KISS ≫ Chocolate

Über das glückliche Leben(UGL) -Lion & Uwe -

 一日の終わりを迎える前のリラックスできる時間を、暖炉の熱を程良く感じながらソファベッドでウーヴェは本を読んでいたが、そんなウーヴェの膝を枕に、録画したサッカーをのんびりと見ていたリオンが不意に起き上がり、ウーヴェの本を取り上げた。
 「?」
 どうした、何かあったのかと問いかける代わりに小首を傾げたウーヴェだったが、リオンがそんなウーヴェの薄く開く唇に小さな音を立ててキスをする。
 「リオン?」
 「ん?水取ってくる」
 水を飲みたいのは構わないが、何故キスをするんだと苦笑するウーヴェの声はリビングを出ていったリオンには届かず、戻って来たリオンが再度ウーヴェにキスをして先程と同じ体勢になったため、ウーヴェも意味が分からないままに再度本を読み始める。
 その後はリオンがサッカーを見ながらプレーに対する文句や誉め言葉を並べるのを、少し遠い世界で聞いていたウーヴェだったが、テレビCMが入ったりゲームの動きが中断したりする度に頬であったり唇の端であったりにキスをされるため、本を読み進めることが難しくなってくる。
 その為に思わず本を閉じてリオンの横顔を見たウーヴェは、さっきからどうしてキスばかりをするんだと問いを発すると、心底意外そうな顔でリオンが顔だけを振り向けてくる。
 「へ?」
 「いや、だからさっきからキスばかりするのはどうしてだ?」
 ウーヴェの言葉にリオンがウーヴェ以上に疑問を感じたようで、首を傾げながらキスをしてはいけないのかと問いかけ、ウーヴェが小さく首を左右に振る。
 「なら良いだろ?」
 それに、キスをするのに一々宣言しなければならないのかとリオンが僅かに機嫌を損ねた顔で告げると、ウーヴェが機嫌を表す頬に手を宛がう。
 「そうじゃない」
 少し気になっただけだと笑えば真意を察したリオンが機嫌を直して笑みを浮かべ、もう一度ウーヴェにキスをして立ち上がる。
 「今度はどうした?」
 「チョコ食べる」
 「…………ああ」
 機嫌を直してくれたことは良かったと内心胸を撫で下ろすが、その言葉がどう聞いても子どもと同じものだったため、呆れた様な溜息をつい吐いてしまい、頭を一つ振って本を手に取る。
 隣にリオンが座ったことに気付くが、何とか今日中に読み進めたいとの思いから本の世界に没頭しようとするが、悲劇のヒロインが味方だと思っていた婚約者から冷たくあしらわれた所で頬にキスをされてしまい、本の世界と現実のどちらにより意識を向けるべきが瞬間的に思案してしまう。
 この本は特に面白いと思って借りた訳ではないと数日前の過去を思い出したウーヴェの脳味噌が、キスの後に隣で聞こえてきた、あ、負けちゃったという言葉の割には悔しさも悲しさも滲んでいない呟きに反応し、本に意識を向けつつも負けたのかと呟けば、うん、負けたという暢気な声が返ってくる。
 婚約者に裏切られたことを知ったヒロインの悲しみがその一言によって途轍もなく軽いものに思えてしまい、溜息一つで本を閉じてテーブルに投げるように置くと、リオンが丸めた目でウーヴェを見つめる。
 「オーヴェ?」
 「チョコは食べたのか?」
 「へ?ああ、うん、もう食った」
 残念ながら全て食べてしまったことを告白すると、ウーヴェが一瞬だけ険しい表情を浮かべるが、様子を見守るリオンの前で眼鏡を外し、鼻の頭が触れあうぐらいの距離にまで顔を近づける。
 「そうか」
 「へ!?」
 チョコがあれば貰おうと思ったが、無いのだからこれを貰うと言い放ち、何事かと更に目を大きくするリオンに負けず劣らずの太い笑みを浮かべると、チョコの残滓を味わおうとするようにぽかんと開く口にキスをする。
 「……!!」
 驚くリオンに再度にやりと笑いかけ、今度はくすんだ金髪に手を差し入れて身動きが取れないように固定しながら口付ければ嬉しそうな気配を間近で感じ取り、首の後ろで腕が交差したような感覚に囚われる。
 薄く目を開ければ意外に長い睫毛が見えるが、お気に入りの蒼い瞳が見えないことが僅かに残念に思われてしまう。
 それでも間近に見える顔から嬉しさと幸せを感じ取ることが出来るのならばと、角度を変えると、それに応えるようにリオンも軽く腕に力を込めてウーヴェを引き寄せる。
 冬の定番になったソファベッドにリオンが背中から倒れ込み、咄嗟に手をついて身体を支えたウーヴェだが、俺が支えるから気にするなと睨まれてゆっくりと同じように倒れ込めば、己よりも遙かに鍛えられている胸板に文字通り支えられて無意識に安堵する。
 「オーヴェ」
 名を呼ばれて目を細め、何かを期待する顔の魂の片割れに笑いかけると、同じような笑みが口元に浮かび上がり、続きを強請られていることを察しながらも額にキスをすると、みるみる内に笑みを浮かべていた唇が角度を変える。
 「リーオ」
 「……んだよ」
 額へのキスなどで満足できると思うのかと無言で問われて小さく肩を竦め、詫びをする代わりに尖った唇に音を立ててキスをすると、尖り方が穏やかになる。
 何度かキスを繰り返し、すっかり元に戻ったのを見計らったウーヴェは、リオンの頭を囲うように腕をついて額を重ねると、チョコを食べた気分だと小さく笑う。
 「へ?」
 「チョコを食べたかったけど、今のキスで食べた気がする」
 くすくす笑うウーヴェにリオンも少し考え込むが、己の唇を舐めて今度はチョコではなく俺自身を味わわないかと問いかけ、返事ではなく望むキスを貰って目を閉じる。
 「……美味いか?」
 「そうだな……」
 チョコと比べられない程甘くて美味しいと笑えばリオンもつられて笑い、もっと味わえと吼えるが、己にも味わわせろと男の貌で囁かれてウーヴェの背筋が一つ震える。
 「ああ」
 それこそ好きなだけ満足するまで味わえばいいと返すウーヴェに感謝のキスをしたリオンは、リモコンを操作してテレビを消すと、ウーヴェの手を取って起き上がらせる。
 「な、今日はどっちがする?」
 「そうだな……あっちのバスタブに湯を張るのは面倒だな」
 「ん、りょーかい」
 互いの腰に腕を回しながら囁き合い、ベッドルームのドアを開けるが、顔を見ることは無くても互いの熱を確かめるようにシャツの裾から手を差し入れ、この後の時間に胸を弾ませ、更に弾みをつけるようにキスを交わし、縺れるようにベッドに倒れ込むのだった。

 その後、互いに満足するまで抱き合い、熱を出した身体を横臥させていたウーヴェは、隣で大の字になって同じくクールダウンしているリオンが顔を向けてきたため、どうしたと掠れる声で問いかけると、良かったと笑われる。
 「………………」
 「今日みたいに積極的になってくれるなら、これから毎日ずーっとキスしようかな」
 「バカたれっ!」
 くだらない事を言ってないでさっさと寝てしまえと羞恥から吐き捨ててリオンに背中を向けたウーヴェは、背後から情けない声で躙り寄ってくる恋人を無視するように目を閉じるが、背中にぴたりと胸を宛がわれて肩にキスをされると羞恥も薄らいでいく。
 「ダンケ、オーヴェ」
 「ああ」
 腹の前に回される手を何度も撫でてそろそろ寝ようと無言で誘えば、首筋の後ろ辺りで大きな欠伸が聞こえてくる。
 「お休み、リーオ」
 「ん、お休み」
 お休みのキスだけは別だと笑って振り返り、眠そうな顔で目を閉じる寸前のリオンにキスをすると、眠いながらも何とかリオンがキスを返してくる。
それを受け止めて同じように目を閉じたウーヴェは、良い夢を見ますようにと互いの夢の先が平安であることを祈って眠りに就くのだった。

 

2015/02/08
2015バレンタイン(になるのかな、これ……)


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