ふ、と目が覚めた時、夜中に目が覚めることなど滅多に無いのにどうしたとぼんやりと思案するが、ぼやける視界一杯に白磁にも似通った白い肌が広がり、瞬きを一つ。
「・・・あ」
ぼやけた視界を覆っていたのは、昨夜も互いの熱を好きなだけ上げて出し切った後、満足して同じタイミングで眠りに落ちたはずのウーヴェの胸だった。
己と比べれば痩躯で弱く見えがちなウーヴェだが、実際幼い頃から−二度の誘拐事件を除く−大病や大けがなどを殆どしたことがなく、本人の言葉によれば、メンタル以外は頑丈らしかった。
いつもならばシルクやコットンのパジャマに包まれているはずが、今夜はそのまま寝入ってしまった為、二人とも真っ裸だったために見えている白い胸に見惚れてしまったリオンだったが、厚くはないが平均的な肉付きの胸から浮かんでいる鎖骨を目で辿れば、繋がっている腕が己の肩をしっかりと抱くように重ねられている事に気付き、口元が緩んでしまう。
数時間前の話だが、問答無用で廊下側のバスタブに放り込まれて二人でまるで子どものようにお気に入りのシャワーソープで互いの身体を泡まみれにした後、信じられないぐらい執拗に声を上げさせられたことを思い出し、例え外見が細身で穏やかであっても男なんだなぁと、暢気な感想を呟きそうになる。
いつの頃からかウーヴェの気分次第で抱かれるようになったリオンだったが、その関係を友人達に話をすると、日頃の穏やかさの賜物か、ウーヴェの雄の貌など想像出来ないと驚かれてしまうのだ。
自分自身確かに驚いた時もあったが、男だもん、当たり前だよなぁという至極真っ当な思いに納得していたのだ。
今は皆が当然と思っている穏やかな顔で軽い寝息を立てているウーヴェの顔を至近で見つめるために枕に肘をついたリオンは、意外に長い睫を一本ずつ数えそうになるが、目尻のほくろに意識が向いてしまい、そろそろと手を上げて指の背で撫でる。
己が抱いている時は枕など抱くなと言っているため、大体そのほくろを見下ろしているが、抱かれている時は見上げている事を思い出し、ついでにぎらりと光るターコイズ色の双眸も思い出す。
一瞬驚くほどの震えが背筋を走り、腹に熱が溜まりそうになるのを自覚すると、指の背で撫でていたほくろを掌でそっと撫でる。
さすがにその振動でウーヴェの口から小さな不満の声がこぼれ落ち、せっかく気持ちよく眠っているのを妨げてしまったと反省するが、己しか見ることの出来ない寝起きの茫洋とした双眸を見られる可能性に鼓動が早まりそうになる。
睡魔と戦っている証しの、眠そうに瞬かせる目が、どうしようもないほど好きだった。
穏やかな光を湛え、眼鏡の向こうからじっと見つめる双眸は、己にやましいことや後ろめたいことがあれば信じられない程鋭くなるが、そうでは無い時は際限なく優しくなることを誰よりも知っているリオンは、もしかして見ることが出来るかも知れない双眸に胸を躍らせ、その期待を裏切らない永遠の伴侶に真夜中に見るには驚かれても仕方が無い満面の笑みを見せる。
「・・・リ、オン・・・?どうした・・・?」
「・・・何か目が覚めたけど、お前がいたなぁって」
たったそれだけの事がどれ程嬉しく安心できる事かと笑顔のまま告げたリオンは、己の頬にそっと掌が重ねられた事に気付き、ウーヴェが使っている枕に頭をぼすっと載せる。
「・・・まだ、夜中だ・・・」
「うん、起こしてしまったけど、俺も寝る」
欠伸をかみ殺しながらまだまだ眠れるはずだから寝ろと促されてリオンも素直に頷くと、頬に宛がわれた手が再度肩へ移動し、そのまま背中へと回される。
「・・・お休み、リーオ」
「うん、お休み、オーヴェ」
起こして悪かったと再度詫びたリオンは、二人で使うには小さな枕に頭を乗せて目を閉じる。
閉じた瞼に濡れた感触が生まれ、キスをされたことに気付くと、笑みを浮かべていた唇の端が更に持ち上がる。
「お休み、リオン」
その優しい言葉に同じ言葉を返したリオンだったが、実際それが音となって口から出たかどうか判別することは出来ないのだった。
軽い寝息を立てて眠りに落ちたリオンの瞼に再度キスをしたウーヴェは、悪夢を見たのではない事に安堵し、小さく欠伸をした後、リオンを追いかけるように眠りに落ちるのだった。
2020.07.13/Webclapで公開。


