「オーヴェ、愛してる」
「……突然どうした?」
その言葉をウーヴェが聞かされたのは、一日頑張って働いた身体の疲れを取るため、そしてまた明日も心身共に健康に働く為に必要な睡眠を取る前だった。
ベッドヘッドにクッションを立て掛けてもたれ掛かりながら雑誌を読んでいたが、その隣ではリオンがウーヴェに寄り添うように身を丸めていた。
互いに昇華しきれない感情を抱えている訳でもなく、また自分たちの過去に関係する事象を見聞きした訳でもないのに突然の告白には驚いてしまい、雑誌を閉じてくすんだ金髪に手を宛がうと、嬉しそうな顔でリオンが笑う。
「ん?何となく言いたくなっただけ」
「そうなのか?」
「そうそう」
だから深く考え込むなと笑うリオンの髪をゆっくりと撫でたウーヴェは、子どものような顔で笑う恋人のそれに戸惑いを感じるが、返事をどうするかと悩んでしまう。
好きだの愛しているだのとは互いに言い合うことはあったが、その比率はリオンの方が高かった。
ウーヴェの友人達の中にも気恥ずかしいと言う理由から愛していると言わない-または言えない-もの達が何人かいたが、ウーヴェもどちらかと言えば気恥ずかしさから言えない方だった。
だが、今までの彼女達のように上辺だけでは済まされない、心の裡を引っ繰り返す痛みや苦しみすら感じるような付き合い方をリオンとするようになってからは、気恥ずかしさを押し殺して伝えるようにはなっていた。
だから今も伝えようかと思案するが、掌の下の頭がもぞもぞと動いたかと思うと、ウーヴェの身体を跨ぐように手をついたリオンが伸び上がり、やや伏し目がちになっているウーヴェの目尻にキスをする。
「だから考え込むなって、ダーリン」
「……じゃあ考え込ませるようなことを言うな」
「へへ」
目尻へのキスの後、頬と不満に歪む唇に小さな音を立ててキスをしたリオンは、ウーヴェの腿で寝返りを打って形の良い顎を見上げながら指でなぞる。
「愛してるって言える相手がいるってマジで幸せだよな、オーヴェ」
「まあ、そうだな。でもリーオ……」
本当に突然どうした、何かあったのかと、悪戯な動きを繰り返す手を掴んでキスをすると、もう一つの手がウーヴェの頭に回されて引き寄せられる。
「大丈夫だって、オーヴェ。別に何かあった訳じゃねぇよ」
だからそんな心配そうな顔をしないでくれと笑い、抱き寄せたウーヴェの頭にキスをしたリオンは、納得していない顔の恋人に目を細め、子どもが親に抱き上げて欲しいと伝えるように両手を挙げれば、今度はウーヴェが自ら上体を屈めてリオンに覆い被さるように身を伏せる。
「マザーとこの間話をしたんだよ。愛する人がいる人生は辛くとも幸せなものだって」
「そうなのか?」
「うん、そう。愛する人ってさ、何もパートナーだけじゃなくて、親とか兄弟とかも入るって」
俺は親に捨てられてしまったが、今はこうして何も言わなくても心を察してくれるお前がいて、俺を育ててくれた偉大な母もいる、それを思えば本当に幸せだし、そんな思いを伝えたいと思うが、何だかこそばゆいから愛していると伝えることにしたと、ウーヴェの耳に囁きかけたリオンは、額にキスをしてくれるウーヴェにくすぐったそうに首を竦めて小さな笑い声を上げる。
「だからさ、オーヴェ、これからも愛してるって言わせてくれよ」
今までの人生、振り返ればロクなことが無かったが、お前に出逢えたことはそれら総てを差し引いても釣りが来るほどの幸運だとも笑ったリオンだったが、逆さまに見上げた顔が優しい笑みに彩られているのを見上げ、ロイヤルブルーの瞳を瞼で覆う。
「……ああ」
お前がそう思うのならば好きにすれば良いと囁いて閉ざされた瞼にキスをしたウーヴェだったが、姿を見せた双眸に笑いかけてくすんだ金髪を掻き上げてやる。
「いつまでもそう言って貰えるようにしなければな」
「平気だって。オーヴェなら大丈夫だ」
そんな心配はしなくても良いが、その代わりにお前も俺を愛してると言ってくれと囁かれ、軽く驚きに目を瞠ったウーヴェは、瞳にだけ不安を浮かべるリオンの額にキスをし、安心させるように、薄く開く唇にもキスをする。
「リーオ、俺の太陽」
どれだけの年月が経とうとも太陽に対する思いは変化しないと伝え、さっきの己のように目を瞠るリオンの額に額を逆さま向きに重ね合わせると、俺の太陽と、二人にとって聞き慣れていても何よりも大切な言葉を囁くと、自然と笑みの形になる唇にもう一度キスをする。
「────愛している、リーオ」
「うん…………ダンケ、オーヴェ」
その一言で十分で、またこれから何があってもきっと俺は大丈夫、だからお前も俺の言葉を信じてくれと囁き返し、小さく頷く白っぽい髪を一房掴んでキスをする。
「思ってるだけじゃなくてさ、時々はちゃんと伝えようぜ」
「そうだな」
互いに対する思いは深いところに常に存在しているが、時々はそれを浮上させて口にしなければ不安を抱いてしまうとも笑った二人は、決して忘れる事のないようにしようと胸の裡で呟き、ウーヴェがリオンの横に潜り込んでくる。
「お休み、リーオ。明日も頑張って来い」
「ん、お前も頑張れよ、オーヴェ」
互いの疲れを労い、明日への活力へと変化させる魔法の言葉を向かい合わせで囁いた二人は、ウーヴェがサイドテーブルのライトを後ろ手で消したため、リオンがウーヴェに身を寄せる。
「お休み、オーヴェ」
「ああ」
お休み、その言葉をリオンにしっかりと届けられた自信が無かったウーヴェだったが、小さな寝息が間近で聞こえてきたため、自然と浮かぶ笑みを口元に湛えたまま目を閉じるのだった。
~2015/05/04までWebClapで公開。


