Das neues Jahr-2-

Über das glückliche Leben(UGL) -Lion & Uwe -

 雪が周囲の音を吸い込むように静かに降りしきる一年の終わりを迎える夜、暖炉の前に冬季限定で置いたソファベッドに寝そべり、枕代わりにしている金色の毛並みを持つテディベアの足を抱え直した彼は、広げていた雑誌を閉じてその上に頬を軽く押し当てる。
 しんしんと降る雪がもたらす静けさに負けたように今夜も暖炉の炎は静かに爆ぜる程度で、室内で聞こえるのはその小さな音と時を刻む時計の音だけだった。
 静まりかえる室内だったが、何処か遠くで上がっている喧騒の声が小さく聞こえてきて、ブランケットを肩に引っ掛けながらソファから起き上がり、窓を開けて入り込んでくる風の冷たさに一瞬だけ目を閉じて寒さをやり過ごすと、声の聞こえる方へと眼鏡の下の瞳を向ける。
 彼が暮らすアパートがある地区はこの街でも高級住宅街として有名な為、新年を祝うにしても若者のように大騒ぎをする人達は少なく、冬の寒さを真夏の島々で過ごしたり有名な交響楽団のニューイヤー・コンサートに出掛ける人達が多く、彼も同じアパートの住人からこの新年の過ごし方を問われ、読みたい本があるので自宅にいると告げて何故か寂しそうな目で会釈されたこともあった。
 新年を友人と賑やかに過ごして花火を打ち上げようが、一人静かに部屋で読書をしていようが人の勝手だろうとその時思っていたのだが、恋人が今日も仕事で遅くなるとの連絡を受け、数日前のクリスマスの夜も一人で過ごし、不満を少しだけ訴える恋人を宥め賺せて仕事に精一杯の気持ちで向かわせたのだが、数時間前にも同じような言葉で仕事に向かわせたことを思い出すとほんの少しの残念な気持ちでつい顔の前で息を白く吐きだしてしまう。
 日頃は子供じみた言動をとる事が多い恋人は、刑事の職業を天職のように思っているのか、言動からは想像出来ない生真面目さで仕事に打ち込むことが多かった。
 そんな恋人の態度を彼もただ好ましい目で見守り、疲れた顔で戻ってきた恋人を黙って抱きしめ、少しでも疲れを取って欲しいと願っていた。
 仕事に対するその姿勢は本当に感心するの一言だったが、今もこの寒空の下で頑張っているのだろうともう一度長く細く白息を吐いた時、枕代わりにしていたテディベアの手の上から軽快な映画音楽が流れ出した為、窓枠に手をつきながら肩越しに振り返って苦笑し、テディベアの上から携帯を取り上げて耳に宛がう。
 『ハロ、オーヴェ!』
 「お疲れ様、リオン」
 耳に聞こえてくる声に背後の喧騒が重なって恋人の声が小さくなるのが残念で、賑やかだなと背後の歓声を窘めるように告げると、何だってと怒鳴られてしまう。
 「…今は何処にいるんだ?」
 『うん?ああ、今は市庁舎前。もうすぐ花火ぶっ放すだろ?』
 打ち上げ花火を上げられるのが今夜だけだからか、若者や新年を祝う為にやってきた人達が騒ぐのは良いが大騒ぎに発展したり、血の気の多い連中が人に向けて花火をぶっ放した結果、救急車の出動要請を掛けなければならない事態になる事を危惧した警察の上層部が市庁舎前で待機していろと命じたのだと、学生の頃ならば間違いなく自らが取り締まられている立場のリオンが苛立ちと納得できる思いを声に滲ませて声を張り上げるが、その声が終わると同時に悲鳴が響き、つい携帯を耳から離して鼓膜を保護してしまったウーヴェは、再度携帯を耳に宛がって少しだけ焦った声を出す。
 「リオン!?」
 『クリポに蹴りを食らわせたヤツは誰だぁ!?お泊まり保育を受けたいのか!!』
 ウーヴェにではなく背後の歓声に向けて怒鳴るリオンに瞬きをしつつ蹴られたのかと問いかけると、俺じゃなくコニーが蹴られたと返すだけではなく、俺のハニーとの電話中に邪魔をするなとも怒鳴るが、その一言に対してウーヴェは条件反射のように豚の貯金箱に今年最後の食事をさせてやるなんて賢いなぁと答えれば、携帯の向こうが慌てふためく気配が伝わってくる。
 『ちょ、ウソ、取り消すっ!!だから1ユーロは待って、オーヴェ!』
 「どうしようかな…」
 『オーヴェのイジワルっ!こんなに必死に働く俺から1ユーロも取るなんて、アクマっ!トイフェル!!』
 「いっその事10ユーロにすれば、豚の貯金箱ももっと喜ぶだろうなぁ」
 『ちょっとマジでごめんなさい』
 つい先日、クリスマスプレゼントだと宣ってフランケン産の白ワインの一ダース分の金を俺の財布から抜いた癖にと恨みがましい声を出す恋人に小さく笑い、冗談だと告げて窓枠にもたれ掛かって少しだけ頭を仰け反らせる。
 いつもより不自然な世界で降る雪はおかしさを感じさせてくるが、同じ雪が降る下で恋人が汗水を流して働いていることを思い出すと、そんなおかしさを与えてくれなくても良いからせめて夜が明けるまで止んでくれと、半分だけ上下が入れ替わった世界で不満を訴える。
 『あ、オーヴェ、もうすぐ年が変わるぜ』
 「ああ、そうだな」
 携帯から聞こえる息づかいが落ち着いていることに安心し、今夜もいつものように仕事に励めと伝えると、その言葉が嬉しかったのかどうなのか、声にならない歓喜がじわりと伝わってくる。
 『Ja.────なぁ、オーヴェ』
 「うん?どうした?」
 急に顰められる声に首を傾げ、背後の喧騒に負けそうな声が告げる言葉を一言たりとも聞き逃さないようにと神経を張り詰めたウーヴェは、耳に流れ込む密やかな願いが耳を通って脳味噌に刻まれ、そのまま血の流れに乗って全身に行き渡ったことを痺れとともに感じると、目元を少し赤くして囁き返す。
 「…もちろん、いつも帰って来いと言っているだろう?」
 『………うん』
 お前には帰る場所があるのだと、一人になる家に帰る必要はないと強く囁き、小さな頷きを返された彼は、口調を和らげて優しい声で仕事への励ましをする。
 『…そろそろ戻るな、オーヴェ』
 「ああ、頑張って来い」
 お前が元気に働いている姿を見ることが出来たり感じる事が出来る、ただそれだけが嬉しいと、さすがにその一言は照れもせずに相手を思う気持ちだけを前面に押し出して伝えると喧騒だけが耳に伝わってくるが、その中に紛れもなく恋人からの贈り物であるキスの音が入っていることに気付き、同じようにキスを返すと何かを叩くような音が響いてくる。
 「どうした?」
 『んー?何でもねぇ!ちょっと気合いを入れただけ!』
 「そうか?」
 『そう!気にするなよ、オーヴェ。帰りは朝になると思うから…』 
 今夜のこのバカ騒ぎの後始末をしなければならないだろうし、お泊まり保育-つまりは留置場で一夜を明かす-連中の面倒も見なければならないだろうから、帰るのはきっといつも出勤するような時間になると思うと、すっかり刑事の顔になっているのを教える声音で囁かれ、気にしなくても良いから帰ってくるときには携帯を鳴らせと告げて一度目を閉じる。
 この後、新年を祝う花火が市内の彼方此方で打ち上げられ、それに乗じたバカ騒ぎや騒動が起きるのは必至であることに気付き、そんな騒ぎを静める為に出動しているリオンとその同僚達がどうか負傷しませんようにと、自らのことでは決して祈ることのない神に短く祈りを下げた彼は、名を呼ばれて苦笑しつつ何でもないと答えて窓から背中を剥がす。
 「皆によろしく伝えてくれ、リオン」
 『ダン、オーヴェ。────じゃあ戻るな』
 「ああ。行ってこい。怪我をするとしても軽いものだ。だから必ず────」
 この家に、この家で待つ俺の傍に帰って来いと強く囁き、似た声音でもちろんと返されて目を細めると、喧騒が一際大きくなり、開け放ったままの窓の外からとリオンの声に覆い被さるように打ち上げ花火の音がウーヴェの耳に流れ込む。
 『Herzlichen Glückwunsch zum Neuen Jahr、オーヴェ』
 「ああ。新年おめでとう、リオン」
 今年もまた年が明けた直後に新年を祝う言葉を交わしあえたことがささやかであっても二人にとっては嬉しいことで、もう一度仕事を頑張れと励まし、その励ましに力強く返した後でほぼ同時に通話を終える。
 開け放っていた窓を振り返れば、降りしきる雪はいつしか降るのを止め、雲の合間には冬の星々が顔を覗かせていた。
 その星達を見上げながら白息を吐き、リオンと話している間は全く感じなかった寒さを実感したウーヴェは、慌てて窓を閉めてソファベッドに座って暖炉の火に手をかざし、悴んでいた手を温める。
 自分はここでこうして火を使って暖まることは出来るが、この寒空の下で働くリオンは大丈夫だろうかと思案し、平気なわけがないことに思い至ったウーヴェは、ならば恋人が寒さと疲労を滲ませた顔で戻ってくるのをしっかりと受け止めてやろうと決めると、リビングの戸締まりを確かめるとそのままキッチンとパントリーで食材を確かめる。
 幼馴染みが経営する店のような料理は出来ないが、彼と恋人の腹を満たし疲れを取る料理ならば何とか出来そうなのを確かめてベッドルームに入ると、何かを思い出した顔で踵を返してリビングに舞い戻り、ぽつんと一人取り残されていたテディベアを抱き上げる。
 今日はベッドルームのソファで座っていろと告げてその言葉通りにしたウーヴェは、自らは手早く着替えを済ませて広いベッドに潜り込み、サイドテーブルの明かりの下で本を読み始めるのだった。

 そして、すっかりと日が暮れて新年の一日目も残り数時間となった頃、疲れを滲ませつつも仕事を完遂した自負と職業への誇りを瞳に滲ませたリオンが足を引きずって戻ってきたが、前夜の決意の通りにウーヴェはただ黙ってリオンの広い背中を抱きしめ、疲れている身体に力を分け与えるように労いの声を掛け、疲労困憊の恋人に少しだけ素直になろうと決める。
 新しく買い求めてクリスマスプレゼントとして贈ったピアスが填る耳に口を寄せ、皆のものから俺だけの太陽になってくれと囁くと、声にならない思いが背中に回された腕から伝わり、全身へと伝播していく。
 その温もりとも痺れともつかない感覚に目を閉じ、少しもたれ掛かってくるような身体をしっかりと受け止めたウーヴェは、腰に腕を回して疲れているリオンの身体を支えてキッチンに導き、ひとまずは身体の中から暖まろうとレバーケーゼのスープとゼンメル、クリスマス料理のような鴨肉のローストなどをテーブルに並べ、リオンの顔に満面の笑みを浮かべさせるのだった。

 一日遅れで二人だけで新たな年の訪れを少しだけ賑やかに祝うのだった。

 

2012/01/01
Herzlichen Gluckwunsch zum Neuen!und Seien Sie mir auch in diesem Jahr gewogen!
新年、明けましておめでとうございます。そして、今年もよろしくお願いします。


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