真夏に比べれば透明度が少ないが、それでも気持ちが良くなるような青空を、自宅ベランダに置いた一人がけのソファから見上げたウーヴェは、眩しさに目を細め春の風を受けて気持ちよさそうな吐息を風に乗せる。
その横では時々ランチを食べたりもするテーブルに突っ伏したリオンがいたが、頬杖をつき、気持ち良さそうに目を細めるウーヴェの横顔に見惚れていた。
ソファ横の小さなテーブルに最近お気に入りらしいIPAのボトルとラドラーのグラス、リオンお気に入りのチーズとアーティチョーク、セミドライトマトを載せたカッティングボードがあった。
酒を飲むなら何か食えとはリオンが口を酸っぱくしてウーヴェに言い続けている言葉だったが、天気のいい朝、ベランダでビールを飲むと言い出したウーヴェにリオンがお決まりの言葉を伝えたところ、珍しく素直に頷いたウーヴェがキッチンに向かい、ベランダのセッティングを終えたことを伝えに来たリオンが見たのは、カッティングボードに並べられたチーズとアーティチョークなどだった。
雑誌や広告などで目にするそれにリオンが目を丸くすると、ゼンメルとプレッツェルだとどちらがいいと笑顔で問われ、ゼンメルト勢いよく返したリオンは、それもちゃんと食べるから一緒に飲まないかと誘われ、仕方がないなぁと気持ちとは裏腹な言葉をウーヴェにキスとともに返し、持って行くから先にベランダに行けと促したのだ。
その結果のベランダでピクニック気分を満喫しているのだが、風が気持ち良いからかウーヴェの手が珍しくビールにも伸びず、そんなウーヴェをリオンは見つめていたが、こんなにも穏やかな気持ちになれるのならここでこうして朝から飲んでいることもそう悪いことではないと気付く。
「なー、オーヴェ」
「どうした?」
気持ちよさそうにしているところ大変恐縮ですがと、大仰な言葉で断りを入れつつ名を呼んだリオンは、顔だけではなく身体ごとソファの上で向き直ってくれることに一瞬驚くが、その姿勢に二人の男の姿を重ね合わせ、あぁ、本当に良く似ていると笑うと、ウーヴェの顔が疑問に染まる。
「リーオ?」
「・・・親父や兄貴と本当に良く似てる」
テーブルに寝そべるように腕を投げ出して笑うリオンにウーヴェが一瞬何を言われたのか理解出来ない顔になってしまうが、己のどの仕草が似ているのかとの疑問を口に出すと、再度頬杖をついたリオンが人差し指でウーヴェの顔を指差す。
「俺が呼びかけたらちゃんとこっちを向いてくれるトコ。二人もそうだ」
お前の父と兄は、会長と社長という立場でありながら俺なんかの下らない言葉にも真正面から向き合ってくれる、その姿勢はお前にも受け継がれているんだと、己が最も愛する人が、己が唯一尊敬する男の素質を受け継いでいることが誇らしいと言いたげに目を細め、その愛する人の目を驚愕に見開かせるが、ついで見せられた表情に顔をくしゃくしゃにしてしまう。
「・・・ダンケ、リーオ」
「どういたしましてー」
数年前ならば決して受け入れることのできなかったその言葉がすんなりと耳から心に入り、その中で暖かな熱源となったことにウーヴェの顔が自然と綻び、指輪がキラリと光る手を伸ばしてリオンの頬を指の背で撫でる。
「あの二人みてぇに強くなりたいなー」
そして、その二人の資質を受け継いだお前のように優しい人になりたいと、リオンがその手に手を重ねてキスをした後、憧れの男に近付けるようになりたいと笑うと、ウーヴェが逆にリオンの手を握ってキスを返す。
「大丈夫だ、リーオ」
お前ならばなれるしその一歩をすでに踏み出していると、誰の心にもするりと入り込める不思議な声音で励まされ、リオンの顔に自信に満ちた強い笑みが浮かぶ。
「なれるか?」
「ああ」
お前がなれないと思っても俺はそんなお前を信じていると、更に力を分け与えるような言葉を伝えたウーヴェは、照れ隠しのようにビールを飲むが、リオンにソファに座るように命じる。
「どうした?」
「良いから座れ」
ウーヴェの言葉に従ってソファに座るリオンを見下ろし、訝る顔を両手で挟んで上げさせると、くすんだ金髪に隠れる額にそっと口付ける。
「・・・オーヴェ」
「────顔を上げろ、前を向け。お前はもうなりたいと思う人への一歩を踏み出している」
だから自信を持てと、さっきよりは強い口調で囁かれる言葉にそれ以上の思いが籠っているように感じたリオンは、ソファの座面に片膝をついて身体を支えるウーヴェの腰に腕を回して己の腿に座らせる。
「・・・ダンケ、オーヴェ」
お前の言葉は魔法の言葉だ、聞くだけで力が湧き出てくると、ウーヴェの肩に顔を押し当てて告白したリオンの髪をそっと撫で、お前の存在の方が魔法だと囁きながら口付けたウーヴェにリオンがお互い様かと小さく笑う。
「ああ」
「・・・オーヴェ」
「どうした」
「気持ちいいな」
春の風もそうだしお前の温もりもそうだが、何よりもその言葉が思いが気持ちいいと、珍しく感傷的な言葉を呟くリオンにウーヴェも同じ様に小さく笑うと、ビールではなくチーズを手に取りリオンの顔の前にそっと差し出す。
「美味い」
「そうか」
「うん。オーヴェも食えよ」
リオンの腿の上で同じ様にチーズを食べ、ビールを飲んで満足そうに吐息をこぼしたウーヴェは、春風が気持ち良いからしばらくこのままここにいたいと囁くと、リオンの腕が腰に回され昼寝でもするかと笑いかけてきた為、それも良いと頷き、くすんだ金髪に頬をあてがう。
「久しぶりにベランダデートだな」
「そうだな」
その言葉はなかなか斬新だが、二人でいればデートかと笑うウーヴェにリオンも笑い、ビールとラドラー、チーズがなくなるまではベランダデートだが、無くなってしまえばお家でデートだとも笑った為、ウーヴェが珍しくくすくすと笑う。
「それも良いな」
「うん」
二人でいればデートだと笑うリオンに頷いたウーヴェは、何度目かのキスをリオンの頭にすると、二人の頭上を通り過ぎて行く雲と風の心地よさに目を閉じ、穏やかで貴重な春の休日をベランダで満喫するのだった。
〜2019.05.11 webclapお礼として公開。仲良しですなぁ( *'罒'* )


