フレンチトーストが食いたいと唐突にリオンが呟いた為、読んでいた雑誌から珍しく顔を上げたウーヴェがメガネの下で目を丸くする。
「フレンチトースト?」
「そう!前にオーヴェが教えてくれただろ?」
以前、これもまた唐突だったが、卵か何かを付けたバゲットを焼いたものが食いたいと宣われ、フレンチトーストかと聞き返した時、そんな名前だったのかと感心されたことがあったが、それを思い出して苦笑すると、レシピを探して作ってくれると言ったと、すっかり記憶から忘れ去っていた事を見抜いた子供の顔で睨まれてしまう。
「・・・忘れていた訳じゃ・・・」
「ないって言いたんだろうけどなー。絶対忘れてたよなー」
その証拠にメガネのフレームをずっとさっきから触ってるだろうと、ニヤリと笑みを浮かべられて動きを止めたウーヴェは、一つため息を吐いた後、いつ食べたいんだとメガネを外しながら問いかける。
「へ?」
「朝に食べたいのか?それともデザートで食べたいのか?」
フレンチトーストは定番のものから粉砂糖をまぶしてデザートのようにしたもの、アイスを添えたものなど色々あるぞと笑うと、目の前の顔に今ウーヴェが挙げたフレンチトーストが羽を生やして己の前で羽ばたいている姿を想像しているような笑みが浮かび、つられてウーヴェも笑みを深めてしまう。
「オーヴェ?」
「何でもない」
「フレンチトーストだけじゃなくて、キスまで食わせてくれるなんて最高」
本人の性格を思えば信じられない程澄んだ蒼い瞳に斜めに睨まれて咳払いをしつつ手を立てたウーヴェは、そうじゃないと自然と浮かべられる穏やかな顔でその言葉を否定しつつも、キスをすることは否定しないと教えるように不満に歪む唇にそっとキスをする。
「オーヴェ?」
「どんなフレンチトーストを想像したんだ?」
「へ?────バニラアイスがついてるのと、シナモンが掛かっててリンゴが添えられてるのかな」
「じゃあ朝食よりもデザートだな」
「そうかも。でも朝飯で食いたいなぁ」
映画かテレビか何かで見た気がすると、ウーヴェのキスに目元を緩ませながら頭に手を当てるリオンの言葉にウーヴェが一つ目を瞬かせ、唐突に何故そんなことを言い出したのかにまで気付くと、リオンの頬に手をあてがって驚く目を覗き込みながら再度キスをする。
「じゃあ明日の朝に作ろう」
「やっほぅ」
そんなに簡単に作れるのかと問い返すリオンに調べればすぐに出来ると、リオンよりは家事が得意なウーヴェが難なく返し、それを受けてリオンの顔に心からの笑みがじわじわと浮かび上がる。
ああ、初めてリオンという年下の男を意識した時から常に願っているのはこの笑顔だと、数え切れない程の己の真意を、何度開けても心を揺り動かす宝箱を開ける時の丁重さで改めて認識したウーヴェは、小首を傾げるリオンも同じく望んでいる笑みを浮かべて三度キスをする。
「・・・ただし、それをするにはお前の協力が必要不可欠だから、明日少しだけ早く起きてくれ」
「へ?」
「明日の楽しみだな」
ウーヴェが片目を閉じつつ呟いた言葉にリオンが目を丸くし、早起きをしなければならないのかと返すと、そうする方がお前が望む形に近いだろうと謎の言葉を返されて目と口を丸くしたリオンだったが、明日の朝になれば分かると手の甲で頬を撫でられ、疑問よりも肌から伝わる熱と思いの方が重要だと言わんばかりにその手に手を重ね、撫でてくれる優しい手にキスを返すのだった。
翌朝、いつもより早く起こされたリオンは、多少の不満を覚えつつも朝の支度を整え、ウーヴェが待っているキッチンに向かう。
壁際のテーブルには焼き上がったフレンチトーストを載せれば完成の朝食が用意されているが、キャスター付きのスツールで待っているウーヴェに手招きされて近寄ると、いつもは怖い顔で睨んでくるはずなのに、コンロ横に座れと命じられて意味が分からずに軽く尻を載せる。
「ほら、これを持ってくれ」
「?」
全く意味がわからないと言いつつも、ウーヴェが差し出すボウルを腿の上に載せると、食べやすい大きさに切ったバゲッドをウーヴェがボウルの中に無造作に放り込む。
「・・・・・・あ」
「これ、だろう?」
お前が見たフレンチトーストは、ここに座った子供が、父親が熱しているフランパンにトーストを落としているシーンで、卵液を浸したバゲッドをリオンから受け取って熱したフライパンに並べたウーヴェは、アメリカ映画のワンシーンだろうと片目を閉じて己の予想は間違っていないだろうと悪戯っ気な笑みを浮かべる。
「Geill!」
「こら」
「へへ────オーヴェ最高、愛してる!」
「トーストが焦げるぞ」
予想を当てられた感嘆をウーヴェの前では控えるようになっていた言葉で素直に表したリオンをジロリと睨んだウーヴェは、焼き上がったトーストを皿に移し、シンクから降りろと苦笑しつつ伝えると、スツールのままテーブルの前に移動する。
「オーヴェ、早く食おうぜ!」
テーブルに並んだ朝食も早く食ってくれと言っていると、ウーヴェを椅子に座らせたリオンは、隣からどうぞ召し上がれとの言葉が聞こえて来るのを大人しく待ち、望みの言葉が聞こえたと同時にフレンチトーストにかぶりつく。
「シナモンはいらないのか?」
「んー。今度」
「分かった」
その横で同じように朝食を食べ始めたウーヴェは、今日の予定を食べながら話すリオンに苦笑し、食べ終わってからでも話を聞けるから先に食べてしまえと忠告するが、リオンの口の端についたパン屑に気付き、無意識の動作でそれを摘んでそのまま指を舐める。
「・・・・・・前にも言ったけどな、それ、俺以外にしてねぇよな?」
「え?・・・・・・する訳がないだろう?」
そんなくだらない事を言っている暇があるのなら早く食べて俺のコーヒーの用意をしろと、さっきとは真逆の事を冷たく言い放ったウーヴェは、なんだよもう、と不満を零しつつも、少し多めのトーストを全部平らげたリオンに小さく満足の吐息を零すのだった。
2019.07.14までWebclapお礼として公開。
クレイマークレイマーでした(笑)


