WebClap 59

 発端は些細なことだった。
 その些細なことが物事を大きくするのは一般的によくあることだった。
 だからその些細なことが切っ掛けで口論を始め、その夜別々の部屋で寝ることになる、そんな結果も良くあること-二人にとっては珍しい-ことだった。
 口論をした後、ウーヴェはベッドルームに、リオンはウーヴェが天国と呼ぶ自室に向かい、同じようなタイミングでベッドに潜り込んだが、ほぼ同じようなタイミングで寝返りを打って無為の時間を過ごしていた。
 ウーヴェはベッドから横に見える鏡面のクローゼットに映る小さな己に、リオンは壁に向かって最初は互いの悪いところを捲し立てていたが、相手に対する文句や不満が尽きたのか、次に出てきたのは己への罵りだった。
 何故素直になれないのか、いつもならば素直に受け流せることなのに、何故今夜に限って出来なかったのか。
 その後悔と己への呆れなどが溢れかえり、ウーヴェは毛布とコンフォーターの中で身体を丸め、リオンは苛立たしげに壁を殴りつけた。
 それでも互いにベッドから出る事が出来ずにいたが、胸に満ちた不満や怒り己への呆れを吐き出した身体は睡魔の誘惑に勝てないのか、自然と眠りに落ちていた。
 そんな夜を過ごし迎えた朝は最悪なもので、しかも間の悪いことに早朝に起きた事件のためにリオンはロクにウーヴェの顔を見ることも無く家を飛び出し、ウーヴェもそんなリオンを自宅から見送ることしか出来なかった。
 事件は少々手こずったようで、だがそれでも数日後には疲れている足を引きずってリオンが戻ってくると、ウーヴェがややぎこちない笑顔で出迎える。
 「……お疲れ、お帰り」
 「……うん、疲れた」
 でもこの疲労の原因は事件だけではないと告げて目頭を強く押さえたリオンは、小首を傾げるウーヴェの肩に額を乗せて疲れたと呟く。
 「リオン?」
 「……疲れた、オーヴェ」
 「ああ、お疲れさま」
 肩に載せられる重みと温もりを実感すると同時に、数日間離れていたことが悔やまれてきて。
 「リーオ」
 「────うん、オーヴェ」
 ウーヴェが感じる思いはリオンも持っている物だったようで、ウーヴェがリオンの肩に頬を当てると自然と互いの背中に腕が回される。
 そうして、数日前の口論の発端について、その後の自分たちの大人げない態度について反省の言葉を互いに口にする。
 「……この間は悪かった」
 「俺も……悪かった」
 売り言葉に買い言葉は本当に反省しなければならないとも告げるが、今日はまだ少し疲れているから一人で寝ると告げてウーヴェの目を瞠らせる。
 「疲れてるからさ、イビキひでぇだろうし」
 「気にしなくて良い」
 「うん。でも俺が何かいや」
 だから仲直りのキスをして食事をして、反省の念も込めて一人で寝てフルパワーになってからお前の横に戻りたいと告白されてしまえば止めることが出来ず、ただ分かったと頷くものの、素直になれと先日大いに反省したばかりだろうと心の声が囁いた為、それを実行しようと決め、とにかく今はその疲労を少しでも解消するように食事をしようと囁いて背中を撫で、リオンが求めるように仲直りのキスをするのだった。



 その夜、久しぶりに二人並んでキッチンで食事をし、リビングのソファでテレビを見て寛いだ後、お休みのキスをしてそれぞれのベッドルームに向かう。
 何となく納得出来ない思いを胸にベッドに潜り込んだウーヴェだったが、先日の苛々や不満とは違うそれを感じながら寝返りを打つと、明日になればまた以前と同じように一緒に寝られると己を納得させて目を閉じる。
 そうして眠りに就いた深夜過ぎ、ふと何かに気付いた意識が覚醒を促し、ぼやける視界をクリアーにしようと瞬きをする。
 その視界に入り込んできたのは、何とも言えない情けなさと自慢と開き直りの顔で座り込むリオンだった。
 「────リーオ」
 「オーヴェ、偉そうなこと言ったけどさ……」
 前言を翻すようで恥ずかしいが、もう一人で寝るのはイヤだと小声で告白されたウーヴェは、何も言わずに毛布とコンフォーターを持ち上げることでその告白に答えを出す。
 ウーヴェの誘いにそそくさと乗ったリオンは、ウーヴェを跨いでベッドに潜り込み、数日前から常に願っていた温もりをその手で抱きしめる。
 背中に伝わる安堵からウーヴェも胸に秘めていた思いを伝えようと決め、リオンの腕の中で寝返りを打つと、驚く青い瞳を直視する。
 「……俺も、一人で寝るのは……もう、イヤだ」
 「うん」
 もうあんな寂しい思いはしたくないと告白し、リオンに顔を寄せたウーヴェは、同じ思いを吐息混じりに伝えられ、安堵に頷いて目を閉じるが、どうしても伝えたい言葉を思い出して目を開けて恋人を呼ぶ。
 「なあ、リーオ」
 「ん?」
 「……素直じゃないお前も好きだけど、素直なお前は……」
 「もっと、好き?」
 最後まで言おうとした言葉を奪われた不満を口を尖らせることで伝えたウーヴェは、リオンの楽しそうに上がる口角につられて笑みを浮かべ、鼻先にキスをする。
 言葉は奪われたが、伝えたい思いや胸にある思いは奪われないと密かに決意をしたウーヴェは、欠伸をかみ殺すリオンに極上の笑みを浮かべて目を見開かせる。
 「────お前が思うよりも、だ」
 「それ、サイコー」
 本当に俺のダーリンは最高だと笑ったリオンにウーヴェも若干照れながらも笑みを浮かべ、さあ明日からまた二人で笑いあう為の力を充電するために眠ろうと囁くと、リオンが嬉しそうに目を細める。
 「おやすみ、オーヴェ」
 「うん。お休み」
 久しぶりにちゃんと目を見てお休みと言えたことに二人安堵し、朝飯を楽しみにしている、していろと言葉を交わすと、どちらからともなく眠りに落ちるのだった。
 

~2015/01/12まで公開。


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