雪が静かに降りしきる夜、ブルゾンの襟を立ててよれよれになったマフラーを巻き、此方も同じくよれよれになりつつある手袋をした青年が、真新しいマウンテンブーツに包まれた足を何とか持ち上げながら雪に埋もれる歩道を歩いていた。
目的地はなだらかな坂道を上りきった先にある、青年の年収では逆立ちしても買うことは出来ない集合住宅形式の高級住宅だった。
その最上階によれよれになりながらも逢いに行く恋人が住んでいるのだ。
電話をすれば間違いなく駅だろうと職場だろうと迎えに来てくれることは疑いのない心優しい恋人の顔を思い描き、後少しで辿り着くと己を鼓舞して滑る足下にも注意を向けつつ歩を進め、何処かの高級ホテルのようなエントランスに入るために、寒い中でもしっかりと職務を果たしている警備員にご苦労様の意を込めて敬礼をすると、真面目くさった顔で返礼をしてくれた為、煙草を吸っていても奇跡的に白い歯を見せる。
「今日も寒いですね」
「本当にねー。喋ってると歯が凍りついちまいそうだ」
くすんだ金髪に少しばかりつもった雪を手で払いながらの他愛もないやり取りの間に警備員がボタンを操作し、重厚な木のドアのロックを解除してくれる。
「ダンケ」
「いいえ」
自分の家がもしここにあるのならば、警備員に愛想することはないと内心で苦笑しながら会釈をしてホテルのロビーの様なエントランスを通ってエレベーターホールへと向かう。
この道もすっかりと通い慣れたものだと、何となく感慨深げに天井を見上げた時、迎えに下りてきた箱が扉を開いてくれた為、慌てて飛び乗って5階へと連れて行って貰う。
ここの集合住宅はここを建築した人の趣味なのか、それともオーナーの趣味なのか、階が上がれば上がるほど部屋数が少なくなっていた。
1階と2階が6部屋で3階から5階までは3部屋になる筈だったらしい。
だが、建築許可がおりてさあ工事に取りかかろうとした矢先、とんでも無い大幅な設計の変更があり、完成した時には最上階である5階には玄関のドアは一つしか存在しなかった。
つまり、5階にはたった一部屋しか存在しないのだ。
青年が暮らす街やその近郊でも高級住宅街として名を馳せているこの地区に新しく建った集合住宅の話題は巷間に広まる事はほとんど無かったが、社交界や各界の著名人の間では割と有名になっていたらしい。
それ故、この集合住宅を建てたオーナーはそれこそ客を選べる状態に喜んでいたが、どうしても断り切れない筋から注文があったらしく、大幅な設計の変更が購入を検討している人々の間に流れる前にその部屋は売れてしまっていた。
ここに越してきた人々の顔ぶれは青年は直接顔を合わせる事は少ないために良く知らないが、医者や政治家や資産家と言った金と時間を持て余すような人々だった。
出来ることならば顔を合わせたくないと願いつつ、エレベーターで運ばれたフロアに降り立った青年は、ブーツの先に積もった雪を手で払い落とした後、真鍮の縁取りが高級感を出しているシンプルなドアを見つめ、その横にあるドアベルに向けて手袋に包まれた指を伸ばす。
鳴っているのかどうかも聞こえない為にしつこいぐらいに押し続けると、ドアの向こうで微かに人の気配がした為、そっと手を離して悴む手を擦り合わせて肩を竦める。
「・・・お疲れさま、リオン」
「ハロ、オーヴェ!」
今日も一日頑張って働いてきたから暖めてくれ。
満面の笑みすら凍り付きそうな夜空の下を歩いてきた事を感じさせる冷気を身に纏い、暖かそうなアイボリーのセーターに身を包む痩躯に手を伸ばすと、そっと受け止めた後背中をぽんと叩いてくれる。
「ああ。お疲れさま」
本当にお前は働き者だと感心の色を滲ませた声が肩越しにこぼれ落ち、愛する人に誉められたくすぐったさに青年が身を捩ると、玄関のポーチに迎え入れてくれる。
「オーヴェ」
「・・・・・・・・・ん・・・」
名を呼び冷たい頬を擦り寄せて温もりを奪い取ろうとした青年は、冷たいのにそれでも何も言わずにお帰りのキスをしてくれる恋人に目を細め、腹が減ったと元気に宣う。
「レバーケーゼのスープがあるが、食べるか?」
「んー・・・その前に風呂入りたい!バスタブに湯を張ってさ、一緒に入ろうぜ、オーヴェ」
玄関ポーチだけでもかなり広いこの部屋にバスタブが置かれているバスルームもいくつかあったが、この家の主であり青年-リオンの恋人であるウーヴェが主に使用するのは、ベッドルームにあるバスルームだった。
「今から湯を張るのか・・・?」
かなり時間が掛かるぞとあまり乗り気のしない顔で苦笑しリオンの腰に腕を回したウーヴェだが、そうじゃないと苦笑混じりに返されて軽く目を瞠る。
「廊下のバスルームあるだろ?あっちに湯を張ろう」
メインとして使用しているバスルームにあるバスタブは、ホテルのスイートにあるような円形でジャグジーすら付いているような大きなもので、湯を張るためにはかなりの時間が必要だった。
さすがにそれは理解しているリオンがそちらではなく今まで数えるほどしか使ったことのない廊下に面したバスルームを使おうと提案すると、それならば食事をしている間に湯を張ることが出来るとウーヴェも苦笑する。
ただそのバスタブは大人が二人も入れば窮屈な小ささだった。
その事を伝えると同時にこめかみ辺りに小さな音を立てて口付けられ、眼鏡の下から見つめれば、狭いから良いんだと笑われる。
「疲れているんだろう?だったら・・・」
「疲れてるからこそ、お前と一緒が良いの」
恋人の言葉尻を奪い取った後、盛大な溜息混じりに呟き、恋する男のこの心をどうか読み取ってくれ、ドクトルと仰々しく呟かれて瞼を真っ平らにしたウーヴェは、悔し紛れに腰に回した手で脇の下をくすぐった後、身を捩るリオンから素早く身を離す。
「うひゃ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふん」
リオンが身を捩る様を冷たい目つきで見つめたウーヴェだが、この野郎と一声吼えた恋人にまるでタックルされるようにしがみつかれてしまい、離せバカとじたばたと腕の中で藻掻いてしまう。
「離しませーん」
誰が離すかと、冗談の中にも真剣さを秘めた声で囁き、ぺろりと白い耳朶を舐めれば瞬間的に肩が竦められる。
「レバーケーゼのスープも食いたいけどさ・・・お前も食いたい」
ウーヴェにだけ見せる夜の顔で囁かれ、後でのお楽しみだと囁きながらくすんだ金髪を抱えるように腕を回したウーヴェは、とにかくバスタブに湯を張る準備をし、その後手早く食事の用意にも取りかかるのだった。
ぱしゃんと少し温めの湯を掌で掬い、顔の傍にある白い足に湯を垂らしていくと、くすくすと小さな笑い声が上がる。
大人二人が入るにはかなり窮屈なバスタブに向かい合わせに入り、バスタブの縁に踵を引っかけるようにしなければならなかった為、リオンはウーヴェの肩の横に足を伸ばし、ウーヴェもまた同じように伸ばしていた。
その足に湯を掛けられて小さく笑ったウーヴェは、リオンの手が今度は指先へと向かったことに気付いて軽く目を細め、何をしようとしているのかを察するが早いか、その指から逃げるように足を左右に振り始める。
「逃げるなよ」
「嫌だ」
捕まれば何をされるか分からないと笑いながら足先を左右に振ったウーヴェだが、所詮狭いバスタブの中なのだ、あっという間に捕まえられてしまい、瞬間的に感じたくすぐったさに足を戻そうとするが、それよりも先に左の薬指に巻き付いているシルバーのリザードを撫でられてぴくりと足を揺らす。
湯の中に入れても良いのかどうか、手入れの難しいシルバーを当初は気遣っていたウーヴェだが、錆びた時は錆びた時で、それがお前のリザードのその時その時の姿だと笑われ、実は秘かに肌から離すことなどしたくないと思っていたそれを離さなくても済んだ事に小さく安堵したのはいつの事だっただろうか。
そんなシルバーの身体を持つリザードを撫でた後、小さな音を立ててキスをされてウーヴェが軽く目を瞠ると、足首を組むようにしてバスタブの縁に引っかけていた両足を掴まれ、驚くウーヴェに笑みを見せたリオンが足の間に身体を押し込んで両脇に抱え込んだ為、二人の身体に圧された湯がバスタブから勢い良く溢れ出す。
「こらっ、リオンっ!」
「んー、ここでしても良いけど、湯が入ったら後始末が大変だろ?」
だからここではしませんと、ウーヴェにとって感謝するべきか叱るべきか咄嗟に判断に苦しむような事をけろりと告げると、その代わりではないがと前置きしつつ更に身を寄せる。
「・・・ん・・・っ!」
身を寄せられ自然と足が上がり、バスタブとリオンの身体に挟まれて身動きが取れなくなったウーヴェは、近付く恋人の顔に条件反射のように目を閉じ、与えられるキスに自然と顎を上げてしまう。
そのキスを受け止め逆に嗾けるように舌をそっと押し込めば、宣戦布告を受理しましたと、左足の脹ら脛をつるりと撫でられた後、左足の薬指を終の棲家と決めたリザードを同じくつるりと撫でてその手でウーヴェの頬を挟み、名残惜しさを隠さないで唇を離す。
「・・・・・・は・・・っ・・・」
「誘ってきたのはお前だからな?」
キスで紅潮する目元を隠すように顔を背けるウーヴェにキスをし、一体どんな歓待をしてくれるのかと期待に目を光らせるリオンの前で左右に目を揺らしたウーヴェは、湯が少なくなった結果顔を見せているリオンの胸に額を一度触れ合わせると、次いで心臓の上辺りに耳を宛がって平素と比べれば少しだけ速い鼓動を確認した後、間近に見える胸の突起をぺろりと舐める。
「・・・・・・ミルクが欲しいか?」
声に籠もった陽気な淫靡さに目を細めて同意を示せば、残念ながら男だからなぁと快活に笑うが、一瞬にして目の色を変えたリオンがウーヴェの頬を撫でた後、バスタブの縁に腰掛け、湯気に湿らされた白い髪を撫で付けてその顔が良く見えるようにする手の動きから望むものを察したウーヴェが白い髪とは対照的に唇を赤く濡らして膝立ちになり、見下ろしてくる男の貌にキスをする。
互いを想う情よりも男の身体に芽生えた欲を前面に押し出した様なキスを交わすと、躊躇うことなくリオンの股に顔を寄せて己のものよりは色の濃いそこにキスをしてそのまま口を開いて先だけを招き入れる。
「いきなり吸ったって出ねえって」
くすくす笑いながらウーヴェの髪に手を差し入れ、自分のイイ所へと舌を導こうとするリオンだったが、意に反してウーヴェは小さく出した舌で先の窪みやその周辺ばかりを愛撫し続ける。
「オーヴェ」
先ばっかじゃなくて、裏もして欲しいと甘い声で強請りつつ頭を軽く押さえれば、今度は抵抗することなく望む場所を舐められ口内に一息に迎え入れられて軽く息を呑む。
今まで何度となく経験してきた口淫だが、白い髪を見下ろし、時折上目遣いに見つめてくるターコイズの持ち主が一心不乱に己のものを咥えている姿を見ただけで血が集中してしまい、貧血を起こしたような気分にすらなってしまうのだ。
同じ男にこうして口でされるだけでどうしてここまで感じてしまうのか、常々疑問に感じつつも、見下ろした先に見える白い髪とちらちらと見え隠れする赤い舌に煽られて思考回路が一瞬にしてショートしてしまう。
今夜も思考回路のスパークを経験し、頭を一つ振って残骸を追い払ったリオンは、濡れた音と荒い呼吸の合間に名を呼ばれたことに気付き、何だと問い掛ける代わりに顎に手を宛がい、そっと顔を上げさせる。
すっかりと硬さと形を得たものを名残惜しそうに口から出したウーヴェは、その碧の目に不満を浮かべてリオンをじろりと睨むと、何を考えていると顔の傍にあるものの根元を二本の指で作った輪で軽く戒め、その締め付けにリオンが微かに呻く。
「・・・知りたいか?」
「教えろ」
何を考えているともう一度問い掛けたウーヴェは、顎を掴んでいた手が頬に宛がわれ、そのまま後頭部へと回ったことに気付いて再度伸び上がり、間近にリオンの唇を捉えると流れ出す言葉を待ってみる。
「そんなに俺のモノ、美味いか?」
にやりと笑みを浮かべるリオンにウーヴェが瞬間絶句するが、同じようでいてもリオンよりは艶のある笑みを口元に湛え、後頭部に回った手をそっと掴んで頬を押し当てる。
「他の人と比べてみないと分からないからなぁ。今度比べてみようか」
「良いぜ。その時は俺も呼んでくれよ」
比べる相手は何処の誰だかは知らないが、もしその機会があるのならその相手と一緒になって一晩中抱いてやると宣言し、互いの目の中に男と言うよりも獣じみた光を見出した二人は、どちらからともなく小さな笑い声を零すと、ウーヴェは先程の続きをする為に顔を寄せ、リオンはと言えばウーヴェの快感を深く大きくさせる為に手を伸ばし、何もしないでも形を持ち出した胸の突起を爪で軽く引っ掻く。
「・・・今は他のことは良い・・・早く飲ませろ」
ウーヴェが口に咥えたまま話す為に不明瞭な音となってリオンに伝わるが、しっかりと思いを受け取ったリオンが肩を竦めたかと思うと、もう一度ウーヴェの頭を手で押さえつけ、自らの腰を押しつける。
「────ン・・・ッ・・・!」
濡れた水音と苦しそうな呼気とは別に、明らかに快楽に染まった声が時折リオンのモノにまとわりついてはウーヴェの口内で溢れていた。
リオンの唇が軽く噛みしめられてそろそろ限界が見えた時、ウーヴェが喉の最奥にまで何とかそれを招き入れ、若干の苦しさを顔を歪めることで表現したかと思うとくぐもった悲鳴じみた声を発してきつく目を閉じる。
それと同じにリオンの腰がふるりと震えるが、ウーヴェの口内からずるりと抜け出すと、赤い舌と一緒に白い粘りのあるモノが口から吐き出される。
「無理に飲まなくて良いって」
自分が出したモノを飲んで欲しい、そんな倒錯したある種の思いはとうの昔に消え去っていた為、ウーヴェの口内に出す事はあってもそれをそのまま飲み込めとは言わず、逆に己の指を突っ込んで舌や口内に残っているそれを掻き出す程だった。
だから今回もそれをすると、荒い息を吐きながらウーヴェが湯の中にそれを吐き出し、リオンの腿に手を着いて顔を寄せる。
「美味かったらさぁ・・・」
今度は俺にお前を味わわせてくれと見えている耳に囁きかけたリオンは、ぴくりと肩が揺れたことで返事を貰い、湯中りしそうになる前にバスタブの中からウーヴェを引きずり上げてシャワーをぞんざいに浴びせ、洗面台に置いてあったバスローブで白い身体を包み込むのだった。
頬を押し当てた枕を握りしめ、高く上げさせられた尻が揺れる事を抑えられず、沸き上がってくる快感に羞恥が掻き消される。
ベッドを二人で軋ませ、その音に濡れた音と快感に彩られた声を混ぜ込んで一体どれくらいの時間が経過したのかは分からないが、ただ分かるのは火傷しそうな熱を持った掌が身体を撫で回し、最奥で迎えた熱くて太い杭が中から焼き尽くそうとしている事だけだった。
身体の内外で感じる熱から本能的に逃れようとシーツを握って這い上がろうとするが、その度に腰を掴まれて引き戻されるだけではなく、今までよりも深く最奥を突き上げられて顎が跳ね悲鳴じみた声が零れ落ちる。
男の己が受け入れる場所ではない所で男を受け入れるだけではなく、こんなにも熱の籠もった高い嬌声を上げている事はウーヴェにとっては中々受け入れがたい現実ではあったが、この、総てを与えながら奪い取っていくのは他でもない、己が心から愛しているリオンという青年で、その彼をどうすることも出来ない程愛している為に、正気であれば発狂しそうな程の羞恥を覚えさせる姿勢で受け入れているのだ。
その事実が脳裏に浮かんでは弾ける泡沫のように音もなく弾けた時、青い眼に覗き込まれている事に気付き、何とか顔を振り向ける。
「・・・リ・・オン・・・っ!」
「どうした、オーヴェ?」
名を呼ぶことが精一杯だったが、途切れ途切れに呼んで枕を握っていた手を後ろに向けて伸ばすと間違えることなく手を握られ、その熱に安堵の溜息が零れ落ちる。
こうして互いに与え合い奪い合うようになって一年が経過したが、その間様々な出来事を経験し、もしかすると最後の選択をしてしまうかも知れ無いと言う心理状況にまで足を突っ込んだ事もあった。
だがそれらの総てを、今もしている様に二人手を伸ばし合ってしっかりと握りしめ、離れそうになれば繋ぎ直した結果、こうして互いの熱を感じる様に抱き合えるのだ。
それが何よりも嬉しいと秘かに喜び、繋いだ手を引き寄せるようにすると、腕だけではなく身体全体が近付いてきて、中に入っていた熱い杭が更に奥に進んで頭を仰け反らせる。
「ァ・・・ッ、ンッ・・・ンーっ・・・!!」
堪えきれない嬌声にリオンの顔に笑みが浮かび、わざと腰を引いた後一気に戻すと白い背中が綺麗に撓んで髪が左右にぱさぱさと揺れる。
リオンの動きに翻弄されながらも身体を起こし、背中に触れる胸板の感触に安堵の溜息を零すと何を求めているのかを察したリオンの手が前に回り、立ち上がって滴を垂らすモノへと絡められる。
びくんと腰を揺らし、白い髪を後ろにある肩に押しつけたウーヴェは、ねっとりと耳朶を舐められて背筋を振るわせ、手の動きに合わせて腰を揺らし始める。
リオンとこうして抱き合っている時には熱を持った掌に一気に高みに押し上げられたかと思うと、最奥を穿つ熱と質量を持つ杭で一気に奈落の底に突き落とされるのだ。
まるで上昇と下降しかないジェットコースターに乗せられている錯覚すら抱きそうになるが、快感の高みに押し上げられて奈落に突き落とされるのは自分だけではないのだと、薄いゴムかウーヴェの最奥に直接熱を吐き出した後、リオンがぐったりと寄り掛かってきた時に気付いた。
それ以来、ウーヴェは任せきりにするのではなく、二人で気持ちよくなる為に腰を使い手や口を惜しむことなく使うようになった。
その為、今夜もまた勃ったものに手を絡められて上下に扱かれ、自然と甘い吐息を零していたが、程なくして身体をびくんと竦めたかと思うとリオンの手の中に熱を吐き出していた。
その後程なくしてリオンの切羽詰まったような声が肩越しに聞こえたかと思うと、息を呑むような音が耳朶に滑り込み、ずるりと中にあった熱と質量が抜け出していく。
「ん・・・ふ・・・っ」
鼻から抜けるような声を出すと同時にシーツに横臥して肩で息をしていると、まだまだ興奮冷めやらない身体が覆い被さってくる。
それをしっかりと受け止め、いつもの様に汗の浮く背中を撫でたウーヴェは、何かを確かめる様に顔を擦り寄せるリオンの背中を暫くの間抱き続けるのだった。
身体を拭き終えて念のためにと敷いていたバスタオルを引き剥がしたリオンは、ぐったりとしたままのウーヴェの横に素早く潜り込み、無意識のように痩躯に腕を回し、胸と背中をぴたりとくっつける。
この密着感が心地良くて手をそっと動かせば、そろそろ眠いのだからと伝えるようにその手を握られる。
「・・・オーヴェ」
「何だ・・・?」
眠気混じりの声に同じく眠気たっぷりの声が返した結果、どちらも言葉を失ってしまうが、ウーヴェが微かに頭を擡げて振り返った為、リオンが顔を寄せて睡魔に襲われている碧の目を見つめて頬にキスをする。
「今日は我が侭を聞いてくれてありがとうな、オーヴェ」
バスタブに二人で入りたいと言った事や、その後バスタブに腰掛けて受けた口淫、そしてたった今まで、本当は疲れているだろうに付き合わせたことを詫びたリオンに、ウーヴェがやれやれと言いたげに溜息を吐いたかと思うと、組んでいた手を解いてリオンの頭をそっと撫でて抱き寄せる。
「俺も気持ちよかった」
だから気にするなと、お前はいつもの様に快活な笑みを浮かべて元気いっぱい働いた後の男の貌を見せてくれと伝え、再度手を握って胸元に引き寄せ、浮き出た骨に小さな音を立ててキスをする。
「・・・お休み、リオン」
「うん。おやすみ、オーヴェ」
今日一日当然ながら頑張って働いただろうが、明日もまた同じように頑張ろうとひっそりと誓うように囁くウーヴェにリオンもしっかりと返事をし、お前も頑張って働けと告げる。
「・・・こうしてさ・・・また明日って言えるのは嬉しい事だよな」
「・・・ああ」
リオンは育った孤児院の貧窮振りから、また明日と言い残したものが明日を迎えられなかった現実を見てきたし、ウーヴェは幼い頃に巻き込まれた事件から明日というのはいつ何時突然そっぽを向いたようにやってこなくなるのかも知れないと叩き込まれたのだ。
だからではないが、毎日毎日をしっかりと地に足を着けて生きていこうと二人の間に暗黙の了解が生まれた。
「おやすみ、リーオ」
明日もまた太陽のように光り輝いて周囲を明るく照らしてくれ、俺の太陽。
その一言に込められた有りっ丈の思いにそっと目を伏せたリオンは、穏やかな寝息が響いてきた事に目を瞠るが、その寝息に誘われるように意識を深い場所へと沈めていくのだった。
リオンが此処に来た時には降っていた雪はすっかりと止まり、雲の切れ間から冬の星達が明日を迎える準備をしているのだった。
2010/12/28


