ぱらりと静かにページが捲られる。
その指先をついじっと見つめてしまい、いつ見てもやはり綺麗な指だと内心溜息を吐く。
女性のように特に手入れをしている訳ではないが、白くて長い指がページを繰っていく様を見つめ、視線を指先から腕、肩からいつも隠れている白い首筋へと流し、形の良い顎のラインを視線で辿っていく。
白とも銀ともつかない頭髪が光の中で柔らかく光り、彼が持つ空気を一層優しいものへと彩っていく。
リアリストで皮肉屋な彼だが、その奥に隠れた優しさで包んでくれる。
その柔らかな空気に包まれている時は、その唇に浮かぶ笑みも細められた双眸も何もかもが優しく自分を受け入れてくれるのだ。
その白い身体に情交の跡を残す時のように。
昨夜もそれこそ文字通り好きなだけ奪い合い、与え合った後の心身ともに満足した時間、眠りに落ちるまで背中をずっと抱いてくれた手の温もりを思い出し、今は本に添えられているあの手が背中を抱き髪を撫で、そして頬を包んでくれたことも思い出す。
ぱらりとページが繰られる音が三度聞こえ、頬杖をついて目を細めた時、ページに添えられた手が動きを止め、身にまとっている空気が僅かに動く。
「もう読まないのか、オーヴェ?」
ソファの座面に頬杖をついて笑顔で見上げて問えば、本が少しだけ位置を変え、眼鏡の奥のターコイズに困惑を浮かべて恋人が見下ろしてくる。
「……どうした?」
「うん?」
「うんじゃないだろう?」
そんなにも見つめられると気になって本を読めないと、綺麗な透かし彫りがなされたシルバーのブックマークをページに挟んで本を閉じながら苦笑されてしまい、それは悪かったと目を瞠って肩を竦めれば、惚れてやまない白い指がそっとこちらに向けて伸ばされ、前髪をくしゃりとかき乱される。
「ははっ。止めてくれよ、オーヴェ」
「ならお前もじっと見るな」
くしゃくしゃと乱す白い手を掴んで止めてくれと笑えば、ならば見つめるなと返されてきっぱりと返事をする。
「それは無理な相談だな」
「どうしてだ?」
「簡単な事だ」
そんな事は1と1を足すよりも簡単な事だと胸を張れば、どういうことだと首を傾げられる。
「オーヴェが好きだから」
だからいつもどんなときも見つめていたいと、ぴくんと揺れる白い手をそっと掴んで口元に引き寄せて手の甲に恭しくキスをすれば、手の中で白い指が落ち着く形を探して形を変えるが、程なくして何かを思い出したのか、くるりと手の平が返って指と指が重ねられる。
何をするつもりなのかおよそのことは予測できていたが、それが正しいかを確認するために様子を見ていると、逆に手を口元に引き寄せられて同じようにキスをされる。
「オーヴェ?」
「恥ずかしいだろう?」
「別に二人きりなんだし、構わない」
それに、思ったことは隠したり省略したりせずにきちんと伝えろといつも怖い顔をするのは誰だと笑い、施されるキスにうっとりと目を細めれば、指と指の間に白い指が割り込んできてきゅっと握られる。
「────バカ」
「バカって言う方がバカなんだぜ、オーヴェ」
「何だそれは」
呆れたような何とも言えない声と表情だったが、繋いだ手はそのままだった。
だから満面の笑みで腕を引き、驚く恋人をしっかりと受け止めてリビングの床に寝転がる。
「こらっ」
「オーヴェ」
少し慌てたような声を上げる身体をきゅっと抱きしめ、髪に隠れた耳に口を寄せて愛してると囁けば、慌ても躊躇いも消したのか、繋いでいた手が解かれて今度は腰に両手が回される。
「俺も…そうだ」
「うん」
知っているし気付いているけれど、やはりこうして口に出されると嬉しいし実感できると笑い、同じ笑みを浮かべる唇に音を立ててキスをする。
「こら」
「ごちそうさま」
悪ガキと称されるだろう表情で恋人の端正な顔を見上げると本当に仕方がないと深々と溜息をはかれ、自然と口を尖らせて目を細めれば機嫌を直せとキスが降ってくる。
「オーヴェ、好き」
有りっ丈の思いを込めて好きだと囁き、どんな言葉が返ってくるかを待ってみる。
程なくして返ってきたのは言葉ではなく、それ以上に思いの籠もった穏やかな、心も体も包み込んでくれるような優しい眼差しと唇に浮かぶ笑みだった。
思いは言葉にしないと伝わらないと常々言う恋人だが、その言葉を裏切るような態度を示してくれるのもまた恋人だった。
抱いた身体をしっかりと引き寄せて髪に鼻先を寄せれば、同じようで違う匂いが鼻腔を満たす。
それに満足しながら目を閉じ、このままここで眠ってしまいたいとすら思える優しさに全身を包まれるのだった。
2010.03.23-04.19


