今日も一日頑張って働いた俺にご褒美をくれと、帰宅するなりウーヴェの身体に腕を回してしがみついたリオンが宣い、最早慣れてしまった恋人からのそれを些かうんざり気味に受け止めたウーヴェだったが、疲れていようが事件が解決してハイテンションになっていようが決して忘れないキスを頬と唇に受けた時、恋人の唇をじっと凝視してしまう。
「オーヴェ?」
「…………また唇を舐めていたのか?」
「へ?」
ここ数日リオンの唇が荒れていることに気付いていたウーヴェだが、身嗜みにも人並み以上に気を遣うウーヴェとは違って無頓着なリオンがリップクリームを塗ることなど無く、それどころか己の唇が荒れていることすら認識していない様子だった。
「荒れてるか?」
「ああ────今のままだとキスをしたいと思わない程には荒れてるな」
「げ!治す治す!オーヴェ、リップあったら貸して!」
だからお願い、キスをしたいと思わないなんて言わないでくれ。
リオンの懇願に顔を顰めたウーヴェだが、リップを使うことで唇の荒れが改善されるのならば良いと頷いて踵を返すと、リオンの手が腰に回されてさっきとは違ってそっと肩に頭が寄せられる。
「────お疲れ様、リーオ」
「…………ん、今日も頑張ってきた」
「ああ。今日もまだ寒かったからな、スープにしたけど、他に食べたいものはないか?」
本人が先程も宣ったようにきっと全力でもって仕事に向き合ってきたのだろう恋人の疲労を解消し労う為ならば多少の労力も厭わないウーヴェは、肩に載せられるように傾げられた頭からゼンメルに分厚いベーコンを挟んだサンドが食べたいと聞こえてきた為、ならばとっておきのチーズとベーコンをサンドしようと返してくすんだ金髪を撫でる。
「ダンケ、オーヴェ」
「ああ」
ウーヴェ自身はあまり食に対する欲求がないが、恋人が心ゆくまで食事をする横顔を見るのは嫌いではないため、頑張った褒美に好きなだけ食べて良いが、出来れば野菜も食べてくれとも告げると、今夜は珍しく素直に金髪が上下に揺れる。
「な、オーヴェ、メシ食い終わったらさ、リップケア教えてくれよ」
「うん?ああ、俺が知ってるので良ければ」
「ん、平気」
キッチンに二人で入って壁際に置いてあるテーブルにリオンが腰を下ろそうとするが、その前に着替えてくると一言告げてキッチンを出て行ったため、その間に希望のサンドを作ってしまおうとウーヴェが冷蔵庫を開けて必要なものを取り出し、準備に取りかかるのだった。
希望したサンドを食べてスープも食べた身体は満足感に満たされていて、その満ち足りた気持ちのままリビングのソファに寝そべったリオンは、己の頭の上に腰を下ろしたウーヴェを見上げて何をするのか様子を見守っていたが、両手親指と人差し指で下唇を挟まれて引っ張られてしまい、青い目を白黒させて驚いてしまう。
「!?」
「ワセリンを使って気持ちが悪くなったり湿疹が出たりしたことはないな?」
リオンの下唇を引っ張りながら軽く押さえて刺激を与えていたウーヴェは、目を瞠る恋人に苦笑しつつ問いかけて頭を左右に振る代わりに手を振られたことに頷くと、今度は上唇も同じように引っ張って刺激を与え、次にワセリンを唇に塗っていく。
荒れた唇にたっぷりとワセリンを塗り、その上から指の腹でマッサージを繰り返すと、荒れていた肌が自然と剥けていく。
「ホーフェ?」
「……無理に喋るな」
くるくると円を描くようにリオンの唇の上で指を動かし、上下の唇をそれぞれマッサージしたウーヴェは、今度はワセリンではなく子どもにも安心して使えるリップクリームをリオンの艶を僅かに取り戻した唇に塗り、満足そうに吐息を零す。
「暫くこれを続ければ良い」
「………………オーヴェがやってくれるなら」
「リーオ」
これで確かに荒れた唇がマシになるかも知れないが、正直面倒くさいと口を尖らせつつ起き上がったリオンは、呆れた様な顔で見つめて来るウーヴェの鼻先に己の鼻先を触れあわせる程の距離に近づき、お願いオーヴェと目を細める。
「…………ご褒美は?」
「もちろん、褒美はこれに決まってる」
リオンのリップケアをウーヴェが行うことへのご褒美はと、珍しくウーヴェが何かを強請るように目を細めると、その思いを察したリオンがにやりと笑みを浮かべ、たった今ケアして貰って艶と潤いを一時的に取り戻したばかりの唇を薄く開くウーヴェの唇にそっと重ね、驚くターコイズを見上げるように上目遣いになって口角を持ち上げる。
「これでどうだ?」
「…………仕方ないな」
「ダンケオーヴェ愛してる」
唇に始まり俺の心身のケアを常に優先してくれるお前に俺の持てる限りの愛をと囁き、微苦笑を浮かべる唇にもう一度キスをすると、表情を一気に変えて片目を閉じる。
「な、オーヴェ、やっぱりまだキスをしたいと思わねぇ?」
「…………どうだろうな」
リオンの問いに素直に思いを告げるのは悔しくて、顎を上げてどうだろうなと鼻先で笑うとリオンが同じように顎を上げる。
「素直じゃないんだからー」
俺の陛下は本当に素直じゃないが、そんなお前も愛してる。
その一言に総ての思いを込めるリオンにウーヴェが一瞬躊躇うように視線を彷徨わせるが、実際問題、一時的とはいえ潤いと艶を取り戻した唇にキスをすることはイヤではなく、それどころかこのケアを続けていく内にいつもキスをしたいと思える様な唇になるかも知れないと気付くと、この先の楽しみが出来た顔で小さく頷く。
「素直じゃない俺も好きなんだろう?」
「うん、好き。だからオーヴェ、これから時間ある時とか荒れてる時とかはまたさっきのやってくれよ」
「分かった」
あのケアで何処まで改善されるか分からないが、時間がある時はしようと頷き、再度リオンがソファに寝転がるが、今度はウーヴェの腿に頭を乗せて横臥する。
「ベッドに行けばどうだ?」
「んー、もうちょっとだけこうしてたい」
「分かった」
疲れているリオンを思えば早くベッドに入った方が良いとは思うが、ここで二人静かに暖炉の中で炎が爆ぜる音を聞いているのも心地よいと感じ、くすんだ金髪に手を差し入れて撫でていくと、程なくして軽い寝息が聞こえてくる。
いつもならば、寝るのならベッドに行こうと促すのだが、さすがに今夜は口うるさく言う気が湧いてこず、ただ足の上のくすんだ金髪を無意識に撫で続けるのだった。
こうしてこの夜以降、リオンの唇の荒れがヒドイとウーヴェが感じた時は、今のようにソファの上であったりまたはベッドの上で唇のマッサージをウーヴェが行うのだった。
~2014/05/02まで公開。
リップケアは大切です(笑)


