Clap94

-Lion&Uwe-

 

  春の暖かな空気が楽しげに上空を流れてゆく。
  目に見えることは無いそれを見えているかのように楽しげに細めた目で見上げたのは、バルコニーの、時々食事をすることもあるソファに足を投げ出して寝そべりながら口笛を吹いたリオンだった。
  リオンが長い足を投げ出しているソファの横にある丸テーブルには、量が半分近くにまで減っているビールグラスと空になったビール瓶、軽くつまんで食べられるチップスやプレッツェル、ポメスが半分ぐらい減っているバスケットがあった。
  ご機嫌な口笛を吹きながら手をバスケットに伸ばした時、反対側から延びてきた手にぶつかり、上空へと向けていた視線をテーブルの上に戻すと、どうやらぶつかった側も同じように見上げていた空からテーブルへと視線を戻したようで、バスケットの上で視線が重なる。
  「・・・おや、失礼」
  「いえいえ、こちらこそ」
  互いに失礼したと、わざと丁寧な口調で詫びられてにやりと笑みを浮かべつつ同じく丁寧な口調で返したリオンは、くるりと掌を返してどうぞと歌うように囁く。
  「どうぞ、ダーリン」
  お好きなだけお好きなものをお召し上がり下さいと、慇懃無礼にも聞こえかねない口調で囁くと、一瞬ウーヴェの目が眼鏡の下で見開かれるものの、軽い咳払いを一つしたかと思うと、テーブルを跨ぐように身を乗り出し、リオンの顔に陰を作る。
  「オーヴェ?」
  「・・・ごちそうさま」
  それは、リオンとウーヴェの唇の間でこぼれ落ちた感情のかけらで、そうと気付いたリオンが離れていく唇に名残惜しさを伝えるように己のそれをぺろりと舐める。
  「美味しくいただかれちゃった?」
  「大変美味しくいただいたな、うん」
  「えー。ちょっと上辺を舐めただけじゃん?」
  どうせならばもっと深いところまで味わいませんかと、ソファで可能な限り寝返りを打ってウーヴェを見たリオンは、己の腹の底に眠るものと同じものをウーヴェの顔に見いだし、さっきと同じようで違う意味を込めて唇を舐める。
  「・・・ポメスさぁ、後で追加分作って欲しいなー」
  「そうだな・・・後で一緒に作ろうか」
  その時に飲み残すことになったビールも飲もうと、リオンの誘いの言葉とは思えないそれに頷き、そっと手を伸ばしてリオンの顎を擽るように指を移動させると、くすくすと楽しそうな笑い声が流れ出す。
  「くすぐってぇ、オーヴェ」
  「そうか」
  俺は気持ち良いと春の空をちらりと見上げたウーヴェは、リオンがソファから起き上がった事に気付き、腕を引かれてソファから立ち上がってしまう。
  「・・・気持ち良いな」
  「うん、春の空気って何か好きだな」
  夏も暑さが嫌だがそれでもあの空気は好きで、それと同じぐらい春も好きだと笑うリオンの腰に腕を回して身を寄せたウーヴェは、ああ、気持ち良いと、二人でいられる事への感謝を込めた言葉をぽつりと呟く。
  それに対する返事は言葉としては無かったが、同じく腰に回された腕に力が込められ、 それを返事に頷いた後、開けっ放しにしていたリオンの部屋の掃き出し窓から、相も変わらずの散らかり様の部屋に入ると、開けっ放しの窓に半分だけブラインドを下ろすのだった。

  

  ブラインドの隙間や開いた窓から春の風が流れ込み、室内の様子に照れたようにすぐに入ってきた窓から出て行くのだった。

 


2020.05.02
2020年の春はお外に出ることがなかなか難しかったので、代わりにお花見(ピクニック)をしてもらいました(笑)


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