真冬の寒さが身体に堪えると、年寄りじみた事を呟きながらブランケットを身体に巻き付けたのは、冬の定番になっている暖炉の前に置いたソファベッドで胡座をかいているリオンだった。
そんなリオンを呆れを通り越した目で見つめていたウーヴェは、確かに寒さが身に沁みる気持ちも何となく理解出来ると一つ肩を竦めてカウチソファから立ち上がる。
「コーヒーでも飲むか?」
「コーヒーよりもチョコが食いてぇ!」
「・・・・・・おやつと言ってさっき食べただろう?」
まだ食べるのかと、今度は正真正銘呆れた顔で溜息をつくウーヴェにリオンがそっぽを向いて口笛を吹く。
「で、コーヒーはどうする?」
「んー、今は要らねぇ」
「分かった」
リオンの言葉に苦笑しつつキッチンに向かったウーヴェだったが、ただコーヒーを淹れるだけにしてはやけに時間が掛かっていることを訝ったリオンがブランケットを巻き付けたままキッチンに向かうと、ホイップクリームのスプレー缶を振っているウーヴェを発見する。
「オーヴェ?コーヒーを飲むんだろ?」
「うん?ああ」
「クリーム入れるのか?」
「この間、ルッツがクリニックに来たんだけどな」
その時、学会で訪れたウィーンのカフェで飲んだコーヒーを教えてくれたと肩越しに振り返ったウーヴェは、その頬に小さな音を立ててキスをされて目を細め、オレンジリキュールの上にエスプレッソを注ぎ、ホイップクリームとオレンジピールを載せれば完成だと、楽しみな気配を隠さないで声で告げると、オレンジリキュールと返される。
「ああ。コアントローがあるから入れてみた」
ウーヴェの手元のガラス製のマグカップにはリキュールとエスプレッソが入っていて、クリームをその上にスプレーしたのだが、背後から漂ってくる気配が何やら不穏なものだった為、手を止めて身体全体で振り返ると、愛して止まないロイヤルブルーの双眸が真っ平らな瞼の下に姿を隠していて、驚きを表すように瞬きを繰り返す。
「どうした?」
「・・・俺にはチョコを食うなって言う癖にさぁ、自分はまーだ酒を飲むのかよ?」
人にはダメだというのに自分は良いのかと、まるっきり拗ねた子どもの顔で問われてただただ驚きに目を丸くするが、酒を飲むと言ってもコーヒーに入れる程度だからたいした量じゃないと苦笑すると、じゃあ俺もチョコを少し食べる、たいした量じゃないだろうと鼻息荒く言い放たれて絶句してしまう。
「少しだけだから良いだろう?」
「うん、だから俺も少しだけチョコを食うの。良いだろ?」
お互いに好きなものを少しだけ飲み食いするのだから認め合おうとリオンが太い笑みを浮かべるが、その顔をじっと見つめたウーヴェは、仕方が無いと溜息をついたかと思うと、キッチンにリオンを残してパントリーに向かい、戻って来た時にはリオンが愛して止まないチョコを手にしていた。
「オーヴェ?」
それを食べても良いのかと顔を輝かせるリオンに向け、どちらかといえばリオンが浮かべるのに相応しい悪戯っ気が滲んだ笑みを浮かべたかと思うと、チョコを無造作に開封し、パキンと割った一列分のチョコを手に笑みを深める。
「コアントローをもう少し足したいと思うんだけど?」
「・・・そのチョコを食わせてくれたら考えてもいい」
交換条件はそれだと互いに相手の言葉に笑みを浮かべ、ウーヴェがそのチョコを半分に割ったものを口に放り込んだかと思うと、リオンの顎を掴んで軽く持ち上げる。
ウーヴェが望むものを読み取ったリオンがブランケットを背後に落としながらウーヴェの首に両腕を回すと、互いに提案した交換条件を受け入れた証にキスをする。
「・・・・・・ん」
どちらのものかはっきりとしない吐息が二人の間に零れ落ち、チョコの味がするキスを終えた二人は、どちらからともなく小さな笑い声を立てると、リオンがそのままウーヴェにしがみつくように身を寄せる。
「コアントロー、もう少し足しても良いけど、でも、出来ればそれ以上は止めにしてくれよ、オーヴェ」
「そうだな。お前もチョコを食べるのは良いが、食べ過ぎるのは良くないから気をつけてくれ」
互いに望むものが嗜好品を過度に摂取することへの危惧だったため、素直な思いでそれを伝え合えば、一触即発の空気が霧散していく。
「このコーヒーさ、ウィーンに行けば飲めるのか?」
「うん?ああ、そうじゃないかな。今度ルッツにまた聞いておく」
「うん。ちょっと飲んでみたいなー」
さっきは要らないと言ったのにとウーヴェが思っていても口にはしないため、ブランケットを拾い上げてリオンの肩に無造作に投げかけた後、リオンの為にアンペルマンが歩き出そうとするイラストが描かれているマグカップを取りだし、コアントローを適量に、エスプレッソを同じく適量注ぐと、クリームのスプレーを再度振って勢いよくマグカップに注いでいく。
「ウィーンで飲んだものには砕いたキャンディが載っていたが、友人が家で作ってくれたものにはオレンジピールが載っていたそうだ」
「へぇ、そうなのか?」
「ああ。オレンジピールで良いな?」
「うん」
お前に任せると笑ってウーヴェの腰に腕を回し、その肩に顎を乗せて笑うリオンに釣られて笑みを浮かべたウーヴェは、リビングに行こうと腹の前で組まれている手の甲を軽く叩く。
「あれ、コアントローか?なんかすげー良い香りする」
「そうだな。コアントローは良い香りがするな」
あまり甘い味や香りがするものは好きではないが、このオレンジリキュールは好きだと笑って両手にマグカップを持ったウーヴェは、リオンの後に続いてリビングに向かい、暖炉の前のソファベッドに腰を下ろすと、アンペルマンのマグカップをリオンに差し出す。
「ほら」
「ダンケ、オーヴェ。でもさ・・・・・・」
その特製のコーヒーよりも欲しいものがあると笑みを浮かべると、さすがにウーヴェがまだチョコが食べたいのかと呆れた顔で呟くが、チョコよりも甘いキスが良いと目を細められて対照的に目を瞠る。
「ダメか?」
「本当に仕方が無いな」
「へへ」
永遠の恋人が本当に望むものを教えられて瞠った目を逆に細めたウーヴェは、リオンの顎を再度掴んであげさせると、欲が滲んだ笑みを浮かべて見つめられ、眼鏡を外すとそのまま期待に薄く開く唇にキスをする。
「・・・満足したか?」
「んー、チョコの味がもうしなかったからもう一度」
「こら」
いい加減にしないとコーヒーに入れたクリームが溶けてしまうぞと笑い、首に腕を回してしがみついてくるリオンの背中を、それでも拒否することも抵抗することもなく抱きしめて一つ叩いたウーヴェは、せっかく美味しく出来たかも知れないコーヒーの飲み時を逃がすのはもったいないと囁くと、リオンの頭が小さく上下し、ウーヴェが再度マグカップを差し出す。
ソファベッドの背もたれにもたれ掛かりながら二人並んで同じ飲み物を片手に、テレビから流れてくるスポーツニュースを話題に穏やかな冬の夜を過ごすのだった。
2017.05.16までwebclapで公開。
コーヒーに甘く無いホイップとコアントローの組み合わせは絶妙だと思いました(笑)


