Webclap77

 太陽が家に帰りたくないと我が儘を言う子どものように空に留まっている夏のある夜、夏とは言っても緯度の関係で遅くまで太陽が沈まないために明るいベランダで食事を済ませたリオンとウーヴェは、ウーヴェの足を考えて買った使いやすい高さのチェアにゆったりと腰を下ろし、丸テーブル上の盤面を左右から挟んで見下ろしていた。
 さわりと夏の風が白っぽい髪とくすんだ金髪を少しだけ揺らしながら吹き抜け、楽しげに上空へと舞い戻っていく。
 その風に目を細めて気持ちよさそうにウーヴェが小さな笑い声を上げるが、リオンはそれどころではなかった。
 二人が見下ろしているのはチェスの盤面で、二人を襲った事件の後、以前よりも交流が増えたウーヴェの父や兄がリオンを相手にチェスを楽しみたいと告げ、嫌がるリオンにチェスを教えていたのだが、物事を深く考えることを得意としないリオンがチェスにのめり込めるはずもなく、ウーヴェが教えていてもあまり手応えを感じていなかった。
 少し休憩と息を吐いて空を見上げるリオンに苦笑したウーヴェだったが、その横顔がチェスという頭脳戦を楽しむ為の疲労感と言うよりは、伴侶の親兄弟が嗜むそれに無理矢理付き合わされている疲労感を強く滲ませている気がし、チェスの盤面を跨いで伸ばした手でリオンの髪を撫でると、蒼い瞳がウーヴェへと向けられて細められる。
 「一手も二手も先を考えるなんて俺には無理だ、オーヴェ」
 直感だけで生きてきたような俺が、チェスなんて頭を使うものは向いていないと肩を竦めるリオンの髪を宥めるように再度撫で、伸び上がってその頬にキスをすると、リオンの顔が正面を向いて蒼い双眸が微苦笑に染まる。
 「リバーシなら得意なんだけどなー」
 「そうなのか?」
 「うん、そう。リバーシは結構勝率がイイゼ」
 ウーヴェと向き合ったことで機嫌を直したのか、テーブルに肘をついて頬杖を着くリオンの額を撫でてそうなのかともう一度問えば、疑ってるのかと上目遣いに睨まれるが、そうでは無い事を伝える代わりに額にキスをし、今度ノルが来たときにリバーシをすれば良いと笑う。
 「チェスが強いとリバーシも強いんじゃねぇの?」
 「どうだろうな。チェスみたいに複雑な駒の動き方がないからな」
 白と黒の駒で直接挟んで裏返すだけだから簡単だと笑ってリオンの不安を取り除いたウーヴェは、今度セットを買ってくるから遊ぼうかと誘いかけ、斜め上空を何度も見上げた末に頷くリオンに同じように頷くと、今度はチェアから立ち上がってリオンの前に足を少し引きずって歩いて行くと、見上げてくる永遠の恋人の頭に口付け、そのまま腿に腰を下ろす。
 「・・・兄貴に勝ったらアイス買ってくれる?」
 「ああ。父さんにも勝ったらチョコも一緒に買おうか」
 そうして、お前の好物を二人で分け合って食べようと笑うウーヴェに賛成と歌うような声が届けられる。
 「なあ、リーオ、俺もそれに参加するから、勝ち抜き戦をしないか?」
 「へ?オーヴェも参加するのか?」
 「ああ」
 今度家族揃ってリバーシ大会をしないかと、己の腿を椅子代わりにする伴侶の言葉に目を丸くしたリオンだったが、良いなぁ、大会優勝者にはどんなステキな景品が用意されているんだと訊くと、願い事を一つと悪戯っ気が籠もった声がキスと一緒に頭に届けられる。
 「願い事一つをずーっと」
 「却下」
 「むぅ。オーヴェのケチ」
 ウーヴェの胸に頭を押し当てて笑うリオンにウーヴェもくすぐったいと返しながら笑って頭を抱え込み、チェスを覚えるよりはリバーシで家族間の交流を持とうと誘うと、少しの躊躇いの後に素直にうんと頷かれて安堵する。
 「・・・優しいオーヴェ、ありがとうな」
 「・・・・・・」
 何のことだとも礼など良いとも返せなかったウーヴェは、蒼い目に見上げられていることに気付いて一瞬だけ息をのむが、薄く開く唇にそっとキスをし、言葉ではない返事を伝えると、キスをした唇の両端が綺麗な角度で持ち上がる。
 「そろそろ中に入るか?」
 「そうだな」
 夕食をここで食べて食後にチェスの講義を聴いていたが、今日はもうそれらを終えて中に入ろうと誘うリオンに頷き、片付けを手伝ってくれとウーヴェが笑いかけると、途端に顔がそっぽを向く。
 「リーオ」
 「・・・・・・むぅ」
 「むぅ、じゃない」
 片付けが苦手なリオンを促してテーブルの下に置いていた食器類をキッチンへと運ばせたウーヴェは、不満を表明しつつも手伝うリオンに内心苦笑しつつも、この後も楽しい時間を過ごして夢の世界へ向かうため、よく頑張りました、手伝いありがとうと言葉と頬へのキスで伝えると、もっとご褒美と強請られた為に一つ肩を竦めてリオンの頭に片手を回して引き寄せる。
 「──────ん」
 「明日、リバーシを買いに行こうか」
 「うん、行く。他のボードゲームも見てみたいなぁ」
 ご褒美なのか口封じなのかが分からないキスをした後、明日の予定を伝えてリオンの腰に腕を回したウーヴェにリオンも満更では無い顔で笑い、他にもボードゲームがあれば良いのにと笑う。
 「そうだな」
 皆で楽しめるものが良いが、ホームにも立ち寄って子ども達に何か買っていこうと提案するウーヴェの頬にリオンがキスをすることで返事をする。
 「ダンケ」
 「ああ」
 まだ日が昇っていて明るい外を隠すためにブラインドを下ろし、パジャマに着替えた二人は、ベッドの中でウーヴェが本を、最近設置したテレビをリオンが見ながら他愛もない話で寝るまでのひとときを過ごすのだった。

 

2017.10.08までWebclapにて公開。
オセロにハマってました(笑)


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