「天気が良いからピクニックに行く!」
バスルームの大きな鏡の前、いつものようにネクタイをウーヴェに締めて貰っていたリオンが不意に宣い、ノットの出来具合がいまいち好みではなかった為に解いていたウーヴェが目を瞠る。
「ピクニック?」
「そう!なー、週末にランチボックスと好きな飲み物もって行こうぜー、オーヴェ」
「そうだな」
週末は予定は何もないし、ピクニックに行くかと笑うウーヴェにリオンの顔にみるみる笑みが浮かび上がり、ネクタイを締めてくれたこととピクニックに行く事への礼をダンケの一言で済ませると、洗面台の端に寄りかかって身体を支えるウーヴェの頬にキスをする。
「じゃあ週末に行くからな」
「分かった。楽しみだな」
ウーヴェの言葉にリオンが満面の笑みで頷き、そろそろ出勤の時間だからと、行ってきますのキスを頬とウーヴェの手の甲にすると、お返しのキスが同じ場所に落とされる。
「今日も頑張ってこい」
「オーヴェも」
一足先に出るリオンを送り出し、己のペースでゆっくりと出勤の支度をしたウーヴェは、急遽決まった週末の予定に一つ溜息を吐くが、春になってからあまり外出していないことを思い出し、久しぶりに外に出るのも悪くないと苦笑しつつ仕事に向かう為にステッキをついてベッドルームを出て行くのだった。
リオンが楽しみにしていたピクニックだが、週末の天気はお出かけ日和で最高だった。
だが、前日の真夜中、いつものように互いの愛情と欲情を伝え合って仲良く眠ったはずのウーヴェの左足が急な痛みを訴え、明け方になるまで二人とも一睡も出来ない時間を過ごしてしまったのだ。
ウーヴェの足の様子も気になるが、さすがにリオン自身も眠気を覚えていたこともあり、今日のピクニックは延期にしようと、ベッドで肩を並べて座りながらリオンが提案をする。
その提案をありがたく受け取ったウーヴェだったが、ベルトランにピクニックで食べるものを昨日作って貰ったがそれが無駄になったと肩を落とすと、文字通り一睡もせずにウーヴェの痛む左足を撫でていたリオンが顎に手を当てて考え込む。
「な、オーヴェ、外出するのは無理だけど、少しだけなら大丈夫か?」
「あ、ああ、多分大丈夫だと思う・・・」
ベッドヘッドにクッションを立てかけて寄りかかっていたウーヴェにリオンが問いを発して大丈夫だと返事を貰うと同時に身体を起こし、それならば今から準備をすると叫んでベッドルームを飛び出していく。
「リオン?」
「外に出かけるピクニックは無理だけどさ、お家デートは出来る!」
開けっ放しのドアの向こうから響く声にどういう意味だと眉間に皺を刻んだウーヴェだったが、戻ってきたリオンがブラインドを開け放ったため、眩しい光が室内に溢れて腕で目元を覆う。
「ベランダでベルトラン特製のサンドイッチとポテトサラダを食おう」
「・・・それで良いのか?」
リオンの言わんとすることを察したウーヴェが申し訳なさそうな顔で見上げると、腰に手を当てて前屈みになったリオンがにやりと笑みを浮かべる。
「元気になったら絶対にピクニックに行く。その時はオーヴェはワインを飲んじゃダメ」
「・・・う・・・」
「う、じゃねぇっての。今日もダメだからな」
どうしても飲みたいのならワインスプリッツァーにしろと指を突きつけられて口ごもるウーヴェにリオンが一つ肩を竦めるが、それはともかく、ベランダで食べるのもなんだか久しぶりだろうと笑ってウーヴェの隣に膝をつき、悄然とする頬にキスをする。
「そう、だな。久しぶりだな」
「ピクニックもそうだけどさ、外で食うのも久しぶりだし、楽しもう」
足の痛みがもたらした予定の変更だが、そんなものは今後幾らでも起こりうることだし、この予定の変更で全てが悪くなる訳でも無いと、今のウーヴェにとっては心が軽くなるようなことを呟いて目を細めたリオンに一つ頷いたウーヴェは、手招きをしてリオンの顔が近寄ってきた後、小さな音を立てて唇にキスをする。
「ダンケ、リーオ」
「どういたしましてー」
お返しのキスをしてにやりと笑うリオンに頷いたウーヴェは、不意に訪れた眠気に気付いたように欠伸をし、背中とベッドヘッドの間のクッションを抜き取る。
「寝るか?」
「ああ。少しだけ・・・」
今なら痛みも忘れて眠れそうだと欠伸混じりに告げてベッドに横になったウーヴェは、リオンの大きな掌に肩から腕を撫でられる安堵感に無意識に溜息をつき、背中が温かな何かに包まれたと認識した直後、痛みを忘れて眠りに落ちる。
ウーヴェの肩や腕を撫でながら背中から護るように身を寄せたリオンは、穏やかな寝息が聞こえてきた事に安堵し、痛みを感じないでいられる眠りがウーヴェに訪れたのだとも気付くと、釣られたように欠伸をし、己が宣言したベランダでの食事だが、目を覚ましたときの時間に寄ってランチになるか早めのディナーになるかを決めようともう一度欠伸をし、ウーヴェを護るようで実は寄りかかりながら眠りに落ちるのだった。
二人が満足した眠りから目を覚ましたとき、初夏の太陽がそろそろ寝床に帰ろうとする時刻だったため、早くもなく遅くもないディナーを予定通りのベランダに出したテーブルで食べるのだった。
~2018.10.15
Clapにて公開。自宅デートを満喫した二人でした(笑)


