく、ただ本当に今キスして欲しいと思っただけなんだと、文字通りの意味しかないと肩を竦めて伝えると、眼鏡の下の瞳が一瞬で柔和なものになり、心配そうに寄せられていた眉が開いて唇の両端も軽く持ち上がる。
 ああ、この顔が見たかったからキスしてくれと言ったのかも知れない。
 この、穏やかで優しさしか感じさせない柔和な笑顔が大好きで、それを俺にだけ向けてくれることが嬉しくて。密かな自慢にもなっているそれを間近で見られたことにこちらも笑顔になってしまう。
 だから、いつもいつも伝えている、何があっても変わることのない思いを口にする。
 「オーヴェ大好き、愛してる」
 「…ああ」
 返事はいつも短いけど、込められている思いを感じ取れないほど俺もガキじゃない。
 だから、その短い言葉を聞けただけで更に嬉しくなってしまい、早くキスしてくれと、これだけは小さな子どもみたいにせがむと、微苦笑を浮かべた綺麗な顔が近づいてきて、言葉だけの不満を流す口を封じるようにキスをしてくれる。
 そのキスが次を求める心に火をつけたのか、離れていこうとする白や銀にも見える髪に手を差し入れて動きを止めてやると、少し驚いたような吐息が俺の唇にかかるが、それごと飲み込むように今度は俺からキスをする。
 驚いたようだけど、それはただ驚いただけだってことがその後繰り返したキスからもわかり、少し息が上がるほどのキスをした後に、俺の心を持ち主の俺以上に理解してくれる恋人が好きだと言ってくれる表情になってしまう。
 「オーヴェ、好き」
 「ああ」
 自然とこぼれる笑い声を抑えずに肩を揺らすと、同じように小さく笑った恋人が額に額を重ねてくる。
 「満足したか?」
 「うん、した」
 突然何故そう思ったのかは分からないが、満足したからもう平気だと笑って伝えれば一つ頷いた後、雑誌の続きに戻っていく。
 その横で寝転がり、自然な動作で腿に頭を乗せれば、程なくして優しい手が無意識のように髪を撫でてくれる。
 己の気持ちが不可解な思いを浮かべてキスを強請った結果の穏やかな時間が心地よく、そのまま眠り込んでしまうのだった。

 

2015/04/20


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