Webclap76

 日差しが春の暖かさから夏の厳しさへと徐々に移ろうある日の午後、休みが重なった為に何をして過ごそうかと話し合っていたリオンとウーヴェだったが、リオンが寝そべっていたカウチソファから勢いよく起き上がったかと思うと、アイスクリームが食いたいと宣いウーヴェの目を瞬かせる。
 「アイス?」
 「そう!チョコが入ったアイスが食いてぇ」
 なあ、アイスを食いに行くか、スーパーで買ってきて家で食べようと、胡座をかいた足首を掴んで身体を前後に揺さぶりながらウーヴェに誘いをかけると、少し考え込むようにウーヴェが天井を見上げた後、顔を戻して小さく笑みを浮かべる。
 「そうだな、買いに行こうか」
 「いやっほぅ。行こう行こう!」
 ウーヴェが甘いものを買いに行くことをすぐに認めてくれることなどそうそうなく、その珍しい機会が訪れた今が絶好のチャンスだと見極めたリオンがソファから飛び降り、行くぞ今すぐ行くぞさあ行こうと、遠足に出かける直前の子どものように笑ってウーヴェの腕を引っ張ると、分かったから少し落ち着けとウーヴェが苦言を呈する。
 「どこのアイスが食べたいんだ?」
 「んー、どこにしようかなー。あ、そだ。公園で買ったアイスを食わないか?」
 これだけ天気が良いのだから家に籠もっているのはもったいないと伸びをしてウーヴェに片目を閉じたリオンは、読みたい本があると、最愛の恋人の興味を奪っていく存在を薄々感じていたが、本を読むのは禁止と釘を刺すとウーヴェのターコイズ色の双眸に不満の色が浮かび上がる。
 「天気が良いからピクニックに行くのに、一人でいつでも楽しめることをするなよ、オーヴェ」
 そんな寂しいことをするなと肩を竦めて何気なさを装って本音を零すと、その本音をしっかりと読み取ったウーヴェが謝罪の代わりにリオンの腰に片腕を回したかと思うと、その頬にキスをする。
 「・・・ピクニックも良いけれど、アイスを食べてからドライブに行かないか?」
 あまり遠出は出来ないが、それでも気持ちよく走れるだろうし、その先でまだ見ぬ自分たちの目を楽しませてくれるものがあるかも知れないと笑うと、リオンが首を傾げてウーヴェの頭に軽く頭を触れあわせる。
 「賛成。そろそろ幌を上げて走っても気持ち良いもんな」
 「ああ」
 だから今からお前の好きなアイスを買って、それを食べてからドライブに行こうと笑うウーヴェに、ドライブ先でアイスを食べるのも良いとリオンが返す。
 「いつだっけ、ハンナの家から帰ってくるときに寄ったサービスエリアで食っても良いなぁ」
 リオンの言葉にウーヴェが一瞬考え込み、さすがにあのサービスエリアは遠いからもう少し手前にある公園に行かないかと返し、出かけるための準備に掛かるのだった。

 二人が暮らす街に比べれば少し気温の低い風が吹き、周囲の木々を優しく揺さぶっていくが、その木の枝がもたらす日陰でウーヴェが木にもたれ掛かり、その腿をリオンが枕代わりに横臥していた。
 小一時間程南に向けて走った所に、地元の人たちだけが利用するような公園を発見し、アイスを買う前に立ち寄ったのだが、意外なほどの心地よさに二人で木陰に入った後動くことが出来なくなったのだ。
 ウーヴェの足を枕に寝転がっていたリオンだが、出かける直前のように騒ぐことも無く、ただ静かに横臥しながら青い空を悠然と流れる雲を見送り、時々雲を掴もうとする幼い子どものように手を伸ばすが、その度にウーヴェがリオンの髪を撫でて同じように空へと顔を向ける。
 「・・・気持ち良いな、オーヴェ」
 「ああ」
 雲を運んでいく風が髪も乱していくが、それが気持ちいいと小さく笑うとウーヴェも同じ気持ちを短い言葉で返し、ついでのようにリオンの額にキスをする。
 「なあ、リーオ」
 「ん?」
 「帰り、運転してくれないか?」
 「仕方ねぇなぁ。膝枕してくれてるから運転代わりましょうかー」
 寝返りを打ってウーヴェを見上げてにやりと笑うリオンにダンケと礼を言って笑みを浮かべたウーヴェは、退屈じゃないかとそっと問いかけながらリオンの前髪を掻き上げる。
 「んー、前までなら退屈って思ったけどさ、今は思わねぇ」
 「そうか」
 「うん、そう。────こうしてゆっくり出来るって、ホントに幸せだなって」
 時を経なければ理解出来ないこともあるんだなと笑うリオンにウーヴェが小さく頷き、上体を屈めて笑みを浮かべる唇にキスをする。
 「また、来ようか」
 「うん」
 二人だけの秘密のようなこの公園にまた来ようと笑って鼻の頭を触れあわせると、絶対に来ようとリオンの笑みが深くなる。
 「今日は満足したし。そろそろアイス食いに帰ろうぜ」
 「ああ」
 気付けばここに来るまでの時間と同じだけこうしてただ座って空を見上げていたことに気付き、起き上がったリオンがウーヴェの手を掴んで立ち上がらせる。
 自宅のようにはまださすがに出来ないが、それでも気持ちはまったく変わらないことを教えるようにリオンの手を握ると同じように握り返してくる。
 手を繋いで少し離れた場所に止めたキャレラホワイトのスパイダーの元にゆっくりと歩きながら、どこでアイスを買うか、もし街中で買うのなら本屋に立ち寄って欲しい、まだ本を買う気かと笑い合う。
 「今日の晩メシさ、ゲートルートに行かないか?」
 「そうだな。久しぶりに行こうか」
 スパイダーの運転席に乗り込み、ドライブ用のティアドロップ型のサングラスをかけたリオンの言葉にウーヴェも同意をし、同じくサングラスを掛け替えると、安全運転で頼むと少しだけ威張った態度で告げる。
 「かしこまりました、陛下」
 空前絶後の安全運転で帰りますと、敬礼をしかねない勢いで言い放ち、空前絶後の意味が分からないとウーヴェが笑うとリオンの顔にも笑みが浮かぶのだった。

 他愛もない時間がどれほど貴重なものなのかを、ウーヴェは既に知っていたが、それをより実感し、悲しい出来事をいくつも乗り越えて来た今になりようやく理解出来る様になったリオンもその時間をただ静かにウーヴェと二人で過ごせることに喜びを感じ、帰りに買ったアイスが極上だったために更に幸せを感じるのだった。


2017.08.16までwebclapで公開。
何でもない日が、嬉しいんだ。


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