ウーヴェが4歳年下の彼氏と付き合うようになり、それまでは身の回りになかったものに接する機会が自然と増えた。
リオンが、これがないと生きていけないと嘆くうちの一つであるサッカーの試合をわざわざスタジアムに見に行くこともそうだし、小雪がちらつく中を自転車で買い物に行ったりするのも初めてだった。
だがそれよりも何よりも、最も顕著に増えたものは、何と言ってもスラングだった。
年に数回しか顔を合わせない家族は所謂上流階級と呼ばれる社会に属していて、周囲の者でスラングを使う人はおらず、せいぜいテレビで聞く程度だったが、くすんだ金髪と驚くほど澄んだロイヤルブルーの双眸を持つ恋人は、応援しているクラブチームが勝利すれば歓喜から叫んだり、負ければ負けたでそれはそれは聞くに堪えない怒声を上げたりしていた。
今日も夕食を最近気に入っているガストシュテッテで済ませた後、こちらの方が近いからとリオンの家に立ち寄り、録画しておいたサッカーの試合を見ていたのだが、今夜は応援しているチームが劇的な逆転負けをしてしまい、いつにも増してリオンの口から驚くべき量の罵詈雑言が流れ出していた。
その度に咳払いをしたりじろりと睨んだりして注意をしていたが、試合が終わって気が抜けた様にベッドにもたれ掛かったリオンが真剣な顔で問いかけてきた。
「なぁ、オーヴェ。オーヴェの周りにはこんな口の悪いヤツっていなかったか?」
老朽化の激しいアパートの一室、恋人の部屋の見事なまでに散らかったワンルームの壁際に置いたベッドに陣取り、リオンが買い置きしていたらしいプレイボーイをぱらぱらと捲っていたウーヴェは、ベッドにもたれ掛かりながら振り仰いできたリオンの問いかけに眼鏡の奥で瞬きを繰り返す。
「こんなって…お前のようなと言うことか?」
「わざわざ言い直さなくても分かってんだろ?」
オーヴェのイジワルと、口を尖らせて手近にあったサッカーボールを抱え込んで鼻を鳴らしたリオンに苦笑し、くしゃくしゃと金髪を掻き乱しながら天井を見つめ、程なくしてきっぱりと答える。
「いなかったな」
「やっぱり」
「ああ。大学の友人にもいないな」
それがどうしたと興味もないはずの雑誌に視線を戻しながら問えば、くるくると指先でボールを回転させながらリオンが器用に肩を竦める。
「いや、俺がスラングを使えばいつも睨んでくるだろ?」
「気付いていたのか?」
「気付かない訳ないだろ」
人を何だと思っているとボールを一度放り上げて再度受け止めたリオンに、気付いていたのならばどうして止めないと素っ気なく更に問えば、当たり前だったからと返されて視線を上げる。
「当たり前?」
「そう。オーヴェには分からないかも知れないけど、俺の周りはそれが当たり前だったから」
皆が顔を顰めるような言葉遣いも行動も日常茶飯事だったと、微苦笑を浮かべて告げるリオンに何も言えなかったウーヴェは、ブロンドのグラマラスな女性に名残惜しさを感じることなく雑誌を閉じて床に置き、再度金髪をくしゃくしゃと撫でる。
付き合う前からリオンの同僚がクリニックに来る度に話していた為、凡その出自については聞き及んでいたが、所謂スラムと呼ばれる地区にある教会に併設してある孤児院-リオンはホームと呼んでいる-で生まれ育ったらしい。
欧州の上流階級と呼ばれる人々は環境問題に熱心に取り組む者もいれば、孤児への援助をしたりと、慈善事業を積極的に行う者が多数いた。
ウーヴェの両親が主に取り組んでいるのは森林保護と言った環境保全の取り組みだが、彼自身が取り組んでいるのはやはり職業柄と言うべきかどうなのか、幼い身体で必死に病と闘う子ども達への援助だった。
定期的に病院に顔を出しては子ども達の相手をし、年間を通じて金銭的な援助もしているウーヴェだったが、リオンが生まれ育ったような世界を訪れることはあっても定住することなどなかった。
恋人の髪を掻き乱しながら目を伏せ、確かに言われたとおりだと内心苦笑する。
生まれも育ちもまるで正反対のような二人が出逢い、様々な事象を見聞する中で芽生えた互いへの思いを胸に抱き、堪えきれずについに告白された夜を思い出したウーヴェは、その後互いのことをより知っていく為に些細な口論をしたり、時には大喧嘩に発展しそうになったりしながらも、今こうして二人で笑っていられる事に安堵していた。
「俺の周りはさ、みんなこんなのばかりだったから」
「…そうか」
「それを卑下したりするんじゃないけど…仕方ねぇよなぁ」
リオンの手がポーンと放り投げたボールをインターセプトしてベッドに置いたウーヴェは、目を丸くして見上げてくる恋人に口が悪いことを咎めている訳じゃないと苦笑する。
「へ?」
「口汚く誰かを罵ったりするなと言いたいだけだ」
「……悪いと汚いは違うのか?」
素っ頓狂な声を上げるリオンに例えばだがと断りを入れてバカと呟けば、どうせ俺はバカですよーと、まるっきり子供が拗ねたような口調で返される。
「────シャイセ」
「あぁ!?」
次いでぼそりと呟いた言葉に、リオンがまるで条件反射のように眉を上げて身体全体で振り返り、呟いたのがウーヴェだと気付いて目を瞠る。
「…オーヴェ、今なんて言った…?」
「繰り返したくはないな」
生まれてこの方、耳にしたことはあっても口にしたことはない言葉を、よりによってリオン相手に繰り返したくはないと目を伏せたウーヴェに、何を伝えたかったのかを察したリオンがゴメンと謝罪をしながら白皙の頬に掌を宛う。
「そう言うことかぁ」
「ああ」
頭の回転の速い恋人を持てて幸せだと、頬に宛われた手の甲を撫でながら目を閉じれば、嫌味かと口を尖らせたような気配で呟かれ、そうじゃないと苦笑する。
「口が悪いのはまだ我慢出来るが、お前が誰かを口汚く罵るのは…出来れば見たくない」
もし出来るのであれば自分の前では使わないでくれと告げれば、了解したと言うように大きな手が頬を撫でる。
「なるべく…使わないようにする」
「ああ。そうしてくれると有り難い」
リオンの掌に唇を軽く押し当て、人の言葉を聞き入れられるだけの度量がある恋人で本当に良かったと笑い、くすぐってぇと肩を竦めるリオンにくすくすと笑い返す。
生まれも育ちも全く違うが、こうして歩み寄ることも出来るし、互いのことを理解し合う事も当然出来るのだ。
「オーヴェ、くすぐってぇって!」
それに安堵した心が不意に悪戯心を湧き起こさせたようで、唇を押し当てていた掌をぺろりと舐めれば、掴んでいた腕がびくんと竦む。
「────今日は泊まって帰るよな?」
問われた言葉の意味を当然理解しているウーヴェは、少しだけ考えている事を伝えるように小さく首を傾げ、小さくJaと掌に答えを聞かせれば、逆に腕を掴まれてベッドから引き下ろされて体格の良いリオンにしっかりと受け止められる。
「リオン」
危ないだろうと目を細めれば問題ないと口笛を吹きながら呟かれ、耳朶の真下にキスをされる。
「………っん」
自然と漏れる声に気をよくしたのかどうなのか、ウーヴェの身体に腕を回したままリオンが立ち上がり、釣られて立ち上がろうとする直前に背中からベッドへと沈んでしまう。
それがあっという間の出来事だった為、驚きに染めたターコイズをぱちぱちと瞬きさせれば、にやりと太い笑みを唇に浮かべたリオンが眼鏡を奪い取って鼻先にキスをする。
「リオンっ!」
「良いよな?」
何に対しての許可であるのか、そんなことは聞くまでもなく理解できたが、呆然とする間にベッドに押し倒された事への羞恥から顔を背けたウーヴェの耳にキスをし、傷やホクロが一つも付いていないそこに舌を這わせる。
痩躯に震えが走ったことを感じ取り、もう一度同じ言葉を繰り返したリオンは、背中に回された手から許しをえた事にも気付き、ダンケと囁くのだった。
朝帰りを非難される年でもなければ、恋人が隣にいてお休みのキスだけで満足出来るほど枯れてもいないウーヴェは、今夜はリオンの家に向かえば泊まることになると予測を立てていた。
その予測に従って夕食も控えめにしていたのだが、嬉々として首筋に顔を埋める恋人はそれを理解しているのだろうか。
リオンと付き合いだして色々な面での初体験をしているが、最大にして最高の初体験は、やはり男に抱かれるという事だった。
女性を相手にする場合、気をつけなければならないのは望まない妊娠だったが、その点は全く問題はなかった。その代わり、排泄器官で受け入れる事は様々なリスクを背負うことでもあった。
二人で気をつければそのリスクを減らすことが出来るが、リオンにしか出来ない気遣いがあれば当然受ける側のウーヴェにしか出来ない気遣いもあった。
それを思い出し、リオンが僅かに身を起こした時を狙い澄まして頭を自ら抱き寄せ、やっと埋まったというピアス穴に口付けながらシャワーを浴びたいと頼んでみるが、返ってきた答えはにべもないものだった。
「シャワーなんか浴びなくても良いって」
「────バカ」
「誰がバカだって、ん?」
ぐいと顎を捕まれて細めたロイヤルブルーに見据えられるが、さすがにこれは譲れないと真正面から見つめ返し、若干尖った唇に宥めるようなキスをする。
「少しだけ待ってくれないか、リオン」
「どうして?」
何故だと問われて一瞬言葉に詰まったウーヴェだったが、小さく溜息を吐いて再度耳に口を寄せる。
食事をした店の空気が随分と煙草臭かったから、せめてその臭いだけでも落としたいと咄嗟に思いついた言い訳を囁けば、鼻を小さく鳴らす音が聞こえ、渋々といった感じを隠しもしないでリオンが手を離す。
「10分だけな?」
「────良い子だ」
まるで東洋の仏像のように足を組んで身体を揺さぶる恋人に、聞き分けの良い子は好きだと目を細めれば、ガキじゃねぇとそっぽを向いて返される。
「確かに子供ではないな」
にやりと笑みを浮かべてくすんだ金髪にキスを落としたウーヴェは、10分もかからない内に何とか戻ってこようと決め、自宅と比べればささやかすぎるバスルームに向かうのだった。
ギシギシとベッドのスプリングが派手に軋む音と、ウーヴェのひっきりなしに上がる高い声が混ざり、サイドテーブルのライトの光に解け合って床に落ちていく。
リオンが働き出して初めて買ったシングルベッドはいつもウーヴェが寝ているベッドに比べれば遙かに安物で、二人こうして抱き合う度に壊れてしまうのではないのかとヒヤリとした思いをいつも抱いていた。
だが、不思議なことにこの安物のシングルベッドが、今まで感じたことのない安心感を与えてくれていた。
その理由を探ろうとするが、リオンの大きな手が肌を撫でる度に意識を奪われ、思考回路が溶け出したような錯覚に負けて考えることなど出来なかった。
「ぁ…ああっ…っ…んっ…!」
汗の流れる白い背中を撓ませれば、顔を寄せたリオンがうなじを舐め、ぞくりと身体を震わせる。
「────んっ…!」
自身の震えが繋がっている箇所に伝わり倍になって返ってきた為、銀とも白ともつかない髪を左右に振れば、背後から伸ばされた手が顎を固定し、こちらを向けと引き寄せられる。
その手に逆らうことなく顔を向ければ、情と欲が入り交じった複雑な色合いのロイヤルブルーが見つめてきた為、後ろ手で金髪を抱き寄せると嬉しそうな吐息が肌に弾ける。
こうして身体を重ねて心も重ねるようになり、今まで己が経験してきたものがまるで子供だましか何かであったような錯覚を抱いてしまう。
今まで付き合ってきた彼女たちだが、付き合っている時はそれなりに真剣だったし、中には結婚を考えた相手もいた。
だが、一言で括ってしまうにはあまりにも熱い情に包まれる中で熱を交歓してしまえば、彼女たちの存在はすっかり色褪せてしまうのだ。
体勢の窮屈さを訴えるようにキスをするだけでしっかりと読み取ってくれたのか、顎を固定していた手が離れ、肩をそっと押さえつけられる。
何を望んでいるのかを察し、ベッドに全身を預けるように身を伏せると、間違っていないことを示すように程なくしてゆっくりと体内に熱い杭が打ち込まれる。
「…っは…っ・・ァ…!」
「────は…っ…」
すべてが収まった事を示す吐息混じりの声が背中に落ち、その重さに負けたように背中を再度撓ませると、肩を優しいが抗えない強さで押さえつけられる。
シーツを強く握りしめれば腰を捕まれて引き寄せられ、ぎりぎりまで抜かれたものが勢いを付けて押しつけられる。
「ぁあ…はっあっああ…っ…ぁああ・・・っ!」
リオンの動きに合わせたような声がシーツに弾けた時、ぽつりと背中に汗が落ちてくる。
快感を得ているのは自分だけではない事に気付いた時、シーツを握る手に裡にあるものと同じ熱さの掌が重ねられ、指を絡めるように手を握られると同時に腰を押しつけられて唇を噛み締める。
与えられる強烈な快感に嬌態を晒している己を自覚すれば羞恥のあまり狂ってしまいそうになるが、そんな思いを遙かに上回る胸の奥の思いと、触れた場所すべてから伝わる思いに熱の籠もった息を吐く。
「オーヴェ…っ」
手を握られたまま名を呼ばれ、のろのろと頭を上げて振り向けば、重ねた手を持ち上げられて指を舐められる。
指先から伝わる快感に背中を震わせ、何だと目を細めれば、可愛いという言葉が笑み混じりに伝えられる。
抱き合っている最中、こうして可愛いだの何だのと時折囁くリオンに、男の自分が可愛いわけがないし、また言われても嬉しくないと返したいのだが、そのたびに先を読んだリオンに中を突き上げられ掻き回されて言葉に出せずにいた。
今日も誰が可愛いんだと口を開けようとした瞬間を狙ってリオンがぐっと腰を押しつけた為、ぼろりと嬌声がこぼれ落ちる。
「────ァ!ん…は…ぁああっ」
背中を丸めて片手はシーツを、片手はリオンの絡められた指を握って高い声を上げたウーヴェは、腰を掴んだ手が身体を引き寄せた事にきつく目を閉じ、昇り詰めてしまいそうになってさらに身を丸めようとする。
「オーヴェ」
宥めるように名を呼ばれて頷けば、伏せていた身体を横臥させられ、自然と差し出されたリオンの腕に頭を乗せて大きく息をつく。
後ろから顔を寄せられてキスをされ、舌を絡めながら腕枕をしている手をしっかりと握り、足を折り曲げて持ち上げられて熱を受け入れると同時に絡めていた舌が離れ、もはや堪えることのない高い声を上げてしまう。
ベッドの軋む音とウーヴェの嬌声、繋がった場所から広がる濡れた音とが混ざり合い、つけっぱなしのテレビの音では紛らわすことは出来なくなっていた。
快感に染まる目を薄く開け、視界に入ってきたテレビに意識が向きそうになる直前、リオンの手が放っておいても滴を垂らしているウーヴェのものに絡められ、びくんと身を竦めればやんわりと強弱をつけて握られる。
前と後ろの快感にただただ高い声を上げるしか出来ないウーヴェの肩にリオンが吸い付き、汗ばむ肌を舐めれば呼気の固まりがはき出される。
後少しだと教えるように動きを早められ、それに併せるように声が早くなってしまう。
後ろだけでイッてと囁かれ、無理だと首を左右に振れば、大丈夫だと小さく笑われてすっかり形を得たものから手が離れていく。
「…んぁ…っあぁあっ…、あ・・アァ…は…んっ!」
弱い場所を狙って腰を押しつけられ、ぐるりと掻き回されてリオンの腕の上で頭を仰け反らせる。
「後、ちょっと…っ!」
リオンの声に何度も首を左右に振り、もう無理だと訴えてみるが、裡を掻き混ぜる熱と質量はより緩急をつけた動きでウーヴェを翻弄する。
きつく閉ざした瞼の下、じわりと涙が滲むと同時に震える赤い舌が嬌声ばかりを上げる口から顔を出す。
「リーオ…っ!」
「っん…っ!オーヴェ、後ちょっとだって…っ」
恋人が呼ばれると逆らうことが出来ないと常々苦笑する名で呼んだウーヴェだが、激しさを増す動きに取り残されないようにと握った手に額を押し当て、抱え上げられている爪先をきつく丸めて何とかやり過ごそうとする。
「ああ…っ、ん、んっ…────あぁあっ…!!」
リオンの荒くなる息を肩やうなじで受け止め、自身の嬌声をリオンの手の甲に零したウーヴェの頭が仰け反り、白い喉を震わせてひときわ高い声が流れると同時、薄い腹がひくひくと痙攣し、横臥している腹とシーツに熱が飛び散る。
「────っく…っ!」
腹が痙攣するように上下するのに合わせてリオンを迎え入れている裡も収縮し、そのきつさにリオンが顔を顰めた後、ぐったりとするウーヴェの裡に熱をはき出す。
ほぼ同時に熱を出した二人は、どちらも荒い息を吐くことしかできなかったが、ウーヴェがリオンの手を握りしめたままのろのろと腕を持ち上げて何かを強請る。
「────ふ…っん…っ!」
本当はいつまでも留まっていたいと思える熱から身を引くリオンに小さくダンケと囁いたウーヴェは、間違えることなく強請っていたものが与えられた事に目を細め、背中に回った腕の熱さに吐息を零す。
「オーヴェ」
「な…んだ?」
「気持ちよかったか?」
後ろからではなく前からしっかりと腰と背中を抱き寄せられ、広い肩に額を触れさせていたウーヴェは、問われた言葉に小さな溜息を零す。
「あれ、気持ちよくなかった?」
多少の不安とそれを遙かに上回る自信が入り交じった声が答えを促してきた為、汗ばむくすんだ金髪を握りしめて短くああとだけ返す。
「いて」
髪を引っ張られる痛みにだけ文句を言い、気持ちよかったのなら良いと笑ったリオンに、体内で未だに燻っている熱が再燃しそうになるが、それを堪えるように同じく抱いた背中に爪を立てる。
「ぃてて…っオーヴェ、痛いって」
「うるさいっ」
「そーんな事を言うのはこの口か?ん?」
どちらかと言えばウーヴェが良くリオンに告げる言葉を至近で言われ、そっぽを向けばこの野郎と笑み混じりに呟かれて首筋に顔を埋められる。
「リオンっ!」
くすぐったいと同じように笑って告げ、金髪を軽く引っ張れば、楽しそうな顔でリオンが額を触れあわせてくる。
「オーヴェ」
「どうした?」
少しだけ口調の変わった声に首を傾げたウーヴェは、真正面からの告白に一瞬だけ息を止める。
「うん、愛してる」
「────ああ」
俺も同じだと、さっきとは違って優しく背中を抱いたウーヴェは、汗やら何やらが浮いた肌のまま寝るのは嫌だと余韻を押し殺すように囁き、リオンも同意を示してくれる。
「狭いけどさ、一緒にシャワー使うか?」
「風邪を引くぞ」
「オーヴェがいれば平気だって」
くすくすと笑いながらどちらからともなく起き上がり、床に散らかったままの服を踏まないように気をつけながら二人でシャワーを使うためにささやかなバスルームへと向かうのだった。
クローゼットにしまってある自分のパジャマを着たウーヴェは、手早く交換した真新しいシーツに寝そべり、恋人が隣に潜り込んでくるのを待つ。
この家で初めて一夜を明かした時、シングルベッドで大の男が二人並んで寝られるはずがないと苦笑したが、平気だとけろりとした顔でリオンに教えられて以来、どうにかなるものだなと、頭のどこかでのんきに考えるようになった。
「お待たせー」
「別に待っていないぞ?」
「あー、またそんな可愛くない事を言う」
さっきまではあんなに可愛かったのにと、泣き真似をしながらベッドに潜り込んでくるリオンの腰に腕を回し、誰が可愛いんだと睨めば、間髪入れずにオーヴェだと返される。
「男に可愛いも何もないだろう?」
「な、オーヴェ、今度さぁ…」
細められらロイヤルブルーの双眸にウーヴェの背中に悪寒が走り、その先を聞きたくないとリオンの口に手を宛がえば、もがもがと何かを呟きながらぺろりと舐められて思わず手を離してしまう。
「リオンっ!」
「鏡の前でやってやろうか?」
そうすればどこの誰が可愛いかが一目瞭然だ。
にやりと男前な笑みを浮かべるリオンに絶句し、誰がそんな事をするかと吐き捨てれば、不気味な笑い声を零しつつリオンがウーヴェの背中に手を回し、己の身体に半分乗り上げさせるように寝返りを打つ。
「お休み、オーヴェ」
「……ああ」
家のダブルベッドで二人並んで寝るのも良いが、狭いシングルベッドでこうして身を寄せ合いながら眠りに落ちるのも悪くはない。
リオンと付き合うようになって様々な事を経験するようになったウーヴェだが、過去に付き合ってきた彼女たちとは一度もしたことのない、互いの背中に腕を回しながら眠る事が抵抗もなく受け入れられたのはリオンだからだと、眠りに落ちる寸前の脳味噌が自慢げに囁く。
腰に回された腕が感触を確かめようとしているのか、それとも宥めようとしているのか、ゆっくりとパジャマの上から撫でてくれる。
そのゆったりした動きと半身に触れる温もりに自然と安堵の吐息を零し、もう一度お休みと呟いて眠りに落ちるのだった。
2010/02/03
シングルベッドの気持ちよさに気付いたらしいです(笑)


