Webclap 65

 ベランダの隅に置いたプランターに小さなひまわりが花を咲かせたのは数日前だった。
 このひまわりは、ウーヴェが往診の帰りに偶然見つけたひまわり畑の主人がその時分けてくれたひまわりから種を取って育てたものだが、今年もまた花を咲かせた安堵にウーヴェが目を細め、プランターの前にしゃがみ込んで水をやる。
 その様子をベランダに置いたソファではなくデッキチェアで見守っていたリオンは、ウーヴェの横顔が本当に嬉しそうで幸せそうなことに喜んでいたが、その笑顔が自分以外のものに向けられているのだと気付くと同時にデッキチェアから身を乗り出して不満を訴える。
 「そーんなにそのひまわりが大事か、オーヴェ?」
 「突然どうしたんだ?」
 今まで機嫌良くしていたのに何を突然不機嫌になっているんだと、ただ驚きに眼鏡の下の目を丸くしたウーヴェは、肘おきに膨れっ面を乗せて別にーと間延びした不機嫌な声を出すリオンに身体ごと振り向くと、目線を合わせるように小首を傾げる。
 「リーオ?」
 「・・・・・・ひまわりばっか相手にすんなよ」
 世にも珍しい膨れっ面の不機嫌きわまりない置物が垂れ流した言葉は、自分よりも植物に愛情を注いでいるように感じる恋人への不満で、瞬きを繰り返した後自然と小さく吹き出してしまったウーヴェだったが、リオンの顔に赤みが差したことに気付いて咳払いをする。
 ウーヴェがひまわりを育てているのは、花を貰ったというきっかけがあったが、ひまわりを見ていると、今は不機嫌にそっぽを向いているリオンの顔が自然と脳裏に浮かび、リオンが仕事で帰宅できないときや帰って来ても寝るだけの時などに感じる寂寥感を埋めてくれるからだった。
 それを伝えていなかったことを思い出したウーヴェは、そっぽを向きつつも全神経をこちらに向けている恋人の膨れっ面に手を宛がうと、こんな時でも澄んでいる蒼い瞳が横目で見つめて来る。
 「なぁ、リーオ」
 「・・・・・・んだよ」
 「ひまわりばかり見ていることについては悪い」
 でも、それにはちゃんとした理由があるが聞いてくれるかと、悪いと思っているのならばもっと相応しい顔をすればどうだとリオンが思わず悪態をつきたくなるような笑みを浮かべたウーヴェは、不満ながらもちゃんと聞くことを態度で示してくれる恋人の額にキスをし、さらに笑みを深くする。
 「ひまわりを見ているとお前を思い出す。だからいつまでも見ていたいし見てしまうんだ」
 リオンが決して逆らえない、それはそれは綺麗な笑みを浮かべてリオンに許しを求めたウーヴェは、呆然と見つめて来る蒼い瞳に口付けるように顔を寄せ、目尻にキスをして許してくれないかと謝罪を口にする。
 ウーヴェがひまわりばかりを相手にする不満を訴えていたリオンだったが、まさか夏になると大輪の花をつけるひまわりに己を重ねていたなど想像も出来ず、謝罪を受けても呆然としていたが、ウーヴェの心がどこにあるのかを察するとじわじわと口角が上がり始める。
 「仕事を頑張るお前の邪魔はしたくない。でも、一人の夜が寂しいときもある。そんなときにひまわりがあれば、お前がいない淋しさを少しだけ紛らわせられるんだ。なぁ、リーオ」
 リオンの口角と機嫌をさらに上げるようなことをさらりと言い放ったウーヴェは、俯き左右を意味も無く見た後、常に望んでいる表情を浮かべたリオンに無意識に息をのむ。
 「オーヴェ」
 リオンだけが呼べる名を呼び、先程までは下がっていた口角を上げ、このひまわりのような笑みを浮かべたリオンの頬を撫でたウーヴェは、許してくれるかと笑み混じりに問いかける。
 「許すけどさぁ・・・・・・」
 「うん?」
 「一緒にいる時はひまわりじゃなくて俺を直接見れば良いだろ?」
 衒うこと無く本心を伝えるリオンに素直に頷いたウーヴェは、それもそうだなと同意の頷きをもう一度すると、確かに連想するものよりも元を見た方が良いなと笑うが、連想させるものも大切にしたいとも告げると、リオンが不承不承の体で頷く。
 「・・・ん、分かった」
 リオンの了承を貰ってひまわりに向き直ったウーヴェは、水やりを終えて今年の夏も元気に大きくなってくれと笑いかけると、もう一度リオンを振り返り、額にかかっている前髪を掻き上げる。
 「喉が渇かないか?」
 「んー?渇いた」
 「じゃあ何か飲もうか」
 「賛成!」
 その言葉を合図にリオンがチェアから立ち上がり、ウーヴェを背中から抱きしめる。
 「暑いぞ」
 「なぁんでそんなこと言うんだよー」
 さっきはあんなにも熱烈な思いを伝えてくれた口なのに、何故そんな可愛げの無いことを舌の根も乾かないうちに言えるんだと不満を訴えられ、暑いものは暑いんだと返したウーヴェは、耳元で上がる不満に小さく笑みを零し、暑いだの何だのと文句を言いつつも決してリオンの腕を振り払うことはしないのだった。

 

~2015.08.14まで公開。前回に続き今回もベランダデート(?)ですが、ひまわりにまで嫉妬するなよ、リオン(、、;


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