この女優、ほくろが凄く魅力的だな。
今売り出しているのか、それとも以前から売れているのかは分からないが、口元のほくろがやけに魅力的な女優の横顔をテレビのこちら側から眺めつつクッションを抱えてソファベッドに横臥したリオンは、何故ほくろのある女優に魅力を感じたのかを上目遣いに思案する。
具体的に言えば、女優に魅力を感じたのではなく、その女優のほくろに目が釘付けになったのだ。
今まで付き合ってきた彼女達や彼女未満の名前すら知らない女達にほくろが印象的な人がいたかと自問し、いなかったと自答する。
ならば何故突然のように気になったのかと、更に己に問いかける。
今日はボスの旧友の画廊に出向き、オフィスに飾るに相応しい絵を見せてもらっていたのだが、その時画廊にいた女性店員の顔を思い出してもほくろは無く、ソファに座ったすらりと伸びた足やナイフとフォークより重いものを持ったことが無いのではと問いたくなるような白い手にもなかった。
なら何故初めて見た女優のほくろが気に掛かると更に問いかけた時、湯上がりで肌を上気させたウーヴェがステッキを頼りにリビングに顔を出し、ソファの上で横臥しながら思案しているリオンに気付く。
「どうした、リーオ?」
「んー?何かさ、この女優のほくろが気になって仕方ねぇ」
何故気になるのか、その根源へ思考の旅をしているところだから邪魔をするなと、ウーヴェが言うには相応しいがリオンが口にすると途端に発熱を疑われそうな言葉を呟くと、リオンの頭の傍に膝をついて上体を屈めたウーヴェがこめかみに口づける。
「そうか、旅の邪魔をして悪かった。その旅が実りあるものことを祈っている」
リオンの滅多に無い言葉に付き合うにしては真摯な顔で囁いたウーヴェは、風呂上がりの喉を潤す為にパントリーからビールを持ってこようと身体を起こすが、同時に起き上がったリオンが腰に腕を回して羽交い締めした為、咄嗟にソファの背もたれに手をついて身体を支える。
「こらっ!!」
危ないだろうと、まるで子どもを叱る顔で声を少しだけ大きくしたウーヴェだったが、バスローブが乱れて開けた素肌にリオンが顔を寄せ、すげー良い匂いがする、そんな匂いをさせられたら旅なんて続けられないと断言し、一瞬絶句するが、一生旅に出てこいバカたれと、憎まれ口をすぐに叩く。
「むー。何でそんなこと言うんだよ-」
「言わせているのはお前だ、バカたれ」
再度バカたれと、最後の恋人であり最愛の伴侶であるリオンを控え目に罵ったウーヴェは、胸と腹の境目辺りに顔を押しつけられてくすぐったさに顔を顰め、くすぐったいから止めろと言葉に出して制止するが、その言葉がリオンをどうやらあらぬ方へと刺激したようで、腰をきつく抱きしめられてさすがに痛みを感じてしまう。
「・・・リオン、痛いから力を緩めてくれないか?」
「・・・分かった」
リオンの返事が力を緩める事への同意だと思って安堵の溜息を零したウーヴェだったが、全く力が弱まらないことに顔を覗き込むと、総ての謎が解けたと言いたげな顔でリオンが見上げていて。
「・・・お前だ、オーヴェ!」
「は?」
「ほくろ!何で急に気になったんだろーって思ったけど、昨日の夜だ」
昨日の夜、付き合って何年が経過しようとも変わることの無い密度とかなり濃い色香に包まれてベッドの上で抱き合ったが、その時の顔だと宣言されてウーヴェの目尻のほくろが一気に赤く染まる。
「な、何を言ってるんだ…!」
「やー、謎が解明された!オーヴェだったのかー」
確かにお前の目尻にはほくろがあるし、快感に溺れているときのお前は凄絶な色気があり、その色に染まるほくろが目に焼き付いていたんだと叫んだリオンは、どうだ己の推理は正しいだろうとウーヴェに褒めてくれと満面の笑みを浮かべるものの、見下ろしてくる視線に滅多に感じない夜の色香を感じ取り、呆然と蒼い目を見開いてしまう。
「お、オーヴェ・・・?」
「・・・なあ、リーオ、まだシャワーをしてなかったな?」
「へ?あ、ああオーヴェが出てから入るつもりだったから・・・」
だからまだシャワーをしていないがそれがどうしたと、さっきまで羽交い締めにしていた細腰から手を離してクッションを抱きしめたリオンは、それはそれは綺麗な笑顔で見下ろしてくるウーヴェを見上げて無意識に唾を飲み込む。
「今日は廊下側のバスタブに湯を張ってゆっくりと入ってくればどうだ?」
外は寒かったし、今日はボスと一緒に外回りに出ていたと聞いたからな、体が冷え切っているだろう、だから廊下側のバスタブに湯を張ってゆっくり入ってこいと微笑まれて喉の奥で奇妙な声を上げてしまう。
それは、リオンとウーヴェの間でのみ通じる決まりごとの一つで、端的に言えば今夜はお前を抱くぞというウーヴェの意思表示だった。
己のどの言葉がウーヴェの地雷か琴線に触れたのかは不明だが、そんなに冷えていないからシャワーだけで十分かなぁと呟いてみるものの、勝負の結果は火を見るよりも明らかだった為、肩を落として上目遣いに綺麗な笑顔を見上げる。
「・・・ダーリン、優しくしてくれる?」
「いつも優しくしているだろう?」
誰かさんと比べれば俺の抱き方など本当に優しいものだろうと、絶対にリオンが逆らえない笑顔で廊下の向こうを指し示したウーヴェは、トドメのキスをリオンの薄く開く唇に小さな音を立てて落とす。
「行って来い、リーオ」
「くそー!今日も飯の時にワイン飲んでるから風呂上がりのビールは一本までだからな!」
俺のダーリンはアルコールが入ると普段からは考えられないほど執拗に人を抱くんだからなと、負け惜しみになっているのかいないのか分からないことを叫び、クッションを隣のソファに投げ捨てたリオンは、くそーともう一度叫んだ後、ウーヴェのバスローブを肌蹴させて見えた鎖骨に吸い付き、今夜の約束を目に見える形で残す。
「・・・早く行って来い」
鎖骨に残された予約の痕を指先でなぞったウーヴェは、尻尾と呼んでいるリオンの髪を解く前、うなじに口を寄せて予約完了の証をそこに残すのだった。
その後、予約通りにリオンを思う存分−ウーヴェにとっては優しく、リオンに言わせれば執拗に抱いた後、珍しく意識が朦朧とするリオンを抱きしめながら眠りに落ちようとしたウーヴェだったが、意識が飛んでいようがそれでも気になるのか、リオンがウーヴェの目尻のほくろに指先をそっと載せる。
「・・・気になるのか?」
「・・・・・・ん、好き、だなって思っただけ・・・」
意識が半分以上睡魔に奪われながらの言葉にウーヴェが微苦笑し、お休みを告げながら頬にキスをすると、子どもが手慰みをするようにウーヴェのほくろを指先で撫でながらリオンが小さな寝息を立て始めたため、ウーヴェもそれに釣られるように眠りに落ちるのだった。
2020.03.06までWebclapお礼として公開。
ホクロが気になったようです(笑)


