神の子が復活を果たした事を祝う週末、今日は仕事が終われば脇目もふらずに帰ってくると宣言をした恋人を見送った彼は、いつもはどちらかと言えば控え目な夕食を今日のメインにしようと思案する。
金曜は肉類を食べることを控えた為、きっと今夜辺りは肉に飢えた狼のようになっているだろうと予測を立て、朝食の焼きたての黒パンを切り分けている時にそっと問いかければ、パンを頬張った顔が何度も上下に揺れたのだ。
肉は何が良いと問えば羊が良いと元気いっぱいに返された為、寝癖で跳ねている金髪を指で弾きながら分かったと笑い、楽しみにしていると返されて素っ気なく頷いたのだ。
出掛ける時の挨拶代わりのキスを残して出て行った恋人の背中を見送り、さて今夜の用意をするかと長い廊下を歩いていると、微かに電話の呼び出し音が聞こえてくる。
少しばかり急ぎ足で寝室に向かい、クローゼットのドアの傍に置いたデスクの上で音を立てる電話に向けて手を伸ばす。
「Ja」
『おはよう、ウーヴェ』
電話を掛けてきたのは、予約が取れない事で有名になっているレストランでオーナー兼シェフをしている幼馴染みのベルトランだった。
「ベルトラン?どうした?」
デスクに尻を載せて頬と肩で受話器を挟んで苦笑したウーヴェは、今夜は一人かと問われて瞬きを繰り返す。
「今夜はリオンが帰ってくるがどうした?」
『そりゃあちょうど良かった!』
「どういう事だ?」
電話の向こうで陽気な声が更に跳ね上がって陽気になり、その声の大きさに思わず受話器を耳から離したウーヴェに、出来れば料理を食べてくれないかとの願いが告げられる。
予約が取れない事で有名なレストランのオーナーのその一言に本当にどうしたと再度問いかけ、今夜店を開けられなくなったと告げられて絶句する。
家庭でイースターを祝う人達は多いが、中には外食する人達もいるだろうし、そもそもキリスト教徒でなければイースターを祝ったりすることは少ないだろう。
そんな人達がやってくるかも知れない今夜に店を閉めるなどおかしな事があると苦笑し、二人で食べる分だけならば大丈夫だと告げれば、心底安堵したような吐息が流れてくる。
『昼前に持って行こうと思ってるんだが、大丈夫か?』
「ああ」
肘を片手で掴んで苦笑し、昼前ならば大丈夫だろうと頷いて久しぶりに一緒に昼食を食べるかと誘いを掛けてみれば、お前がこの世の誰よりも惚れてやまないキングは仕事かと笑われて目を細める。
「………下らないことばかりを言っていると電話を切るぞ」
『ま、待てよ、ウーヴェっ!!』
瞼を真っ平らにしてぼそりと呟けば慌てた声が引き留めてきた為、昼食をどうするともう一度問えば、こちらからも少し持って行くから何かスープでも用意してくれれば嬉しいと答えられる。
「分かった」
『あ、どうせなら秘蔵の白ワインも開けようぜ』
チーズとワインと適当に見繕ったもので二人で昼食にしようと笑って告げられ、残念ながら秘蔵の白ワインは誰かさんが言う所のキングの為のものだから飲めないと素っ気なく言い放って相手を絶句させる。
『人が言えばすぐにうるさいとか怒る癖に自分が言うのは良いってのかよ、ウーヴェ?』
「来る前にもう一度連絡をしろ」
『わー!待て待て待てって!!』
店の飾りに使うつもりだったイースターエッグとお前の心の糧のリンゴのタルトも持って行くと言われ、そう言えば恋人は育った孤児院でイースターエッグを探していたのだろうかとぼんやりと思案し、友人の声に意識を呼び戻されて苦笑する。
「ベルトラン」
『何だ、どうした?』
「料理を作る時間はあるか?」
『昼を食べた後ならちょっと時間があるな。5時までに家に戻れば大丈夫だ』
「肉料理を作ってくれないか?肉は羊が良い」
『店に仕入れたので作ってやるが、カミュのコニャックで手を打とうか』
「それなら構わない」
『交渉成立』
口笛を吹いて快く了解してくれた友人にダンケと告げ、冗談ではなくこちらに来る前にもう一度連絡を入れてくれとも告げて受話器を戻す。
二人で月に3回は訪れるレストランの料理があると知れば恋人もきっと喜ぶだろう。
嬉しそうに笑う顔を思い浮かべることは容易くて、ついくすりと笑みを零してデスクに預けていた身を起こすと、先程何気なく思い浮かべた言葉が脳裏に一気に広がっていく。
イースターの朝、子供達は家の中や庭に隠された、彩色を施した卵を探しだしす事が恒例になっているが、いつも子供のような表情を浮かべる恋人が育った施設でも行われていたのだろうか。
誰よりも真っ先に卵を集めて自慢げに鼻を啜る恋人の顔がぽんと浮かび、らしいと笑みを浮かべてクローゼットを開けた時、デスクの端に載っていたメモがひらりと絨毯の上に落ちていく。
何気なくそれを手に取り、書かれている文字から己が書いたものではない事を知った彼は、メモの内容を読み進めていく内にメガネの奥の双眸を徐々に見開いていく。
「……これは…」
メモとサイドテーブルの、ロトが大当たりしたリオンが買ってくれた愛車のホイールと同じデザインの置時計を交互に見つめ、くっきりと眉間に皺を寄せる。
「……………」
ベルトランが来るまではまだ余裕がありそうだった為、真剣な顔でクローゼットの開け放ったドアを潜り、棚の上に載っている箱を手当たり次第に取り出しては中身を確認していく。
早く気付いたと言うべきか、それとも恋人が良くもまあそんな事をする暇があったと感心するべきか思案しつつ、クローゼットの中の衣服も大雑把であってもそれなりに丁寧に調べていくと、滅多に袖を通さないベージュのジャケットのポケットがやけに膨らんでいる事に気付く。
恋人とは違ってポケットにものを入れたままなどと言う事はない彼は、手を差し入れて指先に触れた感触に一つ溜息を吐く。
白くて長い指が掴んでいたのは、綺麗に彩色されたイースターエッグだった。
「後9個と…サージェントも隠したのか?」
この広い家の何処かにイースターエッグを10個、そして何故かサージェント-と呼んでいるオモチャのアヒル-を隠したから戻ってくるまでに見つけておくこと。そう書かれたメモをもう一度睨むように見つめ、深々と溜息を吐く。
リオンと付き合うまでは今いるベッドルームと、同じ室内にあるバスルーム、そしてキッチンしか使ったことはなく、はっきり言って玄関から入ってすぐの左右の部屋には足を踏み入れたことすらなかった。
そんな家主である彼も知らない部屋にイースターエッグを隠されたとすれば探し出すだけでもどれだけの時間が必要になるか分かったものではなく、もう一度溜息を吐いて見つけた一つをデスクにそっと置くと、ベッドルームを出てキッチンへと向かう。
今夜は肉料理を食べたいと朝一番の元気良さで宣った恋人の顔を思い浮かべ、イースターエッグを探して家中を駆け回ったのは10歳になるまでだった事も思い出し、いっその事見つけられなかったと嘘を吐いてしまおうと苦笑するが、脳裏に浮かんだ顔が今にも泣きそうな表情を浮かべた為に頭を振ってその思いを振り払う。
自分はそれをしなくなったとしても、恋人は毎年の楽しみにしているのかも知れないし、
そして何よりも哀しげな表情は恋人には似付かわしくなくて、そんな顔をさせる己が許せなかった。
微苦笑混じりに一つ頷いた彼は、友人がやってくる直前までイースターエッグとオモチャのアヒルを探し回るのだった。
仕事を終えて疲れた顔で帰ってきた恋人をキスで出迎えたウーヴェは、長い廊下を二人並んで歩きながら語られる言葉に耳を傾けながら時折相槌を打ったりしていた。
「そうだ。サージェントは見つかったか、オーヴェ?」
「………イースターエッグは全部見つけたが、サージェントだけが見つからない」
「俺が戻ってくるまでにサージェントを捜せ!ってメモに書いておいたのに」
まるでサージェント自身が未だに見つけて貰えていない不満を代弁するような顔になったリオンに苦笑して詫び代わりのキスを頬にすれば、一瞬のうちに不満が吹き飛んで笑顔になる。
「メシを食ってからサージェント救出作戦に取りかかろうか、オーヴェ」
「どこに隠したのか知っているのなら救出にならないだろう?」
隠し場所がどこなのかは分からないが、クローゼットならばドアを開ければ済む話だし、引き出しならば開けて見れば済む話だと呆れたように返せば、つまらないなぁと溜息混じりに呟かれる。
「せっかくのイースターなんだぜ?そんなつまらない事言うなって」
掌を上に向けて器用に肩を竦めたリオンに瞬きをし、確かにそうだがと口籠もれば、イースターエッグ探しはしなかったのかと問われ、全て見つけたと言っただろうと返すが、そうじゃないと苦笑されてしまう。
「今までしたことがない?」
「……10歳まではやっていたが、それ以降はしていないな」
「そうなんだ?」
廊下の突き当たりを左に曲がればキッチンとリビングの間に横たわる廊下へと進み、二人同時に短い廊下に進んでキッチンのドアを開ける。
「すげー!!」
「羊が食べたいと言っていただろう?」
本当は一人で用意をするはずだったが、ベルトランが来たから用意をさせた。
キッチンの壁際に置いてある、部屋の大きさからすればささやかすぎるテーブルいっぱいに並んでいたのは、今が食べ時と湯気を上げるシチューやサラダ、切り分けて食べるローストされた肉があり、空腹を抱えて戻ってきたリオンの顔が笑み崩れ、ロイヤルブルーの双眸がキラキラと輝く。
「な、食って良いのか、これ!?」
「当たり前だろう?その為に用意したんだ」
それにこれだけの量を一人で食べられるはずがないと苦笑し、用意をするから席に着けと椅子の背もたれを軽く叩けば、大きく頷いて示された席に着く。
「羊のローストとオードブルはベルトランだが、シチューだけは作った」
まるで子どものように顔を輝かせる恋人に目を細め、飲み頃にしておいた辛口の白ワイン-当然ながらそれは友人に出さないでいた秘蔵のもの-をグラスに注ぎ、ソムリエ顔負けの仕草で差し出せば、顔の輝きが1割ほど増したようになる。
「早く食おう、オーヴェ」
「……そうだな」
自分のグラスにもワインを注ぎ、壁に向かって並んで置いた椅子を引こうとするが、何かに気付いたリオンが立ち上がり、恭しい態度で椅子を引く。
「どうぞお座り下さい、我が君」
オペラや時代劇でしか見ない態度に一瞬ぽかんとしてしまうが、こほんと咳払いを一つすると、当然だという顔で頷いて席に着く。
「オーヴェ」
「ああ────乾杯」
グラスの縁と縁を軽く触れ合わせた後、ワインを一息に飲み干した二人は、ウーヴェの召し上がれの言葉にイースターの食事を始めるのだった。
二人の楽しい食事の時間が終わり、後片付けも二人ですればあっという間に終わってしまい、デザートに残してあったリンゴのタルトとマグカップに注いだコーヒーを持ったウーヴェがリビングにやって来た時、部屋を出て行っていたリオンがちょうど戻ってきた所だった。
「どうした?」
「サージェントを救出してきました、我が君」
「そうか。ご苦労」
戯けた風にびしっと敬礼をするリオンの掌に、少し膨れたようにも見える黄色の身体のサージェントが赤い唇を尖らせてちょこんと載っていて、くすくすと笑いながらもしっかりと返礼すれば、子供顔負けの笑みを浮かべたリオンがようやく救出してきたサージェントをあろう事かぽんと放り投げて掌で受け止める。
「サージェントが目を回すぞ?」
「ん、平気」
ぽんぽんと手の中で跳ねるオモチャのアヒルに苦笑したウーヴェは、タルトを食べようと声を掛けてソファに腰を下ろし、隣に座ったリオンにタルトを差し出す。
「ベルトランのタルトは最高だよなぁ」
「家の料理人の後をついて回って作り方から摘み食いまで教えて貰っていたからな」
何気なく語られるウーヴェの言葉にリオンが驚いたように目を丸め、幼い頃からの友人だとは聞いていたが、そんなにも昔からの付き合いなのかと問われてウーヴェが首を傾げる。
「そうだな…生まれて間もない頃からずっと遊んでいたそうだ」
「げ、俺とゼップみたいなものかよ!?」
「そうなるな」
幼い頃リオンとともに悪事を働いていたが、今は季節が逆の国で写真を撮っている友人の名前にウーヴェが目を細め、言われてみると確かにそうかも知れないと頷いてコーヒーに口を付ける。
「あ、そう言えばこの間ゼップからハガキが届いてた」
「今どこにいるんだ?」
「ペンギンと一緒に暮らしてるって」
「ペンギン?南極圏にでもいるのか?」
「えーと…オーストラリアだって。ペンギンを世話している人がいて、その人にメシを食わせて貰ってるからお礼に色々手伝ってるって」
リオンとウーヴェ、そして今話題になっているリオンの友人のゼップが経験した出来事が脳裏を掠めるが、今こうして笑う事も元気でやっていると伝えあう事も出来るようになっただけでも良かったと、ほぼ同時に互いの胸中に芽生えた思いをそっと閉じ込め、今度写真を送ってくると言っていたと笑われて素直に楽しみにしていると返す。
イースターである今日、旧友が立ち直る姿を感じる事が出来た嬉しさにリオンが笑みを浮かべ、その顔を見ることが出来た満足にウーヴェが目を伏せる。
「なぁ、オーヴェ」
「どうした?」
心穏やかなままタルトを食べてコーヒーを半分ほど飲んだ時、やけに真剣な顔をしたリオンが名を呼んでそっと手を握ってくる。
リオンからのスキンシップは特に珍しくない為にどうしたともう一度問いかけ、マグカップをテーブルに置くと同時に腰を掴まれて引き寄せられ、気がつけばリオンの太腿に乗り上げていた。
「こら」
「俺はホームで毎年イースターエッグ探しをしたんだけど、オーヴェは?」
言葉は明るく快活なのに、見上げてくる双眸に浮かんでいるのは暗い光だったため、そのギャップに軽く息を飲む。
「……さっきも言っただろう?」
イースターエッグ探しを家でやっていたのは10歳までだ。
同じ言葉を繰り返し、降りるから離してくれと腕を撫でるが、思いとは逆に腕の力は強くなる。
「リオン」
「イースターエッグにさ、マザーがいつも丁寧に絵を描いてくれて、中にはチョコが入ってたんだよ。それを探すのがすげー楽しみだったし楽しかった」
子供の頃は卵の中に入っているチョコやアメが楽しみだったが、その楽しさは日頃の鬱憤すら忘れさせるほどだった。
「学校では皆やっていたりしたな」
「そうなのか?」
くすんだ金髪を撫でながら目を伏せ、自分を思って悲しんでくれる恋人に言い表せない程の感謝をし、頬を頭の天辺に押し当てる。
「イースター休暇でも俺は帰らなかったからな」
「寄宿舎に入ってたのか?」
「ああ。母の親戚がやっている学校に入っていた」
「そっか。学校でも探さなかった?」
「そうだな…ベルトランは必死になって探していたな」
幼い頃、寒さにも負けずに広い学校の校庭中を小さな卵を見つける為に駆け回る友人を見つめていた己の姿が脳裏に浮かび、そんな事もあったと苦笑した瞬間、理解出来ない震えが全身を伝っていく。
あの頃、自分は色のない世界で生きていた。
それまでの楽しかったことや嬉しかった事が一瞬にして消え去り、これからも続くと思っていたものが音もなく掻き消えた世界にぽつんと一人きりになっていた。
幼馴染みのベルトランは事件までは隣でいつも笑っていたが、事件後、一人で寄宿舎に入っていた頃の己の世界は灰色一色だった。
不幸な出来事から何とか立ち直り、やっと学校に戻れるようになったが、様々なものを喪っていた。
それは髪の色であり声に出しての言葉であったが、最も顕著だったのは感情だった。
心が死んだまま灰色の世界で生きていたのだ。
その当時に恋人と出会わなくて良かったと思った瞬間、震えが徐々に納まってくる。
「オーヴェ?どうした?」
「お前は…イースターが楽しかったようだな」
「あ、ああ、うん。楽しかったし嬉しかったな」
滅多に食べられない肉料理を腹一杯食べる事が出来たのも、クリスマスとこの夜だけだったと苦笑するリオンの頭を逆に抱き寄せ、くすんだ金髪や見上げてくるロイヤルブルーの色にきつく目を閉じる。
色のない世界から色のある世界へと戻るのに必要とした時間は決して短くはなかった。
あの頃には何があっても戻りたくないと思う心が身体を震わせた事に気付き、もう戻ることはない、大丈夫だと己に言い聞かせる。
「俺は……あまり覚えていない」
「覚えてない?」
「ああ」
金髪に口を寄せて記憶にないと囁けば、沈黙が流れた後にそうかと溜息混じりに返される。
「────じゃあさ、こうしよう!」
「リオン?」
突然飛び出した快活な声に顔をあげれば、見惚れてしまうような笑みを浮かべたリオンが見上げていた。
「これから作ろう!」
心の奥底が期待しつつも否定してしまう言葉をそっと問いに紛れ込ませれば、眉が上がって力強く頷かれる。
「これからイースターの記憶作りだ!」
「そんな事は…」
「しても無駄だとかする意味がないとか。そーんな言葉は聞きたくないぜ、オーヴェ」
つい皮肉を口にしてしまいそうになるが、大きな掌が口を塞ぎ、にやりと笑みの質を変えた双眸に見据えられて言葉を飲み込んでしまう。
「たかがイースターだって言うなら言えよ。バカみたいだって笑うなら笑えよ」
でも一緒にイースターを楽しみたいし、また同じだけ楽しんで欲しい。
ロイヤルブルーの双眸に浮かぶ決意に息を呑み、伝えられる思いに言葉を無くす。
幼い頃に止まってしまった重ねられていくはずのイースターの記憶。それを新たに今から作ろうと笑う恋人にただ無言で小さく頷き、出来るかどうかは分からないがと笑えば、いつかのようにそうじゃないと笑われる。
「オーヴェ。そうじゃない。────そうするんだ」
強い意志を秘めた双眸に目を伏せ、強い男の言葉に小さく頷けば、嬉しそうな溜息が肌に掛かる。
その小さな吐息が心に芽生えた後ろ向きな思いを吹き飛ばしてくれたようで、不意に軽くなった心に気付く。
そっと目を開けて恋人の顔を見つめれば、見られている事に気付いたのか、ロイヤルブルーの双眸が楽しげに細められ、これから先に待ち受けているだろう様々な出来事を一緒に楽しもうと誘ってきていることにも気付いて笑みを浮かべれば、見た事がないような笑みを間近で見せられる。
「オーヴェ、オーヴェ」
「どうした?」
何度も名を呼びつつぐりぐりと額を肩に擦り寄せてくるリオンにくすぐったいと笑いながら返せば、肺の中を空にするような息を吐いた後、サージェントも誘っても良いよなと問い返される。
「サージェント?」
「そう!これから毎年、イースターには卵だけじゃなくてサージェントも探す」
「ウサギのようにか?」
「サージェントを探しだしたら、願い事を一つ叶えるってのはどうだ?」
「探せなければどうなる?」
楽しそうにこれから先に二人で過ごすであろうイースターの決まりを語るリオンに感心したような声で問い返し、俺の願いを叶えて貰うと自信満々に答えられて吹き出してしまう。
「お前の願いはとんでも無いものが多いからな」
「そんな事ないって!」
「そうか?」
この間は頼むからユキヒョウか何かの尻尾を着けてくれと懇願しただろうと、タイミング良く唇を尖らせた為に指先で摘んで目を細めれば、もがもがと何かを呟きながら目を左右に忙しなく動かすが、観念したのか上目遣いに見つめてくる。
「確かにサージェントを探すのも面白そうだな」
「だろう?これから毎年、イースターには卵とサージェントを隠すからな?」
だから俺が戻ってくるまでに探し出してくれと笑われ、了解した事を示す様に一つ頷いたウーヴェは、嬉しそうに笑うリオンの唇にそっとキスをする。
「リーオ」
先程のまるで太陽のような笑みを浮かべた恋人を脳裏に描き、目の前で小首を傾げる本人にふわりと笑みを見せれば、少し乾燥した唇が弧を描いて持ち上がる。
すぐにネガティブな思考へと走る己を、逆らえない強さで前へと向き直らせてくれる恋人の存在は掛け替えのないものだった。
その感謝をもう一度のキスで伝え、しっかりと伝わったことを背中に回された腕の強さで教えられる。
「今年の願い事は何にしようかな」
「来年からだろう?」
「えー?今年からで良いだろ?」
キスと嬉しさの余韻に浸っているウーヴェの耳に不気味な笑い声とともに流れ込んできたのは、サージェントを探せなかった罰ゲームの願い事だった。
「やっぱりさぁ…ユキヒョウの尻尾は捨てがたいよなぁ」
「捨てろ。今すぐ捨てるんだ、リオンっ!」
「えー?どうしようかなー」
思わず真っ青になってリオンの胸倉を掴んだウーヴェは、リオンが更に不気味な笑い声を上げたことに身体を震わせ、ずっと座っていた太腿の上から飛び降りようとするが、先の先を読んでいたらしいリオンの手ががっしりと腰に回されていて逃げ出すことが出来なかった。
「リオンっ!離せっ!」
「イヤだね」
「こらっ!」
リオンの腕を掴んで引き剥がそうと藻掻いてみるが、絶対に離さないと笑われて絶句したウーヴェに、今だとばかりにリオンが体重を掛けてソファに押し倒す。
「────オーヴェ」
「…………」
見下ろしてくる恋人の顔はふざけていた声とは裏腹にやけに真剣で、その真摯さに負けたというように目を閉じれば、瞼と鼻先、そして唇にキスが降ってくる。
「……ん…」
「オーヴェ。好き」
お前を誰よりも何よりも愛していると囁かれ、返事の代わりに背中を撫でればもう一度、今度は耳に直接口を付けたような声が好きだと告白してくる。
これから先の今日、二人でどれだけの願い事を叶えられるかは分からないが、どちらかの肉体が土に還るまで出来れば良いと秘かに願い、長く続けとの思いだけを込めて顔を寄せる。
「大丈夫だ、オーヴェ」
きっと何があっても俺たちなら大丈夫。
根拠のない自信だが、それを根拠に二人で揺るぎない関係にしていこうとも言われ、ただ素直に頷いて目を閉じる。
リオンと付き合い出して色々な変化をしたウーヴェだが、こうしてイースターには卵と一緒に玩具のアヒルも探すことになり、これ以降の長い歳月の間、二人で交わした決まり事のうちで古く長く守られる約束の一つになり、二人の思いを受け継いだ子供達にも受け継がれていくのだった。
2010/04/04
今日はイースターですね~。ふぅ、何とか間に合った(^◇^;)


