Ich liebe dich , Darling.

Über das glückliche Leben(UGL) -Lion & Uwe -

 今年のイブは何が何でも休みを取るぞ。
 拳を握りしめた恋人が宣言したのは、アドヴェントの日曜ごとに火を灯す蜜蝋のキャンドルに二度目の火を灯した夜だった。
 職業柄休みを取れるのかと、キャンドルに火を灯した後のマッチを暖炉の中に捨てながら苦笑すると、何が何でも取ってやると更にエキサイトした声が返ってくる。
 お前が休みを取るのならその日のディナーを任せようかな、そう少しだけ意地悪な思いを込めて恋人の顔を見れば、今までエキサイトしていたのはどこへやら、そっぽを向いて口笛を吹きながら頭の後ろで手を組んでしまう。
 「リーオ。美味しいものを食べたくないのか?」
 「うん?食いたいに決まってる」
 だから料理が上手なお前が作ってと笑顔で返されて瞬きをしたウーヴェは、そもそも俺は食べる人と鼻歌交じりに答えられては何も言い返せず、小さく溜息を零した後に暖炉の前に置いたソファベッドに腰を下ろす。
 「本当に休みを取るのか?」
 「絶対に取る!だからさ、美味いもの食わせてくれよ、オーヴェ!」
 クリスマスイブの夜は自分たちの誕生日でもあるのだから、是非とも美味しいものを食べさせてくれと、ウーヴェの隣に飛び乗りながら器用に手を組むリオンの額を指先で軽く突きながら笑みの質を切り替えたウーヴェは、何が食べたいと問いかけてチキンと即答を貰って天井を見上げる。
 「バートに頼もうか?」
 「うん、そうしてくれよ。前に食べたローストチキンがホントに美味かった…!」
 過去に食べた美味しいものを今まさに食べているかのような顔で呟くリオンの顔を見てしまえばウーヴェにそれを拒否する理由などなく、幼馴染みに前回以上に美味しいものを作ってくれと明日にでも頼もうと決めると、浮かれる恋人のこめかみにキスをする。
 「頼んでやるから楽しみにしていろ」
 「ダンケオーヴェ、愛してる!」
 歓喜の舞を踊りかねない喜びようにウーヴェも自然と顔を綻ばせ、その笑顔を見たリオンが更に笑みを深めてウーヴェに抱きつき、白とも銀ともつかない髪にキスの嵐を浴びせかけるが、ウーヴェの耳朶にもキスをすると、突然のそれにウーヴェが首を竦める。
 「こら、リーオ!」
 くすぐったいから止めろと笑うウーヴェの声にリオンを押し止める力は無く、笑ったために身体を支えられずにソファにたれ込むと、一声吼えた恋人が肉食獣の顔で腹に跨がり見下ろしてくる。
 「…………腹減った、オーヴェ」
 今からお前を食べても良いかと目で問われて軽く息を飲んだ後、リオンと似通った笑みを浮かべたウーヴェが逆にお前を食べても良いかと問いかけると、望むところだが出来れば明日にしてくれと笑われて納得の証にリオンの前髪を軽く引っ張って顔を引き寄せる。
 「────後でグリューワインが飲みたいな、リーオ」
 「白でも赤でもどっちでも作ってやる」
 呟きつつ己にしか出来ないウーヴェの首筋に顔を寄せてキスをしたリオンは、びくりと一瞬だけ揺れるものの受け入れてくれることを証明するように背中に手が回った事を知り、ダンケと胸の裡で礼を言いながらセーターの中に手を差し入れるのだった。

 宣言した通りにクリスマスイブに休暇をもぎ取ったリオンは、午後の診察を休診にしたウーヴェと一緒に小雪がちらつく街中を歩いていた。
 クリスマスマルクトに出向いて昼食代わりにヴルストとチーズを挟んだゼンメルを食べたが、ウーヴェはその横でグリューワインを飲んでいるだけだった。
 クリスマスに関係する様々なもの-オーナメントや色とりどりに飾り付けられたキャンドルなど-を売る屋台を冷やかしつつウーヴェのクリニックからも見える市庁舎横を通り抜けて広場に出ると、ウーヴェがベンチに座ろうと声を掛ける。
 「ん?どーした?」
 「少しゆっくりしたい」
 「ん、分かった」
 この後ウーヴェがいつもコーヒーを買う予定だったが、その店にさすがにグリューワインのカップを持って入る訳にはいかないと気付き、ウーヴェの横に座って足を組んだリオンは、ウーヴェの手の中のカップから湯気が立っているのを見て己が体感している寒さを実感したらしく、一つ身体を震わせる。
 小雪がちらつく街中だったが、クリスマスイブだという理由からか人出は割とあり、今夜と明日のクリスマスを祝う為様々な品物を買い求める人達が行き交っていた。
 公園のベンチからそれを見つめていたリオンだが、今年のクリスマスプレゼントをウーヴェは喜んでくれるだろうかと思案し、逆に今年は何を貰えるのだろうかと期待に胸を膨らませる。
 「な、オーヴェ」
 「うん?」
 ワインを飲み終えたウーヴェが顔を振り向けると、リオンが笑みを浮かべたままウーヴェのワイン色にほんのり染まった唇にキスをする。
 「リーオ?」
 「飲んだらさ、そのカップ持って帰ろうぜ」
 毎年行われるクリスマスマルクトで飲むグリューワインだが、こうして二人で出掛けた記念としてカップを持ち帰ろうと笑うリオンにウーヴェは一瞬微妙な表情を浮かべるが、記念だというのならそうしようと頷いて立ち上がる。
 「どうした?」
 「先にこれを返してくる」
 「へ?」
 返してしまえば記念に持ち帰られないだろうと目を瞬かせるリオンにウーヴェが片目を閉じ、コーヒーを買い終わった後にもう一杯飲めばそれを持ち帰ることが出来ると告げると、リオンの頬がみるみるうちに膨らんでいく。
 「まーだ飲む気かよ」
 「寒いから良いだろ?」
 「仕方ねぇなぁ」
 もう一杯ワインが飲みたいのならばキスしてと、リオンが強請る割には尊大な態度で顎を少し上げると、ウーヴェが一度周囲を見回した後そっと顔を寄せて少しかさついている唇にキスをする。
 以前ならばこうしてキスをするどころか手を繋ごうとしただけで睨まれたりしたものだが、付き合いだして様々な出来事を経験した今、一緒にいられる幸せをいつも胸の奥に秘めているからか、あまり人の目が多い場所ではまだ無理だが今いる場所のように人目につきにくい所ではキスもしてくれるようになっていた。
 それをしっかりと受け止めて満足の吐息を零したリオンは、勢いよく立ち上がると同時に早くコーヒーを買いに行こうと笑い、ブルゾンのポケットに手を突っ込んで雪がちらつく空を見上げ、急ぎ足でカップを返しに行くウーヴェが戻って来るのを待っているのだった。

 

 お気に入りのショップでいつものコーヒー豆と一緒に紅茶も購入したウーヴェは、幼馴染みが腕によりを掛けたであろうローストチキンを二人である程度食べ、残りは前回と同じように翌日に食べるサンドにしようと取り分けを終え、購入したばかりの紅茶の準備をし始める。
 食後のコーヒーは大好きだが、今は紅茶を飲みたい気分だとリオンに説明をし、ならばミルクたっぷりの紅茶が飲みたいと返された為にその準備をしていると、背後からぎゅっと抱きしめられて顔を振り向ける。
 「どうした?」
 「んー?何でもねぇ」
 ただ何となくこうしたくなっただけと、他意のない声で教えられて苦笑し、お望みのミルクティが出来たからリビングに行こうと笑うとリオンがウーヴェの背中に張り付いたまま歩き出す。
 リビングのコーヒーテーブルにトレイを置き、暖炉の前ではなくカウチソファに腰を下ろすとリオンも隣に座ってクッションを抱え込む。
 何かに抱きついていたいのかと思いつつ何気なくソファに鎮座する巨大なテディベアを見遣ると、その巨体に見合った太い足の上にラッピングされた小振りの袋が置いてあることに気付く。
 「オーヴェ、クリスマスプレゼント」
 「………………うん、ありがとう、リーオ」
 いつもならば素直に受け取ることが出来ないそれだが、今年は例年とは違う気持ちで感謝の思いを告げたウーヴェは、己も用意しているクリスマスプレゼントと誕生日プレゼントをかねたものを取りに行く為に立ち上がる。
 「オーヴェ?」
 「待っていてくれ」
 リオンに見つからないようにする為にクローゼットの中の小部屋に隠しているプレゼントを取りに行く為にリビングを出、ベッドルームのクローゼットの中からラッピングしている箱を手に戻って来る。
 今年も何をプレゼントするかを悩んでいたが、リアが色々と情報を教えてくれた為に毎日身につけるものにしようと決めたのだが、果たして喜んでくれるだろうかという不安がどうしても拭い去れなかった。
 そんな不安が顔にでたのか、戻って来たウーヴェを出迎えたリオンは隣に座るウーヴェの肩に頭を乗せて何をくれるんだと楽しみな気持ちを声に出してみる。
 「……誕生日とクリスマスおめでとう、リーオ」
 「ダンケ、オーヴェ」
 例年のように誕生日プレゼントは受け取らない、是非受け取ってくれと言う押し問答のような物も無く、リオンがテディベアに預けていたプレゼントを受け取ってウーヴェに差してプレゼントの交換をする。
 リオンがくれたプレゼントを開けると、宝石か何かが入っていそうな小箱が姿を見せ、そっと箱を開けると中にはベルベット地の上に二つの大きな青い宝石がきらりと光る。
 「リーオ、これは……」
 「へ?ああ、うん、カフリンクス。オーヴェいつもシャツ着てるから付けてくれるかなーって」
 去年はブックマークだったが今年はカフリンクスにしてみましたと笑い、己の為にウーヴェが用意してくれたプレゼントを開けたリオンの顔が呆気に取られたようにウーヴェを見つめる。
 「オーヴェ、これ……?」
 「…………気に入らない、か?」
 リオンの足の上に広げられているのは手触りの良いボクサーパンツで、ゴムの部分が白と黒のブロックチェックになっていて、後ろの部分には小さなポケットがついているデザインだった。
 「いや、プレゼントでパンツなんて初めて貰ったからびっくりした」
でも、さすがにウーヴェが選ぶだけはあってデザインは最高に自分好みだと笑うが、もう一つ箱があることに気付いてがさがさと取り出すと、中からリングがいくつかついたキーホルダーが出てくるが、そのひとつにすでに車のキーが着いていたため、これはなんだと答えを予想しつつウーヴェと己の顔の間に持ち上げると、咳払いをひとつしたウーヴェが片目を閉じる。
 「スパイダーのスペアキーだ」
 「…………ダンケ、オーヴェ」
 ウーヴェの愛車のキーが着いたキーホルダーを受け取ることの重みを感じつつも、それ以上の歓喜に顔を綻ばせ、唇の両端を持ち上げたリオンにウーヴェも頷き、リオンがくれたカフリンクスを早速付けてみると、カジュアルなシャツだから少し違和感があったが、ドレスシャツに付ければ二つの宝石の大きさも程良く映えると頷き、スパイダーのキーを眩しい光を発している宝のように見つめるリオンの名を呼んで視線を重ねると、そっとその唇にキスをする。
 「オーヴェ?」
 「ありがとう、リーオ。今度このカフリンクスに似合うシャツを一緒に見に行こうか」
 「あ、それ良いな。行こうぜ」
 さすがにこれから新年にかけて仕事が忙しくなるから難しいが、仕事が一段落したら買いに行こうと笑い、頷くウーヴェの頬にキスをする。
 今年のクリスマスイブと誕生日は例年とは少しだけ違うものだったが、互いに渡しあうプレゼントに込められた思いは変わることはなく、それをしっかりと受け止めた二人だったが、リオンが先程のようにウーヴェの肩に頭を乗せてきた為、今度はウーヴェも手を挙げて柔らかな髪の中に手を差し入れる。
 何度かこうしてプレゼントを渡すようになった自分たちだが、これまでの間に起きた悲しい痛ましい出来事を自然と思い出してしまうのか、リオンがウーヴェの肩に顔を埋めるように身動いだため、そっと頭を抱き寄せるように腕を回す。
 「オーヴェ……前も言ったけどさ……」
 あの時、どれ程辛くても死ではなく生を選んでくれた為に出逢えたんだとぽつりと呟き、生きてくれてありがとうと万感の思いを込めて囁くと、言葉ではなく触れあう温もりでそれに対する礼がされる。
 「お前も、な」
 今まで決して平坦な道を歩んできた訳ではない自分たちだが、これからも二人でこの日を迎えようかと笑って告げるとリオンの頭が何度も上下に揺れる。
 「ダーリン、愛してるっ」
 「ん?ハニーじゃないのか?」
 いつもいつもハニーと連呼しているが、先日もそう言えばダーリンと呼んでいたなと笑ってリオンの髪を軽く引っ張ったウーヴェに全身で不満を表現したリオンがハニーと呼べば1ユーロ貯金させる癖にと頬を膨らませる。
 その様が楽しくて拳を口元に宛がって肩を揺らすと、ハニーが駄目ならダーリンにするしかねぇと宣言されてついに吹き出してしまう。
 「ダーリンで良いのか?」
 「ん?うん。ハニーも好きだけど、ダーリンってのも良いよなぁ」
 「……それなら許そうか」
 ダーリンと呼んでもお金を貯金させられないことに安堵し、これからはハニーではなくダーリンと呼ぶと宣言したリオンにウーヴェも微苦笑し、分かったと頷いて恋人がダーリンと呼ぶ事を認めると、紅茶が冷めてしまっているがどうすると問いかけ、せっかく作ってくれたのだから冷たくなっていても飲むと元気いっぱいに返されてただ苦笑する。
 「オリーブさ、明日食おうか」
 「そうだな。チーズも買ったことだし、クラッカーに載せて食べるか?」
 「うん、賛成」
 早く食べたいが明日の楽しみに取っておこうと笑い、冷めても美味しい紅茶を飲む為にカップをほぼ同時に手に取り、寝るまでの時間潰しにとリオンはテレビを見る為にカウチソファに寝そべり、ウーヴェはそんなリオンの頭を己の片脚に載せながら雑誌を読むのだった。

 

 こうして例年とは少し違うが根本的には何も変わらない気持ちで、クリスマスイブと誕生日の夜を過ごすのだった。

 

2013/12/24


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