WebClap 12

 「────ハ…ハーッチィ…!!」
 「………ゲズントハイト、リオン」
 ずずずと鼻を啜る音に重なるようにお大事にと告げたウーヴェは、ベッドヘッドにもたれ掛かりながら鼻を啜る恋人を気の毒そうに見つめ、そっと額に掌を押し当てる。
 「熱は……無さそうだな」
 「うん…鼻が…っッチッ!!」
 立て続けに二度くしゃみをし、その度にお大事にと伝えるが、こう何度も何度もくしゃみをされるとお大事にの言葉よりも必要なものは他にある事に気付き、鼻の下を赤くするリオンの頭を撫でて額に口付けると、広いベッドルームから出て行こうとする。
 「オーヴェ?」
 「カモミールは平気か?」
 風邪っぴきの自分を残してどこに行くと、情けない顔でウーヴェを呼んだリオンに苦笑し、ハーブは平気かと問い掛けて頷きを貰うと、すぐに戻ってくるからベッドで横になっていろと告げてベッドルームを出ていく。
 キッチンとリビングの間の廊下の突き当たりに設えたパントリーのドアを開け、常備してあるハーブ類の中から目当てのものを取りだしてキッチンへと向かい、ミルクパンと大きめの耐熱ボウルをテーブルに置くと、取り出したハーブを煮出していく。
 風邪をひいたときに即効性があると言えばやはり抗生物質だの何だのと言った薬剤になるのだが、どちらかと言えばウーヴェは薬に頼るよりもハーブや食生活での免疫力を付ける事を好んでいた。
 風邪をひいたリオンには寝る前に風邪薬を飲ませる事に決め、対処法かも知れないが鼻の辛さを解消させる為にハーブを煮出したものをボウルに移し替える。
 「リオン────寝ていろと言っただろう?」
 ウーヴェがボウルと水をトレイに載せてベッドルームに戻った時、リオンは先程と同じ姿勢でベッドヘッドにもたれ掛かってくしゃみをしていた。
 「……ゲズントハイト」
 「うん…ダー」
 「何だ、そのダーは」
 サイドテーブルにトレイを下ろし、バスルームからタオルを取ってきたウーヴェが苦笑しつつ問えば、ダンケというのが面倒だと言われて絶句する。
 「ありがとうを端折るのか?」
 「や、だってさ、良くゼップが冬になったら風邪をひいていて、いちいちゲズントハイトなんて言ってられなかったんだって」
 「で?」
 「うん────ッチ!」
 「ゲズントハイト」
 「ダンケ。…で、俺もあいつも面倒臭いのが嫌いだからさ、ゲーとダーになった」
 「………………」
 「あ、何だよその呆れた顔っ!」
 「何でもない。…リオン、さっきも聞いたがカモミールは平気だな?」
 「へ?ああ、うん。ハーブティは嫌いだけど、匂いは嫌じゃない」
 その言葉に安堵の溜息を零したウーヴェは、何をするんだと首を傾げるリオンの腿の上にトレイを下ろし、顔を寄せて湯気を吸引しろと示してくすんだ金髪の上にタオルを載せる。
 「……あ、オーヴェ、暑いんだけど…」
 「我慢しろ」
 「えー」
 ブツブツと文句を垂れるリオンの呆れたような溜息を零したウーヴェだが、それでも大人しく吸引をしているリオンに内心安堵し、少しでも鼻づまりが楽になればいいと強く願う。
 「何かあれだよな…」
 「どうした?」
 「うん。お肌ツルツルになったらどうしようかなー」
 「バカタレ」
 そんな下らない事を言う元気があるのならば家に帰って大人しく寝ていろと、リオンが見えないのを良い事に怖ろしい顔で睨んだウーヴェに、リオンがうへぇと奇妙な声を挙げる。
 「お肌ツルツルかぁ…オーヴェもそうだよな」
 タオルを被って吸引しているのが余程退屈なのか、減らず口を叩くリオンに最早何も言えなくなったウーヴェは、10分ほど経過したのを見計らってタオルを取ってリオンに手渡し、湯気で湿った顔を拭けと苦笑する。
 「あーイイ匂い」
 己の顔がカモミールの匂いと湯気でホカホカになり、さっきまでくしゃみを連発していた鼻が楽になったと伸びをしたリオンは、トレイとタオルをサイドテーブルに置いて目を細めるウーヴェに笑みを浮かべる。
 「ダンケ、オーヴェ。すげー気持ちよかった」
 「…そうか」
 風邪をひいた恋人が一日でも早く元気になって欲しい、ただその思いから吸引療法を施したウーヴェは、ベッドに腰掛けて湯気を受けて少し湿っている前髪を掻き上げてやり、姿を見せた額にキスをする。
 「ここにいるから少し寝るか?」
 「……うん」
 「おやすみ、リオン」
 ごそごそとコンフォーターに潜り込むリオンの髪を撫で、早く良くなれと祈りを込めて再度額に口付けると、上目遣いでじっと見つめられる。
 「────オーヴェも」
 横に入れと言うようにコンフォーターの上を二度程叩いたリオンに小さく溜息を零すが、それが眠いときの恋人の癖であることをしっかりと見抜いているウーヴェは仕方がないと言いつつコンフォーターに潜り込み、リオンの腰にそっと腕を載せる。
 「おやすみ、オーヴェ」
 「ああ」
 外はまだまだ明るい午後だが、調子が悪いときにこうして人の温もりに触れながら眠りに落ちるのも悪くないだろうし、また回復も早いのではないのか。
 そんな言い訳じみた事を考えていると、リオンが身体全体で擦り寄ってくるように身を寄せた為、片手でその髪を何度も撫でてやる。
 季節の変わり目に風邪をひいて辛い思いをしているが、こんな風邪などあっという間に治ると目を細めたウーヴェは、間近に聞こえる穏やかな寝息に誘われるように欠伸をし、そのまま目を閉じる。
 身体が多少熱っぽいのか、普段に比べれば若干熱い恋人の身体に腕を回し、訪れた睡魔に身を委ねようとした時、微かな寝息交じりのダンケが聞こえ、鼻腔をカモミールの香りが擽り、気にしなくて言いと何とか告げてリオンを追い掛けるように眠りに落ちるのだった。


2010.10.25-2010.11.23


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