088:Stay with me.

Lion&Uwe

 オーヴェと、ただ一人がが呼べる名を耳にしたウーヴェが、小さく首を傾げて先を促せば、見下ろす形になっている一対の至宝が笑みの形に細められる。
 いつしか一緒に浴びる事になってしまったシャワーを二人で浴び、何時かのように互いの身体を泡まみれにした後、一足先にベッドに寝転がっていたリオンだが、お気に入りのアイボリーのバスローブを身に纏い、白とも銀ともつかない髪を拭きながら出てきたウーヴェの気配を感じてベッドから素早く飛び降りると、広い-リオンに言わせれば広すぎる-ベッドルームにある窓の総てにブラインドを下ろす。
 大きな月にさえ見られてなるものかと、何時かの夜に満月にケンカを吹っ掛けていたリオンを思い出したウーヴェが苦笑し、完全に乾いていない髪が気持ち悪いと思いながらもベッドに腰掛けると、反対側からリオンが膝で躙り寄ってくる。
 「拭いてやろうか?」
 「いや、大丈夫だ」
 お前のように長くないからすぐに乾くと苦笑したウーヴェは、いつもなら必ず返ってくる声が聞こえない事にタオルの下からターコイズで見上げると、寂寥感ともどかしさが入り混じった顔で見つめられている事に気付き、つい手を止めてしまう。
 「リオン?」
 「・・・・・・・・・はぁ。恋する純情男の気持ちをまーったく、これっぽっちも理解してくれないんだからなぁ、このドクは!」
 「は?」
 今何を言ったと珍しく素っ頓狂な声を発したウーヴェの前、リオンがやれやれと言いたげに肩を竦めるだけではなく、大仰な溜息を吐いてその上額を押さえて天を仰いでしまう。
 その大袈裟な仕草にさすがにウーヴェも愉快ではいられず、どういう意味だと低い声を発すれば、ちらりと大きな掌の下から青い眼が見つめてくる。
 「メンタルクリニックのドクなんだろ?────これぐらい、解れっ!!」
 「こらっ!!」
 リオンが一声発したかと思うとベッドに引き倒されてしまい、受身も取れずにただ呆然と倒されてしまったウーヴェは、にやりと笑みを浮かべて見下ろす恋人を何度も瞬きをして見つめるが、小さな音を立てて鼻の頭にキスをされて目を瞠る。
 「な?解ったか?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」
 恋人が望んだスキンシップを唐突に理解したウーヴェは、大きな溜息を吐いてリオンの顔に吹きかけた後、肩に乗せられている手を掴んで別の形のスキンシップとして手の甲に口付ける。
 「リーオ」
 「・・・うん」
 声に秘めた情と甘さをどうか読み取ってくれと秘かに願いつつ、もう一度そっと名を呼んだ彼は、寝返りを打って恋人の身体を腕に抱き、今度はその顔を見下ろすように両手をついて目を細める。
 自分とは違って逞しいリオンの身体に腹這いになりながらその顔を見つめていると、いつもの声に夜の色が滲んだ声で名を呼ばれて鼓動を少しだけ早める。
 「すげー、好き」
 「・・・・・・ああ」
 子供のような真っ直ぐな告白に同じ言葉では返せないが、短い言葉に込めた思いは負けることはないと笑みを浮かべ、鼻先にキスをし、頬の高い場所、額と口付けた後、笑みの形になっている唇にそっと唇を触れ合わせる。
 触れるだけのキスから互いを欲するものに変化するのはあっという間だったが、まだ何か伝えたいことがあるのか、リオンが僅かに離れた隙間に思いを零す。
 「俺と同じようにって思うけど・・・そんなのは無理だよなぁ」
 いつかも話したように、俺は俺の、お前はお前の愛し方があるだろうと少しだけ寂しそうな顔で呟くリオンに絶句したウーヴェだったが、そんな顔をするなと頬を両手で挟んで口付ける。
 「・・・お前が傍にいる」
 それだけで満足なんだと、それ以上望むのは過去の経験上、やはりまだ出来ない事だと今度はウーヴェが自嘲交じりに呟くと、リオンが上体を起こしてウーヴェの身体にしっかりと腕を回す。
 「オーヴェ。焦ることはないし慌てる必要もない」
 自分達のペースでこれからも歩いていこうと決めただろうと、お互いを信じ切っている顔で笑われ、その顔に一瞬して自嘲も自虐も昇華されてしまう。
 「・・・・・・うん」
 やっと話す事の出来た過去を知っても離れて行く事は無く、今まで以上に深く強く繋がろうと笑みと温もりで伝えてくれた顔を脳裏に描き、確かにそうだと頷いたウーヴェは、そのまま再び背中にシーツが触れた事に気付いて瞬きを繰り返す。
 見下ろしてくる青い瞳に浮かぶのは、ただ自分を信じている強い光と、それにも負けない情だった。
 「リーオ」
 「ああ。ここにいる」
 どこにも行かないし、どこにも行かせないと低い声で告げたリオンは、ゆっくりと瞼を閉ざすウーヴェに覆い被さるように腹這いになり、この後は言葉ではなく直接伝わる温もりで思いを伝えあおうと白い耳朶に囁きかけ、了解の言葉を背中を抱く腕から受け取るのだった。

 

 その後、ひっきりなしに荒い呼気を上げるウーヴェだったが、何かを探すようにシーツの上を掌が滑ったかと思うと、リオンの大きな手がそっと手を握ってしっかりと手を繋ぎ、ここにいると言葉ではなく態度で伝えるのだった。

 

2010/10/16


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