真夏に比べれば少しずつ過ごしやすさを感じるようになった秋の休日の朝、ベランダに並べて置いてあるソファに横になりながら積んでいた本を解消するために広げていたウーヴェだった。
ソファの横のテーブルには、昨日食べきれないから食べてとリアに貰ったベリー類で、この時期に豊富に取れる数種類のベリーが籠から溢れそうになっていた。
その一つを意識を本に半分振り分けながら摘んで口に入れると、甘い果汁が広がり、手に取ったのはブロンベーレン−ブラックベリー−だったようで、もう一度と本に目を落としたまま摘むと、今度はラズベリーを摘んでいたようで、さっきとは違う味に一瞬意識が味覚に引っ張られてしまう。
それでも本を読み進めていると、ベランダ越しの日差しが不意に翳り、本からようやく顔を上げたウーヴェが見つけたのは、壁に手をついて眠そうな目で見下ろしているリオンの顔だった。
「────Grüß Gott、リーオ」
「・・・何食ってんだ、オーヴェ?」
おはようの挨拶もそこそこに、籠から溢れそうなベリーに目を落としたリオンが大欠伸の後に呟き、ウーヴェが用意していたラドラーのグラスを手に取って喉の渇きを潤すと、再度大欠伸をしてソファの肘置きに腰を下ろす。
「リアがくれたベリーだ。食べるか?」
「うん、食う」
でもその前に、と、三度目の欠伸をしたリオンは、不思議そうに見上げてくるウーヴェの頬を撫でて顎を固定すると、小さな音を立てて唇にキスをする。
「おはよ、オーヴェ」
「ああ、おはよう。・・・・・・今日はランチを食べにノアがくると行っていたな」
ウーヴェが座る位置をずらしてポンと座面を叩くと、リオンがそこに尻を落として自然とウーヴェの肩にもたれかかる。
「あー、そーだったな。あいつ何食いたいんだろ」
昨日一応買い物をしてあるが、何か食いたいものがあるかなと呟くリオンの髪を無意識に撫でながらウーヴェが秋の色が増してきた空を見上げる。
「嫌いな物とか聞いたっけ」
「いや、特にそんな話はしたことがないな」
三人を巻き込んだ事件の後、別にお互いに対して嫌悪感も持つ必要がないため、これからは友人になろうと決めたノアが今日のランチをここで食べると宣っていたことを思い出し、何が食べたいのかを聞くのもアリだなとリオンが笑うとウーヴェが賛成と言葉にする代わりに今度はリオンの耳朶を手触りを確かめるように指で摘む。
「オーヴェ、くすぐってぇ」
無意識にやっているだろうと笑うリオンにウーヴェがニヤリと笑みを浮かべ、お前の耳も髪も気持ちいいんだと囁くと、あぁだのうぅだのという不明瞭な声を零した後、もぅ、ダーリンは俺フェチなんだからーと、意味が分かるが造語を作るなと思わずウーヴェが呆れそうになる言葉を耳に流し込み、体重を掛けるようにウーヴェに寄りかかると、重いぞと言葉とは裏腹な笑顔でウーヴェが首を竦め、ソファに倒れこむ。
「こらっ、リーオ!」
「な、オーヴェ、ベリー食わせて」
そこで山盛りになっているベリーを食べたいと、己に覆い被さりながら強請るリオンに小首を傾げたウーヴェだったが、何とか起き上がりって籠に手を突っ込むと、指先の感触から知ったブロンベーレンを口に放り込み、軽く舌の先を出すと、リオンの蒼い双眸が驚きに見開かれるが、次いで好意的に細められ、舌先に少しだけ見えるベリーの影を捕まえるためにキスをする。
「・・・・・・美味いな」
「そうだな。月曜日にベリーのタルトなんて作ってきてくれたら嬉しいな」
毎日のように美味しいケーキやタルトを食べさせてくれる事務員がいるクリニックなど、世界中広しといえどもうちだけじゃないかと自慢するように笑うウーヴェにリオンも頷き、今度は自ら籠に手を突っ込んでベリーを目にすることなく口に放り込むと、お返しとウーヴェにキスをする。
「・・・・・・ブルーベリー?」
「かな?これも美味いな」
互いの口内から移動したベリーの味を確かめながら小さく笑いあった二人は、ノアがくる前に買い物に行くかと頷き、これだけじゃ朝飯にならないからキッチンに行こうとリオンがウーヴェの手を引いて立ち上がらせるが、その時、ウーヴェの体に辛うじて引っ掛かっていた本が音を立ててベランダに落ちてしまう。
「本はまた後だ、オーヴェ」
「そうだな」
本はいつでも読める、ノアが来て三人で楽しくランチをする機会はこれからの未来で一度でも多く増やしたいと笑ってリオンの頬にキスをしたウーヴェは、リオンに支えられながらベッドルームを通り抜けてキッチンに向かい、リオンのための朝食作りに取り掛かるのだった。
その後、アイスを持参したノアの肩を満面の笑みで抱きしめてバンバン叩くリオンに、事情が分からずに痛いと悲鳴を上げるノアを微笑ましそうに見守ったウーヴェは、デザートにそのアイスを食べるが、ベリーを沢山貰ったからそれをトッピングしようと片目を閉じ、よく似た二人の顔にこれまたよく似た笑みを浮かべさせるのだった。
2020.12.02までWebclapで公開。ベリーが無性に食べたかったのです(笑)


