ブラインドの隙間から差し込む月光に浮かび上がる白い身体に、無意識に溜息が零れ落ちる。
今日はやけに月明かりが綺麗だったが、その光に照らされるのは細くてもしっかりと筋肉が付いている身体で、まるで汚れを知らないもののように感じてしまい、伸ばそうとした手を思わず押し止めてしまうが、こちらの思いに気付いた白い手に掴まれ、そのまま顔に導かれる。
女とはまた違った肌理の細かい頬を手の甲に軽く押し当て、温もりを楽しむように目を細めた後、唇の両端を軽く持ち上げたかと思うと薬指の爪に歯を立てる。
指先の微かな震えが腹の奥に伝わり、生まれかけていた熱が少しずつ上がってくる。
熾火が燃え上がる炎になる様を思い描き、子猫のように小さく舌を出して指を舐める恋人の端正な横顔を見つめ、自由になる手を使って頬を撫でて顎のラインを擽るように辿って行けば唇と指の間を伝い落ちた唾液に指先が濡れる。
この先の行為を簡単に予測させ、また期待させてくれるその行為を月明かりの中で見守っていると、小さな小さな、だが満足した事を示す吐息が指先に触れて弾ける。
「もう良いか?」
今まで黙って見守っていたが次は自分が同じ事をしても良いかと、白っぽい髪に手を差し入れて囁くが、返ってきたのは不満を示す吐息だった。
まだ遊び足りないのかと、いつも言われ慣れている言葉を耳に口を押しつけて囁くと、頭が上下に揺れて夜にだけ見せる素直さで返事をしてくれる。
仕方がないと小さく笑い、思う存分好きなようにしろと、優美でしなやかな肉体を持つ獣の前に身を横たえるような気持ちで囁くと、いつもは静かな湖面の様な目に強い欲が浮かび上がる。
恋人も紛れもなく同じ男であることを改めて思い、端正ながらもしっかりとした男の顔に見惚れてしまう。
自分が巻き起こす騒動や問題に対し、呆れながらも真っ直ぐに受け止めてくれて最後まで投げ出すことのない意志の強さは、穏やかで物静かな表面からはその片鱗を窺い知れる程度で、それはまるで、今浴びている光を送り届けている月の、その隠された裏側を垣間見る事の出来る希有さだった。
月の裏側に興味はないが、滅多に見えてこない意志の強さと懐の深さはいつも常に見ていたいと感じてしまい、ついつい調子に乗ってしまう事が多々あったが、それすらも受け入れられてしまうと最早太刀打ちなど出来る筈もなかった。
薬指だけでは飽き足らなくなってきたのか、他の指も同じように舐め始めた白い横顔を細めた視界で見つめながら、自分は一体どこまで惚れているのだろうと内心苦笑し、こうなってしまえばどこまででも惚れてやろうと秘かに腹を括る。
今まで経験した事がない程の思いを抱え、こうして求められれば可能な限り与えてやるが、同じだけ与えてくれとも願い、指ばかりを愛撫する舌を捕まえるように指を動かすと、微かな不満を訴える呼気が指の間に零れ落ちる。
「もうダメ」
「・・・・・・・・・まだだ」
指ばっかりしゃぶってと微かに恨めしそうに見ると、自分もまだ物足りないと恨めしそうに見上げられてしまい、くらりと目眩を覚えそうになる。
指を舐めていた唇が唾液に濡れながら月明かりに仄かに赤く光り、滑りを取るように右から左へと移動する舌も唇と同じ色に光っているのを目の当たりにすると、腹の奥の熱が一気に燃え上がりそうになる。
「オーヴェ、それ、反則」
「何がだ?」
目眩を覚えた頭のまま低く呟くと、しっかりと理解している事を示す様にターコイズにイタズラな色を浮かべつつ小首を傾げられ、もうムリだと理性と本能が同時に叫びそうになる。
今まで付き合ってきたどの彼女達よりも艶めかしい目で見つめられて背筋を震わせながら微かに震える手で顎を持ち上ると、不満と期待と自信が入り混じった目に見つめられ、同じように唇を舐めて顔を寄せればターコイズが瞼に隠れてしまう。
重ねた唇から伝わる熱と想いに先程よりも強い目眩を感じ、目の前の白い身体を抱き寄せてそのままベッドに背中から沈めてやると、さっきまでの誘うような目つきから一転、主導権を奪われた戸惑いを忙しない目の動きで伝えてくる。
「どうした?」
少しだけ意地の悪い思いを込めて問い掛ければ、左右に揺れていた眼球が動きを止めるが、視線は重なることはなかった為、こちらを向けと言うかわりにキスを一つ。
「・・・リオン」
「何だ?」
音だけで囁かれる名前に小さく首を傾げて問い返すと、一度瞼が下りてゆっくりと持ち上がった瞬間、ただただ呆然と目を瞠ってしまう。
こちらを見つめる静かな湖面の色の瞳に浮かぶのは、溢れ出さんばかりの情と同じ強さで存在する欲だった。
「だから、そんな目で見つめるのは反則だって言っただろ?」
人の言葉を本当に聞き入れないんだからと、今度は呆れたように溜息を吐いて白い額に額を触れさせると同時に間近に小さな笑い声が流れ出す。
「どんな目だ?」
「────こんな目」
逃れる事の出来ない距離で頭を両腕で囲うようにして目を覗き込むと、湖面に獣じみた顔が写し出される。
「・・・そんな獣みたいな顔をしているか?」
「うん、すっげーそそる目をしてる」
日頃は理性や知性やその社会性で覆い隠している本能が顔を出した瞬間は他のどんなセックスシンボルよりも自分だけを煽ってくれると、鼻先にキスをして囁けば、自分はポルノ俳優ではないと明らかな不満を訴えられ、アダルトに出演している俳優などは目じゃないと本心を伝えれば苦笑を返される。
「見ても全然勃たねぇし?」
アダルトに出演している女優でも勃たないが、男同士のものなどは考えただけでも怖気が走ると吐き捨てると、自分はどうなんだと何気なく問い掛けられて瞬きを繰り返す。
無意識に持ち上げられた手がこめかみを撫でたことでじっと見つめる端正な顔にほんの少しだけ不安が顔を覗かせている事に気付き、大きく目を瞠ってしまう。
「オーヴェ、何の心配をしてるんだ?」
「・・・・・・うるさいっ」
「そーんなバカな事を言うのはこの口か?ん?」
口に出されることのない不安とうるさいという言葉を取り消せと、尖りかけていた唇を指で摘んで軽く引っ張ると、いつもは自分がしているのに何故お前がするんだと言いたげに睨まれる。
「バカな事を言うからだろ?」
アダルトで抜けるヤツもいれば駄目なヤツも当然いるが、自分に関して言えば後者だと笑って告げれば、無意識の安堵の溜息が小さく零れ落ちる。
吐息が月明かりと混ざり合って何とも言えない色になって端正な顔にふわりと広がり、もう良いだろうともう一度問い掛けて返事も聞かずにキスをする。
「────ん」
「な?」
キスをすることで顎が上がり、お互いの唾液を口内で混ぜ合えば息が上がってくる頃にはすっかりと大人しくなっていて、短い問い掛けにただ無言で頷くだけだった。
先に進む了解を得てしまえば後はこちらの思うように、そして二人で気持ちよくなるだけだった。
笑みを浮かべて月光に照らされる端正な顔を見下ろし、一緒に気持ちよくなろうとキスで誘いを掛けると腰に足を絡めて誘いに乗ってくれる。
それを了解と受け止め、首筋から徐々に顔を下げながらキスをしていくのだった。
月明かりのカーテンの下、夜にしか聞く事のない吐息と高い嬌声がシーツに広がり、白い身体が快楽に震える。
その震えが納まったのを見計らいながらゆっくりと出て行けば、震える呼気が細く長く吐き出され、逆に一息に突き戻すと吐息が途切れて顎が跳ね上がる。
汗の浮く背中を見つめるだけではもの足りずに撫でてキスをすれば、伸び上がる事でより一層奥に入ってしまった熱が腰を震わせる。
月の裏側の様にその内面を滅多に見る事はない恋人だが、表面と同じ冷たさで内側が満たされていると思い込んでいた時もあった。
だがその思い込みを打ち砕いたのは、気を許すようになって初めて見せられた怒りの感情だった。
冷静さや怜悧さの仮面を被っているが、その下では自分に負けず劣らずの熱を持つ思いが溢れていたのだ。
それを知った後は最早目を離すことなど出来ず、拝んで泣き落とし、今から思えば脅迫じみた事まで言い放ってやっと付き合えるようになった。
付き合い出した頃と変わっていないようでやはり何かが大きく変わった恋人の内面を思い出し、突き上げる代わりに腰を掴んで引き寄せると、その衝撃で最奥まで進んでしまい、白っぽい髪を左右に軽く振りながら頭を仰け反らせる姿に腰を震わせ、その震えを伝播させてしまう。
震える腰に手を添えてもう一度ゆっくりと抜け出せば、それを阻止するかのように締め付けられて一瞬感じた痛みに顔を顰める。
差し込む月明かりのカーテンの下で抱き合っているが、熱い襞に包まれていると表面上の冷たさなど信じられない程だった。
月明かりに仄かに照らされる顔を見てみたいと、顎を掴んで顔を振り向けさせるのではなく、肩で息をする身体をシーツに沈めて真上から見下ろせば、荒い呼気を繰り返しながらもまだ物足りないと言いたげに目を細められてしまう。
「まだ欲しいか?」
教えてくれればそれこそ好きなだけ、望むだけ与えてやるとキスをして返事を待てば、言葉や視線ではなく、軽く立てられていた膝で腰を挟まれてしまう。
「ああ」
「────イイぜ。持ってけよ」
その代わり同じものを同じだけ俺にも寄越せと目を細め、もう一度ゆっくりと熱い襞に潜り込めば、月明かりの下白っぽい髪がきらりと光って左右に揺れる。
出逢って間もない頃や付き合い出してまだ間もない頃は、きっとその裡も真冬の冷たさなのだろうと思い込んでいたが、身体を重ね心を重ね合わせる回数が増えてくるにつれ、遙か上空に輝く月のように冷たく見えるだけだと知った。
動きに合わせて跳ねる呼気と体内の熱を吐き出すような息に自然と動きが煽られてしまい、自分だけが知る場所を執拗な程突き上げれば、何かを堪えるように白い手がシーツを握りしめる。
その手にも降り注ぐ仄かな明かりを視界の端に納めつつ、一足先に上り詰めてしまえと動きを早めれば、シーツを握っていた手が背中へと回されるが早いか痛みが芽生え、痛みに顔を顰めながらも押さえていた足が不自然な程緊張した直後、一気に緊張が解れる。
きつく目を閉じながら薄い腹を忙しなく上下させる姿に堪えきれず、少しだけ遅れて熱を吐いてぐったりと凭れるように伏せると、痛みを訴えた背中と同じ場所を癒すように何度も撫でられる。
少しだけ低い温度の掌だが、さすがに熱を吐き出したばかりのそれは熱かったが心地好いもので、ゆっくりと抜け出した事に鼻から抜けるような呼気を零しながらも背中に添えられた手はそのままだった。
その手の熱と全身で感じていたものが同じである事を今更ながらに気付き、冷たく見える月もこうして熱を帯びることがあるのかとふと疑問に感じ、漸く呼気が落ち着いたのを見計らって問い掛ければ、初めは何のことだか理解出来ていない様子で見つめ返されるが、空に浮かぶ月のことだと肩を竦めると、何とも言えない表情を浮かべ、汗ばんでいる頭を抱き寄せてこめかみにキスをされる。
「そんな事を考えていたのか?」
「いや、抱いてる時はお前しか見てねぇ」
「ふぅん?」
「あ、また信じてねぇな?」
互いの体内から熱が引いていき、余韻とともに姿を見せる情愛を目に浮かべて伝えながらふざけ合うが、どちらからともなく笑い出してしまう。
「太陽光を受けている場所は当然温度が上がるだろうな。極地では氷が発見されたんじゃなかったか?」
氷が出来る程だから気温が低いことは予測が付くだろうと苦笑し、いつまでものし掛かられていると重いと苦情を訴えられ、残念に思う気持ちを隠さないで真横に寝転がれば、横臥しながら腰に腕を回されて抱き寄せられる。
「・・・どっちでもイイや」
お前が見た目通りに冷たくない事は俺だけが知っていればいいし、また知っているのだからと、突き抜けたように笑って顔を覗き込むと呆気に取られた顔で見つめ返された刹那、月明かりの下でのみ開く花の様にふわりと笑みが浮かぶ。
「リーオ」
「────っ!!」
本当の自分を知るものがお前で良かったと囁かれて頷くことしかできなかったが、それでも思いは通じたようで、そっと額にキスをされる。
「お休み、リオン」
「ん。オーヴェもお休み」
「ああ」
気力があれば身綺麗にしてから眠るのだが、どうやら今夜はそんな気力がないらしく、大人しくその言葉に従って目を閉じる。
穏やかな寝息が聞こえてきたのを見計らい、瞼に一つキスをした後、手を伸ばしてブラインドの紐を引っ張る。
先程まで自分達を包んでいた月明かりが遮られ、仄明るい闇に部屋が包まれる。
もう一度お休みと囁き、一足先に眠りに落ちた恋人を追い掛けるように目を閉じるのだった。
2010/06/13


