ああ疲れたと溜息を吐きながら恋人からのプレゼントであるマウンテンブーツでがんがん階段を踏みならしながら自宅アパートに帰ってきたリオンは、ウーヴェに電話をしても出なかった事を思い出し、また本でも読んでいるのかと深く溜息を零す。
「あーあ。オーヴェに逢いたいなぁ」
毎日逢っていたとしてもそれでも逢いたいと歌うように呟き、ドアを開けて散らかり放題の部屋に入る。
ウーヴェの家ならば綺麗に片付けられていて、ソファに座っても居心地が良いのだが、今日は仕方がない、この狭く散らかっていても暮らせば快適な部屋で寝るしかないと服を脱いでジーンズを脱ぎ捨て、そのままベッドに飛び込んだ時、その姿勢のまま飛び上がってしまいそうな程激しい音が鳴り響く。
「!?」
その音が長らく聞いていなかったドアベルだと思い出し、こんな時間に来客など一体誰だとパンツ姿のままベッドから抜け出したリオンは、ドアの覗き穴を見た直後、うるさく鳴り響くドアベルを止める為と驚きからドアを開け放つ。
「オーヴェ!?」
「良かった。家にいたんだな、リオン」
「!?」
ドアが開くと同時にもたれ掛かってきたウーヴェを受け止めたリオンは、一体どうした何があったと、嬉しさの中にも僅かな不安を滲ませて顔を覗き込むが、己が考える事を見いだす所か真逆の嬉しそうな楽しそうな笑みを湛えてリオンの身体に腕を回している。
「オーヴェ、どうしたんだ?」
「うん?……お前に、逢いたかったんだ」
顔を見ずに告げられたそれにリオンが舞い上がりそうになるが、くすくすと聞こえる笑い声にさすがに異変を感じてウーヴェを抱えたまま中に入ったリオンは、何が楽しいのか笑い続けるウーヴェの様子に眉を寄せ、もしかして酔っているのかと低く問いかける。
「誰が?」
「お前」
「そうなのか?」
「俺が聞いてるんだって、オーヴェ」
人の質問に質問で返すなと苦笑し、今日はどこに行っていたんだと問いかけると、上目遣いで何かを思い出すような顔になった後、にこりとベルトランと飲んでいたと返される。
「へぇ、飲んできたのか?」
「ああ。バートが…バランタインを開けると言ったから、二人で飲んだ」
またそれは豪勢な飲み会だったなと呆れたような感心したような声で告げると、ウーヴェが確かに豪勢だったと真面目な顔で返し、リオンの肩に頭を預けるようにもたれ掛かってくる。
その、いつになく積極的にも思えるスキンシップにリオンの目尻が垂れ下がったその時だった。
抱きつかれたまま身体を押されてしまい、おまけに足払いを食らわされた事に気付いた時には遅く、ベッドに押し倒されてしまっていた。
「痛ぇ!!」
ベッドに押し倒された時に背中をぶつけ、その痛みに悲鳴を上げたリオンの上に腹這いになったウーヴェが眼鏡を外しながらくすくすと笑い続け、痛みに顔を顰めるリオンの鼻先にキスをする。
「オーヴェ、完全に酔っ払ってるだろ!?」
やっとそれに気付いたリオンが声を挙げてウーヴェの肩を押し上げるが、その行為に目を丸くした後、普段ならリオンが喜びそうな笑みを浮かべて身体を押しつけてくる。
「リーオ」
「嬉しいけどさぁ、これはなぁ……っんぐ!?」
リオンが嬉しさと痛さを天秤に掛け、痛さに傾きそうになる寸前にウーヴェがリオンの顔をそっと両手で挟んだかと思うと、不満を訴える唇に唇を押しつける。
「~~~~~っ!!!」
ウーヴェのある意味情熱的なそのキスにリオンが顔を白黒させ、じたばたと藻掻いて何とか息苦しさを解消しようとするが、信じられない強さで顔を固定されてしまってどうすることも出来なかった。
漸くウーヴェが顔を上げた時、リオンが息も絶え絶えに肩を揺らし、目の前で艶然と微笑む恋人を睨み付ける。
「────この野郎っ!!」
強い光を双眸に湛えてウーヴェの身体を拘束したリオンだったが、ウーヴェが短い声を挙げるよりも先に寝返りを打って己の身体の下敷きにする。
「悪い子にはお仕置きが必要だな!」
リオンが吼えてウーヴェの首筋に顔を埋めると、悲鳴じみた声を挙げながらもリオンの頭を抱えるようにウーヴェが腕を回す。
「お仕置きするのか?」
「そーだなぁ…どんなお仕置きが良いだろうな?────なぁ、悪戯っ子クン?」
顔を上げてコツンと額と額を触れあわせながらにやりと笑みを浮かべるリオンにウーヴェの碧の目が左右に揺れるが、悪戯っ子はお前だろうと呟くと同時にリオンの頬を撫で、お仕置きは嫌だと目を細める。
「されたくなきゃ言うことを聞けよ、オーヴェ」
「さあ、どうしようかな?」
くすくすとにやりと笑いながら額を離して今度は鼻先を擦り合わせ、そのまま唇を重ね合わせる。
「────ん…っ」
「は…っ、オーヴェ…このまま…イイよな?」
「ダメだ…っ」
酔っていてもさすがにその理性だけは残っているのか、嫌だとウーヴェが短く声を放つが、にやりと笑みを浮かべたリオンがチュッと小さな音を立てて鼻先にキスをする。
「それをお仕置きにしようか」
「っ!!」
「だから────な?」
このまま続けるぞと宣言し、ウーヴェの反論も反抗も笑顔と力で封じたリオンは、大人しくなったのを見逃さずにすかさずシャツを脱がせていくのだった。
その後、ウーヴェが、もう嫌だ無理だ早くしてくれと懇願するまで白く細い身体を翻弄し、目尻のほくろを赤く染め上げたリオンは、散々焦らして中を突き上げ擦ってウーヴェにも自らにも快感を与え続け、漸く見えた快楽の果てにウーヴェを押し上げると、自らも少し遅れてウーヴェの後を追うように果てに手を伸ばす。
心ゆくまでウーヴェにお仕置きをしたリオンは、満足気に溜息を一つ零し、ぐったりと目を閉じるウーヴェの身体に腕を回して狭いシングルベッドで身を寄せ合い、いつものようにシャワーを浴びる気力も体力も残っていなかったウーヴェは、身体に回される腕をそれでも拒むことが出来ずに大きな手に手を重ねて心地よい微睡みに身を委ねるのだった。
2011.02.20-03.20


