街が赤と緑に彩られ始めた12月の週末、ナイトライフを楽しもうと気の合う友人たちと夜の街に繰り出す人々の、夜半を過ぎても収まらない熱気が街の空気をいつまでも冷めないものにしていた。
そんな熱気が満ちるシドニー市内でも人気のあるナイトクラブ、アポフィスというエジプト神話の悪の化身から名前を頂戴した店も、いつもの週末で盛り上がっていた。
好きな人や友人達と来る人たちの中、この店の経営者であるルカに会う事を目的の半分とし、残り半分は飲んだり踊ったりと、周囲の客と同じ楽しみを目的にしている杠慶一朗がいた。
移民が作り上げた為に今でもルーツを国外に持つ人が多いシドニーで、一見すればアジア系だが両親共に純粋なアジア系ではない事を感じさせる色素の薄い目を持っていて、白人並みの肌の白さも相まってか、どこかエキゾチックな雰囲気も漂わせていた。
その彼がここを経営している友人で、慶一朗がシドニーに移住した時に知己を得て以来、今でも一番仲良くしているルカが、今夜もまた友人がやって来たのを笑顔で出迎える。
「ハイ、ケイ!」
ようこそ、混沌と背徳が渦巻いているアポフィスへと、店の奥からスタッフと一緒に出て来たが、慶一朗がいる事に気付き、他の客にはあまり見せない親密さを見せるように呼びかけ、それに気付いた慶一朗もカウンターへとやってくると、当たり前の顔でキスをする。
「遊びに来た」
「うん、いらっしゃい。今日はお試しでダーツボードを設置したから、良かったら遊んで行って」
「ダーツ?」
「そう」
踊ってお酒を飲んでおしゃべりをするのも楽しいけれど、ダーツかビリヤード台を入れたかった、だからまずはダーツを置いてみたと笑うルカに慶一朗が興味を示したような顔になり、じゃあそれで遊ぶ前に一杯飲みたいとスツールを引く。
慶一朗が腰を下ろすと早速少し離れた場所にいた同年代ぐらいの男が近寄り、横いいかなと声をかけるが、チラリとそちらに視線を流しただけで慶一朗は特に何を言うでもなかった。
その様子にたじろいで次の声をかけられなくなる男に彼と一緒にやって来たらしい男があちらで飲もうと誘って離れていく。
「・・・今夜の相手にちょうど良かったんじゃないの?」
見た目も悪くなかったしと苦笑しつつビールグラスを置くルカをチラリと見つめた慶一朗は、頬杖をついていた手でグラスを受け取るが、一口飲む前にルカに向けてグラスを傾ける。
「・・・良いよ」
今日は皆大人しい客ばかりだろうし信頼できるチーフがいるから任せようとルカが頷くと慶一朗が黙ってビールを飲み干し、時間が出来たら教えてくれ、ダーツで遊んでいると席を立つ。
背中を向ける慶一朗に一つ肩を竦めたルカだったが、信頼しているチーフが二人のやり取りを目撃していて、何かあれば呼びにいくので行ってくださいと事情を全て理解している顔で頷いてくれる。
「ああ、ありがとう、シャルル」
慶一朗が口をつける前のグラスをルカに向ける、その仕草が意味する事をチーフとして長年この店を一緒に切り盛りしているシャルルも理解していて、その為の気遣いだったが、少しの間ダーツで遊んでいるそうだから大丈夫と、済ませてしまわなければならない仕事をしてくるともう一度店の奥へと戻っていく。
カウンターから店の奥へと移動したルカを笑顔で見送ったシャルルだったが、店内に顔を向けた時には愛想笑いのひとつもしないくせに客からは何故かその態度が受け入れられている不思議なチーフに早変わりするのだった。
お試しにと設置されたダーツボードの前にはそんなに人はおらず、ルカも店の奥へと行った事に気付いた慶一朗は、背の高いスツールをボードの前に置き、ダーツを手にそれなりに構えてみる。
競技大会に出るほど本格的に遊んだことはないが、それでも己が思う場所に近いマスへとダーツが刺さり、それが楽しさを引き出したように次の一本も投げてみる。
「・・・あらぁ、今夜は一人なんて珍しいじゃないのぉ?」
「一人でダーツを楽しんでいるんだ、邪魔をするな」
そんな慶一朗の背中に少しの皮肉を込めた肌に纏わりつくような声が投げかけられ、そちらに顔を向けもせずに邪魔をするなと返した慶一朗の肩に手入れが行き届いた綺麗な手が載せられ、あたしもやりたいと手からダーツを奪われてしまう。
「・・・香水を変えたのか、バンビーノ?」
「ええ」
鼻は良いのねと澄ました顔で笑う通称バンビーノことフランシスだったが、今日はフェミニン寄りの化粧をしていて、小柄で華奢な彼に良く似合っていた。
自分が生まれ持った性と心の性別が一致しないことから女装をし、振る舞いも女性そのものだったが、平日は男として働いて性別の違和感を押し隠し、こうして週末になると解放されたように化粧や女装を楽しむその姿勢が、慶一朗にとっては気に食わないことだった。
化粧を楽しみそれで自己主張をするドラァグクイーンのように胸を張ることもせず、だからと言って我慢できずに女装で週末に遊び歩く、そのどっちつかずな態度に腹が立つのだ。
それに加えてもうひとつ、慶一朗がその時々に一緒にいる男に限って綺麗に手入れした手を伸ばしてつまみ食いをしようとする悪癖が彼にはあった。
だから今夜は一人で遊んでいると伝え、フランシスが投げたダーツがボードに届かずに足元に落下したのに肩を竦め、お前のツレはどこにいるんだと、床のそれを忌々しそうな顔で拾い上げる彼に問いかける。
「そこにいるわ」
「だったら彼の相手をしてやれ」
嫌いな俺の相手をする必要はないだろうと、お互いがお互いのどうすることもできない根底にある性格を嫌っているのだからと笑う慶一朗にフランシスも一瞬考え込むが、確かにそうねと同意をし、慶一朗の手にダーツを載せる。
「でも、あなたが負けて悔しがる顔を見るのも好きなのよ」
その言葉だけではなく視線も纏わりつかせてくる彼の手を払ってダーツを受け取った慶一朗は、ボードに当てることもできないくせに俺に勝てるのかと小さく笑い、なんですってとフランシスの淡いピンクのアイシャドーに彩られた目尻を吊り上げさせる。
「負かせてやるから覚悟しなさいよ!」
「やってから言えばどうだ?」
俺も初めてダーツをしたがお前よりは上手いんじゃないかなと、スツールに軽く腰掛けてふふんと笑う慶一朗に見てなさいと一声叫んだフランシスがダーツを5本自分と慶一朗用に立てた箱を持ってくる。
「1ゲームで点数を多くとった方が勝ちで1ポイント。3ポイント取ったら勝ちよ」
「3ゲームか・・・お先にどうぞ、バンビーノ」
「・・・あたしが勝ったらそれをやめてちょうだい」
小馬鹿にされているようで腹が立つわと慶一朗と同じ場所にスツールを置くが、小柄な彼が座るには背が高過ぎたようで、様子を見守るようにやって来た今フランシスと付き合っている男が心配そうにやってくる。
「フラン、大丈夫か?」
「大丈夫よ!」
こんな人になんて負けないと鼻息荒く言い放つ彼に慶一朗は内心舌を出していたが、ルカの用事が終わるまでの間の退屈凌ぎになると笑みを浮かべ、さぁ、ダーツを始めようとフランシスにお先にどうぞと掌を向けるのだった。
ルカが作業を終えて店内に戻った時、ダーツを置いた場所から小さな歓声が上がっていた。
その声の理由を知ろうとそちらに顔を向けると、グラスを磨いていたシャルルが慶一朗とフランシスがダーツの勝負中で今の所ドローだと教えてくれる。
「ふぅん。犬猿の仲の二人がねぇ」
ルカの意外そうな呟きにシャルルも頷いて意外ですと小さく笑みを浮かべるが、楽しそうだから見てくるとルカがその肩を叩き、後のことは心配しないでくださいと小さく囁やかれ、信頼している相手にしか見せない顔でルカが頷く。
「────楽しそうだね」
ダーツボードを試しに置いてみて良かったと笑って自然と二人の間に立ったルカだったが、その声に二人が顔を向け、今3ゲーム目だけど勝負がつかないと、フランシスからは奮闘しているからか興奮気味な声で、慶一朗からはそろそろ負けろと呆れが混ざった声で教えられ、じゃあ僕が勝敗をつけても良いかなと逆らえない笑みを浮かべ、慶一朗の手からダーツを取り上げる。
「おい」
慶一朗の制止の声を振り切り軽く構えたルカの手がダーツを投げ、二人がどちらも当てることのできなかったセンターに綺麗にダーツが突き刺さる。
「────jackpot!」
「・・・ねえ、これ、誰が勝ちなの?」
慶一朗のダーツを使ったから慶一朗が勝ちなのかと、不満そうにフランシスが上目遣いにルカを睨み、睨まれた方は二人とも今日はドローで終わりだと再び逆らえない笑みを浮かべて双方の不満を抑え込む。
「気に入ったのならまた遊んでよ」
今夜はお試しだけど人気があればこれからも遊べるようにするからどうぞ遊んでと、フランシスに片目を閉じて喉も乾いただろうから何か飲めばと提案し、不満を口の形を変えることで表している慶一朗には肩を竦めて何か飲もうと誘いかける。
「ケイ」
「・・・喉が渇いた」
その一言を告げてスツールから立ち上がった慶一朗は、カウンターに向かうフランシスとその彼氏の背中を見送り、ルカの耳に顔を寄せて奥の部屋に行く事を短く伝えると、その背中をポンと叩かれてルカから離れる。
慶一朗が日本の高校を卒業し、単身シドニーに留学して来た時に知り合い、それ以来親友としての関係を二人は築いて来たが、ある日を境に親友というだけではない関係も持つようになった。
それは公然の秘密で、フランシスなどはそれも気に食わないと甲高い声を上げるのだが、親友との関係に口を挟むなと慶一朗に言い放たれて何も言えなくなったこともあった。
そんな関係は二人にとって居心地が悪いものではない為、今夜のように慶一朗から誘ったり遊びに来た彼をルカが奥の部屋へと誘ったりと様々だった。
カウンター内のシャルルに一言二言囁いた後、店の奥へと続くドアを開けて姿を消した慶一朗を、スツールを元のテーブルに戻しながら見送ったルカは、今日はもう帰るけれど皆は閉店まで良かったら楽しんでと周囲の常連客に挨拶をし、初めてらしき人たちにはまた来てくれると嬉しいと笑顔で挨拶をすると、慶一朗と同じくシャルルにあとは頼むと言い残して友人から少し遅れてドアの向こうへと姿を消すのだった。
店の奥へと続く廊下の先にはサテンのカーテンがあり、それを潜って奥に進めるのはスタッフの中でもごく一部の者だけで、客でそのカーテンを潜ることが出来るのはルカの友人やどうしても断ることのできない関係の客だけだった。
入口でセキュリティスタッフをしているのはアンディだが、このカーテンの手前の椅子で居眠りをしているようにしか見えない姿勢で無理矢理通ろうとする者や酔っ払って迷い込んでしまった者を丁重に追い出す役割を担っているのは、ルカと一緒に養父母の元で育ったラシードだった。
慶一朗はこのラシードとも友人だった為、カーテンを潜る前に腕組みをしている彼にジロリと睨まれたが、髪にキスをし奥の部屋でルカを待っていると伝えると、少しだけ唇の端を持ち上げて通してくれるのだ。
アポフィスという悪の化身の最奥へと進んだ慶一朗を待っていたのは、ルカとラシードが養父母から受け継いだその名に相応しい世界で、殺人とドラッグにだけは手を出さないというある種変わった決まりを持つ組織の秘密の小部屋だった。
表からは決して見えない部屋の中、年齢も人種も様々な男女がそれぞれ着飾ったり、逆にどこも隠せていない薄い布を一枚身に纏っただけの姿で部屋の中で寛いでいた。
その部屋を興味がない顔で素通りした慶一朗が開けたドアは、L&Rとだけ書かれたプレートが掲げられていて、中に入って一息吐くとソファにドサリと腰を下ろす。
ここに来れば慶一朗は優秀な脳神経外科医という顔を脱ぎ捨てることが出来、週末のナイトライフに託けてはここにやって来ていたが、今夜も誰かが待つわけでもない広い自宅に帰る事を思うと神経がささくれ立つようだった。
一つ溜息を吐いてソファ横にある冷蔵庫を開けてビールを取り出した慶一朗は、勝手知ったる部屋の為に栓を抜いてビールをゆっくり飲むと、ちょうどそれがなくなった頃にルカがお待たせと笑いながら入ってくる。
「・・・待ってない」
「そう?ラシードが早く行ってやれって言ってたから待ってるって思ったんだけど?」
慶一朗の素直じゃない言葉にニヤリと笑ってそっぽを向く顔を見つめたルカだったが、慶一朗の手からボトルを取り上げて部屋の隅のゴミ箱めがけて放り投げ、放物線を描いたボトルが落下するのと同時に慶一朗の腕を掴んで立ち上がらせその勢いのまま抱き寄せる。
「今日は帰らなくても良いんだよね?」
「・・・ああ」
その囁きが意味するところを間違える事なく理解した慶一朗が、ルカのまるで古代エジプトの王女が身に付けていた胸飾りを彷彿とさせるそれを首の後ろに回した手でそっと外し、アポフィスのオーナーであるルカから俺の親友に戻れと噛み付くようなキスをトルコ石のイヤリングが光る耳にすると、離れるついでにイヤリングを口の端に引っ掛けて小さく笑う。
「痛っ・・・!乱暴な男だな、きみは」
そんな乱暴な事をする人にはお仕置きが必要だなと、顎を掴んで獰猛に目を光らせるルカにニヤリと笑った慶一朗は、そんなのも悪くはないけれど今夜はそんな気分じゃないとルカの腰に手を当ててシャツの中に手を差し入れる。
ルカが身に纏っていたアクセサリーを全て外し、シャツも脱がせて褐色の肌に這う鱗の一枚を指先で撫でた慶一朗は、赤い舌を出す大蛇の鼻っ面も撫でてそこにキスをし、そのまま膝をついてスラックスの前を開けると、下着の中からルカのものを出して小さな音を立ててキスをする。
そのキスが合図で、数えきれないほどこうして抱き合っている為に知り尽くしている互いの快感のポイントを刺激し、ルカの口から気持ちよさそうな息を溢れさせるのだった。
縋りたいが縋れるものが何もない為、固定されている腕を思わず引き寄せてきつく眉を寄せた慶一朗は、無意識に逃げを打ってしまう腰を掴んで引き寄せられ、奥に刺激を受けて白い背中を撓ませる。
ルカが言ったお仕置きは慶一朗のペニスには触れないで、ルカが今時間を掛けて刺激している奥だけでイクというものだった。
形を変えて動きに合わせて揺れるそれをいつもならば同時に扱くことで快感を倍増させていたが、今夜はそれをせず、また慶一朗自身にもさせない為に、白い手首をソファに投げ出してあったタオルで一纏めにし、ベッドの支柱に括り付けて固定していた。
だから突き上げられ掻き混ぜられて生まれる快感に身体を捩ってしまうが、固定された腕がそれ以上動く事をさせてくれず、悲鳴じみた声をシーツに吐き出してしまう。
「・・・本当に気持ち良さそうな顔をするよね」
この顔を見る為ならどんなわがままも聞き入れたくなると慶一朗の赤く色づく身体を見下ろしながらニヤリと笑ったルカは、そんな顔などしていないと素直じゃない言葉を吐き捨てる慶一朗にキスをし、ついでに白い足を広げるように肩で押さえつけると、ベッドの支柱に固定されている手に力が入る。
「────ン、っ・・・!」
口の中に嬌声を吸い込んで唾液の糸を引きながら離れると、途端に熱のこもった声が流れ出し、その声に煽られたように腰を押し付けるときつく眉が寄せられ、押さえつけた足が痙攣する。
それと同時に中を締め付けられて何度目かの絶頂に上り詰めた事に気づいたルカは、慶一朗のペニスの根元に少しきつめに巻き付けていた紐をそろそろ解こうかと手を伸ばすが、今の快感の波が収まり、次のそれがまた頂点に来た時に解けば気持ち良いだろうと気付いてひとまずそのままにしておくが、大きく息を吐く慶一朗の顔を囲うように両手を突いて鼻の頭が触れ合う距離にまで顔を寄せる。
「ん・・・っ!」
「・・・ケイ、次にイク時に教えて」
「・・・は・・・?」
「その時にこの紐を解くから」
中でいくのと同時に紐を解けば気持ち良いだろうねと笑うルカをまるでモンスターを見るような目で見つめてしまった慶一朗だったが、良いだろうと問われながら奥の深い場所を突かれて目を見張ってしまう。
「ん、ぁあ・・・っ!」
「ちゃんと言わないと外せないからね」
「そんな、の・・・言える、か・・・っ!」
悔しそうに顔を背ける慶一朗の頬にキスをし、言わないとずっとこのままだと笑ったルカは、驚きに目を丸くする慶一朗の腕を固定していたタオルを解いて自由を与えると、小さく掛け声を上げて慶一朗を抱き起こし、己の上に座らせる。
「────ア・・・っ!!」
「ケイは深い所も好きだけど、ここも好きだよね」
慶一朗の体が跳ねる場所ばかりを突き上げては擦っていたルカだったが、背中に回った手が爪を立てたことに痛みを感じたことから気づき、大蛇の鱗を剥がすつもりかと笑うと、舌を抜いてやると憎まれ口が返ってくる。
それが慶一朗らしくて、思わずニヤリと笑ったルカが慶一朗の腰を掴んで軽く持ち上げて引き下ろす。
その動きに白い背中がまた撓み柔らかな髪が左右に揺れ、我慢できないとルカの肩に額を押し当てて嬌声を大蛇の顔に吐き出すようにこぼしてしまう。
途切れ途切れの声にルカの荒くなり出した息も重なり、濡れた音と二人がこぼす熱い息と嬌声が室内を夜の色へと染めた時、それを邪魔するようにドアがノックされ、その音に慶一朗が我に返りそうになったことに気づいたルカが咄嗟に慶一朗のペニスを扱いて意識をそちらに奪われないように快感を与えるが、ノックの主に声を聞かせるつもりはなかった為、タトゥーの大蛇の顔辺りに慶一朗の顔を押し付けて声を吸わせると、何だいとオーナーの顔で問い返す。
「最後の客が帰ったので閉店しました」
「ああ、もうそんな時間か・・・ありがとう、シャルル」
「いえ。俺も帰ります」
「うん、今日もありがとう。また明日も頼む・・・あ、そうだ」
慶一朗のペニスをゆるゆると刺激しつつ中の良い場所を突き上げながら溢れる声を己の肩口で吸い取っていたルカは、閉店作業を終えて帰ろうとするシャルルを引き留め、大切なお願いを一つする。
「アンディに50セントコインを二枚渡して欲しい」
「二枚ですか?」
「そう。一枚はいつものように僕から。もう一枚はケイから。今日は泊まって帰るから渡せないって」
「分かりました」
「うん。ラシードがコインを持ってるから」
彼からコインを受け取って入口で今日も仕事をしてくれたアンディに渡してくれと、慶一朗が次に来る約束だと子供の小遣いにもならない50セントコインをそのポケットに落として行くのだが、意味がわからないと眉を寄せる屈強な男の顔がおかしくて、ルカも一日の終わりには慶一朗と同じようにアンディのダークスーツのポケットにコインを入れるようになったのだ。
それは今では当然のこととなっていて、代理でシャルルに依頼したルカは、足音が遠ざかった事に気付き、慶一朗の顔を覗き込むようにやんわりと髪を掴んでその顔を覗き込む。
「ハ・・・っァア・・・ッ!」
大きく息を吸うことが出来るようになって肩で息を吸う慶一朗にお詫びのキスをした時、今度は静かにドアが開いて閉じる音と鍵を閉める音がルカの耳に流れ込み、この部屋に唯一ノックもなしに入室できる男の顔を見出すと、快感に紅潮する慶一朗の顔を見せるようにベッドに白い背中を沈めさせる。
「ん、ん・・・っ、ル、カ・・・?」
その呼びかけに応えたのはルカではなく今日の仕事を終えて入ってきたラシードで、快感に霞む目で見上げてくる慶一朗の濡れた唇にキスをして色素の薄い双眸を見開かせる。
驚く慶一朗にもう一度キスをしたラシードは、何も言わずに己の思いを読み取ってくれるルカにも同じ顔でキスをするとその場でシャツを脱ぎ、何かを期待しているように仄かに笑う慶一朗の頬を撫でつつベッドに膝をつくと、何を望まれているのかを察した慶一朗がノロノロと手を上げ、ラシードのペニスの先に先ほどルカにした時と同じようにキスをし、大きく口を開けて咥え込む。
「・・・ラシード、新しく入ったスタッフだけど、どう思う?」
慶一朗の奥を突き上げてくぐもった声を溢させながらルカが仕事の話を切り出すと、慶一朗の髪や頬を愛おしそうに撫でていたラシードが顔を上げ、一度首を傾げた後にゆっくりと左右に振る。
「そうか・・・じゃあ適当に理由をつけて別の店に移動させようか」
ルカの提案にラシードが無言で今度は首を縦に振り、その方がいいと言葉ではなく態度で伝えるが、そんな二人に挟まれて快感を引き摺り出されていた慶一朗がラシードのペニスを息と共に吐き出した後、二人を同時に手招きする。
「ん?ケイ?」
どうしたとルカが声でラシードが表情で何だと慶一朗の紅潮する顔を見下ろすと、俺の分からない話をするなと吐き捨てられてしまい、思わず二人が顔を見合わせる。
「うん、そうだね・・・悪かった」
もう今夜は仕事の話はしないできみに集中するから許してくれと囁きながらルカが左の頬にキスをすると、ラシードが右の頬に同じ顔でキスをする。
二人のキスを同時に頬に受けた慶一朗が満足そうに息を吐いて両手を広げると、その手の中にルカとラシードが身体を押し込み、二人の背中にそれぞれ手を回した慶一朗は、お前が言ったように今夜は帰らないんだからと二人の右と左の耳に囁きかけ、もう一度二人同時に頬にキスをされ、それぞれの背中に宿っている大蛇の鱗をそっと撫でるのだった。
眠ったというよりは気絶したという方が相応しい眠りに落ちた慶一朗をベッドの中央に、その左右にルカとラシードが横臥し、さっきまで好き放題、それこそ喉が枯れそうなほど嬌声を上げさせ続けた慶一朗の額を撫でて頬にキスをする。
店を閉めてくれたシャルルに言ったように慶一朗が今日は泊まって帰るために二人も一緒に寝る事にしたのだが、こうして三人で一緒のベッドに入るだけではなく、二人で慶一朗を抱くようになったのは何時頃からだっただろうとルカが眠そうな声で呟き、ラシードが欠伸を一つする。
「ん?・・・ケイも楽しんでるみたいだから問題ないよ」
ラシードの欠伸から何かを察したのか、ルカが手をついて上体を擡げると、眠そうに目を瞬かせたラシードが慶一朗の頭の上に顔を突き出す。
「・・・うん、分かってる。おやすみ、ラシード」
僕も明日は休みだからこのままゆっくり寝るつもりだと笑ってラシードにおやすみのキスをしたルカは、今度もまたほぼ同時に二人で慶一朗の左右の頬にキスをし、程なくして穏やかな寝息を立て始めるのだった。
その後、試しに置かれたダーツは店を訪れる客たちからの評判も良く、本格的に何台かを導入し、月に一度のダーツ大会が開催されて規定回数を優勝した人にはポイントが貯められていった。
そのポイントは支払いの時に利用できる制度になっていた為、常連客は発奮してダーツで遊び、初めての客もそれなりに遊んでいるようで、導入して良かったとルカやシャルルが笑顔で話していたが、その視線の先では今日も慶一朗がスツールをダーツ台の前に置き、犬猿の仲であるはずのフランシスと口ではお互いに不満を訴えながらも傍目には楽しそうにダーツでポイントを貯めるには必死な様子で遊んでいるのだった。
2021.12.05
It’s a Wonderful Life.慶一朗とその親友のルカの話。リアムは出てきません(゚ロ゚; 三 ;゚ロ゚) しかも、いつものようにお題は掠める程度に・・・_| ̄|○


