爽やかな気分をも運んでくれる初夏の風を受けて目を閉じ髪を揺らしているのは、バルコニーに置いたソファで寝そべっているリオンだった。
リオンがいるソファはこの家で二人で暮らすようになってから安く買い求めた物で、ウーヴェがお気に入りの家具のラインで統一しようと言ったものの、そんな高級なソファを吹きさらしになるバルコニーに置けない、これぐらいのがちょうど良いと、手ごろな価格のものを買ってきたのだが、今ではどちらもそれを気に入っていて、休暇が重なった日は二人でブランチを食べたり、ディナーの後のくつろぎタイムをここで過ごしたりするようになっていた。
そのソファに寝そべっていたリオンだったが、トレイを片手にウーヴェがやってきたことに気付くと、のそりと起き上がる。
「オーヴェ?」
「残ったワインをサングリアにしてみた」
「美味そう!フルーツは何を入れたんだ?」
「今回はオレンジとリンゴだな」
トレイには赤ワインを使ったサングリアと氷を満たした小振りのグラスがあり、ソファに座ったリオンがウーヴェからそれを受け取って二つのグラスに喉を潤す爽やかな飲み物を注いでいく。
リオンに飲み物を任せたウーヴェが今度はチーズと残り物のピザを運んできた為、更にリオンの顔が輝きを増す。
「どーしたんだよ、オーヴェ」
「うん?」
「サングリアだけじゃなくてピザも出てくるなんてさ。何かあったのか?」
休日の午後、こうして一人であったり二人であったりはするが、寛いでいる時にビールを飲むのは良くあることだったが、決まってウーヴェはビールやワインなどの飲み物だけを口にしていたのだが、今日は珍しくピザやチーズもあると片目を閉じたリオンは、白い手が髪に差し入れられてキスをしてきたことに首を竦める。
「別に何も無いぞ」
「本当に?」
「……俺が信じられないか?」
己の本心を伝えたい時、リオンにだけは分かって欲しい時に限ってウーヴェは何でもないと答える癖があるため、本当に何も無いのかと少しの意地の悪さを込めて問えば、ターコイズ色の双眸に不満が浮かび上がる。
それに気付き慌てて伸び上がってウーヴェの頬にキスをしたリオンは、もう一つのソファに座ろうとする恋人の腰を抱き寄せて己の上に座らせる。
「こら」
「……何でもないのならイイや。……オーヴェ、ダンケ」
「ああ」
リオンの腿に座りながら微苦笑したウーヴェは、再度くすんだ金髪を撫でて軽く頬を押し当てると、バルコニーに向かって初夏の風が吹いてくる。
「……ああ、気持ち良いな」
「うん、気持ちイイ。サングリア飲もうぜ」
「そうだな」
リオンの腕を撫でて合図を送り、今度はちゃんともう一つのソファに座ったウーヴェは、差し出されるグラスを受け取ると、休日の午後をこれからどう過ごそうかと問われて頬杖を就く。
「そうだな、ここで昼寝も良いな」
「良いな、それ」
ここの所からりとした天気が続き、もう間もなく暑い暑いと言わなければならない季節がやってくる直前の爽やかさを満喫出来ているのだ、その爽やかさを心ゆくまで味わおうと笑うリオンにウーヴェも笑って頷き、テーブルに置いたピザに手を出すと、リオンが嬉しそうに蒼い目を細めて足をバルコニーの柵に引っ掛ける。
「こら」
行儀が悪いと軽く窘められるが全く堪えた様子はなく、気持ちイイと笑って足を左右に揺らす。
「チーズを食べないのか?」
「食わせて欲しいなー」
リオンが浮かれ気分のまま囁いた言葉にウーヴェがあからさまに面倒くさそうな表情を浮かべるが、溜息一つを零して気分を切り替えたのか、チーズを摘んでリオンの顔の前に差し出す。
「ほら」
「……んまい」
昨日も食べたはずなのにチーズが美味いと笑うリオンにウーヴェもつられて笑みを浮かべるが、逆にチーズを差し出されて瞬きをする。
「ほら、オーヴェ」
リオンのように甘えて食べさせて欲しいとは言い出せないウーヴェだったが、こうして差し出されてもやはり羞恥のために目の前にあるチーズを食べる事は出来なかった。
それをしっかりと見越しているリオンが頬杖をついて笑みを浮かべ、子どもに食べさせる時のように促されても出来ず、さすがにリオンが目を丸くしたかと思うと、それでも不機嫌になったり呆れたりすることもなく、今度は戸惑っているウーヴェに小さな音を立ててキスをする。
「リーオ?」
「はい、オーヴェ」
そのキスに疑問の声を挙げると、唇に今度はチーズが宛がわれ、おずおずとそれを食べればリオンの顔の笑みが深くなる。
「美味いか?」
「…………ああ」
自分で食べられると言いたかったが、何やら無粋な気がしてただ頷いたウーヴェは、サングリアを飲んで急に覚えた火照りを冷まそうとする。
「明日さ、もし早く帰れそうならゲートルートに行かねぇか、オーヴェ」
「そうしようか」
「うん」
明日の予定も決まったことだし、今日はここで昼寝をしようと笑うリオンにウーヴェも頷き、ならば昨日買ってきた本を読もうと笑うとリオンの頬がみるみる内に膨らんでいく。
「むー。一緒にいるのに本なんか読むなよ」
「寝てる間だから良いだろう?」
お前がそのソファで寝ている間俺はヒマなんだと肩を竦めるウーヴェにリオンが納得出来ない顔で頬杖をつくが、確かにその通りだと肩の力を抜いたように笑うと、ウーヴェの唇に再度キスをする。
「ダーリン。ピザ食って良いか?」
「ああ。…………もう一つ、チーズを食べさせてくれたならな」
さっきのようにもう一度食べさせてくれないかと、うっすらと目元を赤らめつつリオンに笑いかけると、頭上で輝く太陽のような笑みを浮かべてチーズを手に取る。
「はい」
「……ダンケ、リーオ」
食べさせてくれたことよりも、俺が何よりも愛するその笑顔を見せてくれてありがとうと、些細なことで恥ずかしがる癖にリオンへの思いを口にする時は別なようで、笑みを湛えて感謝の言葉を告げると、今度はリオンの顔が一気に赤くなる。
「…………信じられねぇ」
「リーオ?」
「あーもー!なぁんでそんな恥ずかしいことをさらっと言えるんだよ、オーヴェ!」
「そうか?」
「そう!あーもー!」
自分には出来ない、穏やかな強さを持つお前が好きで仕方がないと、顔を隠すようにテーブルに額をぶつけて腕で頭を覆うリオンに小さく吹き出したウーヴェは、涙目で睨まれたことに気付いて咳払いをし、ピザを食べないかと誘いを掛けると、食べるという声が返ってくる。
「……美味しいか?」
「うん、美味い」
恥ずかしいと言いつつも顔を上げてピザにかぶりついたリオンは、ウーヴェの問いに頷いて照れたように笑うと、ウーヴェの口から満足そうな吐息が零れる。
「オーヴェ?」
「気持ち良いな」
「うん、気持ちイイ」
風は心地よいし暑くもない、この心地良さがずっと続けばいいと笑い、休日の午後をのんびりと過ごそうとも笑いあうのだった。
~2015/07/12まで公開。この間はお外でデートだったので、今回はベランダデートだそうです(笑)


