050:夢占い

Lion&Uwe

 「オーヴェ、夢占いって信じるか?」
 暖炉の前のソファでクロスワードを解いていたウーヴェは、己の腿を枕に寝そべっていたリオンに急に問われて瞬きを繰り返す。
 「は?ああ、夢に何かが出てきたから、その意味を知りたいってことか?」
 夢占いを信じるか、そんな事を言われても、職業柄夢の中からその人物の精神状態を探ってしまうと苦笑するものの、恋人が何を言おうとするのかを察して言葉にする。
 「そうそう。オーヴェは信じるかなーって」
 「そうだな。俺はあまり信じないが、何か気になることでもあるのか?」
 ウーヴェの苦笑混じりの問いかけにリオンが勢いよく起き上がった為、思わずウーヴェが上体を仰け反らせて衝突を回避するが、向かい合うように座ったリオンの剣幕に不吉なものを感じて眉を寄せる。
 「聞いてくれよ、オーヴェ。昨日の夢でさ、オーヴェが俺が隠しておいたチョコを全部食ったんだよ!!」
 拳を握って力説されてしまい、一瞬目眩を覚えたウーヴェだったが、まだ先がありそうなことに気付いて相槌を打って先を促す。
 「・・・・・・ふぅん?」
 「で、オーヴェのイジワルトイフェルーって叫んだら、クランプスが出てきて、チョコばかり食べる悪い子はしまっちゃうぞーって・・・」
 リオンの夢の話なのだが、何故か鮮明にその光景を思い浮かべてしまったウーヴェが額に手を宛てて頭痛を堪えるような顔で深く溜息を吐く。
 「どこから疑問を呈して良いのか分からない夢だな、それは」
 「だろ?だからすげー困ってるんだけどさ、これってどんな意味があるんだろ?いやいや、それよりも、俺、どこにしまわれちゃうんだ?」
 お前の不安はそれなのかと問いかけたかったが、あまりの馬鹿らしさに脱力してしまって何も言えなかったウーヴェだったが、念を押されるようにどこにしまわれるんだ、クランプスが背負っている籠に押し込められてそのまま地獄に突き落とされるのだろうか、どうなんだオーヴェと問われてしまい、呆れを通り越した顔でクロスワードを丸めてぽんとリオンの頭を一つ叩く。
 「俺が知る訳が無いだろうが。まったく・・・・・・。チョコを隠している罪悪感からそんな夢を見たんじゃないのか?」
 夢の中での行為を告白したリオンににやりと笑みを浮かべたウーヴェは、現実でも思い当たることがあるんじゃないのかと笑みを深めると、途端に蒼い瞳が左右に泳ぎ始める。
 「え?べ、別に隠してねぇよ・・・っ」
 「ふぅん?────ああ、そう言えば、パントリーの奥に捨てたはずの箱を見つけたんだけどな」
 その箱は取り寄せた本が入っていた箱なのだが、不要になった為に捨てた筈なのに、何故かパントリーの中にあったんだと告げると、リオンがウーヴェから徐々に離れるように後退っていく。
 「え、そ、それがどうかしたか・・・?」
 「いいや?捨てた筈なのにあるのが不思議だったんだ。だから今日捨てておいた」
 本が入っていた箱をパントリーに俺は入れないし、お前も知らないのだから捨ててしまっても問題はないよなぁと目を細めると、リオンの顔が目の青さが広がった様に青くなる。
 「げ・・・っ!!マジで捨てたのか、オーヴェ!?」
 「ああ。邪魔なだけだろう?そもそも捨てた箱なんだ。捨てて何か不都合があったのか?」
 ウーヴェの素朴な疑問を装った問いには答えずに、やや俯き加減のリオンがぶつぶつと何かを呟き出す。
 「うぅ・・・せっかく俺がボスから取り上げてこつこつ貯めてたチョコだったのに・・・・・・」
 その言葉から、夢だけではなく現実でもチョコを隠していたことを認めたリオンにウーヴェが鼻で息をすると、仰々しい態度で腕を組む。
 「ほぅ。やっぱりチョコを隠していたんだな?」
 「あ、いや、その、それは・・・えーと・・・・・・分かってる癖にオーヴェのイジワルっ!トイフェル!!チョコをあんまり買ってくれないどケチ!!」
 「・・・・・・・・・今、何と言った、リオン・フーベルト?」
 「イジワルって言った!」
 ウーヴェの問いに開き直ったリオンがイジワルオーヴェのどケチと言ったと半ば叫んだ為、ウーヴェが眼鏡の下で目を眇めて恋人を見る。
 「そうか。俺はイジワルなんだな?じゃあこのチョコは別に捨ててしまっても構わないんだな?お前のものだと思って残しておいたんだが、要らないんだな?」
 ソファから立ち上がってキッチンに行ったウーヴェは、片手に持ちきれない量のチョコを持って戻って来るが、それを見た瞬間にリオンの顔に光が差したように明るくなる。
 「うそうそうそ!オーヴェ大好き愛してる!だからお願い、そのチョコ返してくれよ!!」
 「・・・・・・・・・・・・イジワルでチョコを買ってくれないケチなんじゃなかったのか?」
 「ケチでもイジワルでも愛してる!だからチョコをくれよ、オーヴェぇ!」
 今にも泣きそうな顔で真摯に訴えられてしまえばウーヴェには逆らえるはずもなく、溜息混じりにチョコをリオンへと差し出すと、引ったくる勢いで奪い取ってしっかりと両手で抱え込みながら何やらぶつぶつと口の中で呟き始める。
 「・・・・・・パントリーだと見つかるから・・・・・・ベッドルームだと心配だし・・・」
 「ん?何をぶつぶつ言ってるんだ?」
 「ん?独り言。────さっきの夢の話だけど、占いっていうよりは正夢?」
 チョコを抱えたままの呟きにウーヴェが苦笑するが、確かに見た夢の内容で何かを占うというよりは、隠していたチョコが発見されてしまう事実が夢と一致しているだけだった。
 だから、夢占いというよりは正夢かと呟かれるものの、その夢の中で俺はチョコを全部食べたそうだが現実には食べていないぞと苦笑すると、リオンが掌を打ち合わせて大きく頷く。
 「それもそっか。何か奇妙な夢だよなぁ。俺、やっぱりしまわれるのかなぁ?」
 「夢なんだ、気にするな、リーオ」
 「・・・ん、そうする。────オーヴェ、チョコありがとうな」
 「・・・・・・・・・ああ」
 本当はパントリーにチョコを隠していたことについては色々な思いがあるが、今度はどこに隠そうかと思うのではなく、ちゃんとチョコを保管する箱なり籠なりを用意してやるからちゃんとそこにしまっておけと目を細め、くすんだ金髪に手を宛がうのだった。

 

 後日、己の前言を守ったウーヴェが、リオンの好物であるチョコを保管する専用の箱-側面にはご丁寧にショコラーデと大きく書かれてあった-と、出掛ける時に持ち運べるようにチョコがちょうど収まるサイズのケース-こちらには、もっとチョコを、という一文が書かれている-をリオンに見せると、早速何処かに隠していたらしいチョコを出してきたリオンがチョコをその箱に放り込んでリビングのコーヒーテーブルに置くのだった。

 

2013.01.09-02.09までwebclapとして公開


Page Top