クリニックが入居する建物から一歩外に出た彼が少し遅れて出てきた彼女にごく自然に手を差し出し、日が差したことで解けた雪が作り出す水溜まりを避けるように導くと、まるで春の陽気のような青空に眼鏡の下で目を細める。
「今日は本当に暖かいな」
「ええ。暖かいと嬉しくなるわね」
公私の区別を現す全開に近い笑みを湛えてエスコートしてくれた手に感謝の言葉を告げた彼女は、ここらではまだまだ新参扱いされるが固定客を持つカフェにしようと石畳を歩き出す。
「クリスマスの予定は決まったの、ウーヴェ?」
二人並んでカフェへと向かう道すがら興味半分の表情で問い掛けたオルガは、己のボスであり友人でもあるウーヴェの返事がない事に首を傾げ、次の瞬間にしまったと眉を寄せる。
「…ごめんなさい」
「謝ることはない。いつもの様に家で静かにしているかな。リアはどうするんだ?」
彼氏と一緒にミサに行くのかそれともパーティでもするのかと問い返したウーヴェは、自分は過去の事件からクリスマスも誕生日も祝う事はないが本当に気にすることはないともう一度告げ、顔馴染みの店員がドアを開けてくれた事に頷いて一言二言言葉を交わし、オルガを先に席に向かわせる。
「私は弟が帰ってくるからミサに行って、その後家族と食事をするつもり」
定位置になりつつある店の奥まったテーブルに腰掛け、オーダーを聞きに来た店員にランチメニューを二つ注文した後、申し訳なさそうに呟くオルガにもう一度だけ気にするなと告げ、この間届いた大量の文献を読んで静かに過ごすと告げるが、その言葉尻に重ねるように苦笑の音を零して肩を竦める。
「…それも思っているだけになりそうだけどな」
「どういう事?」
「………大きな子供がいるからな」
「そう…ね、あの子は一筋縄ではいかないみたいね」
心底困惑している事を伝えるように掌を上に向けて肩を竦めた彼の前、彼女の顔にやっと笑顔が戻り、内心でのみ安堵の溜息を吐いたウーヴェは、ワンプレートに盛られたランチを持って来た店員に礼を述べると二人ほぼ同時に食べ始める。
「去年はあなたの家でパーティをしたのよね?」
「ああ。大騒ぎだったな」
あれからもう一年が経つと苦笑し、一年前の今頃を思い出したウーヴェは、彼女の言葉に苦笑を深めて首を左右に振る。
「誕生日が来る前にパーティをするなんて良くないと、聞いた時は思ったわ」
「確かに。ただ、みんなあまり気にしていないようだったな」
誕生日が来る前にそれを祝う事はタブーとされているが、出席者全員が全く気にしていないようだったと苦笑すると、納得しているし理解も出来ると彼女がそっと頷いた事で安堵に目を細める。
「でも、あの子、パーティに出す料理なんて出来たの?」
そもそも誕生日パーティに出す料理というのは誕生日を迎える当人が作るものなのだ。
だが、クリニックの電子レンジを生卵を温めて壊滅させた事はまだ記憶に新しい為、心底心配している顔で眉を寄せるオルガにウーヴェが沈黙し、プレートに飾り程度に乗っているクヌーデルをぐさりと突き刺す。
「……あなたが作ったのね」
「まあ、な」
あの時、恋人の職場の愉快な仲間達の胃袋を満たす為の料理を何品か作ったウーヴェだが、残りはテイクアウトしたものを持ち寄ってくれたのだ。
だがそれでも自分が作ったことには変わりが無く、ならば当人は何をしていたのと至極真っ当な質問をされ、深々と溜息を吐いたウーヴェがぼそりと呟く。
「あいつは食べる専門だ」
「今からでも料理を教えればどう?」
幸いな事にあなたも料理が出来るのだし、何と言ってもプロの料理人が友人にいるのだから、休日を利用して教室でも開いてもらえば良いと真剣に心配されて苦笑し、今度は熱した油に卵をそのまま放り込みそうだと大仰な表情で告げると、大きな目を軽く瞠った後、楽しそうな笑い声を流し出す。
「確かにそうね」
「だろう?」
「ええ。本当に」
空腹のあまり手っ取り早くゆで卵を電子レンジで作ろうとした己の恋人の暴挙を思い浮かべて諦めの境地に達したウーヴェは、ワンプレートでちょうどいい具合に満腹感を得られる食事を終え、彼女も同じくして食べ終えたのを見ると、食後のデザートとエスプレッソをオーダーする。
「今年は何をプレゼントするの?」
自分の誕生日プレゼントは受け取らないどころか祝う事すらしないあなただけど、愛する彼の為に今年は何を用意したと、頬杖をついて問われて伏し目がちになる。
付き合い出して初めての誕生日のプレゼントとして買い求めたのは、調子が悪いと言っていた時計の代わりを務めてくれる新しい時計だった。
彼が誕生日を祝う事はないと知った後、自分も受け取れないと断固として拒否された為、ならばそれはクリスマスプレゼントだと告げて漸く受け取らせたものだった。
その時計は特に何も言わないが今ではすっかり愛用品になっているらしく、仕事が終わった後や休日にデートをする時にはごく自然に左手に嵌められていた。
今年のプレゼントも同じように日々の暮らしに役立ってくれればいいと願いつつ選んだもので、もう手元に届けられる予定になっている事を告げて小さな笑みを浮かべる。
「ちょうど良いブーツがあったからそれにした」
「ブーツ?」
「ああ。マウンテンブーツだ」
「張り込んだわね」
「まあな」
確かに値段の張るものだったが、恋人ならばきっと無駄にしないどころか靴職人が呆れるか感謝する程に履きこんでくれるだろうと笑みを浮かべ、運ばれたエスプレッソに口を付ける。
「ブーツなんて言うから、お菓子が入ったものかと思ったわ」
確かに己の恋人は子どもじみた言動をするし、笑顔などは本当に年齢不詳の子供っぽさがあるがそこまで子供ではないと苦笑するが、珍しく悪戯を思いついた顔で目を細めて得笑みを浮かべる。
子供のようにブーツに山と入ったお菓子を見て喜ぶとは思えないが、冗談としては面白いと友人の言葉に触発されたウーヴェは、後日仕事が終わった後、閉店間際のデパートに駆け込んでそれを買い求め、クローゼットの片隅に隠しておくのだった。
食後のデザートも平らげてクリニックに戻ろうと二人で店を出ると、先程よりは雲の数が増えているようで、日が沈む頃には雪になるかも知れないとマフラーを掛ける為にコートの襟を立てるとオルガが小さくくしゃみをする。
ドアを開けてくれた店員とほぼ同時にゲズントハイトと告げたウーヴェは、自然な動作でマフラーを外して彼女の首に掛けてやると、鼻の頭を微かに赤くしたオルガが小さな声でありがとうと告げ、二人並んで寒さが増した冬空の下を歩いていく。
その視線の先、クリニックのビルから一抱えもある箱を持った宅配業者が警備員にドアを開けて貰ってる姿を捉える。
その後についていくように建物に入り、エレベーターではなく階段でクリニックがあるフロアに上がると、先程の業者が重厚なドアの前で困惑気味に立ち尽くしている姿を発見する。
「うちに届け物ですか?」
ウーヴェが声を掛ける前にオルガが問い掛けた為、バルツァーさんにお届け物ですと無愛想ながらも安堵の滲んだ声で告げる。
「私に?」
「はい。受け取りのサインをお願いします」
先程話題になったブーツが届いたのかと思ったが、それにしては荷物の嵩があると苦笑したウーヴェは、サインをした後荷物を受け取りオルガが開けてくれていたドアから中に入ると、早速箱を開けてただ瞬きを繰り返す。
「どうしたの?」
ウーヴェの様子に気付いたオルガが同じように横から箱の中を覗き込み、同じように瞬きをするが、さすがに彼よりは詳しい為に見たものの名を疑問符付きで呟いてしまう。
「ポインセチア…?」
「リア、ここに飾る為に注文をしたのか?」
「いいえ?注文するなら必ずあなたに通してからにするわ」
クリニックに関するものを買う場合、例えそれがボールペン一本であろうとも必ずボスであるあなたの了承を得てからにするわと毅然と返され、確かにそうだと頷いた彼は、ならばこの赤と白のポインセチアはどういう事だと当然の疑問を口に出して拳を顎に宛がう。
誤配ではないかどうかを知る為に箱に張られた送り状を見てみるが、間違い無く住所はここになっているし、一文字も間違えることなくウーヴェの名前が印字されていた。
ポインセチアどころかそもそも花束や鉢植えを送りつけるような友人知人はウーヴェにはおらず、一体誰だと二人で顔を突きつけて思案していると、当然と言えば当然の回答に辿り着く。
「ねぇ、あなたのお姉さんが送って来たんじゃないの?」
「いや…エリーから花を受け取った事は今までないな」
「じゃあ誰かしら…?」
ポインセチアの鉢をそっと取りだしてデスクに置いた時、ひらひらと一枚のメモ用紙のようなものが床の上に舞い落ちる。
「……クリスマスだから、これを飾ってくれって書いてあるわ」
その紙はやはりただのメモ用紙で、それが何処かのお店の開店祝いで配っている粗品か何かであることを示す文字が薄く印刷されていた。
その上に殴り書きのような、丁寧とはあまり言えない個性的な文字で書かれているのを何とか読み取ったオルガがそれを差し出し、ポインセチアの手入れ方法について調べる為にパソコンを立ちあげる。
「……リア、贈り主が分かった」
「そうなの?」
「ああ。夏に向日葵をくれた人がいた事を覚えているか?」
殴り書きの文字と同じく乱雑とすら言える筆跡で書かれたサインを読み取ったウーヴェの目が見る見るうちに見開かれ、送り主が分かった安堵の溜息を零すと同時に白い髪を掻き上げて目元に柔らかさを浮かべる。
「ええ、綺麗な向日葵だったわね」
「彼だ。ポインセチアも作っているのかな?」
ある夏の日、患者の家に往診に出向いたウーヴェがその帰路に偶然見つけた一面の向日葵畑があった。
その美しさに引き寄せられるようにアウトバーンを降りて立ち寄ったそこで、向日葵を育てている朴訥な青年に出逢い、帰り際に大輪の向日葵を貰ったのだ。
その彼からの贈り物だと気付くと相手の分からない贈り物に若干苛立っていた心が落ち着きを取り戻し、この花鉢がどうしてここに届けられたのかも察すると深い安堵の溜息を落として目を伏せる。
「名刺を渡したから贈ってくれたんだろう」
こんなにも綺麗な赤と白のポインセチアを店先以外で見る事はやはり少ない為、目の保養になると嬉しそうな顔で頷くオルガに赤いポインセチアをここに飾ろうと提案をし、白いポインセチアは自宅に持ち帰るように手近にあった袋にそっと入れる。
「お手入れ方法調べておくわ」
「ああ、頼む」
女性に花束を贈ることはあっても貰う事など無かった為に花の手入れ方法など全く分からないウーヴェは、その辺りの細やかな心遣いを当然のように行ってくれるオルガに感謝の言葉を告げて午後の診察に向けて準備をすると、持ち帰ろうとしている鉢は家の何処に置けば良いだろうかと思案をするのだった。
その日彼は仕事が終わった後の恋人がやって来るのを待っている時間を利用し、送り状に書かれている連絡先へと電話を掛けてみた。
何回かのコールの後に繋がったのだが、電話の声はやはりあの日のようにぶっきらぼうなもので、一瞬気圧されそうになるのをグッと堪えて名乗ると、あんたかと迷惑そうな声が返ってくる。
「ポインセチアを今日受け取りました。その礼を言いたくて電話しました。ありがとう」
『ああ、届いたか』
それならば良かったと、まるで贈ったことすら忘れているような口調に思わず電話をして迷惑だったかと問い掛けてしまい、相手を沈黙させた事に気付いて慌てて謝罪をするが、こんなものの言い方しかできなくて悪いと返される。
『気に障ったらすまない』
「いや、大丈夫です」
『そうか……気に入ってくれたか?』
受話器を片手にデスクに尻を載せて窓の外を見れば昼の予想通りに雪が降り始めていて、こちらに向かっているだろう恋人がこの雪に降られていなければ良いと目を細め、気に入った事と何かお礼をしたい事を告げると、そんなものは要らないとこれまた素っ気なく返されてただ苦笑する。
「前にも向日葵を貰ったのに、また頂いてしまっては気を遣う」
『俺が送りたいと思っただけだ。逆に迷惑だったんじゃないのか?』
「それはないが…」
『気になるのなら、あんたの恋人にでもあげればいい』
「………」
以前もそう言えば向日葵をあげろと言われたことを思いだし、あんたの好きにしてくれと言われて目を細め、自宅で長く楽しむ為の注意事項があれば教えて欲しいと聞き返すと、さすがに初心者にも分かりやすい説明が口調だけは素っ気なく、だがそれなりに丁寧にしてくれる。
「向日葵もそうだったが、ありがとう、ハーロルト」
もう一度気に入ったと笑みを浮かべて告げると伝わる気配が変化したような気がした為に小首を傾げた時、診察室のドアが軽快な音楽に合わせるようにノックされる。
『気に入ってくれたのならそれで良い……またこっちに来る事があれば寄ってくれ』
「必ず立ち寄らせてもらいます」
ありがとうと通話を終えると同時に振り返ったウーヴェは、いつの間にか一人掛けのソファに肘をつき頬杖をついてじっと見つめてくる青い眼に苦笑する。
「お疲れ様、リオン」
「ああ、うん、オーヴェもお疲れ様」
その言葉の端々に、見つめてくる青い眼に浮かぶ疑問に気付いて肩を竦めてデスクから降り立つと、ソファに片膝を着いてくすんだ金髪に口を寄せる。
外気の冷たさを纏った金髪を温めるように手を添えたウーヴェは、夏に貰った向日葵を覚えているかと問い掛け、言葉と腰に回った温もりから覚えている事を伝えられる。
「その彼がポインセチアを贈ってくれたんだ」
「ポインセチア?あの真っ赤な花か?」
「そうだ」
白や黄色などもあるそうだとオルガが教えてくれた事を垂れ流したウーヴェは、じっと見上げられて息を呑み、逆にソファ越しに抱きしめられて苦笑する。
「そいつの所に行くのか?」
「次に畑の近くを通れば顔を出すつもりだが…一緒に行くか?」
診察の時には行けないだろうが、休日にドライブがてら出掛けて顔を見せようかと笑えば暫くの間考え込むような沈黙が生まれるが、気分を切り替えたことを示す様な吐息混じりにそれもいいと返されて目を瞠る。
「リオン?」
「ん?」
感じた疑問を口に出そうとするが、何でもないと告げて顔を上げて少し離れる事でやりやすくなったキスを唇に落とすと、嬉しそうな気配が触れた唇から伝わってくる。
「オーヴェ」
「……っ!」
そっと名を呼ばれてどうしたと口を開いた瞬間、言葉を吸い取るように口を塞がれてしまい、思わず眼鏡の下で目を白黒させてしまう。
口内に滑り込んだ舌が歯列を確かめる様になぞっていき、その感覚にきつく目を閉じて無意識に目の前にあるブルゾンを握りしめると、舌を絡め取られ吸われて眩暈を覚えてしまう。
くらくらとする頭でしがみつくように腕を回したウーヴェの耳に口を寄せたリオンが、ベッドの中で囁くような声を流し込むと、悔しそうにウーヴェが小さな声を挙げる。
「そろそろ帰ろうぜ」
抱えた不満を先程のキスで解消したリオンの言葉にウーヴェが思い切り顔を背け、黙ったまま診察室の隣の小部屋に向かい帰り支度を終えて出てくるが、ブルゾンのポケットに両手を突っ込んでいるリオンの前に立つと同時に手を出せと低く命じる。
「はい」
お望みのお前の手だと差し出された左手にまずはポインセチアの袋の取っ手を握らせ、次に右手に愛車のキーを握らせると、先程の悔しさを晴らすように唇を押しつけて今度はウーヴェからキスを仕掛けて心ゆくまで堪能した後、手の甲でリオンの頭を軽く叩いて診察室を出て行く。
「……家で良いんだよな、オーヴェっ」
「ああ」
荷物を持たされ頭を叩かれたにも関わらず、何故か楽しそうな声で宣いながら追い掛けてきた事に肩を並べてクリニックの重厚なドアから出たウーヴェは、ある種の素直さに感心しそうになるのをグッと堪えつつ厳かさを保ったまま頷く。
「な、オーヴェ」
「何だ?」
「ポインセチア、キレイだな」
「……ああ」
リオンが手にした袋の中にある綺麗なものを見た嬉しさのまま告げればウーヴェも同じ表情で短い言葉を返しながら地下駐車場へと向かい、助手席のドアを恭しい手付きで開けられたことに目を細めると、鷹揚に頷いて乗り込んで安全運転で頼むと告げて全幅の信頼を示す様に目を閉じるのだった。
意識が吹っ飛びそうな時が過ぎ、互いの背中に腕を回したまま荒い息を整えた後の穏やかな密度の濃い時間、リオンがウーヴェに覆い被さりながらその耳に謝罪の言葉を流し込む。
その謝罪の意味を正確に読み取ったウーヴェはただ苦笑し、広い背中を掌で撫でた後俺を信じてくれと言っただろうと苦笑を深めれば、ゴメンと素直に謝られてそれ以上は言えなくなる。
「…お前だけだ」
どんな理由からなのかは全く分からないが、花を贈ってくる人がいても心から愛しているのはお前だけだから安心しろと、嫉妬する必要など無いと告げてその背中を抱き寄せると、更にきつく抱きしめられて苦しさを訴える。
今日思いも掛けない贈り物が届けられたが、訪れた診察室で聞いてしまったウーヴェの言葉から相手に何か下心があるのではないのかと疑問を抱いたリオンは、あの後のキスで何とかその気分を誤魔化していたが、やはりガマン出来ずに自宅に帰り着くなりベッドルームのソファに荷物を投げ出した後、諦めの顔で大人しく付き合ってくれる彼をベッドに押し倒したのだ。
恋人が目の色を変えた時には何を言っても無駄だとようやく理解したウーヴェは、一先ずは思うようにさせようと腹を括り、リオンの熱と重さを全身で感じていたのだが、その時が過ぎ去った今は先程とは立場が入れ替わっていることを十二分に察していた。
覆い被さってくる広い背中に手を回していたが、軽く反動を就けて寝返りを打ったかと思うと厚い胸板にしっかりと手を着けば、青い眼がきょろきょろと左右に揺れて視線を合わせないように悪足掻きをする。
「リーオ。俺の太陽」
「………っ…な、何だ…?」
視線を重ねずに呟く唇をぺろりと舐めて注意を引いたウーヴェは、青い眼を見下ろしながら唇の両端を軽く持ち上げる。
「…嫉妬深い王は嫌われるぞ?」
「へ?お前が俺を嫌うのか…?」
「ああ」
ふふんと勝ち誇ったようにウーヴェが言い放った直後、寝返りを打ったリオンがウーヴェの身体に再度覆い被さり、ターコイズを最大限に見開く顔を見下ろしながら傲岸不遜な笑みを浮かべる。
「ありえねぇ」
「……っ…その自信は何処から出てくるんだ?」
「ん?ここから、じゃねぇの?」
人差し指でウーヴェの薄い胸板をトントンとノックし、どんな事があってもお前に愛されているから、俺、と耳を宛がい響く鼓動を楽しむように笑みを浮かべると、何もかもを諦めたような溜息を一つ零したウーヴェが軽く髪を引っ張って睨んでくる。
「ぃてっ」
「うるさいっ!」
「いてて!ハゲたらどうしてくれるんだよ、オーヴェっ!」
「植毛でもカツラでも好きにすれば良いだろう、バカタレっ!」
痛い痛いと大袈裟に悲鳴を上げるリオンをバカタレと好き放題に扱き下ろす事で溜飲を下げたウーヴェは、重いから降りろとも叫んでリオンの肩を押し退けようとするが、意地でも離れないと叫ばれて絶句した後、堪えきれないと小さく吹き出してしまう。
「リーオ」
「うん」
「今度一緒に行かないか?」
「……マザーに何か綺麗な花を買って帰りたいけど、売ってくれるかな?」
ウーヴェだけが呼ぶ名を呼んだ後に小さな声で問い掛けてみれば同じく小さな声が返ってきた為、聞いてみようと頷いて今度は先程とは違う優しさで苦しさを訴えて横臥する。
「綺麗な花を売ってくれると良いな」
「うん。…ごめん、オーヴェ」
「もう良い」
互いを想う心から謝罪と許しを与えた二人は、このまま眠ってしまうには汗だの何だのが不快だと思い出してシャワーを浴びようと苦笑し合うと、どちらからともなくベッドから降りてバスルームに駆け込むのだった。
壁際のソファには危ういバランスで姿勢を保っていたポインセチアの袋が置き去りにされていたが、汗を流した二人が思い出したようにそれを見つめたかと思うとソファ横のデスクにそっと下ろし、クリスマスが終わるまでどうかこのまま枯れないでくれと願い、微かに笑い合うのだった。
2010/12/20


